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1章 初級冒険者

第36話 みっしょんこんぷりーと

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「レギさんですか!?」

コボルトジェネラルの体に隠れて見えないがさっき聞こえた雄たけびはレギさんのものだった。

「にーちゃん!まだ無事か!?」

「レギさん大丈夫ですか!?子供たちは!?」

「すまねぇ!心配かけた!ガキ共はダンジョンの外まで送り出した!村までの護衛はマナスに頼ませてもらった!」

「了解しました!こちらはリノちゃんを保護しました!」

コボルトジェネラルを挟んで俺たちは現状確認を続ける。
もちろんその間もコボルトジェネラルの攻撃は続いている。
しかし先ほどまでの焦りが俺の中から消えていた。
自分でも単純だとは思うがレギさんが来てくれたことで安心を覚えているのだと思う。

「本当か!?じゃぁ後は外に出るだけだな!しかしこのデブ犬はどうする!?」

「急いで片づけてここを離れないと、さっき仲間を呼んでいたんじゃないかと思います!」

「さっき吠えたやつか......まぁ一番に呼び込まれたのは俺だったわけだがな!」

反対側でレギさんが攻めているおかげでこちらへの注意も散漫になっている。
先程まで挟み撃ちにされることを恐れていたのが逆に相手を挟んで攻めているわけだ。
多少強引でもこの機に一気に押し切る!
相手はその巨体が災いして前後からの攻撃に対応出来ていない。
正面の俺が牽制して背後を取っているレギさんに押し切ってもらえばいい。
なるべく相手の間合いの中で相手の武器である手を中心に斬りつけ続ける。

「くたばりやがれ!」

一際大きな咆哮を上げたレギさんと響く轟音!
大きく仰け反るコボルトジェネラル、その無防備な喉元を狙ってナイフを突き込む。
次の瞬間、コボルトジェネラルは魔力へと還りその体を霧散した。
霧散した魔力の向こうには息を切らしながら斧を構えるレギさんの姿が見える。

「レギさん!大丈夫ですか!?」

「それはこっちの台詞だ!一人で駆け出しやがって......!」

「あー、あれです。今はここから移動しましょう。いつ増援が来るとも限りませんし!」

「......それはそうなんだが......ちっ、なんか狡賢くなりやがって......。」

「......リノちゃんを連れてくるので少し待っていてください。」

普通に話をしているように感じたけれどレギさんの顔色はかなり悪い。
恐らくまだ万全ではないんだ。
これ以上戦闘になるのは不味そうだ、急いで外に出よう。

「リノちゃん、お待たせ。レギさんも来てくれたよ。他のみんなは無事に外に出れたってさ。」

「レギー?」

「うん、助けに来てくれたんだ。さぁ早く村に帰ろう。」

「わかったー。」

「シャルも護衛ありがとう。」

『いえ、問題ありません。それより急ぎここから離れたほうがいいと思います。』

「うん、分かった。急いでダンジョンから出よう。」

「おはなしー?」

「うん、シャルが早くおうちに帰ろうってさ。」

「そっかー、シャルもいっしょにかえろー。」

リノちゃんをつれてレギさんの所へ連れていく。
レギさんの顔色は悪く息も荒かったがリノちゃんの無事な姿を見ると苦笑しているようだった。

「よし、急いで外に出るぞ。がきんちょは俺が抱いていく、にーちゃん悪いが周囲警戒を頼む。」

「分かりました。シャル、先行してくれ。」

『承知いたしました。』

シャルが前を走りそれを追いかけるレギさん、その後ろを俺が走る。
幸い脱出ルート上に魔物が現れることはなく、俺たちは無事にダンジョンの外に出ることができた。



無事にリノちゃんを連れて村に戻った俺たちは大声援をもって迎えられた。
村長は大号泣しながら俺とレギさんの手を掴みお礼を言い続け、その場に崩れ落ちんばかりであった。
色々な人からお礼を言われ挨拶をするのに疲れ始めた頃、子供たちの絶叫が聞こえてきた。
驚いたレギさんと二人そちらに向かうと、恐らく親御さん達に怒られて号泣する子供たちがいた。
他の大人たちは苦笑しているが親御さんからすればあの子たちは命を落としてもおかしくなかったのだ、あのくらいのお説教は仕方ないだろうね。
子供たちの泣き声を聞きながら空を見上げるともう日が沈み始めていた。
シャルとマナスをかなり頼らせてもらったからな、今夜は二人ともしっかりケアをしてお礼をしよう。



その夜、宿でマナスを丁寧に磨き魔力をたっぷりあげた後、シャルにブラシをかけていた。

「シャルはもともと毛並みが綺麗だったけどケアをするようになってから一層綺麗になったね。」

『そ、そうなのですか?自分ではあまり分からないのですが......。』

「うん、日に当たると艶があって濡れたように光って見えるし、触るとさらさらというかふわふわというか......。うん、撫でるとすごく気持ちがいいんだ。」

『あ、ありがとうございます......。』

「こちらこそ、シャルとマナスにはいつも助けてもらっているけど、今日は特に頼らせてもらったからね。このくらいしかお礼の方法が思いつかないんだけど、もし何かして欲しいことがあったら何でも言ってね。」

『私はケイ様の近習です。側に仕え万難を排しケイ様をお助けすることこそ自身の喜びでもあります。』

「それでも俺はシャルに感謝しているし、シャルの希望も出来る限り叶えてあげたいんだ。」

『......。』

「もちろんマナスのもね。」

マナスは機嫌がよさそうにぷるぷる震えている。
シャルは少し何かを考えるような様子ではあったがやがてこくりと頷くと俺から少し離れて俺と向き合う。

『ケイ様に危険が及ばぬ限り、ケイ様の希望は必ず叶えたいと思っております。ですので......。』

「あー、ごめんね、シャル。そんな真剣にならなくていいんだよ?もう少し軽い感じで考えてもらった方がいいなぁ。」

『......善処いたします。』

堅いよ......シャル。
マナスくらい柔らかくてもいいと思うけどなぁ。
ぶにぶにとマナスを手の中で揉むと嬉しそうにぷるぷる震えるマナス。
......これ喜んでるんだよね?嫌がってないよね?
止めると何となくこちらを見ながらアピールするように弾んでいる様な気がする。
あくまで何となくだけど......。
ぶにぶにを再開するとやはりぷるぷる震えるので喜んでるのかな......?
嫌なら逃げてね......?
......なんとなく、手の中でぶにぶにされているマナスをシャルがうらやましそうに見ている気がする。
シャルをじっと見つめると俺の視線に気づいたのかシャルと目が合ったのだがすっと逸らされた。
耳がぴくぴくしているところを見ると、こっちを気にしている様な気がする......。
とりあえずマナスを解放してからもう一度シャルの方を見てみる。
微妙にシャルの尻尾が揺れている。
アレは機嫌がいい時の尻尾だよな......。
でも今後もシャルが希望を自分から言うのは難しそうだなぁ......。

「シャル、こっちに来てくれないかな?まだブラシの途中だったからね。」

『はい......失礼します。』

シャルが俺の膝に上ってくる。
背中にブラシをかけて胸元、お腹と梳いていく。
いつもはブラシをかける時のシャルはもう少しリラックスしてくれるんだけど今日は少し緊張しているように感じる。
まぁ、さっきの話が原因なんだろうけど......。
シャルは真面目なんだから希望を言わせるんじゃなくて、こっちで察してあげられるように努力するべきだったな。

『......ケイ様......。』

「ん?なに?」

『......耳の後ろを撫でてもらうのも好きなのですが......。』

「うん。」

ブラシをかけるのを止め、シャルの話を聞きながら背中を向けているシャルの耳の後ろを指先で撫でる。

『ぁぅ......そのぉ......。』

俺はシャルを撫でる手は止めずにシャルの言葉を待つ。

『......ぉ......お腹......。』

お腹......?

『......私も......私のお腹を撫でてください!』

勢いよくそう言うとシャルは顔を隠すように蹲ってしまった。
これは相当恥ずかしいことを言わせてしまった感じなんでしょうか......。
蹲ってぷるぷる震えているシャルの背中を見ていると申し訳なくなる......けどなんかちょっと可愛い......。

「うん、じゃぁさっそく......」

『きょ......今日は!まだ!だいじょ......!大丈夫えふ!』

......念話でも噛むんだ......。
結局その日蹲ったままのシャルは、お腹を撫でさせてくれることはなかった。

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