23 / 37
第2章 金の成る魚編
開店準備①
しおりを挟む
オークションから2日後。
私はまたしても王都の商業ギルドにいた。
今回は商売の相談だ。
「王都で商売をするには許可証が必要になります。その申請用紙がこちらです」
ピノが私の前に紙を置く。
業務内容、店舗の有無や形態、開業資金などなど。
書かなきゃいけないことがたくさんだ。
「ミオンさんは商売をされるのは初めて……ですよね?」
「うん。ずぶの素人だよ」
「なるほど。でも、商業ギルドが1から開店までお手伝いしますので、安心してくださいね」
「……コンサル料とか取られないよね?」
「取りませんよ。そこまでがめつくないです」
ピノは「ですが」と笑った。
「商売が上手くいけば、王都全体の景気が良くなります。商業ギルドに入ってくるお金も必然的に増えるわけです。結果的に私たちの利益になります」
そういうことか。
あの本部長にしてこの受付嬢ありって感じだなぁ。
「正直、ミオンさんに資金の心配は不要だと思いますが……」
「竜血茸のおかげだね」
「はい。店舗形態はどのようなものを考えておられますか?」
「そうだね……」
最初は、王都への移動に数日かかるので簡易的な形式にしようと思っていた。
でも転移装置『TM-0』が手に入ってしまったからなぁ。
実質的に王都と村がゼロ距離になった以上、しっかりした店を構えてもいいかもしれない。
お金もあることだし。
「ちゃんとした建物を使って営業しようかな。今って借りられる空き物件あるの?」
「ありますよ。ミオンさんの所持金なら、借りることもできますし買うこともできます」
「じゃあ後で紹介してもらおうかな」
「はい。何件かご案内します。それで具体的に商売の内容は?」
「魚を使おうと思ってるんだけど……」
私は刺身の話をピノにする。
生魚と聞いて、彼女は少し不安そうな表情を浮かべた。
魚を生で食べるの? という感じだ。
文化がないんだから、心配になるのも無理はない。
こうなると思って、今日の私は新鮮な魚を持ってきている。
「ここって調理場的なものある?」
「簡単で良ければありますよ」
「じゃあそこでさ、刺身を試してみない?」
「ちょっと怖いですけど……。ミオンさんが言うなら、試してみます」
「決まりだね」
ピノに調理場へ案内してもらって魚を取り出す。
この間と同じように、手早くさばいていく。
「慣れてるんですね」
「まあね。これくらいはできないと、店をやろうなんて思えないよ」
「それもそうですね」
私は刺身を切り分けると、塩をふりかけた。
そしてピノの口元へ運んであげる。
「さあ、お試しあれ」
「美味しいんですかね……」
恐るおそる、ぱくりと刺身を食べるピノ。
強張っていた顔が、噛むたびに和らいでいく。
「美味しいっ!?」
「それは良かった」
「生魚ってこんなに美味しいんですね……。ミオンさん、この知識はどうやって手に入れたんですか?」
「遠方には何でも生で食べたがる国があるんだよね。それを参考にしたの」
参考っていうか丸パクリだけど。
でも村の人たち、そしてピノの味覚に合ったのならまず間違いはないだろう。
「この刺身、王都で人気でるかな?」
「上手くお客さんを集めることができれば、成功すると思います。集客に関しては、私たちは商売のプロ集団です。そこにミオンさんの刺身みたいな斬新な発想が加われば……」
「いけそうだね」
「はい。頑張りましょう」
私はピノとがっちり握手を交わす。
商業ギルドが協力してくれる以上に、心強いことはない。
何せ商売に関しては本当に素人だからね。
調理場から戻って座ると、ピノが尋ねてきた。
「何か他にアイデアってありますか?」
「えっとね……あ、そうだ。店のデザインのことなんだけど」
私はぽんっと手を打つと、アイテムボックスから少し大きめの紙を取り出した。
私の数少ない特技の1つが絵だ。
それを活かして、店のデザインを考えておいたのだ。
オークション前に作ったものだから、屋台仕様になっているけど、店舗にも応用できるはず。
「これは……なかなか奇抜なデザインですね」
「うん。目立つでしょ?」
作ったデザインは、寿司屋を参考に大漁旗などを盛り込んだものだ。
ショッピングモールのフードコートにありそうだけど、異世界の王都では違和感が半端ない。
でも目立つ分、集客に役立つはずだ。
