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俺の番には大切な人がいる⑨
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意識が戻った時、俺はベッドの上にいた。
「……ここどこ?」
苦しい。
吐く息が熱い。
そういえばさっき突然ヒートが起こって……。
俺は気を失ったのか?
ゆっくりと体を起こし、おぼつかない足取りでベッドから降りる。
どろりと足の間を粘液が滴り落ちた。
「晃……」
リビングに続くドアを開けようとした時、「開けるな!」と鋭い声がした。
「晃?」
「匠、頼むから部屋から出るな。鍵をかけてそこにいてくれ」
晃の切羽詰まった悲しげな声がドアの向こうから聞こえる。
「……晃も?」
俺のヒートに誘発されたのか。
「ごめん、晃。俺のせいだ」
……けれど、もどかしく熱を持つ体は、ドア一枚隔てた先にいる運命の番を欲してたまらなく疼く。
「助けて……」
誰にともなくそう呟いて座り込むが、抱いて欲しくて気が狂いそうだ。
浅ましいオメガの性。
こんなにも心と体を乖離させる。
「匠……大丈夫か?」
「……大丈夫じゃない……」
今までのヒートと全然違う。
こんなに激しい衝動は知らない。
抗えない痛みにも似た感覚が全身を舐めるように覆い包んだ。
「匠」
「なに……」
「抱きたい」
「……晃」
ドアにもたれているんだろう、隙間から晃のフェロモンが流れてきた。
息が出来ない。
「で、でも……俺はまだ直人が好きなんだ」
息が上がる。
肺が悲鳴を上げている。
「分かってる。でももう終わったんだよ。すぐは無理かもしれないけど俺と番になって欲しい」
「でも……!」
かチャリとドアが開いた。
「なんで鍵閉めないんだよ……」
二重の少し青みがかった綺麗な目が燃えるような赤い色をしている。
アルファのヒートであるラットを起こしているのだ。
ラット状態のアルファは通常、理性が無くなる。それなのに晃はまだ俺を慮って意に沿わないことをするまいと欲望と戦っている。
「あきら……」
もういい。
新しい人生を歩むと決めたじゃないか。
目の前には運命の番。
何を迷うことがあるのか。
晃は大切な人だ。
その人がこんなにも苦しんでいるんだから。
俺は手を差し伸べて強く晃を抱きしめた。
お互いの乱れた呼吸。
結合部から規則的に聞こえる濡れた音
悲鳴のようなベッドの軋み
そして脳を焼くような快感
もう何度目の性交だろうか。
俺の意識は既に朦朧としていた。
目の前の相手を強く抱きしめ、より深く繋がれるように背中に足を絡ませる。
「……匠!」
直人じゃない声。
直人じゃない体。
「あきら……」
俺が名前を呼ぶと晃は体を震わせて俺を見た。
俺のせいだ。
ごめん晃。
俺が引っ掻いたであろう頬の傷をそっと撫でる。
その途端、晃の目から涙がぽろぽろと溢れ出した。
「ごめん匠。俺匠のこと無理矢理……。でも止まらない。ごめん」
「あっ!」
そう言いながら俺の腰を掴んで思い切り奥まで貫く。
予期せぬ動きとあまりの気持ちよさに俺の背中は限界までのけぞった。
身体にも心にも。
足りなかった部分にぴったりハマるような。
尾てい骨から首筋まで痺れて頭が真っ白になる
これが運命の相手とのセックス。
まだ直人を心から愛しているのに
与えられ貪っている快感は晃から与えられるもので
俺は混乱し
激しく抱かれながら俺はひたすら泣いた。
次に目が覚めたのはお風呂の浴槽の中だった。
暖かくて気持ちがいい。
ぼんやりとクラゲのようにたゆたっている俺を、晃が後ろから抱きしめ現実に繋ぎ止めている。
黙って俺の首筋に唇を押し当てじっとしている晃はまるで怒られてしょんぼりしている小さい子供のようだ。
「晃……ごめんな」
俺がそう言うと晃は驚いたように俺を抱く腕に力を込めた。
「悪いのは俺だ!匠は何も悪くない」
「俺のヒートが原因だろ」
「そのヒートだって俺のフェロモンが誘発したのかもしれないだろ」
運命の相手のフェロモン。
例え他に番がいても抗えない暴力的な匂い。
……こんな気持ちが不安定な時に晃の側にいるべきじゃ無かった。
「匠……もう一つ謝らなきゃ」
「なに?」
晃はちゃぷんとお湯の中に手を入れて俺のお腹をそっと触った。
「ゴムつける余裕が無かった」
「え?」
「赤ちゃん……出来たかも」
「……大丈夫じゃ無いかな。今までも全然出来なかったし」
いや、運命の相手だとどうなのかな。
出来やすいとかあるのかな……。
晃が俺のお腹をゆっくりと優しく撫でる。
まるでそこに既に愛しい我が子がいるかのように。
「もし赤ちゃんが出来てたら、覚悟決めて俺と番って」
俺は何と答えればいいのか分からず、小さな声で「考えとく」とだけ呟いた。
「……ここどこ?」
苦しい。
吐く息が熱い。
そういえばさっき突然ヒートが起こって……。
俺は気を失ったのか?
ゆっくりと体を起こし、おぼつかない足取りでベッドから降りる。
どろりと足の間を粘液が滴り落ちた。
「晃……」
リビングに続くドアを開けようとした時、「開けるな!」と鋭い声がした。
「晃?」
「匠、頼むから部屋から出るな。鍵をかけてそこにいてくれ」
晃の切羽詰まった悲しげな声がドアの向こうから聞こえる。
「……晃も?」
俺のヒートに誘発されたのか。
「ごめん、晃。俺のせいだ」
……けれど、もどかしく熱を持つ体は、ドア一枚隔てた先にいる運命の番を欲してたまらなく疼く。
「助けて……」
誰にともなくそう呟いて座り込むが、抱いて欲しくて気が狂いそうだ。
浅ましいオメガの性。
こんなにも心と体を乖離させる。
「匠……大丈夫か?」
「……大丈夫じゃない……」
今までのヒートと全然違う。
こんなに激しい衝動は知らない。
抗えない痛みにも似た感覚が全身を舐めるように覆い包んだ。
「匠」
「なに……」
「抱きたい」
「……晃」
ドアにもたれているんだろう、隙間から晃のフェロモンが流れてきた。
息が出来ない。
「で、でも……俺はまだ直人が好きなんだ」
息が上がる。
肺が悲鳴を上げている。
「分かってる。でももう終わったんだよ。すぐは無理かもしれないけど俺と番になって欲しい」
「でも……!」
かチャリとドアが開いた。
「なんで鍵閉めないんだよ……」
二重の少し青みがかった綺麗な目が燃えるような赤い色をしている。
アルファのヒートであるラットを起こしているのだ。
ラット状態のアルファは通常、理性が無くなる。それなのに晃はまだ俺を慮って意に沿わないことをするまいと欲望と戦っている。
「あきら……」
もういい。
新しい人生を歩むと決めたじゃないか。
目の前には運命の番。
何を迷うことがあるのか。
晃は大切な人だ。
その人がこんなにも苦しんでいるんだから。
俺は手を差し伸べて強く晃を抱きしめた。
お互いの乱れた呼吸。
結合部から規則的に聞こえる濡れた音
悲鳴のようなベッドの軋み
そして脳を焼くような快感
もう何度目の性交だろうか。
俺の意識は既に朦朧としていた。
目の前の相手を強く抱きしめ、より深く繋がれるように背中に足を絡ませる。
「……匠!」
直人じゃない声。
直人じゃない体。
「あきら……」
俺が名前を呼ぶと晃は体を震わせて俺を見た。
俺のせいだ。
ごめん晃。
俺が引っ掻いたであろう頬の傷をそっと撫でる。
その途端、晃の目から涙がぽろぽろと溢れ出した。
「ごめん匠。俺匠のこと無理矢理……。でも止まらない。ごめん」
「あっ!」
そう言いながら俺の腰を掴んで思い切り奥まで貫く。
予期せぬ動きとあまりの気持ちよさに俺の背中は限界までのけぞった。
身体にも心にも。
足りなかった部分にぴったりハマるような。
尾てい骨から首筋まで痺れて頭が真っ白になる
これが運命の相手とのセックス。
まだ直人を心から愛しているのに
与えられ貪っている快感は晃から与えられるもので
俺は混乱し
激しく抱かれながら俺はひたすら泣いた。
次に目が覚めたのはお風呂の浴槽の中だった。
暖かくて気持ちがいい。
ぼんやりとクラゲのようにたゆたっている俺を、晃が後ろから抱きしめ現実に繋ぎ止めている。
黙って俺の首筋に唇を押し当てじっとしている晃はまるで怒られてしょんぼりしている小さい子供のようだ。
「晃……ごめんな」
俺がそう言うと晃は驚いたように俺を抱く腕に力を込めた。
「悪いのは俺だ!匠は何も悪くない」
「俺のヒートが原因だろ」
「そのヒートだって俺のフェロモンが誘発したのかもしれないだろ」
運命の相手のフェロモン。
例え他に番がいても抗えない暴力的な匂い。
……こんな気持ちが不安定な時に晃の側にいるべきじゃ無かった。
「匠……もう一つ謝らなきゃ」
「なに?」
晃はちゃぷんとお湯の中に手を入れて俺のお腹をそっと触った。
「ゴムつける余裕が無かった」
「え?」
「赤ちゃん……出来たかも」
「……大丈夫じゃ無いかな。今までも全然出来なかったし」
いや、運命の相手だとどうなのかな。
出来やすいとかあるのかな……。
晃が俺のお腹をゆっくりと優しく撫でる。
まるでそこに既に愛しい我が子がいるかのように。
「もし赤ちゃんが出来てたら、覚悟決めて俺と番って」
俺は何と答えればいいのか分からず、小さな声で「考えとく」とだけ呟いた。
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