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俺の番には大切な人がいる⑪
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震える声で病院の名前を告げ、なるべく急いで欲しいと伝えたタクシーは、安全を考慮した上での最速スピードで現地に俺を送り届けてくれた。
「匠様、こちらです」
エントランスに入ると、大久保さんが小走りで駆け寄って来る。
「お待ちしておりました。ご案内します」
彼に置いていかれないよう必死で足を動かすものの、緊張で足が強張り、上手く歩けない。
転びそうになった俺は、慌てて近くの壁に手をついた。
「匠様、大丈夫ですか」
「直人……さんの容体は……」
縋るように大久保さんの腕を掴んで声を絞り出す。
「大丈夫、大丈夫です。ただ問題があるので先にご説明させてください」
「問題?」
その時、何か言おうとした大久保さんを、すれ違う看護師が呼び止めた。
そして「ご遺族の方ですか?」と俺に向かって尋ねた。
えっ……
ご遺族?
「あ、はい。私が伺います」
大久保さんがそう答えて看護師と何か話し始めた。
ああそうか。
俺は離婚したから
もう他人なんだ。
だから遺族じゃないんだ。
……遺族?
じゃあ直人は??
言葉の意味に気付いた瞬間、俺の身体がガタガタと震え出し、声も出せないままその場に崩れ落ちる。
それに気付いた大久保さんが、慌てて俺の元に駆け寄り膝を折って言った。
「違います。亡くなったのは社長ではありません」
え?直人じゃない?
どういうこと?
でも遺族って?
「亡くなったのは芳賀優斗です」
……え?
「そんな……」
「少し座って話しませんか」
大久保さんに支えられて俺はひとまず近くのソファに座った。
そしてしばらくして落ち着いてから大久保さんに事故の詳細を聞いた。
直人は優斗の運転する車で出かけ、事故に遭ったらしい。
カーブで中央線をはみ出したトラックと正面衝突。
運転席側は大破し優斗は即死だったそうだ。
「社長の外傷は骨折だけです」
……良かった!
不謹慎ではあるが、そのことに俺はひとまず安堵する。
「問題ってそれだけですか?」
俺の問いに言いにくそうに「実は精神的な方で……」と言葉を濁す。
それはそうだろう。
大切にしていた唯一無二の人がいなくなってしまったんだから。
「匠様には私の独断でご連絡をしてしまいました。お詫びのしようもございません。社長のお父様である大旦那様にも連絡をとりましたが、おいでにはならず……私もどうしたら良いか途方に暮れまして」
要領を得ない大久保さんの話し方に得体の知れない恐怖を感じた。
「とりあえず直人と会わせてください」
「……はい」
良くない想像ばかりが頭の中でぐるぐる回る。
けれども会ってみないことには何も始まらない。
総合病院の最上階。
特別室の広いベッドに直人は横たわっていた。
大久保さんの呼びかけにも答えず静かに外を見ている。
顔の擦り傷や足のギプスが痛々しいが、確かに見たところ他に怪我はないようだ。
「直人?」
そっと名前を呼ぶ。
ハッとしたようにこちらを向いた直人は俺に向かって手を伸ばす。
俺はそっと近づいてその手を取った。
「死なせてしまった。俺のせいだ。俺が運転なんてさせなければ……」
目からどんどん涙が溢れる。
「直人、直人のせいじゃないよ」
意識もしっかりしている。
記憶もある。
想像していたよりは悪くない。
「どうしよう。死なせてしまった。大切な……ただ1人の家族だったのに」
「うん、そうだね」
この期に及んでまだ胸に痛みは走るけれど……
「大切にすると約束したのに。離婚届を出すまでに悩んでいたなんて」
……えっ?
直人は上半身をゆっくり起こし俺を抱きしめながら囁くように言う。
「匠を……匠を死なせてしまった」
え?どう言うこと?
記憶障害を起こしているのか?
これが大久保さんの言っていた問題……?
