【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第四章 全てを暴いて幸せになります!

70・幸せな約束

 二人が別荘へ戻る頃には、漆黒の夜がほころび始め、裂け目から差し込む光が静かに朝の訪れを告げていた。

 屋敷に入り、部屋の扉を閉めた瞬間、ライネルの肩が力なく落ちる。
 緊張の糸が切れたその横顔には、疲労と痛みが色濃く滲んでいた。

 アルヴェリオは、無言のままライネルをソファに座らせ、その足元に跪く。

「アルヴェリオ様……?」

 ライネルの靴に付いた金具が、カチャンと音を立てた。
 アルヴェリオはライネルのブーツを脱がせ、冷えた足首にそっと触れる。

「寒いか?」

「いえ、大丈夫です」

 季節はそろそろ夏を迎える。通常であれば、こんなに体が冷たくなることはない。

(それほどまでに先ほどの光景が衝撃だったのだろう)

 アルヴェリオは部屋を出て、温かい湯を満たした桶と柔らかな布を持って来た。

「ど、どうしたんですか、あ!待って!」

「大人しくしろ」

 そう言ってアルヴェリオはライネルの足を掴み、桶へそっと入れた。

「あっ……き、気持ちいい……」

「そうだろう?」

 体全体がほぐれていくような感覚に、ライネルはうっとりと身を任せた。
 その隙に、アルヴェリオは手際よくライネルの上着を脱がせ、ふわふわの毛布で包み込む。

「……ありがとうございます」

 こんな風に気遣われることなど今までなかった。
 口数の少ないアルヴェリオの不器用な優しさに、ライネルは泣きそうなほど幸せを感じる。

「茶も入れたが、飲むか?」

「はい、いただきます」

 アルヴェリオの手から渡されたカップからは、素朴だが、心地よい香りが漂っていた。

「落ち着きますね」

「ああ、ハーブを使ったもので、疲れた時や眠る前によく飲んでいるんだ」

「そうなんですか」

 ライネルは口元を緩め、熱い茶をふうっと冷ましてから一口すする。
 胸につかえていた重さが、少しずつほどけていった。

「……僕に出来ることはなかったんでしょうか」

 アルヴェリオは「ない」と即答すると、ライネルの髪をぐしゃりと崩し、その滑らかな額に口付けた。

「自分にとって最善と考える道が他人にとって同じとは限らない。フェルナンドは自分の最善を行った。それだけだ」

「……はい」

 フェルナンドは見事にやり遂げた。
 それを勝手に哀れに思うなんて、烏滸がましいにも程がある。
 ライネルはそう思うことにした。

 窓の外からは朝陽が差し込み、凍りついていたものを溶かしてゆく。

 思わずぐぅと鳴ったライネルの腹の虫に、二人は顔を見合わせて小さく笑った。

「食事にしよう。それからブラウンを呼んで裁判の打ち合わせだ」

「はい」

 ライネルはアルヴェリオと共に生きていくと決めた。
 それならば、彼にとって最善の方法を選ぶことが、今自分に出来る唯一のことだと腹を決めた。






 食事を終えたあと、三人は書類を広げて策を練っていた。
 鍵がかかった小部屋には思ったより沢山の証拠が保管されていたようで、アシュレイを追い詰めるには十分なものだった。

「今回は冤罪と、バロウズ男爵の件だけに絞った方がいいかもしれませんね」

 ブラウンの言葉に、二人も頷く。

「それ以外の罪に関しては、該当の家門に証拠を譲渡し、それぞれがどうするかを決めて貰えばいいだろう」

「そうですね」

 裁判は明日、再開すると通達が届いた。
 アシュレイの出方がわからない今は、物理的な証拠だけが頼りだ。

「まあ、明日ダメでも諦めないがな」

 そう言ったアルヴェリオに、ライネルは「明日で終わりにしましょう!」と意気込みを口にする。

「そうだな、全部終わったら結婚式だしな」

「けっ?!?!」

 思いがけない言葉に、ライネルは目を白黒させた。

「……アルヴェリオ様、落ち着いてください。婚約式もまだでしょう?それにライネル様はまだ成人してません」

 その言葉に、ライネルは恐る恐る手を挙げて「……あの、僕もう十六歳になりました」と、報告した。

「「は?!?!いつ?!」」

「えっと、一ヶ月くらい前?」

「どうして言わないんだ!祝い損ねたじゃないか!」

「……その……祝ってもらったことなんてないので、いつも通りに過ごしました。何なら忘れてたくらいで……」

「ああもう!裁判が終わったら盛大なパーティを開くぞ。あと、婚約式もな」

「は、はい」

(婚約式……)

 その響きだけでライネルの頬が熱くなる。
 一生アルヴェリオの隣にいる権利を貰ったようで、ふわふわと浮ついた想いに包まれた。

「余計に早く解決しないとな」

「そうですね」

 明日、全てが終わる。
 そして、新たな人生が始まるのだ。



 ◇◇◆◆◇◇


 翌朝。
 曇天の空の下、裁判所の前には民衆が押し寄せていた。

「今日こそ判決が出るんだろ?」
「結局、反逆罪は冤罪ってことだよな?」
「俺は前回見られなかったんだ。今回で決着がつくか賭けようぜ」

 市井の人々はめいめいに好きなことを言いながら法廷に入り、傍聴席に収まっていく。



 少し遅れて、ライネルはアルヴェリオとブラウンに付き添われ、傍聴人の視線を浴びながら入廷した。

 息が詰まりそうになる。
 胸が軋む。

 しかし、アルヴェリオが隣にいてくれるのだ。
 こんなに心強い事は無い。
 




「これより、ライネル・グランチェスターの裁判を再開する」

 裁判官の声が大広間に響く。

「まず、前回アシュレイ・グランチェスターより提出された証拠および証言の確認を行う」

 アシュレイは、まるで別人のように無言のままその言葉を聞いていた。
 口を引き結び、ただ前だけを見て。

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