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第3章 海の主討伐編
海の主
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海鮮料理店「美音」の開店から1ヶ月。
最初の大騒ぎは少し落ち着き、毎日ちょうどいいくらいのお客さんに恵まれている。
順調に利益が増えているし、みんなも仕事に慣れてきた。
フェンリアも調理場のメンバーに入ってくれたことで、私の仕事量もだいぶ楽になった。
「ふわぁ~おはよう」
「おはようございます」
朝早く起きて外に出ると、ニナが笑顔で挨拶してくれた。
うん。良い目覚めだね。
今日は午前中は村の仕事を手伝って、お昼からはお店で頑張る予定だ。
「そろそろティガスたちが帰ってくるころだね」
「はい。今日も大漁だといいです」
「珍しい魚が獲れてたら『美音』にもらおうね」
「もちろんです!」
冗談を言いながら漁師勢の帰りを待っていると、ネロが村へと駆け込んで来た。
手には魚はおろか、漁の道具も何も持っていない。
相当急いでいたみたいで、ぜえぜえと息を切らしている。
「どうしたのー? トイレ漏れそうなの?」
のんきに私が尋ねると、ネロは青い顔をして言った。
「それどころじゃない! 村長、一大事です!」
「何じゃ?」
「主が……」
ネロの一言に、ミョン爺の顔もまた青くなる。
どうやら、トイレがどうとかふざけている場合じゃなさそうだ。
本当に一大事が起きたらしい。
「漁に出たみんなはどうなったんじゃ!?」
「全力で逃げ帰ったのでみんな無事です。俺が急いで帰って報告することになったので」
「そうか。無事なら良かったわい。いや、状況は良くもないんじゃが」
「主って何なの?」
どうやらニナも“主”について知っているようで、深刻そうな顔をしている。
1人だけ置いてけぼりの私が尋ねると、ミョン爺は1つ頷いてから言った。
「主というのはこの近海の主。といっても、かなり行動範囲が広くてな。ある時はこの村の近くに居座り、ある時はまた別の漁村の近くに居座り、またある時は沖合の方に住んでいる。最後にこの村の近くに来たのは、10年くらい前じゃな」
10年前なら、ニナに直接的な記憶はないはずだ。
それでもあの表情ということは、よっぽど危険な奴で、しっかりと村中に話が伝わっているということだろう。
「そいつが居座るとどうなるの?」
「大変に狂暴なんじゃ。水中の魚はもちろん、船など近くを通るものは全て襲う気性の荒さでな。主が近くに来てしまったら、とても漁などできん。気分が変わって他のところに移動するのを待つしかないんじゃよ」
「そんな! 漁ができなかったら村の収入はなくなるし、『美音』も営業できなくなっちゃうよ!?」
「そうなんじゃ。そうなんじゃが、どうにもできんのじゃよ。何せ主の身体は固く、ほとんど攻撃を通さない。それに海の中にいるもんじゃから、そもそも攻撃がなかなかできん。無理に近づいて水中戦に持ち込まれたら、勝ち目はないんじゃからな」
「居座るのって、だいたいどれくらいの期間なの?」
「前回は確か……1年半ほどじゃったな?」
「そうですね」
ミョン爺に確認されてネロが頷く。
正直言って、冗談じゃない。
せっかく『美音』が上手くいっているのに、1年半も主が去るのを待ってなんていられない。
そもそも1年半でいなくなる保証はないのだ。
「主には海洋生物として異例の懸賞金がかけられておる。その額は4,000万Gじゃ」
「4,000万!?」
ランガルの50倍の額だ。
竜血茸の売却価格に迫る高さ。
それだけ討伐が難しく、挑戦はされてきたものの成功しなかったということだろう。
「一体、主ってどんな奴なの?」
「実際に見てみるのが早いじゃろう。主が近くに現れたということは、丘の上から目視できるはずじゃ」
私とニナはミョン爺に連れられて、帰ってきた漁師たちと入れ違いに村を出る。
みんな青ざめた顔をしていた。
あのティガスですらだ。
よっぽどの怪物らしい。
「ぬう……。やはり現れておる」
最初に丘の先端へ立ったミョン爺が、忌々し気に言葉を漏らした。
続いて私とニナも、その横に立って海を見下ろす。
「あれが懸賞金4,000万Gの主。“巨大海亀”アーケロンじゃ」
「アーケロン……」
私は海に鎮座する巨体に息を呑む。
ガルガームよりもはるかに大きなウミガメだ。
アーケロンってそんな名前の古代の生き物が元の世界にもいたけど、それが爪垢に見えるくらい大きい。
「……ぶっ飛ばすよ」
「何じゃと?」
「あれをぶっ飛ばして、1日も早く漁と『美音』を再開する」
「たたたた確かに竜を倒したミオンさんですけど! あれも倒せるんですか!?」
慌てふためくミョン爺とニナ。
2人を前に、私は言う。
「やってみなきゃ分からないけど……でも、やってみせるよ」
竜血茸の入手、海鮮料理店の開店。
さあさあ、お次は“巨大海亀”アーケロンの討伐といこうか。
最初の大騒ぎは少し落ち着き、毎日ちょうどいいくらいのお客さんに恵まれている。
順調に利益が増えているし、みんなも仕事に慣れてきた。
フェンリアも調理場のメンバーに入ってくれたことで、私の仕事量もだいぶ楽になった。
「ふわぁ~おはよう」
「おはようございます」
朝早く起きて外に出ると、ニナが笑顔で挨拶してくれた。
うん。良い目覚めだね。
今日は午前中は村の仕事を手伝って、お昼からはお店で頑張る予定だ。
「そろそろティガスたちが帰ってくるころだね」
「はい。今日も大漁だといいです」
「珍しい魚が獲れてたら『美音』にもらおうね」
「もちろんです!」
冗談を言いながら漁師勢の帰りを待っていると、ネロが村へと駆け込んで来た。
手には魚はおろか、漁の道具も何も持っていない。
相当急いでいたみたいで、ぜえぜえと息を切らしている。
「どうしたのー? トイレ漏れそうなの?」
のんきに私が尋ねると、ネロは青い顔をして言った。
「それどころじゃない! 村長、一大事です!」
「何じゃ?」
「主が……」
ネロの一言に、ミョン爺の顔もまた青くなる。
どうやら、トイレがどうとかふざけている場合じゃなさそうだ。
本当に一大事が起きたらしい。
「漁に出たみんなはどうなったんじゃ!?」
「全力で逃げ帰ったのでみんな無事です。俺が急いで帰って報告することになったので」
「そうか。無事なら良かったわい。いや、状況は良くもないんじゃが」
「主って何なの?」
どうやらニナも“主”について知っているようで、深刻そうな顔をしている。
1人だけ置いてけぼりの私が尋ねると、ミョン爺は1つ頷いてから言った。
「主というのはこの近海の主。といっても、かなり行動範囲が広くてな。ある時はこの村の近くに居座り、ある時はまた別の漁村の近くに居座り、またある時は沖合の方に住んでいる。最後にこの村の近くに来たのは、10年くらい前じゃな」
10年前なら、ニナに直接的な記憶はないはずだ。
それでもあの表情ということは、よっぽど危険な奴で、しっかりと村中に話が伝わっているということだろう。
「そいつが居座るとどうなるの?」
「大変に狂暴なんじゃ。水中の魚はもちろん、船など近くを通るものは全て襲う気性の荒さでな。主が近くに来てしまったら、とても漁などできん。気分が変わって他のところに移動するのを待つしかないんじゃよ」
「そんな! 漁ができなかったら村の収入はなくなるし、『美音』も営業できなくなっちゃうよ!?」
「そうなんじゃ。そうなんじゃが、どうにもできんのじゃよ。何せ主の身体は固く、ほとんど攻撃を通さない。それに海の中にいるもんじゃから、そもそも攻撃がなかなかできん。無理に近づいて水中戦に持ち込まれたら、勝ち目はないんじゃからな」
「居座るのって、だいたいどれくらいの期間なの?」
「前回は確か……1年半ほどじゃったな?」
「そうですね」
ミョン爺に確認されてネロが頷く。
正直言って、冗談じゃない。
せっかく『美音』が上手くいっているのに、1年半も主が去るのを待ってなんていられない。
そもそも1年半でいなくなる保証はないのだ。
「主には海洋生物として異例の懸賞金がかけられておる。その額は4,000万Gじゃ」
「4,000万!?」
ランガルの50倍の額だ。
竜血茸の売却価格に迫る高さ。
それだけ討伐が難しく、挑戦はされてきたものの成功しなかったということだろう。
「一体、主ってどんな奴なの?」
「実際に見てみるのが早いじゃろう。主が近くに現れたということは、丘の上から目視できるはずじゃ」
私とニナはミョン爺に連れられて、帰ってきた漁師たちと入れ違いに村を出る。
みんな青ざめた顔をしていた。
あのティガスですらだ。
よっぽどの怪物らしい。
「ぬう……。やはり現れておる」
最初に丘の先端へ立ったミョン爺が、忌々し気に言葉を漏らした。
続いて私とニナも、その横に立って海を見下ろす。
「あれが懸賞金4,000万Gの主。“巨大海亀”アーケロンじゃ」
「アーケロン……」
私は海に鎮座する巨体に息を呑む。
ガルガームよりもはるかに大きなウミガメだ。
アーケロンってそんな名前の古代の生き物が元の世界にもいたけど、それが爪垢に見えるくらい大きい。
「……ぶっ飛ばすよ」
「何じゃと?」
「あれをぶっ飛ばして、1日も早く漁と『美音』を再開する」
「たたたた確かに竜を倒したミオンさんですけど! あれも倒せるんですか!?」
慌てふためくミョン爺とニナ。
2人を前に、私は言う。
「やってみなきゃ分からないけど……でも、やってみせるよ」
竜血茸の入手、海鮮料理店の開店。
さあさあ、お次は“巨大海亀”アーケロンの討伐といこうか。
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