【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第四章 全てを暴いて幸せになります!

71・ようやく

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 そんなアシュレイに、裁判官が問いかけた。

「アシュレイ・グランチェスター。昨日あなたが提出した証拠に偽装の疑いがかかっています。弁明はありますか?」

 ざわ……と法廷が揺れた。

 しかし、その問いに答えたのはアシュレイではなく、彼の同僚である検察役の法務官だった。

「確認しましたが、ライネル・グランチェスター氏の“領地利益横流しによる国家反逆容疑”の資料について、偽装の証拠は見つかりませんでした!」

 そして、控えの席から、かつてアシュレイの配下だった係官も慌てて進み出る。

「こ、こちらは侯爵家の財務記録です! 不自然な出金があります。これは被告が国外の相手に賄賂として送った証拠かと……!」

「見せてみろ」

 裁判官より早く、アルヴェリオが立ち上がった。
 係官が胸に抱える紙束を難なく奪い取り、その場で目を走らせる。

「お、横暴です!」

 係官が抗議を上げるが、アルヴェリオは聞く耳も持たず、紙をばさりと投げ返した。

「馬鹿馬鹿しい。日付を見ろ。ライネルはその頃、とっくに家を出て職人村で暮らしていた」

「け、けれど! 家に帰って――」

「お前は知っているのか? ライネルがグランチェスター家でどれほど虐げられていたか。家を追い出されてから、戻ったことなど一度もない!」

「ひっ……!」

 ざわめきが一気に広がる。
 係官の顔はみるみる青ざめ、傍聴席からも失笑と呆れが漏れ始めた。

「か、確認します! 次の証人を!」

 普段は全てアシュレイ自身が采配しているため、急場で整えた資料と証人は綻びだらけだ。
 そして、アシュレイはその崩壊をただ黙って眺めている。

 続いて、メイドのアリーサが呼ばれた。

「昨日言っていた日付と違うが?」

「……か、勘違い? いえ……昨夜は遅くまで飲んでいて、記憶が……」

 アリーサ自身、覚えのない証言を強要されているのだ。混乱して当然だった。

「酒? そんな不真面目な態度で、法廷に立っているのかね?」

「あ、いえ! 決してそんな……!」

 裁判官は憤った視線をアシュレイへ向けた。

「告発人アシュレイ・グランチェスター。あなたの指示であったという証言も出ている。反論は?」

 それでもアシュレイは微動だにしない。
 虚空をぼんやりと見ているだけ。

「沈黙は不利になります。本当に、何も言わないつもりですか?」

 裁判官の声が、法廷のざわつきをさらに深めた。

(どうした? 昨日まであれほど雄弁だったのに)
(まるで別人じゃないか……)

 貴族たちでさえざわめき、裁判官は重い息を吐く。

「裁判官に、もう一つ見ていただきたい物がある。五年前のバロウズ男爵横領事件だ」

「……別件の申請は後日に」

「犯人はアシュレイ・グランチェスターである証拠が出た」

「……なんですって?」

 蜂の巣をつついたような騒ぎになり、傍聴席が揺れた。
 誠実と評判のバロウズ男爵の事件は、当時から冤罪が囁かれていたからだ。

「……預かりましょう」

 裁判官は書類を読み、重い表情で事務官に渡す。
 そしてアシュレイへ向き直った。

「申立人アシュレイ・グランチェスター。黙秘を続けるなら、“すべてを認めた”と見なす」

 その瞬間、アシュレイの睫毛がわずかに揺れた。
 けれど口は閉じたまま。
 ただ、静かに頷いた。

「分かった。これ以上の審理は不要と判断する。被告、ライネル・グランチェスター」

「は、はい!」

 突然の指名にライネルは思わず大きな声を上げる。その時、アシュレイの視線がゆっくりと彼に向いた。

 色も、熱もない眼差し。
 それなのに胸が痛いほど締めつけられる。

「被告人は――無罪とする」

 どよめきが爆発した。市井の者たちも手を握り合って判決を喜んでいた。

 ライネルはそんな皆に静かに頭を下げる。

 アシュレイは……何も言わない。
 またどこか遠くを見るような瞳だった。

「アシュレイ・グランチェスターは取り調べに移る。他に共犯がいるなら、今のうちに申告しなさい」

 裁判官の言葉に、アシュレイは顔を上げた。
 そしてはっきりと告げる。

「共犯者は……おりません」

「……分かった。連れて行け」

 アシュレイは静かに両手を差し出し、
 何の抵抗もせず連行されていく。

 最後の最後まで――
 フェルナンドから託された手紙を、証拠として出すことはなかった。



 ◇◇◆◆◇◇

 裁判所を出たライネルたちは、馬車で帰路に着いた。目指すはバロウズ男爵邸だ。

「疲れただろう。よく頑張ったな、ライネル」

「僕は何もしてません。アルヴェリオ様こそお疲れ様でした。何から何までお任せして申し訳ありません」

「あーあ。アルヴェリオ様、俺のことも労ってくださいよ。結構頑張りましたよ」

「あっ!ブラウンさんもありがとうございました!本当にお世話になりました!」

 慌てて頭を下げるライネルに、ブラウンは「ライネル様はいいんです」と笑う。

「まあ、お前は以前に、ペンネを別荘に招き入れたという罪があるからな」

「招き入れただなんて!俺じゃないですよ」

「ふん、嘘をつけ。マルゲリータが一緒だったからってデレデレしてドアを開けただろ」

「ぐっ……!!」

「え?ブラウンさんはマルゲリータさんのことを『ライネル様!みなまで言わないでください!』」

 ブラウンは珍しく慌てた様子でライネルの言葉を遮った。

(そうか、そうだったんだ!二人とも親切だし優しいしお似合いだなー)

 何だか幸せのお裾分けを貰ったみたいでライネルはほくほくとブラウンを眺めた。

 嫌なことも、つらいことも沢山あるけれど、こうやって幸せな話を聞けるのは嬉しい。

「それで?結婚はするんですか?」

「ライネル様、そんな簡単じゃないんです。相手は貴族のお嬢様ですよ?だからいいんです。遠くから幸せを祈るだけで」

「ほぅ?いつからそんな謙虚になったんだ?」

 アルヴェリオの揶揄うような言葉にブラウンはため息をつく。

「まあ、世の中はどうにならないこともありますからね」

「……もうすぐバロウズ男爵が邸に戻ってくる。俺がいなくなると不便なことも多いだろう。ブラウン、今度はお前が男爵の養子にしてもらえ。話はつけておく」

「えっ……?」

「子供の頃からだろう?随分と拗らせているようだから、これを逃すと一生独身かと思うと可哀想になってな」

「……大きなお世話ですよ。……でも本気ですか?それなら……その、嬉しいです」

 そう言ったブラウンの耳が、少し赤くなっている。




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