アイテムボックスを極めた廃ゲーマー、異世界に転生して無双する。

メルメア

文字の大きさ
5 / 37
第1章 竜の巣編

暴走する猛毒

しおりを挟む
「んぁ……」

 情けない声と共に目を覚ます。
 ここはニナとフェンリアの家。
 寝る場所がなかった私は、ニナのベッドにお邪魔させてもらっていたのだ。
 隣に寝ていたはずのニナは、もういなくなっているけど。

「おはようございます……ミオンさん……」

 私より先に目を覚ましていたらしいフェンリアが、弱々しい声を発した。

「おはよう、フェンリア。ニナは?」

「あの子は……薬草摘みに……」

「そっか、ありがとう」

 家を出てみると、太陽が高く昇っている。
 ということは昼間。
 明け方に寝たんだけど、思ったより早く目が覚め……

「おう、起きたんじゃな」

「ミョン爺。体は大丈夫なの?」

「まあ疲れは残っとるが、平気じゃわい。にしてもおぬし、よく寝とったのう」

「え?」

「何じゃ。気づいておらんのか。おぬし、丸一日半も寝とったぞ」

「そんなに寝てたの!?」

「旅の疲れ、戦いの疲れ、いろいろあったんじゃろう。でもおかげで、村は守られた。みんなもおぬしに感謝しておる」

「とんでもない。何か手伝うことはある?」

 自分で言ってびっくりする。
 楠木美音だったら、絶対に手伝いを申し出ることなんてない。
 いくらリリアちゃんに「異世界では働け」って言われたからって、どんな心境の変化だよ、私。
 まあでも、モンスターの襲撃というほっとけない状況で、自分にできることをやったら感謝されたって言うのが、一種の成功体験になっているのかもしれない。

「そうじゃな……。幸いなことに村の建物、柵への被害は少なく修繕は済んでしまった。今日からはみんな、またいつも通りの暮らしじゃ。特に急を要する作業はない」

「そっか。じゃあ村の仕事でも……あ、待って」

「どうしたんじゃ?」

「竜血茸ってどこに生えてるの?」

「なっ!? なぜおぬしがその名を……そうか、ニナから聞いたんじゃな?」

「うん」

 急を要する作業がないのなら、竜血茸を探し出してフェンリアを助けてあげたい。
 彼女が治れば、ニナも毎日薬草を摘む必要はなくなる。
 母親の病気のことで泣かなくて済むんだ。

「……わしの家に来い」

 ミョン爺は杖を片手に踵を返す。
 私は慌ててその後を追った。



 ※ ※ ※ ※



 ミョン爺の家に入ると、そこには大きな本棚があった。
 その中から、ミョン爺は一冊の本を取り出して開いて見せてくれる。

「これが竜血茸じゃ」

 説明と一緒に描かれていた挿絵は、これでもかというくらい強烈な紅色のキノコだった。
 傘も軸も紅。
 明らかに異質な雰囲気で、毒か薬かはともかく体に影響がありそうなのは一目見れば分かる。

「えーっと竜血茸。見た目は強烈だが非常に薬としての効果が高い。特に蛇経茸の解毒に関しては、このキノコ以外に手段がない……。なるほどね」

 私が説明を読み上げると、ミョン爺は一つ頷いてその下を指さした。

「問題はここ、生息条件じゃ」

「生息条件は……このキノコが育つには、その名の通り竜の血液が必要。よって非常に入手困難である」

「その通り。竜血茸を手に入れるには、まず竜の血を手に入れねばならん。それも成熟した竜でなければいかんそうじゃ。成熟した竜を倒すなど、人間には無理な話じゃよ」

「ちょっとだけ血をくださいみたいなのはお願いできないの?」

「無理に決まっておろう。確かに竜は知能を持ち、人間と会話することのできる生物。しかし傲慢な種族でもある。彼らにとって、人間は下等な種族なんじゃ。そんな奴らの願いを聞くはずがない」

「うーん……そりゃ、入手困難なわけだ」

「それに竜は個々が強力である代わりに数は少ない。竜の巣などそう見つけられるものでは……」

「でもニナの父親、ティガスは村を出た」

 宴の夜、ニナが言っていた。
 父親は竜血茸を探しに行ったっきり帰ってこないと。

「病気の妻、それに幼い娘を残して村を出るのは相当な覚悟が必要。いくら解毒の手段がそれしかないとはいえ、ある程度の見当がついていなければ……」

「……その通りじゃ。竜の巣の場所を、ティガスは突き止めた。そして帰って来ぬまま今に至る。竜に挑んで破れたか、はたまた他に何か事件事故が起きたか……。真相は分からぬがな」

