11 / 41
俺の番には大切な人がいる⑪
しおりを挟む
震える声で病院の名前を告げ、なるべく急いで欲しいと伝えたタクシーは、安全を考慮した上での最速スピードで現地に俺を送り届けてくれた。
「匠様、こちらです」
エントランスに入ると、大久保さんが小走りで駆け寄って来る。
「お待ちしておりました。ご案内します」
彼に置いていかれないよう必死で足を動かすものの、緊張で足が強張り、上手く歩けない。
転びそうになった俺は、慌てて近くの壁に手をついた。
「匠様、大丈夫ですか」
「直人……さんの容体は……」
縋るように大久保さんの腕を掴んで声を絞り出す。
「大丈夫、大丈夫です。ただ問題があるので先にご説明させてください」
「問題?」
その時、何か言おうとした大久保さんを、すれ違う看護師が呼び止めた。
そして「ご遺族の方ですか?」と俺に向かって尋ねた。
えっ……
ご遺族?
「あ、はい。私が伺います」
大久保さんがそう答えて看護師と何か話し始めた。
ああそうか。
俺は離婚したから
もう他人なんだ。
だから遺族じゃないんだ。
……遺族?
じゃあ直人は??
言葉の意味に気付いた瞬間、俺の身体がガタガタと震え出し、声も出せないままその場に崩れ落ちる。
それに気付いた大久保さんが、慌てて俺の元に駆け寄り膝を折って言った。
「違います。亡くなったのは社長ではありません」
え?直人じゃない?
どういうこと?
でも遺族って?
「亡くなったのは芳賀優斗です」
……え?
「そんな……」
「少し座って話しませんか」
大久保さんに支えられて俺はひとまず近くのソファに座った。
そしてしばらくして落ち着いてから大久保さんに事故の詳細を聞いた。
直人は優斗の運転する車で出かけ、事故に遭ったらしい。
カーブで中央線をはみ出したトラックと正面衝突。
運転席側は大破し優斗は即死だったそうだ。
「社長の外傷は骨折だけです」
……良かった!
不謹慎ではあるが、そのことに俺はひとまず安堵する。
「問題ってそれだけですか?」
俺の問いに言いにくそうに「実は精神的な方で……」と言葉を濁す。
それはそうだろう。
大切にしていた唯一無二の人がいなくなってしまったんだから。
「匠様には私の独断でご連絡をしてしまいました。お詫びのしようもございません。社長のお父様である大旦那様にも連絡をとりましたが、おいでにはならず……私もどうしたら良いか途方に暮れまして」
要領を得ない大久保さんの話し方に得体の知れない恐怖を感じた。
「とりあえず直人と会わせてください」
「……はい」
良くない想像ばかりが頭の中でぐるぐる回る。
けれども会ってみないことには何も始まらない。
総合病院の最上階。
特別室の広いベッドに直人は横たわっていた。
大久保さんの呼びかけにも答えず静かに外を見ている。
顔の擦り傷や足のギプスが痛々しいが、確かに見たところ他に怪我はないようだ。
「直人?」
そっと名前を呼ぶ。
ハッとしたようにこちらを向いた直人は俺に向かって手を伸ばす。
俺はそっと近づいてその手を取った。
「死なせてしまった。俺のせいだ。俺が運転なんてさせなければ……」
目からどんどん涙が溢れる。
「直人、直人のせいじゃないよ」
意識もしっかりしている。
記憶もある。
想像していたよりは悪くない。
「どうしよう。死なせてしまった。大切な……ただ1人の家族だったのに」
「うん、そうだね」
この期に及んでまだ胸に痛みは走るけれど……
「大切にすると約束したのに。離婚届を出すまでに悩んでいたなんて」
……えっ?
直人は上半身をゆっくり起こし俺を抱きしめながら囁くように言う。
「匠を……匠を死なせてしまった」
え?どう言うこと?
記憶障害を起こしているのか?
これが大久保さんの言っていた問題……?
「俺は……ここにいるよ。直人」
そう言う俺に直人は泣きながらこう言った。
「優斗は優しいな。お前がいてくれて本当に良かった」
「匠様、こちらです」
エントランスに入ると、大久保さんが小走りで駆け寄って来る。
「お待ちしておりました。ご案内します」
彼に置いていかれないよう必死で足を動かすものの、緊張で足が強張り、上手く歩けない。
転びそうになった俺は、慌てて近くの壁に手をついた。
「匠様、大丈夫ですか」
「直人……さんの容体は……」
縋るように大久保さんの腕を掴んで声を絞り出す。
「大丈夫、大丈夫です。ただ問題があるので先にご説明させてください」
「問題?」
その時、何か言おうとした大久保さんを、すれ違う看護師が呼び止めた。
そして「ご遺族の方ですか?」と俺に向かって尋ねた。
えっ……
ご遺族?
「あ、はい。私が伺います」
大久保さんがそう答えて看護師と何か話し始めた。
ああそうか。
俺は離婚したから
もう他人なんだ。
だから遺族じゃないんだ。
……遺族?
じゃあ直人は??
言葉の意味に気付いた瞬間、俺の身体がガタガタと震え出し、声も出せないままその場に崩れ落ちる。
それに気付いた大久保さんが、慌てて俺の元に駆け寄り膝を折って言った。
「違います。亡くなったのは社長ではありません」
え?直人じゃない?
どういうこと?
でも遺族って?
「亡くなったのは芳賀優斗です」
……え?
「そんな……」
「少し座って話しませんか」
大久保さんに支えられて俺はひとまず近くのソファに座った。
そしてしばらくして落ち着いてから大久保さんに事故の詳細を聞いた。
直人は優斗の運転する車で出かけ、事故に遭ったらしい。
カーブで中央線をはみ出したトラックと正面衝突。
運転席側は大破し優斗は即死だったそうだ。
「社長の外傷は骨折だけです」
……良かった!
不謹慎ではあるが、そのことに俺はひとまず安堵する。
「問題ってそれだけですか?」
俺の問いに言いにくそうに「実は精神的な方で……」と言葉を濁す。
それはそうだろう。
大切にしていた唯一無二の人がいなくなってしまったんだから。
「匠様には私の独断でご連絡をしてしまいました。お詫びのしようもございません。社長のお父様である大旦那様にも連絡をとりましたが、おいでにはならず……私もどうしたら良いか途方に暮れまして」
要領を得ない大久保さんの話し方に得体の知れない恐怖を感じた。
「とりあえず直人と会わせてください」
「……はい」
良くない想像ばかりが頭の中でぐるぐる回る。
けれども会ってみないことには何も始まらない。
総合病院の最上階。
特別室の広いベッドに直人は横たわっていた。
大久保さんの呼びかけにも答えず静かに外を見ている。
顔の擦り傷や足のギプスが痛々しいが、確かに見たところ他に怪我はないようだ。
「直人?」
そっと名前を呼ぶ。
ハッとしたようにこちらを向いた直人は俺に向かって手を伸ばす。
俺はそっと近づいてその手を取った。
「死なせてしまった。俺のせいだ。俺が運転なんてさせなければ……」
目からどんどん涙が溢れる。
「直人、直人のせいじゃないよ」
意識もしっかりしている。
記憶もある。
想像していたよりは悪くない。
「どうしよう。死なせてしまった。大切な……ただ1人の家族だったのに」
「うん、そうだね」
この期に及んでまだ胸に痛みは走るけれど……
「大切にすると約束したのに。離婚届を出すまでに悩んでいたなんて」
……えっ?
直人は上半身をゆっくり起こし俺を抱きしめながら囁くように言う。
「匠を……匠を死なせてしまった」
え?どう言うこと?
記憶障害を起こしているのか?
これが大久保さんの言っていた問題……?
「俺は……ここにいるよ。直人」
そう言う俺に直人は泣きながらこう言った。
「優斗は優しいな。お前がいてくれて本当に良かった」
40
あなたにおすすめの小説
【完結済】あの日、王子の隣を去った俺は、いまもあなたを想っている
キノア9g
BL
かつて、誰よりも大切だった人と別れた――それが、すべての始まりだった。
今はただ、冒険者として任務をこなす日々。けれどある日、思いがけず「彼」と再び顔を合わせることになる。
魔法と剣が支配するリオセルト大陸。
平和を取り戻しつつあるこの世界で、心に火種を抱えたふたりが、交差する。
過去を捨てたはずの男と、捨てきれなかった男。
すれ違った時間の中に、まだ消えていない想いがある。
――これは、「終わったはずの恋」に、もう一度立ち向かう物語。
切なくも温かい、“再会”から始まるファンタジーBL。
全8話
お題『復縁/元恋人と3年後に再会/主人公は冒険者/身を引いた形』設定担当AI /c
番解除した僕等の末路【完結済・短編】
藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。
番になって数日後、「番解除」された事を悟った。
「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。
けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。
妹に奪われた婚約者は、外れの王子でした。婚約破棄された僕は真実の愛を見つけます
こたま
BL
侯爵家に産まれたオメガのミシェルは、王子と婚約していた。しかしオメガとわかった妹が、お兄様ずるいわと言って婚約者を奪ってしまう。家族にないがしろにされたことで悲嘆するミシェルであったが、辺境に匿われていたアルファの落胤王子と出会い真実の愛を育む。ハッピーエンドオメガバースです。
【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない
天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。
ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。
運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった――――
※他サイトにも掲載中
★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★
「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」
が、レジーナブックスさまより発売中です。
どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m
【完結】幼馴染から離れたい。
June
BL
隣に立つのは運命の番なんだ。
βの谷口優希にはαである幼馴染の伊賀崎朔がいる。だが、ある日の出来事をきっかけに、幼馴染以上に大切な存在だったのだと気づいてしまう。
番外編 伊賀崎朔視点もあります。
(12月:改正版)
8/16番外編出しました!!!!!
読んでくださった読者の皆様、たくさんの❤️ありがとうございます😭
1/27 1000❤️ありがとうございます😭
3/6 2000❤️ありがとうございます😭
4/29 3000❤️ありがとうございます😭
8/13 4000❤️ありがとうございます😭
お気に入り登録が500を超えているだと???!嬉しすぎますありがとうございます😭
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
運命じゃない人
万里
BL
旭は、7年間連れ添った相手から突然別れを告げられる。「運命の番に出会ったんだ」と語る彼の言葉は、旭の心を深く傷つけた。積み重ねた日々も未来の約束も、その一言で崩れ去り、番を解消される。残された部屋には彼の痕跡はなく、孤独と喪失感だけが残った。
理解しようと努めるも、涙は止まらず、食事も眠りもままならない。やがて「番に捨てられたΩは死ぬ」という言葉が頭を支配し、旭は絶望の中で自らの手首を切る。意識が遠のき、次に目覚めたのは病院のベッドの上だった。
「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。
キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ!
あらすじ
「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」
貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。
冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。
彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。
「旦那様は俺に無関心」
そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。
バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!?
「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」
怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。
えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの?
実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった!
「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」
「過保護すぎて冒険になりません!!」
Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。
すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる