俺の召喚獣たちはデバフがかかってるくらいでちょうどいい。

メルメア

文字の大きさ
13 / 31

第13話

しおりを挟む
「今日も今日とてモンスター狩りかぁ」

 街の外を歩きながら、ネミリが呟く。
 初めて俺らが出会ってから1ヶ月。
 俺の冒険者ランクはCまで上がった。

「このところ、一段と連携が良くなっている気がしますね」

「そうだな。少しずつ生活にもゆとりが出てきた」

「むむっ、ということはそろそろ休暇があってもいいのでは?」

「まあ、考えてもいいかもな」

「おおっ!これは予想外の答えが来た!」

 ネミリが手を叩いて喜ぶ。
 俺のことをブラック主人か何かと勘違いしてるのか?
 休暇ぐらい作るぞ?

「取りあえず、今日1日頑張るぞ」

「かしこまりました」

「はーい」

 さてと、今日はどこに行こうか。
 サングロワの森のモンスターは弱すぎるしな。
 ゴーレムはなお論外だし。

 つい1か月前までスライムすら倒せなかった俺が、ゴーレムは論外とか言ってるんだから、人生何があるか分からない。

「よし、今日は2人にちょっとまともな戦闘をしてもらうか」

「ちょっとまとも……どういうことでしょうか?」

「着いてみれば分かる」

 不思議そうな顔をする2人を連れて、目的地へと到着した。
 何の変哲もない原っぱ。
 ぴたりとネミリの足が止まる。

「近いね」

「もう来たか。特性発動っと」

 この場にいる全員の腕に鎖の印が現われる。
 と、上から何かが猛スピードで急降下してきた。

「なっ!?」

 すんでのところでレイネが体を捻ってかわす。
 さっきまで彼女が立っていた地面に、丸く焦げ跡ができていた。

「危なかった……。あれの仕業ですね?」

 レイネが指差す先に、鳥型のモンスターが2体。
 サンホーク。
 ランクはCで、実力は俺らの方が上だ。

「……あれ?何でグレンの特性が発動してるのに、あいつらは普通に飛び回ってるの?」

「そういえば……翼に間違いなく、鎖の印がついているのに」

 すごいな。
 俺からは全く、上空にいるサンホークの翼の小さな印なんて見えないぞ。

 でも2人とも気が付いたようだ。
 わざわざサンホークを選んだ理由は、このモンスターの特徴にある。
 その特徴とは……

「あいつら、デバフ無効のモンスターだからな。ごく稀にいるんだ。デバフ無効だったり、むしろデバフがかかればかかるほど強くなったりするモンスターが」

「うわ、グレンの天敵じゃん」

「まあな。でも確実にデバフがかかった2人の方が強いから、倒しちゃっていいぞ」

 今までの戦闘は、動けなくなった相手をただ殴りつけるだけの作業だった。
 でもサンホークは、デバフを食らっても自由に動き回る。
 2人にしてみれば、久しぶりに戦闘らしい戦闘ができるはずだ。

「まともな戦闘って、そういうことだったんですね」

 にっこりと笑って、レイネが地面を蹴る。
 相変わらず大したジャンプ力だな。
 おっと、追加のリミッターを忘れていた。

「【筋力低下アスト】【速度低下ギルホス】【攻撃力低下メルガ】」

「うぐっ……出来れば動き始める前にやってください……」

「すまん」

 顔をしかめながらも、レイネは近くの木を蹴ってさらに飛び上がった。
 翼を広げて滑空するサンホークと同じ高さまで上昇する。

「キァァァ」

 サンホークが鳴き声を上げて、くちばしの中に炎の球を宿す。
 さっきレイネめがけて放たれたのと同じ攻撃だ。

「キァァァ!」

「遅すぎます。弱すぎます。ぬるすぎます」

 炎の球を右の手のひらだけで受け止め、表情一つ変えずに握りつぶすレイネ。
 熱くない……んだろうな。

「【千倍返攻ウェンクト】」

 レイネが手を開いた瞬間、すさまじい勢いの火炎が放たれた。
 上空のサンホークが炎に包まれる。
 骨も残らない。
 ドロップアイテムだけが、地面へと落下してきた。
 まずは1体。
 あともう1体は……

