アスタッテの尻拭い ~割と乗り気な悪役転生~

物太郎

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二章 水底に沈む玉

56、魔族の少年 3(ガルカは不運)

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 二人の説得によりエリーは落ち着きを取り戻し、アルベラは本題へと戻るべく額をぬぐう。

(こんなに分かりやすく怒ってるエリーは初めて見た。私今までおっさんって、エリーに言ったことないよね? 言ってないよね? 思ったことは何度もあったけど、口に出してないよね? 絶対本人には言わないようにしなきゃ)

「で、匂いが何」 

「魔族だ」

「は?」

「そのエリーとかいうやつ、魔族の匂いが混じっている」

「———は??」

 アルベラと八郎の視線に、エリーは片手で顔を覆って息をついた。

「………そう、魔族にはそう匂う訳ね」

 エリーには心当たりがあるようだ。

 アルベラはエリーが顔を上げるのを待つ。

「この南の陸地の東の方にそういう奴らがいるが、まるでそいつらみたいな匂いだ」

「どういうこと?」

「ええと、ですね」

 エリーは困った笑顔を浮かべ顔を上げた。

「多分、私の故郷の事でしょう。あちらの地域には、魔族の血の混じった………部族、とでも言うんですかね。そういうのがいるんです」

「えぇ………と、え?」

 突然のエリーの故郷話。アルベラは急な話題にどう切り込めばいいのか頭の中がまとまらない。

「故郷の話はいつでもできますし、今はほかの話題を優先してはいかがでしょう」 

 やんわりとそういわれ、アルベラは「え、ええ」と頷く。

(そうね。その方がありがたい)

「じゃあ、私と八郎の匂いについて—―—は置いといて。先にもっと聞きたいことがあるの。そっち先でもいいかしら?」

「好きにしろ。どうせここで何を話そうが俺の余命は変わらん」

 もう死ぬと予感しているのか、金色の目は投げやりでありつつ、会話をしながら他の事を考えているようでもあった。

 アルベラと八郎の共通点といえば転生くらいだ。どうせあの「少年」だか「老人」だか絡みの何かだろうと予想を立てつつ、まずは今一番に聞いておきたい事を優先する。それは、アルベラがこの「生」において、「少年」から請け負った役割に関係する事柄だった。

 まずは生き抜くために果たさなければならない役目がある。その下調べと以降ではないか、とアルベラの透明度の高い緑の瞳がガルカをのぞき込む。

「あなた、この国の南にある『チヌマズシ』っていう土地の魔族の集落ってやつ知らない?」





 ***





「へえ。チヌマズシの町から? 随分遠くから来たんだね」

 ラツィラスは柔らかく微笑んだ。

「で、ホークは何であいつらに絡まれてたんだ?」

 ジーンが尋ねる。

 ホークはラツィラスに借りた制服を着たまま部屋のソファーに腰かけていた。それを、それぞれ自分たちのベッドに座ったラツィラスとジーンが眺めている。

「濡れ衣だ。………いや、はめられたのか。道を歩いてたら知らない男たちに『落とし物』だって言って鞄を渡されたんだよ。それでつい受け取っちまって、そいつらはいろいろ荷物を持ってて急いで走って行っちまうし。とりあえず役所に持ってくか、って思ってはいたんだ。けど何が入ってんのか気になって、歩きながら中を探ってたら………」

「持ち主登場ってことだね」

 ラツィラスは困った顔をしつつ、クスリと笑む。

「ああ」

 ホークは息をついた。

「俺がどう否定したって、荷物をあさってたのを見られたから信じようとしないし。しかもあいつらときたら、馬車に積んでた荷物もろもろパクられてたみたいで『他の荷はどこだ。仲間はどこだ』って。俺が何言っても仲間をかばって隠してるようにしか聞こえないんだ。散々だった………」

 「ご愁傷さま」と、本当にそう思ってるのかいないのかわからないトーンでジーンが投げかける。希薄な訳ではない。単にそう言う人柄なのだ。人並みに同情をしているが、それがあまり表に出ない。勿論本人に気持ちを隠そうとしているつもりもない。ホークも何となくそれを感じてきているので、嫌な顔をせず言葉を受けとる。

「それで、ホークはどうするつもりだったの? その人たちに絡まれなかったらどこに行く予定で王都に?」

 ラツィラスに問われ、ホークは視線を落とした。少し黙り込んだのち、困ったように口を開く。

「それが、特に決めてない」

「それはどういう?」

「俺、逃げてきたんだよ。逃げることが第一の目的だったから、それが成功して、少し考える時間が欲しかった」

「誰から逃げてきたの?」

「『ご主人様』」

 その言葉からは心底ウンザリするような気配がうかがえた。

「俺さ、商人に売られたんだ。この大陸を南から北へ往復してる商人なんだ。北に行くまでに奴隷を集めて、北の港で売ってるんだ。売られた奴隷は北の大陸に運ばれてく。あっちは今人不足らしいから。……………けど、俺の目が珍しかったのか、俺が売られて一度目の港では北に運ばれなかった。下っ端としてこき使われて、来た道を戻る感じで南に横断したんだ。折り返してまた北に向かう途中、隙を見て逃げ出した。正直あいつのことも大嫌いだった。北に売るわけでもないくせに、ろくに飯もくれない。なのに散々こき使う。赤い目が体が強いとはいえ限度があるだろ。飢えと疲れで、本当に死ぬかと思ったんだ。それで逃げてきた」

「………大変だったね。魔術とかは大丈夫だったの?」

「縛りの魔術か? そこはいろいろあってな。今はもう大丈夫だ。出てくるときに壊してきた」

 そこでホークは「あ」と声を上げ、自分の衣服に手を突っ込み何かを取り出す。手に持っていたのは高価そうな宝石細工のブローチだった。薄くカットした宝石を八枚、丸く連ねて花びらに見立てた、紫の花のブローチ。

 —―—『あれがあなたの主人? ………もう一度、逃げちゃえば?』

 「はい」とブローチを握らされた。逃げる気概があるなら、これを売って足しにしろと、あの時の彼女の声が脳裏によみがえる。

「俺、この前に一回脱走して失敗してるんだ。そろそろ本当に死ぬかもしれないって思って考えなしに逃げて。………けど縛りの魔術がかけられてたから一定の距離を離れた辺りで苦しくなって。体力もないうえに魔術の追い打ちで本当に死んだと思ったんだけど、そん時助けてくれた人がいてさ」

 ラツィラスは首をかしぎ、ジーンは座ったまま先を待つように黙ってホークに視線をやっていた。

「なあ、お前らミクレーのお嬢様って知らねえ?」





 ***





「は? 湖に沈んだ町? 貴様何を言ってるんだ。あの辺りにそんな物はない」

 ガルカの言葉にアルベラは眉を顰める。

(それは、まだ存在しないって事? それとも秘境とか?)

「じゃあ祠とか、化け物が出るとか、そういう土地はない? それかその辺りにある魔族の集落とか」

 ガルカは金の眼を細めアルベラを観察するように眺める。

「知らないな」

「八郎」

 アルベラが片手をあげると、後ろで八郎が「アイサ」と返事をし武器を構える。

「貴様! 嘘じゃない、本当だぞ!」

 ガルカは憤慨したようだが、自分がすでに奴隷としての枷をはめれていてどうしようもないことを思い出した。

「大体、知ってようが知ってなかろうが、それらに本気で答えて俺に何になる? どうせ死ぬのだろう? なら事実も嘘も俺には変わらん。結果は死だ」

 自嘲する少年に、アルベラ自信ありげに、どや顔に近い笑顔を浮かべて見せた。

「それが、どうかしら?」

 意図を探る視線が向けられる。

「私、もしかしたらあなたを救えるかも。………私のパパ、すっごい偉いの」

 ふふん、といやらしい笑顔を浮かべる。

 欲しいから、縋って見せましょ親の権力。と、どこかの武将様達がうたった鳴かぬホトトギスの語呂で、アルベラの脳裏に言葉が浮かんだ。

「お父様、私のお願いなら何でも聞いてくれちゃう親バカだから、『ガルカを助けて』って私が言えば簡単に逃してくれちゃうかも~?」

(嘘ね)

(嘘でござるな)

 アルベラの父が公爵であり世にいう偉い人で、大の親バカであるのは確かだ。しかし、私情を仕事に持ち込むほど甘い人間でないのをエリーも八郎も察していた。この街に住んで二年近く、ファミリーと絡み、町の裏事情を聞く機会も多いとなれば流石に、だ。

 魔族の少年はじっとアルベラを見つめ、沈黙する。

 どうやら、先ほどのアルベラの言葉は命の惜しい魔族の彼にはそこそこ響いたらしい。

 ガルカはじっとアルベラを見据え、「わかった」と口の端を吊り上げた。

「では、貴様の言う通り、役人につきだされた後俺が生きていたようなら知っている事を教えてやろう」

 つまり、知りたければ助けてみろ、ということだ。

「………ちっ」

 アルベラはこの部屋の誰にも聞こえる大きさで舌を打つ。

「あーあ。死ぬ前にいろいろ聞けると思ったのにざんねーん。ほら、行きましょ。もうお昼も過ぎてるし、こいつ突き出してご飯食べてツーのおじさまのところにいざ出じーん!」

 アルベラの言葉に、エリーはガルカを外に運び出す準備を始める。

 一人でも十分担げるはずだが、せっかく人手があるので八郎と持ちやすいように整えるようだ。

「貴様! 嘘なら嘘でもっとつき通して見せたらどうだ!! 死に行く俺に対して人の癖に軽薄ではないのか?!」

「煩い煩い! 小生意気な魔族なんてお役人にさっさと渡してやるんだから! 欲しい情報なら他の方法で見つけてやりますー」

「そうね~。私もお嬢様の意見にさんせ~い♪ 魔族に頼るなんて安心できないもの。そこらの詐欺師と話してる方がよっぽど気楽だわ」

「拙者は割と交渉の余地あると思ったんでござるがなぁ。ま、ガルカ殿は運がなかったということで、ご武運を祈るでござる」

 エリーと八郎は「よいしょ」とガルカを持ち上げる。その様にアルベラが「お~………」と何とも言えない声を上げた。

「お、おい、貴様ら! 俺をそういう風に持つのはやめろ! おろせ! 自分で歩く!!」

「いいからいいから~、遠慮しないで」

 にしし、と明らかに馬鹿にするような少女の笑顔にイラっとしつつ、ガルカはどうにか縄を解けないかと体を動かす。だが、枷に魔力を封じられ無理やり人の姿に押さえつけられている状態では、普段なら簡単に引きちぎれる様な普通の縄でさえ破るのは不可能のようだ。

「く、くそー!」

 だらんと脱力し、絶望の声を上げるガルカ。

(面白いもの見つけたなー。一応お父様には聞いといてみよう)

 アルベラは桶からスーを回収すると、少年を運び出すエリーと八郎の後について役所に向かった。



 役所では、豚の丸焼きのように棒に縛り付けられぶら下げられた少年が担ぎ込まれ、場は一時騒然となった。

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