15 / 19
第15話 ミラは来る
しおりを挟む
「やらかしちまった……」
森に帰ってくるなり、グロウは真っ青な顔でうなだれた。
俺とエリン、そしていまだ調査に出ているイグルを除いた小王たちの間に、緊張が走る。
まさか……失敗したのか?
「何があった。ティグリナが話に乗って来なかったのか?」
「いや、ティグリナは乗ってきたさ。でもその後によ……」
グロウは俺たちに、孤児院であったことを語って聞かせる。
ティグリナを引っ張り出すために、あえて悪人を演じたこと。
その一部始終をミラに聞かれてしまったこと。
彼女に心の底から軽蔑されてしまったこと。
あえて弁解はせず、その場から立ち去ったこと。
「やっちまった……。もうちょっと警戒しておけば……」
「大丈夫だ。確かにミスといえばミスだが、作戦に大きく影響を及ぼすものではないと考えられる」
頭を抱えるグロウに、俺は至って冷静な声で言った。
彼はゆっくり顔を上げて、すがるような視線をこちらに向ける。
俺の言葉が気休めではないと信じたい。
そんな様子だ。
そしてもちろん、この大事な作戦の最中にあって、俺は意味のない気休めの言葉など吐かない。
「安心しろ。計画は予定通りに進む」
「ほ、本当か? 俺はもしこれでミラちゃんがここに来なかったら、いったいどうしようかと心臓がバクバクしっぱなしで……」
「ミラは来る」
俺は確信を込めて言った。
彼女の境遇、そしてティグリナという女の人間像を考えれば、そう推測するのは難しいことじゃない。
「おかしな話だと思わないか?」
俺は逆に、グロウへと問いかけた。
「ミラは才能に溢れたテイマーだ。そしてすでに、ひとりでも生きていける年齢に達している。さらにはティグリナの本性も十分に知っている。それなのにどうして、彼女はあの場所に居続けている? どうして逃げ出さない? あるいは信頼のおける第三者に、ティグリナの悪事を訴え出ない?」
「それは……」
「ミラはティグリナに何らかの弱みを握られているため、彼女に逆らうことができない。あるいは、隷属スキルのようなものを使われているのかもしれないな。どちらにしろ、ミラはティグリナに抵抗しないんじゃない。できないんだと考えている」
そうでもなければ、ミラがずっとティグリナの元にいる理由が見当たらない。
だから例え、ミラがグロウを悪人と認識していようとも。
「ミラは来る」
俺はより強く、再度繰り返した。
ミラがこの森にやってきさえすれば、こちらのホームに入ってしまいさえすれば、あとはどうにでもなる。
こう言っては悪いが、そこにミラがグロウをどう思っているかは関係なくなるのだ。
「それにな、グロウ」
とはいえ、グロウにこのまま沈んだ気持ちを抱き続けられても困る。
俺は微笑むことができないなりに、できる限り優しい声を作って言った。
「ミラが大きくショックを受けたのは、それだけお前を信頼していたからだ。お前はミラやエリンの数少ない味方だった。そうだろう?」
「お、おう。貧乏なりに、できるだけのことはしてきたつもりだ」
「それなら、ミラは今でも心のどこかでお前を信じたいと思っているはずだ。何も知らない今は、感情が混乱して苦しいかもしれないがな。でもこの作戦が全て上手くいった時、お前の信頼も回復できる。だから変にブレることなく、最後までやり切れ」
「そうだよ、グロウおじさん。ミラお姉ちゃんだって、ちゃんと話したら分かってくれるよ!」
「……そうだよな」
俺とエリンの励ましを受けて、しばらくの沈黙の後グロウは頷いた。
少しだけ、表情が晴れたような気がする。
話を聞く限り、ミラも賢い子のはずだ。
グロウが思っているほど、誤解を解くのは難しくないだろう。
「帰りましたっす」
グロウのメンタルがやや回復したところに、今度はイグルが帰ってくる。
何やら満足げな表情だな。
「何かつかめたか?」
「面白いことが分かりましたっすよ」
イグルは席に着くと、自分の調査結果を報告し始めるのだった。
森に帰ってくるなり、グロウは真っ青な顔でうなだれた。
俺とエリン、そしていまだ調査に出ているイグルを除いた小王たちの間に、緊張が走る。
まさか……失敗したのか?
「何があった。ティグリナが話に乗って来なかったのか?」
「いや、ティグリナは乗ってきたさ。でもその後によ……」
グロウは俺たちに、孤児院であったことを語って聞かせる。
ティグリナを引っ張り出すために、あえて悪人を演じたこと。
その一部始終をミラに聞かれてしまったこと。
彼女に心の底から軽蔑されてしまったこと。
あえて弁解はせず、その場から立ち去ったこと。
「やっちまった……。もうちょっと警戒しておけば……」
「大丈夫だ。確かにミスといえばミスだが、作戦に大きく影響を及ぼすものではないと考えられる」
頭を抱えるグロウに、俺は至って冷静な声で言った。
彼はゆっくり顔を上げて、すがるような視線をこちらに向ける。
俺の言葉が気休めではないと信じたい。
そんな様子だ。
そしてもちろん、この大事な作戦の最中にあって、俺は意味のない気休めの言葉など吐かない。
「安心しろ。計画は予定通りに進む」
「ほ、本当か? 俺はもしこれでミラちゃんがここに来なかったら、いったいどうしようかと心臓がバクバクしっぱなしで……」
「ミラは来る」
俺は確信を込めて言った。
彼女の境遇、そしてティグリナという女の人間像を考えれば、そう推測するのは難しいことじゃない。
「おかしな話だと思わないか?」
俺は逆に、グロウへと問いかけた。
「ミラは才能に溢れたテイマーだ。そしてすでに、ひとりでも生きていける年齢に達している。さらにはティグリナの本性も十分に知っている。それなのにどうして、彼女はあの場所に居続けている? どうして逃げ出さない? あるいは信頼のおける第三者に、ティグリナの悪事を訴え出ない?」
「それは……」
「ミラはティグリナに何らかの弱みを握られているため、彼女に逆らうことができない。あるいは、隷属スキルのようなものを使われているのかもしれないな。どちらにしろ、ミラはティグリナに抵抗しないんじゃない。できないんだと考えている」
そうでもなければ、ミラがずっとティグリナの元にいる理由が見当たらない。
だから例え、ミラがグロウを悪人と認識していようとも。
「ミラは来る」
俺はより強く、再度繰り返した。
ミラがこの森にやってきさえすれば、こちらのホームに入ってしまいさえすれば、あとはどうにでもなる。
こう言っては悪いが、そこにミラがグロウをどう思っているかは関係なくなるのだ。
「それにな、グロウ」
とはいえ、グロウにこのまま沈んだ気持ちを抱き続けられても困る。
俺は微笑むことができないなりに、できる限り優しい声を作って言った。
「ミラが大きくショックを受けたのは、それだけお前を信頼していたからだ。お前はミラやエリンの数少ない味方だった。そうだろう?」
「お、おう。貧乏なりに、できるだけのことはしてきたつもりだ」
「それなら、ミラは今でも心のどこかでお前を信じたいと思っているはずだ。何も知らない今は、感情が混乱して苦しいかもしれないがな。でもこの作戦が全て上手くいった時、お前の信頼も回復できる。だから変にブレることなく、最後までやり切れ」
「そうだよ、グロウおじさん。ミラお姉ちゃんだって、ちゃんと話したら分かってくれるよ!」
「……そうだよな」
俺とエリンの励ましを受けて、しばらくの沈黙の後グロウは頷いた。
少しだけ、表情が晴れたような気がする。
話を聞く限り、ミラも賢い子のはずだ。
グロウが思っているほど、誤解を解くのは難しくないだろう。
「帰りましたっす」
グロウのメンタルがやや回復したところに、今度はイグルが帰ってくる。
何やら満足げな表情だな。
「何かつかめたか?」
「面白いことが分かりましたっすよ」
イグルは席に着くと、自分の調査結果を報告し始めるのだった。
1
あなたにおすすめの小説
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
転生ちびっ子の魔物研究所〜ほのぼの家族に溢れんばかりの愛情を受けスローライフを送っていたら規格外の子どもに育っていました〜
幸運寺大大吉丸◎ 書籍発売中
ファンタジー
高校生の涼太は交通事故で死んでしまったところを優しい神様達に助けられて、異世界に転生させて貰える事になった。
辺境伯家の末っ子のアクシアに転生した彼は色々な人に愛されながら、そこに住む色々な魔物や植物に興味を抱き、研究する気ままな生活を送る事になる。
家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~
北条新九郎
ファンタジー
三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。
父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。
ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。
彼の職業は………………ただの門番である。
そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。
二月から週二回更新になります。お気に入り・感想、宜しくお願いします。
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜
かの
ファンタジー
世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。
スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。
偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。
スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!
冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!
田舎農家の俺、拾ったトカゲが『始祖竜』だった件〜女神がくれたスキル【絶対飼育】で育てたら、魔王がコスメ欲しさに竜王が胃薬借りに通い詰めだした
月神世一
ファンタジー
「くそっ、魔王はまたトカゲの抜け殻を美容液にしようとしてるし、女神は酒のつまみばかり要求してくる! 俺はただ静かに農業がしたいだけなのに!」
ブラック企業で過労死した日本人、カイト。
彼の願いはただ一つ、「誰にも邪魔されない静かな場所で農業をすること」。
女神ルチアナからチートスキル【絶対飼育】を貰い、異世界マンルシア大陸の辺境で念願の農場を開いたカイトだったが、ある日、庭から虹色の卵を発掘してしまう。
孵化したのは、可愛らしいトカゲ……ではなく、神話の時代に世界を滅亡させた『始祖竜』の幼体だった!
しかし、カイトはスキル【絶対飼育】のおかげで、その破壊神を「ポチ」と名付けたペットとして完璧に飼い慣らしてしまう。
ポチのくしゃみ一発で、敵の軍勢は老衰で塵に!?
ポチの抜け殻は、魔王が喉から手が出るほど欲しがる究極の美容成分に!?
世界を滅ぼすほどの力を持つポチと、その魔素を浴びて育った規格外の農作物を求め、理知的で美人の魔王、疲労困憊の竜王、いい加減な女神が次々にカイトの家に押しかけてくる!
「世界の管理者」すら手が出せない最強の農場主、カイト。
これは、世界の運命と、美味しい野菜と、ペットの散歩に追われる、史上最も騒がしいスローライフ物語である!
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
最強魔導師は不毛の大地でスローライフを送る ~凶悪な魔物が跋扈し瘴気漂う腐界でも、魔法があれば快適です~
えぞぎんぎつね
ファンタジー
平民出身の最強の宮廷魔導師ティル・リッシュは貴族主義の宮廷魔導師長に疎まれ、凶悪な魔物がはびこり、瘴気漂う腐界の地の領主として左遷されることになった。
元々腐界の研究がしたかったティルはこれ幸いと辞令を受けて任地に向かう。
途中で仲間になった聖獣の子牛のモラクスと共に腐界で快適なスローライフを始めたのだった。
瘴気は自作の結界で完全に防ぎ、人族の脅威たる魔物はあっさり倒す。
「魔物の肉がうますぎる! 腐界で採れる野菜もうまい!」
「もっも~」
「建築も魔法を使えば簡単だし、水も魔法で出し放題だ」
病気になった聖獣の子狼がやってきたり、腐界で人知れず過ごしてきたエルフ族が仲間になったり。
これは後に至高神の使徒の弟子にして、聖獣の友、エルフの守護者、人族の救世主と呼ばれることになる偉大なるティル・リッシュの腐界開拓の物語である。
※ネオページ、小説家になろう、カクヨムでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる