【完結】望まれなかった代役婚ですが、投資で村を救っていたら旦那様に溺愛されました。

ivy

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第四章 全てを暴いて幸せになります!

77・宴の夜

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「あんた……何かにつけて飲もうとすんの、ほんとにやめなさいよ」

 アノマリーの母であるゴバが呆れた声を上げると、広間に集まった男たちは一斉に目を逸らし、次の瞬間、示し合わせたように笑い出した。

「まあまあ、今日はいいだろ!」
「そうだそうだ、祝いなんだから!」

 そうして結局、宴会は行われることになった。


 その夜、賑やかな雰囲気の中で、ライネルはジュースの入った杯を両手で持ち、皆と楽しい時間を過ごした。
 焼き上がった肉の香ばしい匂い、焼きたてのパン、樽から直接注がれる酒。
 笑い声と歌声が天井まで満ち、ここが“職人村”だということを思い出させてくれる。

(帰ってきたんだな……)

 その感慨に浸っていると、入口の方が急に騒がしくなった。

「おっ、戻ってきたぞ!」
「ブラウンだ!」

 扉を開けて現れたのは、少し埃を被ったブラウンだった。
 外套を脱ぎながら、広間の様子を見て目を丸くする。

「……いや、すごい盛り上がりですね」

「当たり前だ。ライネルの無罪が証明されたんだぞ?ほら、飲め!」

 有無を言わさず酒杯を押し付けられ、ブラウンは一瞬だけ困った顔をしたが、すぐに観念したように笑った。

「まったく……」

 そう言いながらも、一口飲むと肩の力が抜けたようだった。

「……うん、うまい」

 珍しく、そのまま二杯、三杯と進む。
 いつも冷静で、どこか距離を取っているブラウンが、今日はやけに楽しそうだ。

「ブラウンさん、結構飲んでますよね?」

 ライネルがそう言うと、ブラウンは肩をすくめた。

「今日は特別です。仕事も一区切りつきましたし」

「仕事?」

「そうです」

 ブラウンは一度周囲を見渡した。
 そして、酒杯を軽く鳴らして声を張る。

「――皆さん、ちょっといいですか」

 広間が少し静まる。

「お知らせがあります」

 そう前置きしてから、ブラウンはライネルの方を見る。

「この職人村の領主は正式にライネルになりました」

 一瞬の間。

 そして歓声と驚愕が広間を包んだ。

「すげぇな!男爵様から譲り受けたってことか?!」
「じゃあこれからはライネル様って呼ばなきゃな!」

 そんな声が飛び、すぐに笑いが起きる。

「やめてください!今のまま、ライネルでお願いします!」

 慌てたライネルに、ブラウンは楽しそうに笑った。

「なので今日は、その“お披露目”ということで」

 そう言って、杯を高く掲げる。

「職人村の未来と、ライネルに――乾杯」

「乾杯!!」

 一斉に杯が打ち鳴らされ、広間は再び歓声に包まれた。

 ライネルは、少し照れながらも立ち上がり、頭を下げる。

「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします」

「堅い堅い!」
「もっと楽にしろ!」

 そんな野次が飛び、また笑いが起きた。
 そして更に酒樽が開けられ、皆は杯を酌み交わす。

 その中で、少し離れた場所に立っていたショーが、ライネルの隣に座った。

「ライネル、おめでとう」

「ショーさん!ありがとうございます。アルヴェリオ様のご厚意です」

「そっか……」

 ショーはライネルの顔を見て、穏やかに微笑んだ。

「ブラウンに聞いた。アルヴェリオ様と……その、上手くいってるそうだね」

 ライネルは少しだけ照れて、それでもはっきりと頷く。

「はい」

 その答えに、ショーは安心したように息を吐いた。

「なら、よかった。幸せを心から祈ってる」

「……ありがとうございます」

 ショーはそれ以上何も言わず、杯を掲げて人の輪へ戻っていく。

 今までのことを思うと、複雑な気持ちではあるが、ショーの祝福は心からのものだと感じられ、胸の奥が静かに温かくなるのを感じていた。

(ちゃんと、前に進めてる)

 歌が始まり、また誰かが踊り出す。
 夜はまだ長く、笑い声は途切れない。

 ライネルは差し出された杯を受け取り、そっと口をつけた。

(今夜は――何も考えず、楽しもう)

 この村で。
 この人たちと。


 翌朝。

 職人村は、いつもより少し静かだった。

「……うぅ……頭が……」
「誰だ、あんなに飲もうって言い出したの……」

 広間には、昨夜の宴の名残と共に、屍のように転がる大人たちが点在している。
 机に突っ伏す者、椅子にもたれて呻く者、床に座り込んで動けなくなっている者。

(……ひどい)

 ライネルは苦笑しながら、その光景を見渡した。

「皆さん、ここに水を置いときますね」

 桶に汲んだ水と、今朝ゴバが用意してくれた簡単なスープを配りながら、声をかける。

「ライネル……天使か……」
「昨日はありがとう……あとで礼する……」

 そんな声が返ってくるが、誰一人として起き上がる気配はない。

(仕方ないか)

 ライネルは肩をすくめ、外へ出た。

 朝の空気はひんやりとしていて、頭がすっと冴える。
 村のあちこちから、朝ごはんの準備をする音や、工房の戸を開ける音が聞こえ始めていた。

(今日は溜まっている株式化の作業を片付けよう)

 宴は終わり。
 ここからは仕事だ。

「おはようございます」

 宿に戻ると、ショーが帳簿を開いていた。その横にはアノマリーがちょこんと座って手伝いをしている。

「じゃあ、早速始めましょうか」

 ライネルはそう言って、広げた帳簿に視線を落とす」

「昨日までにまとめた分、ここから先は出資割合と配当の再確認です。細かいですが、間違えると後が大変なので」

 その口調は落ち着いていて、迷いがない。

「……ほんと、あの頃と比べると頼もしくなったな」

 ショーがぼそりと呟く。

「え?」

「いや、何でもない。ほら、続けてくれ」

 ライネルは説明を続けた。

 村の外から来た人間が、ここまで村のことを考え、仕組みを整えようとしている。
 それは、職人たちにもはっきり伝わっていた。

「昼までには一区切りつけましょう。午後は、外部との連絡もありますから」

「了解だ」

 少しずつ、村が動き出す。

 鍛冶場の火が入る音。
 木工所から聞こえる槌の音。
 そして、机の上でめくられる紙の音。

(……これが、僕の仕事)

 ライネルは、胸の奥に静かな充実感を覚えながら、帳簿に向き直った。
 宴を終え、日常が始まった。

 ――そしてこの日常こそが、ライネルが守りたいものだった。
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