アイテムボックスを極めた廃ゲーマー、異世界に転生して無双する。

メルメア

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第1章 竜の巣編

モンスターの群れの襲撃

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 私は慌てて家の外に飛び出す。
 さっきまでの楽しかった雰囲気は消え、恐怖と緊迫感が村を満たしていた。
 村にめぐらされた柵の向こう側に数種類のモンスターが何十体もいる。
 スライム、ゴブリンなどの定番モンスターはもちろん、オオカミやクマの姿をしたモンスター、さらには鳥型のモンスターなど様々だ。

「ぬう……。子供たちをできるだけ奥へ避難させるんじゃ! 戦える者は武器を取れぃ! 急ぐのじゃ!」

 ミョン爺が必死に声を張り上げている。
 奥へと逃げる子供たちに逆らって走り、私はミョン爺の横に立った。

「どうなってるの!?」

「おお、ミオンか。おぬし、逃げないでよいのか?」

「私も戦う! でもあのモンスターたち、明らかにおかしいでしょ! それともここらではこれが普通!?」

 モンスターたちは隊列を組むかのようにして、村に狙いを定めている。
 まるでどこかに指揮官がいて、指示を待っている軍隊のようだ。
 モンスターってこんな知能があるの……?

「最近、ここらに拠点を作った盗賊団の中にモンスターテイマーがおってな。おそらくは奴の仕業じゃ。スライムにゴブリン、サーベルウルフにボクサーベア……。この数のモンスターが隊を組むことなど、自然にはまずあり得ん!」

 女性、子供、そして老人たちは村の奥へと逃げていき、ここには私とミョン爺、そして20人くらいの男が残った。
 みんな槍やこん棒を持っているけど、あまり上等なものじゃないのは見ただけで分かる。
 それもそうだ。
 全員、本業は漁師なのだから。

「ミョン爺は逃げなくていいの?」

「何を言うか。村長のわしが戦わんでどうするんじゃ。それよりおぬし、本当に戦えるんじゃな?」

「戦力になれる。保証するよ」

「そうか。なら期待するとしようかの」

 ミョン爺が手に持っていた杖を高々と掲げる。
 まるでそれを合図にしたように、モンスターたちが村へ突進を始めた。

「【豪炎星】!」

 ミョン爺が振り上げた杖の先に、巨大な火の球が浮かぶ。

「決して村に入れるなぁ!」

 杖が振り下ろされると、火の玉はモンスターの一団へと突っ込んでいった。
 地面が大きく揺れ、軍団の半分近くが消し飛ぶ。
 あれ? ミョン爺ってひょっとしてめちゃくちゃ強い?

「驚いたか? 旅人」

 生き残ったモンスターたちの方へ走りながら、村人の1人が言った。

「村長は元Sランク冒険者だ。もう50年も前の話だけどな」

「なるほど。強いわけだ」

「全盛期なら、あの軍団も一撃で全滅させられただろうけどな」

 絶対にモンスターを村に壊されまいと、村人たちは全力で戦う。
 ミョン爺はといえば、杖をついて荒い呼吸を繰り返していた。
 さっきの大技で、相当体力を消費したみたいだ。

「【収納ストレージ】!」

 私は手あたり次第に近くのモンスターを収納していく。
 収納しただけでは、モンスターは死んでいない。
 ゲームでキルとしてカウントされるには、【解体ディセクション】でばらばらにして解放する必要がある。
 でも今は、とにかくモンスターをいなくすればいい。
 解体するのは後だ。

 モンスターを減らすのに、一瞬で片付けられる【収納ストレージ】は超便利。
 ただ難点は、実際に触れなければいけないところだ。
 するりするりとかわすモンスターたちに、必死に手を伸ばす。
 村の子供たちとやったのとは段違いの鬼ごっこだ。

「やるじゃないか旅人さんよ!」

「そりゃどうも!」

 村人と言葉を交わしたその時、視界の端で柵を飛び越えたサーベルウルフが目に入った。
 まっしぐらに一つの家へと駆けていく。
 あの家は……ニナたちの家だ!
 そうだ、お母さんがあの状況では、二人とも避難できていないんだ。
 モンスターは人の気配を感じているのだろう。

「まずい!」

 私は前線を離脱し、急いでサーベルウルフを追う。
 しかし、モンスターの方が一歩早くニナたちの家へとたどり着いてしまった。
 ドアが破られ、中から悲鳴が上がる。

「ニナ! フェンリア!」

 私が駆け込むと、壊れたドアの端切れを手にしたニナが、母親を庇うようにして立っていた。
 しかしサーベルウルフは、臆することなく飛び掛かろうとする。

「ガルルルル!」
「きゃああああああ!}

「させない!」

 間一髪。
 私は飛び上がったサーベルウルフの尻尾を掴んだ。

「ガルッ!?」

「【収納ストレージ】!」

 瞬間的にサーベルウルフが消え去る。
 危なかった。間に合って良かった。

「ミ、ミオンさぁん……」

「よしよし。怪我はない?」

 今日二回目の泣き顔を見せるニナを、そっと抱き寄せて撫でてあげる。
 母娘ともども、怪我はなさそうだ。
 被害がドアだけで済んで本当に良かったよ。

「避難は難しそうだよね?」

「うん。お母さんは置いていけない」

「ニナだけでも……逃げて……」

「そうは行かないよ!」

 ニナが母親を置いて逃げるわけがない。
 村の奥に避難できないなら……

「2人とも私のアイテムボックスの中へ避難して。私がここにずっといるわけにはいかないから」

「え?」

「ア、アイテムボックスって?」

「【収納ストレージ】!」

「「あわわわ……!」」

 アイテムボックスの中なら安全だ。
 モンスターも収納されているけど、中身同士が干渉しあうことはない。
 動きは不自由になるけど、何だかんだで一番安全な場所なのだ。

「避難よし!」

 2人を収納した私は、再び外に出る。
 村の入口まで戻ると、ミョン爺が深刻な表情を浮かべていた。

「ぬう……」

 モンスターの一団を何とか倒し切り、村人たちは疲労困憊している。
 しかし、そこへ新たなモンスターたちが向かってきていた。

「村のほとんどは冒険者でも戦士でもない……! 自衛のために多少戦うことはあっても、これだけの戦闘は初めてじゃ。これ以上は戦わせられん……」

「……どうするの?」

「くっ……。ティガスがいれば……」

「ティガスって誰?」

「ニナの父親じゃよ。村で一番強い男じゃったが……」

「……私に一つだけ考えがある」

「何じゃ?」

 私はとある作戦をミョン爺に告げる。
 最初は驚いた顔をしていたミョン爺だったけど、他に方法がないためにしぶしぶ承諾した。

「いいんじゃな? 本当に」

「任せて。私を信じて」

「仕方あるまい。みんな! 村の中へ下がるんじゃ!」

 前線にいた男たちにミョン爺が声を掛ける。
 戸惑う村人たちだったが、村長が言うならと戻ってきた。
 さすがの信頼度だ。

「行くぞ、ミオン」

「お願い」

「今のわしの体力じゃ、もう一発が限界じゃわい」

 ミョン爺は震える手で杖を振り上げる。

「【豪炎星】!」

 さっきよりもやや小さな火の球が浮かんだ。
 やっぱり相当体力を消耗しているんだね。

「ミオン! 託したぞ!」

「オッケー!」

 ミョン爺が放った【豪炎星】は、まっしぐらに私へと急降下してくる。

「村長!何を!?」
「そんちょぉぉぉ!?」

 慌てる村人を前に、私は火の球へ右手を伸ばした。

「【収納ストレージ】!」

「む、無傷!?」
「今確かに触った……よな!?」

 【炎無効】を取っておいて良かった。
 収納するにはどうしても触れなきゃいけない。
 だから今だって、【炎無効】がなかったら大やけどをしているところだ。

 私は攻撃スキルらしい攻撃スキルは持っていない。
 だけど相手を倒す“手段”は持っている。
 一つは【収納ストレージ】からの【解体ディセクション】。
 そしてもう一つは……

「【豪炎星】を【増幅アンプリフィケーション】!」

 敵か味方の攻撃スキルを収納し、増幅して解放するという手段だ。

「【三倍豪炎星トリプルファイアスター】! 【解放リリース】!」

 威力と大きさが3倍に増幅された【豪炎星】が、モンスターたちへと向かっていく。

「いっけえええ!」

 ズガーンという衝撃、爆風が襲う。
 もうもうと舞った土埃が晴れると、そこにモンスターたちの姿はなかった。
 上手くいったみたいだね。

「す、すげえ……」

 村の男たちが感嘆の声を上げる。
 ミョン爺がふらふらとよろけながら、杖を頼りに私の横へ来て言った。

「礼を言う、ミオン。おぬしがいなければ、死者が出ていたかもしれない」

「やれることをやったまでだよ」

 私はにっこりとミョン爺に微笑んだ。

「勝ったぁ! 村は守られたぞ!」
「モンスターは全部倒れたんだ!」

 戦った者たちが、安堵しながら勝利の歓声を上げる。
 それを聞いて、村の奥から避難していた住人たちも出てきた。
 みんな、村の無事を喜んでいる。

「そうだそうだ」

 私はニナたちの家に入ると、2人をアイテムボックスから解放した。
 急に自分たちの家に戻った母娘は、驚いて目を丸くしている。

「一応、危険は去ったよ。襲撃してきたモンスターはみんな退治した」

「ミオンさんがやったんですか!?」

「私一人じゃない。村のみんなで、ね」

 フェンリアをベッドに寝かせ、応急処置でドアを修繕する。
 後片付けが終わってみれば、もう夜が明けようとしていた。
 激動の異世界初日だったなぁ。
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