「その竜の巣の場所は分かるの?」

 ミョン爺は少しためらってから口を開いた。

「わしは知っておる。じゃが教えぬぞ。おぬしを死にに行かせるようなもんじゃ」

「教えて」

「ダメじゃ」

「お願い」

「ダメなものはダメじゃ」

「私は死なないから。教えて」

「しつこいのう……」

 ミョン爺はため息をつき、本を棚に戻して言った。

「もしおぬしが行って、生きて帰って来られなかったらどうなる。ニナはまた一つ、大きな苦しみを抱えることになるんじゃぞ。それはフェンリアも同じじゃ」

「だけどこのままじゃ、フェンリアは死んじゃうんでしょ?」

「それはそうじゃが……」

「だったら私に行かせて」

 もう一度、私はミョン爺に訴えかける。
 ふと後ろから声が聞こえた。

「ミオンさん……」

 振り返ってみると、そこに立っていたのは薬草の入った籠を抱えたニナだった。
 日課の薬草摘みから帰ってきたところみたいだ。

「ミオンさんは確かに強いです。でも……行っちゃだめです。私たちのためにミオンさんが命を懸けるなんて……」

「ニナ……」

 とてもこの年代の少女とは思えない。
 母親の病気が、彼女を年齢以上に強くしてしまったのだと思うと、胸がぎゅっと締め付けられる。
 沈痛な雰囲気を破ったのは、駆け込んで来た村人の声だった。

「ニナ! お母さんが!」

 その言葉に、ニナが慌てて走り出す。
 私も急いで2人の家に向かった。

「お母さん!」

 家に駆けこんだニナが、フェンリアの手を握る。
 最初に会った時と同じように、青白い顔にやせ細った体。
 しかしその呼吸は明らかに荒く、顔には茶色い斑点が浮かんでいた。

「ニ……ナ……」

 ひどく苦しそうな様子で、フェンリアは娘に呼びかける。
 遅れてやってきたミョン爺は、その姿を見て一気に青ざめた。

「いかん! 蛇経毒の暴走が始まっておる!」

「暴走ってどういうこと?」

「蛇経毒の特性は知っておるか?」

「長い期間にわたって人を苦しめるって聞いた」

「そうじゃ。そしてその苦しみの最後にやってくるのが、この暴走なんじゃ」

「最後……ってことは!?」

「もって5日。短ければ3日ってところじゃな。この蛇経毒の恐ろしさは、暴走がいつやってくるか分からぬところにもあるんじゃ」

「そんな!」

「お母さん! お母さん!」

 ニナが必死に呼びかける。
 しかしフェンリアに応える余裕はなく、ただ汗を噴き出しながら荒い呼吸を重ねるばかりだ。
 おそらく、今のフェンリアに意識というものはないだろう。

「お母さん……」

 ニナの涙が握った母親の手に零れ落ちる。
 これまで毎日薬草を採りに行って、お母さんの分まで村の仕事も頑張って……
 そんな少女が報われないでいいはずがない。
 治し方が分かっているのに、このままフェンリアが死んでしまっていいはずがない。

「ぶっ飛ばす……」

「何じゃって?」

 私はミョン爺に力強く言い放った。

「竜だろうと何だろうとぶっ飛ばす! 私がぶっ飛ばしてみせる! だから竜の巣の場所を教えて!」

「じゃが……しかし……」

「ミオンさん……」

 ミョン爺が迷っていると、ニナが口を開いた。
 右手で母親の手を握り、左手は私の服を掴む。

「ミオンさんは強いんですよね!? 崖から飛び降りても死なないし、モンスターは触っただけで倒せちゃうし!」

「そうだよ」

「竜だってぶっ飛ばせ……ます……よ……ね?」

 途中で自信が無くなってしまったのか、ためらいが出たのか。
 ニナの言葉は尻すぼみになる。
 私は姿勢を低くして、自分の顔と彼女の顔を向かい合わせて言った。

「私は強い。竜だって倒したことがある」

 実際、ゲームの中ではバカ強いドラゴンを何度もソロ討伐している。
 それにこれくらい言わなきゃ、ニナも安心して頼れないよね。

「ミオンさん」

 ニナは両目いっぱいに涙を浮かべて、手にぎゅっと力を込めた。

「助けて……ください……!」

「絶対に助ける。約束する」

 私はニノを抱きしめて誓う。
 そしてミョン爺に言った。

「さあ、竜の巣の場所を」

「……仕方あるまい。わしの家に地図があるから取りに来い」

「フェンリアだけど、私のアイテムボックスの中なら時間が流れないから今の状態が保てる。意識があって体は動かせないから苦しみは続くけど、これ以上の進行も避けられるよ」