「このデザインですと……物件を買い取って、自費で改造するのが良いかもしれませんね。初期費用はかさみますけど、オークションの収入があれば十分なはずです」
「なるほど……。まあまずは、物件を見てみてからの方がいいのか」
「そうですね。もしよろしければ、空き物件に早速ご案内しますよ」
「うん。お願い」
「かしこまりました」
いよいよ異世界に飲食店オープンが近づいてきた。
最初に転生した時は、こんなことになると思わなかったなぁ。
そもそもは引きニートだった私が、国の中心、言ってみれば東京みたいな場所で店をやろうっていうんだからびっくり。
人は変われば変わるもんだ。
私はピノと一緒に物件リサーチに向かうのだった。
私はまたしても王都の商業ギルドにいた。
今回は商売の相談だ。
「王都で商売をするには許可証が必要になります。その申請用紙がこちらです」
ピノが私の前に紙を置く。
業務内容、店舗の有無や形態、開業資金などなど。
書かなきゃいけないことがたくさんだ。
「ミオンさんは商売をされるのは初めて……ですよね?」
「うん。ずぶの素人だよ」
「なるほど。でも、商業ギルドが1から開店までお手伝いしますので、安心してくださいね」
「……コンサル料とか取られないよね?」
「取りませんよ。そこまでがめつくないです」
ピノは「ですが」と笑った。
「商売が上手くいけば、王都全体の景気が良くなります。商業ギルドに入ってくるお金も必然的に増えるわけです。結果的に私たちの利益になります」
そういうことか。
あの本部長にしてこの受付嬢ありって感じだなぁ。
「正直、ミオンさんに資金の心配は不要だと思いますが……」
「竜血茸のおかげだね」
「はい。店舗形態はどのようなものを考えておられますか?」
「そうだね……」
最初は、王都への移動に数日かかるので簡易的な形式にしようと思っていた。
でも転移装置『TM-0』が手に入ってしまったからなぁ。
実質的に王都と村がゼロ距離になった以上、しっかりした店を構えてもいいかもしれない。
お金もあることだし。
「ちゃんとした建物を使って営業しようかな。今って借りられる空き物件あるの?」
「ありますよ。ミオンさんの所持金なら、借りることもできますし買うこともできます」
「じゃあ後で紹介してもらおうかな」
「はい。何件かご案内します。それで具体的に商売の内容は?」
「魚を使おうと思ってるんだけど……」
私は刺身の話をピノにする。
生魚と聞いて、彼女は少し不安そうな表情を浮かべた。
魚を生で食べるの? という感じだ。
文化がないんだから、心配になるのも無理はない。
こうなると思って、今日の私は新鮮な魚を持ってきている。
「ここって調理場的なものある?」
「簡単で良ければありますよ」
「じゃあそこでさ、刺身を試してみない?」
「ちょっと怖いですけど……。ミオンさんが言うなら、試してみます」
「決まりだね」
ピノに調理場へ案内してもらって魚を取り出す。
この間と同じように、手早くさばいていく。
「慣れてるんですね」
「まあね。これくらいはできないと、店をやろうなんて思えないよ」
「それもそうですね」
私は刺身を切り分けると、塩をふりかけた。
そしてピノの口元へ運んであげる。
「さあ、お試しあれ」
「美味しいんですかね……」
恐るおそる、ぱくりと刺身を食べるピノ。
強張っていた顔が、噛むたびに和らいでいく。
「美味しいっ!?」
「それは良かった」
「生魚ってこんなに美味しいんですね……。ミオンさん、この知識はどうやって手に入れたんですか?」
「遠方には何でも生で食べたがる国があるんだよね。それを参考にしたの」
参考っていうか丸パクリだけど。
でも村の人たち、そしてピノの味覚に合ったのならまず間違いはないだろう。
「この刺身、王都で人気でるかな?」
「上手くお客さんを集めることができれば、成功すると思います。集客に関しては、私たちは商売のプロ集団です。そこにミオンさんの刺身みたいな斬新な発想が加われば……」
「いけそうだね」
「はい。頑張りましょう」
私はピノとがっちり握手を交わす。
商業ギルドが協力してくれる以上に、心強いことはない。
何せ商売に関しては本当に素人だからね。
調理場から戻って座ると、ピノが尋ねてきた。
「何か他にアイデアってありますか?」
「えっとね……あ、そうだ。店のデザインのことなんだけど」
私はぽんっと手を打つと、アイテムボックスから少し大きめの紙を取り出した。
