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第二章 静かに暮らしたいだけだったのに
36・僕がアルヴェリオ様と?女の勘は鋭いそうです
「はじめまして。皆さま、私は職人村に住む平民でライと申します」
ライネルは名前を少し変え、皆の前で自己紹介をした。
思ったよりも落ち着いた声が出せて、ライネルは胸をなで下ろし、一呼吸置いてから、職人村について説明を始める。
「先ほどお話しした通り、我が村には各分野で一流の職人たちが揃っております。本日は、彼らが心を込めて作り上げた作品の数々を、ぜひご覧いただきたくお越しいただきました。もしお気に入りの工房がありましたら、ご支援を賜れれば幸いです」
ライネルの言葉に、前列の貴婦人がふんわりと笑みを浮かべた。
「まあ、喜んで支援させていただくわ。わたくし、芸術家の方々を応援するのが大好きなのよ」
「ありがとうございます」
ライネルは深く頭を下げる。
「本日お願いしたいのは、人ではなく“工房”そのものへの支援です。その仕組みをこれからご説明いたします」
そう言ってライネルは、各工房ごとに発行する“希望の証”について説明した。
そのカードは工房ごとに値段が異なり、一人につき十枚まで購入できるという。
「あら、支援で何かを貰うなんて初めて聞いたわ」
「はい。それだけではありません。もし工房が大きく成長し、利益を上げられるようになった場合──売り上げの一部を、支援者の皆さまに還元いたします」
「え?どういうこと?」
「年に一度“決算”という形で工房の収支を発表し、売り上げから諸経費を差し引いた金額を配当金としてお配りするのです」
ライネルの言葉にホール内が騒ついた。
「それなら人気の出そうな工房の証を買った方が、お得ね」
「はい。ただし、人気のある工房ほど、最初の購入価格も少し高めになります」
「……なるほど」
「さらに、この“希望の証”は売買も可能です」
「売買?どういうことだ?」
真剣に聞いていた紳士が身を乗り出す。
「希望の証は、工房の人気によって価値が変動します。人気が出れば値段が上がり、なければ下がる。そして他の方に売ることもできますし、今後伸びそうな工房の証を、早めに買っておくこともできるんです」
「なんと……そんな支援の形は初めて聞いた!」
「もちろん、単純にお気に入りの工房の作品を買っていただくのも大歓迎です。ただし、この希望の証は“応援と投資”を兼ねたまったく新しい仕組みになります」
「面白いな」
商会を経営しているらしい男性が感心したように何度も頷いた。
「取引はいつでもできるのかね?」
「今のところは月に一度とします。取引を希望される方は、毎月一日の朝までに私のところまで鳩便でお知らせください。売りたいのか買いたいのか、枚数、希望金額、そしてお名前を明記してくださいね」
この部分は、オイショやレバレン、ショーたちと何度も話し合って決めた。証券会社の取引は毎日行われるが、この国では人手の都合もあり、月一回が限界だと思ったのだ。
「“希望の証”の価格は一覧にして月半ばにに新聞に掲載します。たとえば、手元の証が金貨五枚で買ったものでも、現在価格が金貨十枚になっていれば、差額の金貨五枚が利益になります。さらに上がると思えば、売らずに持ち続けても構いません」
説明が終わるころには、会場はざわざわと活気づいていた。
貴族というものは基本的に暇を持て余している。新しい話があれば、飛びつくに決まっている。──そんなブラウンの言葉を思い出した。
ライネルの胸は、先ほどとは違う高鳴りでいっぱいになる。
「それでは皆さま、これから各工房によるお披露目です。どうぞごゆっくりお楽しみください。オーダーも受け付けております」
その声に、貴族たちは一斉に工房へと足を運んだ。
宝石、ドレス、鎧、剣。薬、絨毯、ランプといった工芸品まで──
どの店もあっという間に人であふれた。
「お疲れさまでした、ライネル様」
「こちらこそ、素晴らしい準備をありがとうございました。マルゲリータ様」
「当然ですわ。あなたは我が従兄弟、アルヴェリオの奥さまになる方ですもの」
「えっ……?いえ、それは──」
ライネルは慌てて否定しようとした。
アルヴェリオは兄のアシュレイと結婚する予定だ。自分とはもう何の関係もない。
けれどマルゲリータは、すべてを見透かしたように微笑む。
「きっと、あなたはアルヴェリオ様と結婚なさることになりますわ。女の間は鋭いですのよ?」
(僕が……アルヴェリオ様と?そんな、ありえない……)
アシュレイのことがなくても、あんな素敵な人が、自分なんかと結婚するはずがない。
自分は所詮身代わりなのだから。
「さあ、ライネル様。あちらに、あなたのアイデアをぜひ聞きたいとおっしゃる方々が並んでいますわよ?」
マルゲリータの視線の先には、数人の男性がそわそわとこちらを見ていた。
「ありがとうございます、マルゲリータ様!」
ライネルは笑顔を見せると、軽く会釈し、彼らのもとへ駆けていった
ライネルは名前を少し変え、皆の前で自己紹介をした。
思ったよりも落ち着いた声が出せて、ライネルは胸をなで下ろし、一呼吸置いてから、職人村について説明を始める。
「先ほどお話しした通り、我が村には各分野で一流の職人たちが揃っております。本日は、彼らが心を込めて作り上げた作品の数々を、ぜひご覧いただきたくお越しいただきました。もしお気に入りの工房がありましたら、ご支援を賜れれば幸いです」
ライネルの言葉に、前列の貴婦人がふんわりと笑みを浮かべた。
「まあ、喜んで支援させていただくわ。わたくし、芸術家の方々を応援するのが大好きなのよ」
「ありがとうございます」
ライネルは深く頭を下げる。
「本日お願いしたいのは、人ではなく“工房”そのものへの支援です。その仕組みをこれからご説明いたします」
そう言ってライネルは、各工房ごとに発行する“希望の証”について説明した。
そのカードは工房ごとに値段が異なり、一人につき十枚まで購入できるという。
「あら、支援で何かを貰うなんて初めて聞いたわ」
「はい。それだけではありません。もし工房が大きく成長し、利益を上げられるようになった場合──売り上げの一部を、支援者の皆さまに還元いたします」
「え?どういうこと?」
「年に一度“決算”という形で工房の収支を発表し、売り上げから諸経費を差し引いた金額を配当金としてお配りするのです」
ライネルの言葉にホール内が騒ついた。
「それなら人気の出そうな工房の証を買った方が、お得ね」
「はい。ただし、人気のある工房ほど、最初の購入価格も少し高めになります」
「……なるほど」
「さらに、この“希望の証”は売買も可能です」
「売買?どういうことだ?」
真剣に聞いていた紳士が身を乗り出す。
「希望の証は、工房の人気によって価値が変動します。人気が出れば値段が上がり、なければ下がる。そして他の方に売ることもできますし、今後伸びそうな工房の証を、早めに買っておくこともできるんです」
「なんと……そんな支援の形は初めて聞いた!」
「もちろん、単純にお気に入りの工房の作品を買っていただくのも大歓迎です。ただし、この希望の証は“応援と投資”を兼ねたまったく新しい仕組みになります」
「面白いな」
商会を経営しているらしい男性が感心したように何度も頷いた。
「取引はいつでもできるのかね?」
「今のところは月に一度とします。取引を希望される方は、毎月一日の朝までに私のところまで鳩便でお知らせください。売りたいのか買いたいのか、枚数、希望金額、そしてお名前を明記してくださいね」
この部分は、オイショやレバレン、ショーたちと何度も話し合って決めた。証券会社の取引は毎日行われるが、この国では人手の都合もあり、月一回が限界だと思ったのだ。
「“希望の証”の価格は一覧にして月半ばにに新聞に掲載します。たとえば、手元の証が金貨五枚で買ったものでも、現在価格が金貨十枚になっていれば、差額の金貨五枚が利益になります。さらに上がると思えば、売らずに持ち続けても構いません」
説明が終わるころには、会場はざわざわと活気づいていた。
貴族というものは基本的に暇を持て余している。新しい話があれば、飛びつくに決まっている。──そんなブラウンの言葉を思い出した。
ライネルの胸は、先ほどとは違う高鳴りでいっぱいになる。
「それでは皆さま、これから各工房によるお披露目です。どうぞごゆっくりお楽しみください。オーダーも受け付けております」
その声に、貴族たちは一斉に工房へと足を運んだ。
宝石、ドレス、鎧、剣。薬、絨毯、ランプといった工芸品まで──
どの店もあっという間に人であふれた。
「お疲れさまでした、ライネル様」
「こちらこそ、素晴らしい準備をありがとうございました。マルゲリータ様」
「当然ですわ。あなたは我が従兄弟、アルヴェリオの奥さまになる方ですもの」
「えっ……?いえ、それは──」
ライネルは慌てて否定しようとした。
アルヴェリオは兄のアシュレイと結婚する予定だ。自分とはもう何の関係もない。
けれどマルゲリータは、すべてを見透かしたように微笑む。
「きっと、あなたはアルヴェリオ様と結婚なさることになりますわ。女の間は鋭いですのよ?」
(僕が……アルヴェリオ様と?そんな、ありえない……)
アシュレイのことがなくても、あんな素敵な人が、自分なんかと結婚するはずがない。
自分は所詮身代わりなのだから。
「さあ、ライネル様。あちらに、あなたのアイデアをぜひ聞きたいとおっしゃる方々が並んでいますわよ?」
マルゲリータの視線の先には、数人の男性がそわそわとこちらを見ていた。
「ありがとうございます、マルゲリータ様!」
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