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第四章 全てを暴いて幸せになります!
75.・打診
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アノマリーやオイショ、ショー、ベバレンも。
みんな温かくライネルを迎えてくれた。
「考えてたらすごく会いたくなってきました」
「そ、そうか。だが、この屋敷も好きだろう?……好きだよな?今は……」
「…………好きです」
「やはり随分と間が空いたな」
恐る恐るそう聞いたアルヴェリオは、ライネルの答えにしょんぼりと項垂れた。
「そ!そんなことありません!思い出もありますし」
「思い出?どんな?」
そう問われて、ライネルは逡巡した。
やはり一番の思い出は初めての脱水症状……。
けれど、それを口にして過去を蒸し返す気にはなれない。だって今はすごく幸せなのだから。
「……石鹸が、いい匂いでした」
無難な答えに、アルヴェリオはわずかに眉を寄せる。
「……そうか。……もし、職人村が気になるなら、明日にでも戻るか?俺はまだ用事があるから、少し遅れての出発になると思うが」
「え?いいんですか?」
「ああ。終わり次第、俺もすぐ行く」
「はい!」
嬉しい。
みんなに会えるのもそうだが、アルヴェリオにあの村の発展を見てもらえるのが、何より楽しみだった。
「じゃあ、アルヴェリオ様が来るまでに、仕事を片付けておきます!」
「ああ。そしたら二人で、のんびりしような」
「はい!」
その夜、ライネルは最高に幸せな気持ちで眠りについた。
(みんな、待っててね。お土産、たくさん持って帰るから)
そんなことを考えながら。
⸻
◇◇◆◆◇◇
翌日、ライネルを乗せた馬車が職人村へ向けて出発するのを見送ったアルヴェリオは、その足で王宮へと向かった。
用事というのは他でもない。
伯父である国王陛下、ハーシェルからの呼び出しだった。
「よく来たな、アルヴェリオ。また背が伸びたんじゃないか?」
「……陛下、お戯れを」
もういい年だ。
今さら伸びるわけがないと、アルヴェリオは苦笑する。
「何か急用ですか?」
「ああ、呼び立ててすまなかった。今後のことを相談したくてな」
その言葉に、アルヴェリオは嫌な予感を覚えた。
「陛下。もし私を次期国王に、という話でしたら、帰らせていただきますが」
「そんな冷たいことを言うものではない。
一度でいい、真剣に考えてほしいのだ」
「考えました。ですが、私のような者に務まるとは思えません」
それはアルヴェリオの本心だった。
父が王族の血を引いているとはいえ、出自が違いすぎる。
「陛下は、まだお若いではありませんか。
皇后陛下との間に、お子を授かる機会もあるでしょう」
その言葉に、ハーシェルは寂しそうに笑った。
「話していなかったが、我が王妃は子を産めない体なのだよ」
「……大変失礼いたしました」
深く頭を下げるアルヴェリオを、ハーシェルは軽く制した。
「気にするな。だが、だからといって他の令嬢を側室に迎えるなど、私にはできん」
「……そうですね」
もし自分が同じ立場なら、きっと同じことを言う。
「お前が王位を望まぬのは分かっている。だが、このままでは……」
ハーシェルは深くため息をつく。
貴族たちの派閥争いを憂いているのだろう。
養子を取ったとしても、どこから迎えようと争いは避けられない。
「……話は変わるが。お前は、グランチェスター公爵家をどうするつもりだ?」
「もちろん、償わせるつもりでおります。あの二人も、相当なことをやらかしていますので」
「一族郎党、ということか。では、ライネルはどうする?」
「ライネルは関係ありません。というより、あの家とはすでに縁を切っています」
「……それでは、納得しない者もいるだろう」
「陛下は、何をおっしゃりたいのですか?」
普段、ここまで歯切れの悪い物言いをする人ではない。
この先こそが本題なのだと、アルヴェリオは悟った。
「ライネルを、養子に出す気はないか?」
「養子……?」
「ああ。皇后の実家の公爵家にだ。そうすればグランチェスターとは無関係になる。貴族籍が保たれれば、お前と結婚しても問題はない」
アルヴェリオは、ハーシェルを真っ直ぐに見据えた。
「それは、私が王位を継ぐ前提での話ですね」
「そうだ」
確かに、その案は理にかなっている。
どこからも横槍は入らず、安全で、確実だ。
だが——。
「私一人では決められません。どんなことでも、ライネルにとって最善の道を選びたいのです」
「……そうか。良い返事を待っておる」
「……はい」
(分かっている。陛下は、いつだって俺たちの幸せを考えてくれている)
城の長い廊下を歩きながら、アルヴェリオは考え続けた。
だが、いくら考えても答えは出ない。
「ライネルなら、何と言うだろうな」
そう思った瞬間、無性に彼に会いたくなった。
「まずは二人で話そう。それからだ」
そう決めると、少しだけ気持ちが軽くなる。
アルヴェリオは、馬車を止めてある場所へと足早に向かう。
その時——
「アルヴェリオ様!」
「……チッ。何だ」
「は? 今、舌打ちしましたよね?」
追いかけてきたブラウンが、露骨に嫌な顔をする。
「してないしてない。それで、何の用だ。俺は今から職人村に向かうんだ」
「それどころではありません」
「お前まで俺の邪魔をする気か」
一刻も早くライネルの顔を見ないと、気が狂いそうだった。
「違います。……アシュレイが死にました」
「どういうことだ。処刑はまだのはずだろう」
「それが……牢の中で、自ら首を切って死んだそうです」
「……首を」
それを聞いて思い出すのは、フェルナンドの死に様だ。彼も自分の首に深く刃を飲み込ませ、絶命していた。