「ニナ、どうじゃ?」

「それでお願いします」

「分かった。【収納ストレージ】」

 毒の暴走が始まった苦しい状態で、そう何日も持つものじゃない。
 アイテムボックスの中なら体は悪化しなくても、精神的に大きな影響が及んでしまう。
 フェンリアの頑張りを信じるとして、体と同様に精神を保つのも3日が限界だろう。
 どうしたって、早く竜血茸を手に入れなきゃいけない。

 タイムリミットは3日。
 私は大きく深呼吸して気合を入れると、家に戻るミョン爺の隣を歩き始めた。
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばす 規格外ダンジョンに住んでいるので、無自覚に最強でした

むらくも航
ファンタジー
旧題:ただのFランク探索者さん、うっかりSランク魔物をぶっとばして大バズりしてしまう~今まで住んでいた自宅は、最強種が住む規格外ダンジョンでした~ Fランク探索者の『彦根ホシ』は、幼馴染のダンジョン配信に助っ人として参加する。 配信は順調に進むが、二人はトラップによって誰も討伐したことのないSランク魔物がいる階層へ飛ばされてしまう。 誰もが生還を諦めたその時、Fランク探索者のはずのホシが立ち上がり、撮れ高を気にしながら余裕でSランク魔物をボコボコにしてしまう。 そんなホシは、ぼそっと一言。 「うちのペット達の方が手応えあるかな」 それからホシが配信を始めると、彼の自宅に映る最強の魔物たち・超希少アイテムに世間はひっくり返り、バズりにバズっていく──。

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。

田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした

月神世一
ファンタジー
​「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」 ​ ​ブラック企業で過労死した日本人、カイト。 彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。 ​女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。 ​孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった! ​しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。 ​ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!? ​ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!? ​世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる! ​「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。 これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

神託が下りまして、今日から神の愛し子です! 最強チート承りました。では、我慢はいたしません!

しののめ あき
ファンタジー
旧題:最強チート承りました。では、我慢はいたしません! 神託が下りまして、今日から神の愛し子です!〜最強チート承りました!では、我慢はいたしません!〜 と、いうタイトルで12月8日にアルファポリス様より書籍発売されます! 3万字程の加筆と修正をさせて頂いております。 ぜひ、読んで頂ければ嬉しいです! ⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎ 非常に申し訳ない… と、言ったのは、立派な白髭の仙人みたいな人だろうか? 色々手違いがあって… と、目を逸らしたのは、そちらのピンク色の髪の女の人だっけ? 代わりにといってはなんだけど… と、眉を下げながら申し訳なさそうな顔をしたのは、手前の黒髪イケメン? 私の周りをぐるっと8人に囲まれて、謝罪を受けている事は分かった。 なんの謝罪だっけ? そして、最後に言われた言葉 どうか、幸せになって(くれ) んん? 弩級最強チート公爵令嬢が爆誕致します。 ※同タイトルの掲載不可との事で、1.2.番外編をまとめる作業をします 完了後、更新開始致しますのでよろしくお願いします

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう! 公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ

幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
アルファポリス様より書籍化! 転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された雑用係、実は神々の隠し子でした~無自覚に世界最強で、気づいたら女神と姫と勇者パーティがハーレム化していた件~

fuwamofu
ファンタジー
異世界ギルドの「雑用係」としてコキ使われていた青年レオン。だが彼は、自分が神々の血を継ぐ存在だとは知らなかった。追放をきっかけに本来の力が目覚め、魔王軍・帝国・勇者をも圧倒する無自覚最強へと覚醒する。 皮肉にも、かつて見下していた仲間たちは再び彼に跪き、女神、聖女、王女までが彼の味方に!? 誰もが予想しなかった「ざまぁ」の嵐が、今、幕を開ける——!

処理中です...