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第四章 全てを暴いて幸せになります!
64・裁判〜アシュレイ〜
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「明日が裁判!?」
「ああ、急だがな」
しばらく姿を見せなかったアルヴェリオは、久しぶりにライネルの元を訪ねて、こともなげにそう言った。
「本当に急です!僕、何の準備も出来てません」
「大丈夫だ。すべて済ませた」
「……でも」
国家反逆罪。
裁判で有罪になれば即日、極刑に処される大罪だ。
「……アルヴェリオ様」
「なんだ?」
「僕が亡き後、職人村の株式関連に関しては、ショーさんとゼンバさんご夫妻、それにアノマリーとレバレンさんを中心に進めてもらえるようお願いします」
「……なき、なに?」
(あ、まずい。涙出てきた)
「亡き後です。こんな中途半端なまま、いなくなるのはとても不本意なんですが……それとトウシンさんの工房ですが……」
話すそばから涙が溢れて止まらない。
けれど、ライネルは分かっていた。
一番の心残りは別のところにある事を。
「ライネル」
「すいません……聞き取れないですよね。すぐ泣き止みます」
「そんな指示必要ない」
「え?」
「お前が処刑される事なんて億分の一もない」
「でも……」
相手はあのアシュレイだ。狡猾に策を練るだろう。そしてこの優しい人がその汚い策略を上回れるとは思えなかった。
「大丈夫だから俺に任せろ」
暖かい言葉と共に、それ以上の温もりがライネルを包む。
「……はい」
ライネルは目を閉じてアルヴェリオの背中に腕を回した。
(明日、どんな結果でも僕はこの人を好きでいるだろう。だからどうか、僕が死んでもこの人が傷つきませんように)
ライネルはそう祈りながら、ただ黙ってその腕に身を任せていた。
◇◇◇◇◆◆
翌日は早朝から眩しいほどの晴天だった。
ライネルが反逆罪で裁判にかけられることは、王都一帯に広がり、上流社会はもとより、市井にも広がりを見せていた。
「緊張しているか?ライネル」
「当たり前です」
白い絹のブラウスに、黒いベストとズボン。胸には白いレースのリボンが付いた洋服に着替えるライネルの指は微かに震えている。
「怖がる必要はない。ライネルは本当のことだけ話せばいいからな?」
「……はい」
優しい目でライネルを見つめるアルヴェリオ。その顔を見られただけで、もう思い残すことはないとライネルは思った。
馬車で向かったのは王都司法殿最大の裁判所。裁判が行われるのは、その中でも一番大きい部屋だった。
市井でも有名なアシュレイの美貌を拝もうと、沢山の人が傍聴に訪れている。
普段は重罪人の審問にしか使われない広大な空間が、ぎっしりと人で埋まっていた。
貴族、商人、市民、それに他国の人まで、
「ライネル・グランチェスター反逆罪裁判」は王都の話題を独占していた。
そして開廷の時間が来た。
裁判長の槌が、重く鳴り響く。
「告発者、弁論を」
アシュレイがすっと立ち上がる。
今日の彼は完璧だった。
衣装も、美貌も、声の調子も。まるで勝利を演出する貴族そのものだ。
「私はアシュレイ・グランチェスター。財務局で主計官をしています。今回、とある筋の情報から、この事件が発覚しました。どうして主計官の私が告発者かと言うと……。被告人のライネル・グランチェスターは私の弟だからです」
法廷内がざわりとどよめいた。
ライネルは社交界にも出ていない、屋敷で下働きをしていた身分だ。グランチェスターに次男がいたなんて、ほとんど知られてはいなかったのだ。
「……弟は病弱でずっと家に引きこもっていました。それがこんな悪事に手を染めるなんて……」
つらそうに眉根を寄せてたアシュレイの顔は一際美しく、女性たちからため息が漏れる。
「だからこそ、この手で弟を更生させたい。その想いだけで告発人の役目をさせていただきました。……前置きが長くなり申し訳ありません。それでは始めます」
(よくあんな大嘘を……)
ライネルは怒りを通り越して呆れていたが、隣に座るアルヴェリオの表情は憎しみに強張っている。
「──被告ライネルは、無断でバロウズ領に侵入し、領地資源を用いて莫大な利益を得ました」
ざわ、と傍聴席が揺れる。
「その利益を、国外へ流出させようとしていた証拠もあります」
アシュレイは一枚の書類を掲げた。
そこにはライネルの署名がある。
「これは、隣国カリエルの商人との書簡です。利益の半分を払う代わりに亡命の手引きを──と書かれてます」
ライネルが青ざめる。
「そんな……僕、書いてません……!カリエルの商人も会ったことないです」
「この期に及んでまだ嘘を?」
アシュレイは冷ややかに笑った。
「この書簡は、あなたの私室で見つかった。
あなたの筆跡で、あなたのサインが入っている。知らないでは通らないでしょう」
傍聴席がざわつく。
アルヴェリオはまだ動かない。
沈黙のまま腕を組み、ただアシュレイを見つめている。
アシュレイは続けた。
「それだけではありません。被告が“国外へ送金した”記録もここにあります」
財務局の職員が立ち上がる。
「──証言します。ライネルはグランチェスター名義で、三度にわたり国外口座へ金貨を送っていました。金額は合計二千金貨」
ライネルは恐怖に体を震わせた。
「そ、そんなお金、僕持ってません!」
アシュレイがそこに声が被せる。
「あなたは昔から勉強嫌いでまともに教育も受けておらず数字にも弱い。金額はともかくとして、問題は別にあります。送金した覚えはありますね?」
(そんなのないに決まってる!)
そう反論したいが、ライネルは驚き過ぎてもう言葉も出ない。
さらにアシュレイは手を挙げ、もう一人を呼んだ。
「次の証人を」
門番が連れてきたのは、侯爵邸のメイド、アリーサ。
「被告と隣国商人が“密会”していたのを見た者です」
会場が沸いた。
「アリーサ、話して」
「……見ました。ライネル様が夕暮れ時に、庭の外れで……外国の商人と封筒を交換していました……!」
「……我が弟ライネルは、ある日突然わがままを言ってうちから飛び出しました。その後、このような悪行に及びましたが、まさか家にいる時からこんな恐ろしい事を企んでいたとは……私たちの監督不行き届きでした」
アシュレイの目から涙が溢れる。
それを見て人々は彼に心から同情した。
「ああ、急だがな」
しばらく姿を見せなかったアルヴェリオは、久しぶりにライネルの元を訪ねて、こともなげにそう言った。
「本当に急です!僕、何の準備も出来てません」
「大丈夫だ。すべて済ませた」
「……でも」
国家反逆罪。
裁判で有罪になれば即日、極刑に処される大罪だ。
「……アルヴェリオ様」
「なんだ?」
「僕が亡き後、職人村の株式関連に関しては、ショーさんとゼンバさんご夫妻、それにアノマリーとレバレンさんを中心に進めてもらえるようお願いします」
「……なき、なに?」
(あ、まずい。涙出てきた)
「亡き後です。こんな中途半端なまま、いなくなるのはとても不本意なんですが……それとトウシンさんの工房ですが……」
話すそばから涙が溢れて止まらない。
けれど、ライネルは分かっていた。
一番の心残りは別のところにある事を。
「ライネル」
「すいません……聞き取れないですよね。すぐ泣き止みます」
「そんな指示必要ない」
「え?」
「お前が処刑される事なんて億分の一もない」
「でも……」
相手はあのアシュレイだ。狡猾に策を練るだろう。そしてこの優しい人がその汚い策略を上回れるとは思えなかった。
「大丈夫だから俺に任せろ」
暖かい言葉と共に、それ以上の温もりがライネルを包む。
「……はい」
ライネルは目を閉じてアルヴェリオの背中に腕を回した。
(明日、どんな結果でも僕はこの人を好きでいるだろう。だからどうか、僕が死んでもこの人が傷つきませんように)
ライネルはそう祈りながら、ただ黙ってその腕に身を任せていた。
◇◇◇◇◆◆
翌日は早朝から眩しいほどの晴天だった。
ライネルが反逆罪で裁判にかけられることは、王都一帯に広がり、上流社会はもとより、市井にも広がりを見せていた。
「緊張しているか?ライネル」
「当たり前です」
白い絹のブラウスに、黒いベストとズボン。胸には白いレースのリボンが付いた洋服に着替えるライネルの指は微かに震えている。
「怖がる必要はない。ライネルは本当のことだけ話せばいいからな?」
「……はい」
優しい目でライネルを見つめるアルヴェリオ。その顔を見られただけで、もう思い残すことはないとライネルは思った。
馬車で向かったのは王都司法殿最大の裁判所。裁判が行われるのは、その中でも一番大きい部屋だった。
市井でも有名なアシュレイの美貌を拝もうと、沢山の人が傍聴に訪れている。
普段は重罪人の審問にしか使われない広大な空間が、ぎっしりと人で埋まっていた。
貴族、商人、市民、それに他国の人まで、
「ライネル・グランチェスター反逆罪裁判」は王都の話題を独占していた。
そして開廷の時間が来た。
裁判長の槌が、重く鳴り響く。
「告発者、弁論を」
アシュレイがすっと立ち上がる。
今日の彼は完璧だった。
衣装も、美貌も、声の調子も。まるで勝利を演出する貴族そのものだ。
「私はアシュレイ・グランチェスター。財務局で主計官をしています。今回、とある筋の情報から、この事件が発覚しました。どうして主計官の私が告発者かと言うと……。被告人のライネル・グランチェスターは私の弟だからです」
法廷内がざわりとどよめいた。
ライネルは社交界にも出ていない、屋敷で下働きをしていた身分だ。グランチェスターに次男がいたなんて、ほとんど知られてはいなかったのだ。
「……弟は病弱でずっと家に引きこもっていました。それがこんな悪事に手を染めるなんて……」
つらそうに眉根を寄せてたアシュレイの顔は一際美しく、女性たちからため息が漏れる。
「だからこそ、この手で弟を更生させたい。その想いだけで告発人の役目をさせていただきました。……前置きが長くなり申し訳ありません。それでは始めます」
(よくあんな大嘘を……)
ライネルは怒りを通り越して呆れていたが、隣に座るアルヴェリオの表情は憎しみに強張っている。
「──被告ライネルは、無断でバロウズ領に侵入し、領地資源を用いて莫大な利益を得ました」
ざわ、と傍聴席が揺れる。
「その利益を、国外へ流出させようとしていた証拠もあります」
アシュレイは一枚の書類を掲げた。
そこにはライネルの署名がある。
「これは、隣国カリエルの商人との書簡です。利益の半分を払う代わりに亡命の手引きを──と書かれてます」
ライネルが青ざめる。
「そんな……僕、書いてません……!カリエルの商人も会ったことないです」
「この期に及んでまだ嘘を?」
アシュレイは冷ややかに笑った。
「この書簡は、あなたの私室で見つかった。
あなたの筆跡で、あなたのサインが入っている。知らないでは通らないでしょう」
傍聴席がざわつく。
アルヴェリオはまだ動かない。
沈黙のまま腕を組み、ただアシュレイを見つめている。
アシュレイは続けた。
「それだけではありません。被告が“国外へ送金した”記録もここにあります」
財務局の職員が立ち上がる。
「──証言します。ライネルはグランチェスター名義で、三度にわたり国外口座へ金貨を送っていました。金額は合計二千金貨」
ライネルは恐怖に体を震わせた。
「そ、そんなお金、僕持ってません!」
アシュレイがそこに声が被せる。
「あなたは昔から勉強嫌いでまともに教育も受けておらず数字にも弱い。金額はともかくとして、問題は別にあります。送金した覚えはありますね?」
(そんなのないに決まってる!)
そう反論したいが、ライネルは驚き過ぎてもう言葉も出ない。
さらにアシュレイは手を挙げ、もう一人を呼んだ。
「次の証人を」
門番が連れてきたのは、侯爵邸のメイド、アリーサ。
「被告と隣国商人が“密会”していたのを見た者です」
会場が沸いた。
「アリーサ、話して」
「……見ました。ライネル様が夕暮れ時に、庭の外れで……外国の商人と封筒を交換していました……!」
「……我が弟ライネルは、ある日突然わがままを言ってうちから飛び出しました。その後、このような悪行に及びましたが、まさか家にいる時からこんな恐ろしい事を企んでいたとは……私たちの監督不行き届きでした」
アシュレイの目から涙が溢れる。
それを見て人々は彼に心から同情した。
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