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第23話 ありがたい提案と招待とオクリギャップ
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「あー、ケントくん。いたいた」
牧場計画も定まり、いよいよ動き始めようとしたその時。
シェグさんと何人かのハンターたちが、俺たちの元へやってきた。
あの“エルフ殺し”ことフィエンデルカンミラの効果もすっかり消え去り、みんな以前の通り剛健な狩人たちに戻っている。
「実は今、ケントくんの家を建てようと話をしていたんだ。もちろん、うちにいてくれて一向にかまわないんだけど、ひとりで心落ち着ける場所があっても悪くないだろ?」
「うわ、すごくありがたいです。でも申し訳ない」
「いやいや、遠慮することはないよ。まあ、ケントくんの家を建てるのは確定として、もうひとつ相談があるんだ」
シェグさんは、ミルを抱っこするコングにちらっと視線を送る。
それから口を開いた。
「彼ら――ぬいぐるみたちにも、家が必要なんじゃないかと思ってね。今は村のみんなの家に分散したり、リルの研究所に寝泊まりしているけど、これからもっと増えるとなったら窮屈だろう?」
「それは……確かに」
「だから、ケントくんの家と一緒に彼らのハウスも作ってあげようと話していたんだ」
正直、めちゃくちゃありがたい話だ。
これから新たにぬいぐるみを大量にテイムする以上、シェグさんの言う通り、今のままでは彼らの寝床が足りなくなる。
いくらそもそもの構想が放牧とはいっても、わざわざ雨風にさらさなくともいいはずだ。
ここは素直に、厚意を受け取っておこう。
「すごく嬉しいです。ぬいぐるみたちも喜ぶと思います。よろしくお願いします」
「うん。決まりだね。そしたら、今日の夜には完成してると思うから」
「え!? 早っ!?」
「ははは。僕たちエルフは森と共に生きる民だよ。木材の扱いには慣れている。腕力と技術があるのが何人かいれば、そんなに難しい作業じゃない」
シェグさんの口ぶりと自信からして、突貫工事で適当なものを建てるわけじゃなさそうだ。
ちゃんとした強度のものを、今日の夜までに完成させられる。
そんな自信に満ち溢れて、任せろと言わんばかりに胸を張っている。
「あ、でも、狩りはいいんですか?」
「ああ、それなら……」
シェグさんは村の出入り口を指差す。
そこではちょうど、レオとティガー、シロが出て行くところだった。
ライオンにトラ、シロクマ。
野生のハンターたちだ。
「今日は彼らがやってくれるらしい。いやー、ぬいぐるみたちには本当に助けられてるよ。日常の仕事も、出来る限り手伝ってくれるし、何よりあの感触。な?」
シェグさんが振り返って同意を求めると、後ろのハンターたちもこくこく頷いた。
やっぱりみんな、あのふかふかもふもふの虜になってるんだな。
この筋骨隆々な男性たちが、ぬいぐるみにホクホクしてるのはちょっと面白いけど。
平和で良い光景だ。
「それじゃあ、今日の夜を楽しみに待っていてくれ」
そう言い残して、ハンターたちは足早に去っていく。
そうすると、ぬいぐるみを新たにテイムするのはハウスが完成してからの方が良さそうだ。
空き時間ができたな。
「どうしようか?」
「ねる」
「おねえちゃん! ちょっとまって!」
そそくさと寝に帰ろうとするリルを、慌ててミルが引き留めた。
そして何やら耳打ちする。
最初はめんどくさそうな顔をしていたリルだったが、最後には納得したように頷いた。
「ケント、ついてきて」
「今回は何だ?」
「わたしたちの、ひみつきちにあんないします!」
「秘密基地?」
「そう。なにがあるかは、ついてのおたのしみ」
「それは楽しみだな。森の中にあるのか?」
「うん」
「それなら……」
俺はきょろきょろ周りを見て、水を飲んでいる……というかひゅんしているウマたちに目を止める。
せっかくだし、一足早い牧場体験といこう。
「ウマに乗せてもらって行くか?」
「いいんですか!? のりたいです!?」
「え、こわ……なんでもない」
「ん? リル、怖いのか?」
「べ、べつにこわくないし!」
ほほ~ん。
リルが怖がるところなんて、今までで初めて見た。
「オクリギャップ~!」
俺は芦毛のウマのぬいぐるみに声を掛ける。
彼はのんびりとマイペースで水を飲み干すと、音もなく駆け寄ってきた。
「背中に乗せてもらってもいいか?」
「ひひ~ん」
オクリギャップは、どうぞと言うように鳴く。
先頭にミル、真ん中にリル、そして一番後ろに俺だ。
オクリギャップは瞬時に行ったことを理解して走ってくれるから、手綱は必要ない。
しっかり掴まっていればいいだけだ。
「しっかり掴まっとけよ~」
やや震え気味のリルにそう言うと、俺はオクリギャップに合図を出した。
「ゴー!」
「ひひ~ん」
オクリギャップはアトラクションがてら、高く前足をあげてから一気に駆け出す。
「ひい~!」
激レアなリルの悲鳴が、村じゅうに響き渡るのだった。
牧場計画も定まり、いよいよ動き始めようとしたその時。
シェグさんと何人かのハンターたちが、俺たちの元へやってきた。
あの“エルフ殺し”ことフィエンデルカンミラの効果もすっかり消え去り、みんな以前の通り剛健な狩人たちに戻っている。
「実は今、ケントくんの家を建てようと話をしていたんだ。もちろん、うちにいてくれて一向にかまわないんだけど、ひとりで心落ち着ける場所があっても悪くないだろ?」
「うわ、すごくありがたいです。でも申し訳ない」
「いやいや、遠慮することはないよ。まあ、ケントくんの家を建てるのは確定として、もうひとつ相談があるんだ」
シェグさんは、ミルを抱っこするコングにちらっと視線を送る。
それから口を開いた。
「彼ら――ぬいぐるみたちにも、家が必要なんじゃないかと思ってね。今は村のみんなの家に分散したり、リルの研究所に寝泊まりしているけど、これからもっと増えるとなったら窮屈だろう?」
「それは……確かに」
「だから、ケントくんの家と一緒に彼らのハウスも作ってあげようと話していたんだ」
正直、めちゃくちゃありがたい話だ。
これから新たにぬいぐるみを大量にテイムする以上、シェグさんの言う通り、今のままでは彼らの寝床が足りなくなる。
いくらそもそもの構想が放牧とはいっても、わざわざ雨風にさらさなくともいいはずだ。
ここは素直に、厚意を受け取っておこう。
「すごく嬉しいです。ぬいぐるみたちも喜ぶと思います。よろしくお願いします」
「うん。決まりだね。そしたら、今日の夜には完成してると思うから」
「え!? 早っ!?」
「ははは。僕たちエルフは森と共に生きる民だよ。木材の扱いには慣れている。腕力と技術があるのが何人かいれば、そんなに難しい作業じゃない」
シェグさんの口ぶりと自信からして、突貫工事で適当なものを建てるわけじゃなさそうだ。
ちゃんとした強度のものを、今日の夜までに完成させられる。
そんな自信に満ち溢れて、任せろと言わんばかりに胸を張っている。
「あ、でも、狩りはいいんですか?」
「ああ、それなら……」
シェグさんは村の出入り口を指差す。
そこではちょうど、レオとティガー、シロが出て行くところだった。
ライオンにトラ、シロクマ。
野生のハンターたちだ。
「今日は彼らがやってくれるらしい。いやー、ぬいぐるみたちには本当に助けられてるよ。日常の仕事も、出来る限り手伝ってくれるし、何よりあの感触。な?」
シェグさんが振り返って同意を求めると、後ろのハンターたちもこくこく頷いた。
やっぱりみんな、あのふかふかもふもふの虜になってるんだな。
この筋骨隆々な男性たちが、ぬいぐるみにホクホクしてるのはちょっと面白いけど。
平和で良い光景だ。
「それじゃあ、今日の夜を楽しみに待っていてくれ」
そう言い残して、ハンターたちは足早に去っていく。
そうすると、ぬいぐるみを新たにテイムするのはハウスが完成してからの方が良さそうだ。
空き時間ができたな。
「どうしようか?」
「ねる」
「おねえちゃん! ちょっとまって!」
そそくさと寝に帰ろうとするリルを、慌ててミルが引き留めた。
そして何やら耳打ちする。
最初はめんどくさそうな顔をしていたリルだったが、最後には納得したように頷いた。
「ケント、ついてきて」
「今回は何だ?」
「わたしたちの、ひみつきちにあんないします!」
「秘密基地?」
「そう。なにがあるかは、ついてのおたのしみ」
「それは楽しみだな。森の中にあるのか?」
「うん」
「それなら……」
俺はきょろきょろ周りを見て、水を飲んでいる……というかひゅんしているウマたちに目を止める。
せっかくだし、一足早い牧場体験といこう。
「ウマに乗せてもらって行くか?」
「いいんですか!? のりたいです!?」
「え、こわ……なんでもない」
「ん? リル、怖いのか?」
「べ、べつにこわくないし!」
ほほ~ん。
リルが怖がるところなんて、今までで初めて見た。
「オクリギャップ~!」
俺は芦毛のウマのぬいぐるみに声を掛ける。
彼はのんびりとマイペースで水を飲み干すと、音もなく駆け寄ってきた。
「背中に乗せてもらってもいいか?」
「ひひ~ん」
オクリギャップは、どうぞと言うように鳴く。
先頭にミル、真ん中にリル、そして一番後ろに俺だ。
オクリギャップは瞬時に行ったことを理解して走ってくれるから、手綱は必要ない。
しっかり掴まっていればいいだけだ。
「しっかり掴まっとけよ~」
やや震え気味のリルにそう言うと、俺はオクリギャップに合図を出した。
「ゴー!」
「ひひ~ん」
オクリギャップはアトラクションがてら、高く前足をあげてから一気に駆け出す。
「ひい~!」
激レアなリルの悲鳴が、村じゅうに響き渡るのだった。
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