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第14話 交渉(※グロウ視点)
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「なんだい貧乏人、今日は何の用だい?」
グロウがティグリナの部屋に入ると、彼女は書類の束から顔を上げることもなくそう言った。
こちらから見えるのは、丁寧にセットされた白髪頭だけだ。
――ちっ。クソババアがよ……。
心の中では悪態をつきながら、グロウは無理やりに笑顔を浮かべて答える。
「あんたが興味を持ちそうな話を持ってきましたぜ。俺はここんとこ、例の魔境の森に行ってたんですけども」
「あの気味の悪い森かい。バカな男だね。どうせ、報酬に釣られたんだろ?」
「へへっ、恥ずかしながら貧乏人なもんでね。まあ、冒険者協会が求めてるような成果は得られなかったんですが、ちょっとばかし面白いものを見たんですわ」
「何だい。私は忙しいんだよ。もったいぶらずに話しておくれ」
「まあまあ、そう焦らずに。あんた、あそこにエリンちゃんを捨てたでしょう」
ここでようやく、ティグリナが書類から顔を上げた。
視線がグロウの顔を捉える。
年相応にしわが刻まれたその顔に、当然ながらエリンを心配する表情は浮かんでいない。
「あの子の死体でも見たのかい?」
ティグリナはただ、そう尋ねた。
エリンが死ぬことを、まるで何とも思っていない態度。
グロウははらわたが煮えくり返るのを感じながら、それでも平静を装って話を続ける。
「とんでもない。むしろその逆です。エリンちゃん、あの森でのんびり暮らしてますぜ」
「バカ言うんじゃないよ。あそこはそんなに平和な場所じゃない」
「それは俺も身をもって体験してますから、分かってるつもりです。でも彼女は、何やら不思議な動物たちをテイムして、不自由なく暮らしているってわけで」
「あの子がテイムを? グロウ、私は忙しいんだ。お前の作り話に付き合っている暇はないんだよ」
もしティグリナが信じなければ、作戦はこれ以上先には進めなくなる。
そうなれば、ミラを助け出せずエリンの願いを叶えられない。
それが分かっているだけに、グロウはより熱を込めてティグリナに迫った。
「これは作り話なんかじゃねえ。ティグリナさん、あんたがエリンちゃんを追い出したのは間違いだった。でも仕方ねえんだ。あの子の才能は、普通のテイマーとは違う。特殊なもんだから、あんたが見抜けなかったのも仕方ない。でも特殊ってことは、金になる」
「くっくっく……。グロウ、何が目的だい? お前はこの私のビジネスを、あまり好意的に受け止めていないと思っていたんだけどね」
「金だよ」
グロウはにやりといやらしい笑顔を浮かべた。
もちろん、あくまで演技に過ぎない。
それでもグロウを貧乏な卑しい奴と見下しているティグリナにとっては、かなり効果がある。
「金が必要なんだ。俺はあんたにこの情報を提供した。あんたがエリンちゃんを連れ戻して売れば、かなりの収益を得られるはずだ。となれば、その収益は俺のおかげで手にしたものってことになる」
「単刀直入に言えば、分け前をよこせってわけだね?」
「へへっ。そうだ」
しばらくの沈黙の後、ティグリナもまたいやらしい笑顔を浮かべた。
そしてグロウを指差す。
「いいだろう。お前の口車に乗ってあげるよ。だけどもしも、この話が嘘だった場合にお前はどうする?」
「俺の命を賭けようじゃねえか。殺そうと、奴隷のようにこき使おうと、どっかに売り飛ばそうと、好きにしてくれていい」
「大きく出たね。私が本当にそうできる力があると、十分に分かっての発言だろうね?」
「当然だ」
「約束だよ」
交渉成立。
ひとまず、ティグリナを引きずり出すことに成功した。
あとはギルの思惑通り、彼女がミラを連れて森へやってくるのを待つだけ。
一仕事終えた達成感と共に、グロウはティグリナの部屋を後にする。
しかしそこに立っていたのは、あろうことかミラ本人だった。
彼女は少し涙のたまった目で、グロウを強く睨みつけて呟く。
「グロウおじさんはそんな人じゃないって、信じてたのに……!」
――まさかさっきの会話を、全て廊下から聞かれていたのか?
違う、違うんだミラちゃん。これは全て作戦で……
喉元まで出かかった言葉を、グロウはすんでのところで飲み込んだ。
ここで余計なことを言ってしまえば、ティグリナに聞かれてしまうかもしれない。
そうなれば、ここまでの演技も水の泡だ。
「最低……!」
「わりいな」
そう一言だけ呟いて。
グロウは激しい胸の痛みを感じつつ、ミラの前から逃げるように去って行ったのだった。
グロウがティグリナの部屋に入ると、彼女は書類の束から顔を上げることもなくそう言った。
こちらから見えるのは、丁寧にセットされた白髪頭だけだ。
――ちっ。クソババアがよ……。
心の中では悪態をつきながら、グロウは無理やりに笑顔を浮かべて答える。
「あんたが興味を持ちそうな話を持ってきましたぜ。俺はここんとこ、例の魔境の森に行ってたんですけども」
「あの気味の悪い森かい。バカな男だね。どうせ、報酬に釣られたんだろ?」
「へへっ、恥ずかしながら貧乏人なもんでね。まあ、冒険者協会が求めてるような成果は得られなかったんですが、ちょっとばかし面白いものを見たんですわ」
「何だい。私は忙しいんだよ。もったいぶらずに話しておくれ」
「まあまあ、そう焦らずに。あんた、あそこにエリンちゃんを捨てたでしょう」
ここでようやく、ティグリナが書類から顔を上げた。
視線がグロウの顔を捉える。
年相応にしわが刻まれたその顔に、当然ながらエリンを心配する表情は浮かんでいない。
「あの子の死体でも見たのかい?」
ティグリナはただ、そう尋ねた。
エリンが死ぬことを、まるで何とも思っていない態度。
グロウははらわたが煮えくり返るのを感じながら、それでも平静を装って話を続ける。
「とんでもない。むしろその逆です。エリンちゃん、あの森でのんびり暮らしてますぜ」
「バカ言うんじゃないよ。あそこはそんなに平和な場所じゃない」
「それは俺も身をもって体験してますから、分かってるつもりです。でも彼女は、何やら不思議な動物たちをテイムして、不自由なく暮らしているってわけで」
「あの子がテイムを? グロウ、私は忙しいんだ。お前の作り話に付き合っている暇はないんだよ」
もしティグリナが信じなければ、作戦はこれ以上先には進めなくなる。
そうなれば、ミラを助け出せずエリンの願いを叶えられない。
それが分かっているだけに、グロウはより熱を込めてティグリナに迫った。
「これは作り話なんかじゃねえ。ティグリナさん、あんたがエリンちゃんを追い出したのは間違いだった。でも仕方ねえんだ。あの子の才能は、普通のテイマーとは違う。特殊なもんだから、あんたが見抜けなかったのも仕方ない。でも特殊ってことは、金になる」
「くっくっく……。グロウ、何が目的だい? お前はこの私のビジネスを、あまり好意的に受け止めていないと思っていたんだけどね」
「金だよ」
グロウはにやりといやらしい笑顔を浮かべた。
もちろん、あくまで演技に過ぎない。
それでもグロウを貧乏な卑しい奴と見下しているティグリナにとっては、かなり効果がある。
「金が必要なんだ。俺はあんたにこの情報を提供した。あんたがエリンちゃんを連れ戻して売れば、かなりの収益を得られるはずだ。となれば、その収益は俺のおかげで手にしたものってことになる」
「単刀直入に言えば、分け前をよこせってわけだね?」
「へへっ。そうだ」
しばらくの沈黙の後、ティグリナもまたいやらしい笑顔を浮かべた。
そしてグロウを指差す。
「いいだろう。お前の口車に乗ってあげるよ。だけどもしも、この話が嘘だった場合にお前はどうする?」
「俺の命を賭けようじゃねえか。殺そうと、奴隷のようにこき使おうと、どっかに売り飛ばそうと、好きにしてくれていい」
「大きく出たね。私が本当にそうできる力があると、十分に分かっての発言だろうね?」
「当然だ」
「約束だよ」
交渉成立。
ひとまず、ティグリナを引きずり出すことに成功した。
あとはギルの思惑通り、彼女がミラを連れて森へやってくるのを待つだけ。
一仕事終えた達成感と共に、グロウはティグリナの部屋を後にする。
しかしそこに立っていたのは、あろうことかミラ本人だった。
彼女は少し涙のたまった目で、グロウを強く睨みつけて呟く。
「グロウおじさんはそんな人じゃないって、信じてたのに……!」
――まさかさっきの会話を、全て廊下から聞かれていたのか?
違う、違うんだミラちゃん。これは全て作戦で……
喉元まで出かかった言葉を、グロウはすんでのところで飲み込んだ。
ここで余計なことを言ってしまえば、ティグリナに聞かれてしまうかもしれない。
そうなれば、ここまでの演技も水の泡だ。
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