私の数少ない特技の1つが絵だ。
それを活かして、店のデザインを考えておいたのだ。
オークション前に作ったものだから、屋台仕様になっているけど、店舗にも応用できるはず。
「これは……なかなか奇抜なデザインですね」
「うん。目立つでしょ?」
作ったデザインは、寿司屋を参考に大漁旗などを盛り込んだものだ。
ショッピングモールのフードコートにありそうだけど、異世界の王都では違和感が半端ない。
でも目立つ分、集客に役立つはずだ。
「このデザインですと……物件を買い取って、自費で改造するのが良いかもしれませんね。初期費用はかさみますけど、オークションの収入があれば十分なはずです」
「なるほど……。まあまずは、物件を見てみてからの方がいいのか」
「そうですね。もしよろしければ、空き物件に早速ご案内しますよ」
「うん。お願い」
「かしこまりました」
いよいよ異世界に飲食店オープンが近づいてきた。
最初に転生した時は、こんなことになると思わなかったなぁ。
そもそもは引きニートだった私が、国の中心、言ってみれば東京みたいな場所で店をやろうっていうんだからびっくり。
人は変われば変わるもんだ。
私はピノと一緒に物件リサーチに向かうのだった。
11
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
俺しか使えない『アイテムボックス』がバグってる
十本スイ
ファンタジー
俗にいう神様転生とやらを経験することになった主人公――札月沖長。ただしよくあるような最強でチートな能力をもらい、異世界ではしゃぐつもりなど到底なかった沖長は、丈夫な身体と便利なアイテムボックスだけを望んだ。しかしこの二つ、神がどういう解釈をしていたのか、特にアイテムボックスについてはバグっているのではと思うほどの能力を有していた。これはこれで便利に使えばいいかと思っていたが、どうも自分だけが転生者ではなく、一緒に同世界へ転生した者たちがいるようで……。しかもそいつらは自分が主人公で、沖長をイレギュラーだの踏み台だなどと言ってくる。これは異世界ではなく現代ファンタジーの世界に転生することになった男が、その世界の真実を知りながらもマイペースに生きる物語である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした
新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。
「もうオマエはいらん」
勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。
ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。
転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。
勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
インターネットで異世界無双!?
kryuaga
ファンタジー
世界アムパトリに転生した青年、南宮虹夜(ミナミヤコウヤ)は女神様にいくつものチート能力を授かった。
その中で彼の目を一番引いたのは〈電脳網接続〉というギフトだ。これを駆使し彼は、ネット通販で日本の製品を仕入れそれを売って大儲けしたり、日本の企業に建物の設計依頼を出して異世界で技術無双をしたりと、やりたい放題の異世界ライフを送るのだった。
これは剣と魔法の異世界アムパトリが、コウヤがもたらした日本文化によって徐々に浸食を受けていく変革の物語です。
荷物持ちの代名詞『カード収納スキル』を極めたら異世界最強の運び屋になりました
夢幻の翼
ファンタジー
使い勝手が悪くて虐げられている『カード収納スキル』をメインスキルとして与えられた転生系主人公の成り上がり物語になります。
スキルがレベルアップする度に出来る事が増えて周りを巻き込んで世の中の発展に貢献します。
ハーレムものではなく正ヒロインとのイチャラブシーンもあるかも。
驚きあり感動ありニヤニヤありの物語、是非一読ください。
※カクヨムで先行配信をしています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる