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第13話 報告と白い花とハイエルフ

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 クマゴローの背中に乗って村に帰ると、ちょうど他の調査隊たちも戻ってきているところだった。
 再び広場に集まり、それぞれが調査の結果を報告し合う。

「シェグ、おぬしは何か見つけたか?」
「食べられた痕跡のある動物の骨を見つけました。おそらく、モンスターの仕業だと思われます」
「なるほど。ドイル、おぬしはどうじゃ?」
「オオカミのような獣を見かけました。あまり接近はしませんでしたが、間違いなくモンスターだと思われます」
「ふむふむ」

 やっぱりみんな、俺と同じようなものを見つけてる。
 シェグさん、さらにはドイルさんというハンターが調査していたのも、俺の調査ポイントと近い場所だ。
 あの洞窟を拠点として、一定の行動範囲を持っていると考えられる。

「ケント、おぬしは何か発見できたか?」
「はい。俺も食べられた後の骨を見つけました。それと、実はモンスターを見かけて、こっそり尾行してみたんですが……」

 俺は調査中に見たものを、細かく話す。
 みんなと同じオオカミの姿をしたモンスターを見かけたこと。
 それをこっそり尾行したこと。
 その結果、拠点になっている可能性が高い洞窟にたどり着いたこと。

「でかしたぞ、ケント」

 俺の話を聞き終えて、村長は満足げに頷いた。
 無事に成果をあげられた何よりだな。
 まだ問題が解決したわけじゃないけど。

「あそこの洞窟は、中に何があるわけでもないただの穴だったはずじゃ。そんな場所じゃから、わしらも滅多に出入りせん。みんな、次のステップじゃ。明日、洞窟を調査するぞ」
「「「「「はい!」」」」」

 次のステップが決まったところで、今日はひとまずお開きになる。
 俺はクマゴローとも別れ、リルの研究所へと入った。
 いつも通りごちゃごちゃした家の中で、リルはぐーすか眠っている。

「それにしても、本当にいろんなものがあるな」

 俺は部屋の中にあるものを、次々に手にとっては観察する。
 本、動植物の標本、何かよく分からないパーツ、それらが組み合わさったよく分からない装置。
 比較的新しいものから、どう考えてもリルが生まれる前だろうという古さのものまで、年代もばらばらだ。

「これは……花か」

 俺は棚に置かれていた瓶を取り出した。
 中には白い花が入っている。
 土に根差しているわけでも、水が供給されているわけでもないのに、花は活き活きとしていた。
 花は満開に開いていて、葉っぱや茎も青々としている。
 他の植物は押し花になっていたり、液体に漬けられていたりするなかで、これだけが自然のままの姿を保っていた。

「んぐっ……堅っ」

 瓶を開けて花を取り出そうとしたが、がっちりと閉められた蓋はびくともしない。
 俺は仕方なく、諦めて瓶を棚に戻した。
 明らかに他と違ったから、気になったんだけどな。

「んんっ……あれ……? ケント……?」
「ああ、起こしちゃったか?」
「ううん。しぜんに、おきた。なにか、ようじ?」
「いや、ちょっとした暇つぶし。面白いものがいっぱいあるからな」

 リルはのんびり体を起こすと、目をごしごし擦って完全に目覚める。
 といっても、相変わらず目は気だるげだが。

「これ、リルがひとりで集めたり作ったりしたのか?」
「ううん。ここはもともと、むらにいたハイエルフのけんきゅうじょ。それをいま、わたしがつかってる」
「やっぱそうだよな。明らかに古いものもあるし」
「ハイエルフは、わたしが3さいのときまでここにいた。なまえはエリサ。いまは、どこかをたびしてる」
「そのハイエルフが、リルの師匠ってわけだ」
「そう。エリサ、いつもいってた」
「なんて?」
「とにかくねれるだけねろ」

 なるほど。
 諸悪の根源はそのハイエルフか。
 自堕落無気力幼女が生まれたきっかけが、エリサらしい。

「普通のエルフとハイエルフって、何が違うんだ?」
「ながいき。それと、ふしぎなわざをつかう」
「ただでさえエルフも長い気なのに、それより長く生きるのか……」
「うん。エリサはたぶん、いま1500さいくらい」
「村長より年上!?」
「でも、みためはわたしとおなじ」

 さすがに脳が混乱する。
 見た目は5歳。実年齢1500歳くらい。
 なるほど。
 ロリバ●アってやつだ。

「そのエリサってハイエルフは、旅に出てるんだろ? いつごろ帰ってくるんだ?」
「わかんない。100ねんご、200ねんご、もしかしたら500ねんご」
「めちゃくちゃ気の長い話だな」
「にんげんからしたら。エルフにとっては、そうでもない」
「そんなもんなのかな」
「でも、つぎにエリサがかえってきたとき、わたしはほめられたい。だから、いっぱいじっけんして、いろんなものをつくる」
「憧れなんだな」
「そう。あこがれ」

 リルがここまで言うなんて、エリサはどんなエルフなんだろう。
 がぜん、興味が湧いてくる。
 まあ、帰ってくるのが100年後200年後の話じゃ、俺は会えそうにないけども。

「そーいえば、ちょうさはどーだった?」
「ああ、モンスターのアジトっぽい場所を見つけたよ。明日、ハンターたちとそこを調べることになってる」
「そっか。いがいと、あっさりおわりそうだね」
「おう。何とかなりそうだ」

 楽観的な会話を交わす俺たち。
 ただ次の日、俺はひとつ学びを得る。
 現実ってのはそう上手くいかないもんらしい。
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