俺の番には大切な人がいる

ivy

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俺の番には大切な人がいる①

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「ただいま匠」

「直人!お帰り!」

水曜は定時退社デーだから直人の帰りが少し早い。
俺の1週間で一番好きな日だ。




「ご飯できてるよ。直人の好きな魚介のパエリアとチキン」

「美味しそうだな」

直人が綺麗な顔で笑う。
αの中でも、特に優秀で見た目も良く、優しい俺の旦那様。
結婚が決まった時はみんなに羨ましがられたもんだ

「なあ、直人?」

「なんだ?」

「明日さ、俺たちの結婚記念日だろ?外でご飯でもどうかなって」

「あ,ごめん。明日は優斗と約束があって……」

「……そっか」

もしかしたら普通の夫婦みたいに過ごせるかもという微かな期待は、パチンと音を立てて消えた

「もう結婚して1年か。匠にはいつも感謝してるよ」

「俺の方こそ直人といられて楽しいよ」

大丈夫。
慣れてる。
こんなことくらいで傷つきたくない。



その時直人の携帯のバイブ音が鳴った。
幸せな時間の終わりを告げる無情な鐘の音。
直人は急いで画面を開く。
その顔は愛しさに溢れていた。


ああ今日も一人で過ごすのか……

メッセージの送り主はわかっている。
文字だけで直人にこんな顔させることが出来るのはこの世でただ1人。


優斗だけだ


「たくみ・・」

形ばかりの申し訳なさそうな声。
可哀想だから俺が続きを言ってあげる。

「優斗だろ?いいよ,行ってきて」

「でもご飯が」

「大丈夫だって。俺お腹空いてるから全部食べられるよ!」

そう言って精一杯の優しい笑顔を作った。

俺の顔、ひきつってないよな?

「早めに帰ってちゃんと食べるから、少し残しといて」

「うん」

いつもの決まりきったやり取りが終わると、直人は急いで身支度を整える。
手に持ってるのは最近ネットで有名なチョコの店の袋だ。
優斗にプレゼントする為に準備してたんだろう。

「ちゃんと戸締まりするんだよ?」

「わかってるよ。行ってらっしゃい」

ドアが閉まり、部屋は静寂に包まれる。
俺は乱暴に料理をぜんぶゴミ箱に突っ込んだ。


初めての結婚記念日。
もしかしたら一緒に過ごせるかもなんて思っていたけど。
日にちさえ忘れられていたなんて笑える。
早く帰ると言ったけどそんな約束も一度だって守られたことなかった。





直人には大切な人がいる。
最初からわかってて結婚した。

いわゆる政略結婚でそこに愛はなかった。
……はずだったのに。


いつのまにか
直人の優しさに
体の熱に
触れる唇に
どんどん惹かれた。


けれど俺が抱かれるのはヒートの時だけ
俺たちのセックスは子供を作るためだけに行われる。


優斗はベータだ。
二人の間に子供は出来ない。
そんな行為になんの意味もないのに。

それでもあの2人は抱き合うんだ。



ただ愛しあう為だけに。


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