「俺は……ここにいるよ。直人」
そう言う俺に直人は泣きながらこう言った。
「優斗は優しいな。お前がいてくれて本当に良かった」
「匠様、こちらです」
エントランスに入ると、大久保さんが小走りで駆け寄って来る。
「お待ちしておりました。ご案内します」
彼に置いていかれないよう必死で足を動かすものの、緊張で足が強張り、上手く歩けない。
転びそうになった俺は、慌てて近くの壁に手をついた。
「匠様、大丈夫ですか」
「直人……さんの容体は……」
縋るように大久保さんの腕を掴んで声を絞り出す。
「大丈夫、大丈夫です。ただ問題があるので先にご説明させてください」
「問題?」
その時、何か言おうとした大久保さんを、すれ違う看護師が呼び止めた。
そして「ご遺族の方ですか?」と俺に向かって尋ねた。
えっ……
ご遺族?
「あ、はい。私が伺います」
大久保さんがそう答えて看護師と何か話し始めた。
ああそうか。
俺は離婚したから
もう他人なんだ。
だから遺族じゃないんだ。
……遺族?
じゃあ直人は??
言葉の意味に気付いた瞬間、俺の身体がガタガタと震え出し、声も出せないままその場に崩れ落ちる。
それに気付いた大久保さんが、慌てて俺の元に駆け寄り膝を折って言った。
「違います。亡くなったのは社長ではありません」
え?直人じゃない?
どういうこと?
でも遺族って?
「亡くなったのは芳賀優斗です」
……え?
「そんな……」
「少し座って話しませんか」
大久保さんに支えられて俺はひとまず近くのソファに座った。
そしてしばらくして落ち着いてから大久保さんに事故の詳細を聞いた。
直人は優斗の運転する車で出かけ、事故に遭ったらしい。
カーブで中央線をはみ出したトラックと正面衝突。
運転席側は大破し優斗は即死だったそうだ。
「社長の外傷は骨折だけです」
……良かった!
不謹慎ではあるが、そのことに俺はひとまず安堵する。
「問題ってそれだけですか?」
俺の問いに言いにくそうに「実は精神的な方で……」と言葉を濁す。
それはそうだろう。
大切にしていた唯一無二の人がいなくなってしまったんだから。
「匠様には私の独断でご連絡をしてしまいました。お詫びのしようもございません。社長のお父様である大旦那様にも連絡をとりましたが、おいでにはならず……私もどうしたら良いか途方に暮れまして」
要領を得ない大久保さんの話し方に得体の知れない恐怖を感じた。
「とりあえず直人と会わせてください」
「……はい」
良くない想像ばかりが頭の中でぐるぐる回る。
けれども会ってみないことには何も始まらない。
総合病院の最上階。
特別室の広いベッドに直人は横たわっていた。
大久保さんの呼びかけにも答えず静かに外を見ている。
顔の擦り傷や足のギプスが痛々しいが、確かに見たところ他に怪我はないようだ。
「直人?」
そっと名前を呼ぶ。
ハッとしたようにこちらを向いた直人は俺に向かって手を伸ばす。
俺はそっと近づいてその手を取った。
「死なせてしまった。俺のせいだ。俺が運転なんてさせなければ……」
目からどんどん涙が溢れる。
「直人、直人のせいじゃないよ」
意識もしっかりしている。
記憶もある。
想像していたよりは悪くない。
「どうしよう。死なせてしまった。大切な……ただ1人の家族だったのに」
「うん、そうだね」
この期に及んでまだ胸に痛みは走るけれど……
「大切にすると約束したのに。離婚届を出すまでに悩んでいたなんて」
……えっ?
直人は上半身をゆっくり起こし俺を抱きしめながら囁くように言う。
「匠を……匠を死なせてしまった」
え?どう言うこと?
記憶障害を起こしているのか?
これが大久保さんの言っていた問題……?
「俺は……ここにいるよ。直人」
そう言う俺に直人は泣きながらこう言った。
「優斗は優しいな。お前がいてくれて本当に良かった」
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