「いつの間に」

 ネミリがもう1体の背後へと飛び上がっている。
 空中でサンホークの頭へかかとを叩きつけた。

「【踵斧バル】」

 確実に脳天を捉えつつ、ネミリが急降下する。
 サンホークの頭ごと、かかとから地面に着地した。
 ズシーンというすごい衝撃。
 木が何本か倒れたみたいだ。
 これぐらいならかわいいもんかな。

「むー。いつもと変わらない!」

 デバフ解除して第一声、ネミリから出たのは不満だった。
 いくらデバフ無効とは言っても、さすがに元の実力が違い過ぎたか。

「確かに物足りなさはありましたね。ご主人様がおっしゃっていた、デバフをかければかけるほど強くなるモンスターが気になります」

「あー、それはダンジョンの何層かのボスなんだよな。挑戦するにはまず、ダンジョンに入れるようにならないと」

「なるほど。なおさらダンジョンに興味が湧い……」

「あれ?」

 レイネの言葉を遮って、ネミリが声を上げる。

「今、何か聞こえなかった?」

「俺は何も」

「でも確かに……。っ!」

 突然、ネミリが超高速で駆け出す。
 驚く俺たちを尻目に、彼女の背中はあっという間に見えなくなった。

「何なんだ?」

「分かりません。ですが、真剣な表情でした」

「追うか」

「ご主人様、デバフもかかっていないネミリの全力疾走に追いつけるんですか?」

「ぐ……無理だな」

「お任せください」

 レイネは何やら自慢げに胸を張るのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

白いもふもふ好きの僕が転生したらフェンリルになっていた!!

ろき
ファンタジー
ブラック企業で消耗する社畜・白瀬陸空(しらせりくう)の唯一の癒し。それは「白いもふもふ」だった。 ある日、白い子犬を助けて命を落とした彼は、異世界で目を覚ます。 ふと水面を覗き込むと、そこに映っていたのは―― 伝説の神獣【フェンリル】になった自分自身!? 「どうせ転生するなら、テイマーになって、もふもふパラダイスを作りたかった!」 「なんで俺自身がもふもふの神獣になってるんだよ!」 理想と真逆の姿に絶望する陸空。 だが、彼には規格外の魔力と、前世の異常なまでの「もふもふへの執着」が変化した、とある謎のスキルが備わっていた。 これは、最強の神獣になってしまった男が、ただひたすらに「もふもふ」を愛でようとした結果、周囲の人間(とくにエルフ)に崇拝され、勘違いが勘違いを呼んで国を動かしてしまう、予測不能な異世界もふもふライフ!

追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

文字変換の勇者 ~ステータス改竄して生き残ります~

カタナヅキ
ファンタジー
高校の受験を間近に迫った少年「霧崎レア」彼は学校の帰宅の最中、車の衝突事故に巻き込まれそうになる。そんな彼を救い出そうと通りがかった4人の高校生が駆けつけるが、唐突に彼等の足元に「魔法陣」が誕生し、謎の光に飲み込まれてしまう。 気付いたときには5人は見知らぬ中世風の城の中に存在し、彼等の目の前には老人の集団が居た。老人達の話によると現在の彼等が存在する場所は「異世界」であり、元の世界に戻るためには自分達に協力し、世界征服を狙う「魔人族」と呼ばれる存在を倒すように協力を願われる。 だが、世界を救う勇者として召喚されたはずの人間には特別な能力が授かっているはずなのだが、伝承では勇者の人数は「4人」のはずであり、1人だけ他の人間と比べると能力が低かったレアは召喚に巻き込まれた一般人だと判断されて城から追放されてしまう―― ――しかし、追い出されたレアの持っていた能力こそが彼等を上回る性能を誇り、彼は自分の力を利用してステータスを改竄し、名前を変化させる事で物体を変化させ、空想上の武器や物語のキャラクターを作り出せる事に気付く。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...