【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第二章 静かに暮らしたいだけだったのに

34・すべてが始まる日

「アルヴェリオ様大変です!」

「何事だ」

 レオポルドがノックもなしに執務室に飛び込んで来る。長年執事として男爵家に尽くしできた彼にあるまじき行動だ。

(アシュレイ絡みに違いない)

 アルヴェリオは静かに机の上にペンを置いた。

「アシュレイ様が、海岸の街を出立されたそうです!夕刻にはこちらに着く予定ですがどういたしましょう?」

「……戻りはまだ先のはずだが、何かに勘づいたのか」

 こんなことなら同行者に妬きもちを妬いているフリの一つでもしておけば良かった。アルヴェリオはため息をついて地図を広げた。

「姑息なアシュレイのことだ。周り道をして確実に着くように計画しているだろう」

 リゾート地から男爵家に戻るには二つのルートがある。
 一つは切り立った崖にある一本道を通る近道。
 二つ目は森の中を通る、安全だが遠回りの道だ。

「……アシュレイたちが森に入ったら引き返せないように入り口を塞げ。途中で道が細くなる場所も石を積んでどちらからも出られないよう閉じ込めるんだ。……それから」

 アルヴェリオは事細かに指示を出す。それを聞いたレオポルドは、主人の指示を遂行すべく部屋を後にした。

「あーあ、なんでアシュレイなんかに振り回されてるんです?」

 聞き慣れた声。
 アルヴェリオはそちらを見もせずに「うるさい」と呟いた。

「冷たいですね」

 いつから潜んでいたのか、ブラウンがカーテンの影から姿を現した。

「……今日は何の用だ」

「舞踏会で王都に来たから寄っただけですよ。じゃあ俺はこれで」

「待て待て、本当に何をしに来たんだ。せっかく来たんだから何かあるだろうほら、その」

「その?」

「だからほら、元気かとか」

「あー俺ならすこぶる元気です。ありがとうございます」

「黙れ、誰もお前の心配なんてしてない」

「全く素直じゃないんだから、ライネル様は元気かと聞けばいいじゃないですか」

 ブラウンはそう言うと、ソファーにどかっと腰下ろした。

(こいつ、本当に性格が悪い)

 アルヴェリオに芽生えかけている小さな思いなどブラウンには全てお見通しなのだろう。
 アルヴェリオは悔しい気持ちで、わざと乱暴に、ブラウンの前にお茶の入ったカップを置いた。

「……それでライネルは?変わりないか?」

「とってもお元気ですよ。ショー……あ、指輪を送った相手ですが、彼と一緒に一つ屋根の下に住んで、とても仲睦まじく過ごしています。それはもう見てるこっちが照れる位に二人は……」

「もういい」

 ブラウンの言葉に、アルヴェリオはそっぽを向いて書類の積まれたデスクに腰掛けた。そして黙々と仕事を再開する。

「嘘ですよ、アルヴェリオ様。まぁ一緒に暮らして仲良くしてるっていうのはほんとなんですが」

「……じゃあ全部本当のことじゃないか」

 手を止めることもなく、淡々とそう言い放つアルヴェリオに、ブラウンは、驚きの声を上げた。

「アルヴェリオ様、本当にライネル様のことを大事に思ってるんですね。安心しました」

「意味がわからない。なぜライネルを心配したら、お前が安心するんだ」

 そんなアルヴェリオの言葉に、ブラウンは(両思いになるまでの道のりは遠そうだな)と親のような心境になった。

「ひとまず全員無事に王都に着きましたし、商品も全部持ってこられました。後は貴族たちの反応次第ですが、そこはライネル様がしっかりと説明をするでしょう」

「そうか」

 アルヴェリオは男爵邸に来たばかりの頃のライネルを思い出していた。痩せて目ばかりが大きくボロボロの服を着ていた少年が、今や王都で高位貴族を相手に商売の話をするという。

「なんとか俺も行くようにするからそれまでしっかり頼んだぞ」

「わかってますよ。悪い虫一匹を寄せつけるようなことはしません」

(……ライネルが村に着くなり早々にショーとかいう大きな虫を寄せ付けることを許したくせに)

 アルフレッドはそんな思いでブラウンをじっとりと眺めたが、当の本人はすました顔をして紅茶を飲んでいた。


(ライネルと離れて数ヶ月。
 気にはかかるが、離れていれば忘れるだろうと思っていた。けれど、時間が経てば経つほど記憶は鮮明になり、会いたい思いは募るばかりだ)

 アルヴェリオは、自分の中で彼の存在が大きなものになっていることを、認めざるをえなかった。

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