アルヴェリオは踵を返し、アシュレイが投獄されていた地下牢へと急いだ。
みんな温かくライネルを迎えてくれた。
「考えてたらすごく会いたくなってきました」
「そ、そうか。だが、この屋敷も好きだろう?……好きだよな?今は……」
「…………好きです」
「やはり随分と間が空いたな」
恐る恐るそう聞いたアルヴェリオは、ライネルの答えにしょんぼりと項垂れた。
「そ!そんなことありません!思い出もありますし」
「思い出?どんな?」
そう問われて、ライネルは逡巡した。
やはり一番の思い出は初めての脱水症状……。
けれど、それを口にして過去を蒸し返す気にはなれない。だって今はすごく幸せなのだから。
「……石鹸が、いい匂いでした」
無難な答えに、アルヴェリオはわずかに眉を寄せる。
「……そうか。……もし、職人村が気になるなら、明日にでも戻るか?俺はまだ用事があるから、少し遅れての出発になると思うが」
「え?いいんですか?」
「ああ。終わり次第、俺もすぐ行く」
「はい!」
嬉しい。
みんなに会えるのもそうだが、アルヴェリオにあの村の発展を見てもらえるのが、何より楽しみだった。
「じゃあ、アルヴェリオ様が来るまでに、仕事を片付けておきます!」
「ああ。そしたら二人で、のんびりしような」
「はい!」
その夜、ライネルは最高に幸せな気持ちで眠りについた。
(みんな、待っててね。お土産、たくさん持って帰るから)
そんなことを考えながら。
⸻
◇◇◆◆◇◇
翌日、ライネルを乗せた馬車が職人村へ向けて出発するのを見送ったアルヴェリオは、その足で王宮へと向かった。
用事というのは他でもない。
伯父である国王陛下、ハーシェルからの呼び出しだった。
「よく来たな、アルヴェリオ。また背が伸びたんじゃないか?」
「……陛下、お戯れを」
もういい年だ。
今さら伸びるわけがないと、アルヴェリオは苦笑する。
「何か急用ですか?」
「ああ、呼び立ててすまなかった。今後のことを相談したくてな」
その言葉に、アルヴェリオは嫌な予感を覚えた。
「陛下。もし私を次期国王に、という話でしたら、帰らせていただきますが」
「そんな冷たいことを言うものではない。
一度でいい、真剣に考えてほしいのだ」
「考えました。ですが、私のような者に務まるとは思えません」
それはアルヴェリオの本心だった。
父が王族の血を引いているとはいえ、出自が違いすぎる。
「陛下は、まだお若いではありませんか。
皇后陛下との間に、お子を授かる機会もあるでしょう」
その言葉に、ハーシェルは寂しそうに笑った。
「話していなかったが、我が王妃は子を産めない体なのだよ」
「……大変失礼いたしました」
深く頭を下げるアルヴェリオを、ハーシェルは軽く制した。
「気にするな。だが、だからといって他の令嬢を側室に迎えるなど、私にはできん」
「……そうですね」
もし自分が同じ立場なら、きっと同じことを言う。
「お前が王位を望まぬのは分かっている。だが、このままでは……」
ハーシェルは深くため息をつく。
貴族たちの派閥争いを憂いているのだろう。
養子を取ったとしても、どこから迎えようと争いは避けられない。
「……話は変わるが。お前は、グランチェスター公爵家をどうするつもりだ?」
「もちろん、償わせるつもりでおります。あの二人も、相当なことをやらかしていますので」
「一族郎党、ということか。では、ライネルはどうする?」
「ライネルは関係ありません。というより、あの家とはすでに縁を切っています」
「……それでは、納得しない者もいるだろう」
「陛下は、何をおっしゃりたいのですか?」
普段、ここまで歯切れの悪い物言いをする人ではない。
この先こそが本題なのだと、アルヴェリオは悟った。
「ライネルを、養子に出す気はないか?」
「養子……?」
「ああ。皇后の実家の公爵家にだ。そうすればグランチェスターとは無関係になる。貴族籍が保たれれば、お前と結婚しても問題はない」
アルヴェリオは、ハーシェルを真っ直ぐに見据えた。
「それは、私が王位を継ぐ前提での話ですね」
「そうだ」
確かに、その案は理にかなっている。
どこからも横槍は入らず、安全で、確実だ。
だが——。
「私一人では決められません。どんなことでも、ライネルにとって最善の道を選びたいのです」
「……そうか。良い返事を待っておる」
「……はい」
(分かっている。陛下は、いつだって俺たちの幸せを考えてくれている)
城の長い廊下を歩きながら、アルヴェリオは考え続けた。
だが、いくら考えても答えは出ない。
「ライネルなら、何と言うだろうな」
そう思った瞬間、無性に彼に会いたくなった。
「まずは二人で話そう。それからだ」
そう決めると、少しだけ気持ちが軽くなる。
アルヴェリオは、馬車を止めてある場所へと足早に向かう。
その時——
「アルヴェリオ様!」
「……チッ。何だ」
「は? 今、舌打ちしましたよね?」
追いかけてきたブラウンが、露骨に嫌な顔をする。
「してないしてない。それで、何の用だ。俺は今から職人村に向かうんだ」
「それどころではありません」
「お前まで俺の邪魔をする気か」
一刻も早くライネルの顔を見ないと、気が狂いそうだった。
「違います。……アシュレイが死にました」
「どういうことだ。処刑はまだのはずだろう」
「それが……牢の中で、自ら首を切って死んだそうです」
「……首を」
それを聞いて思い出すのは、フェルナンドの死に様だ。彼も自分の首に深く刃を飲み込ませ、絶命していた。
アルヴェリオは踵を返し、アシュレイが投獄されていた地下牢へと急いだ。
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