人質の花嫁は獣人王と恋がしたい

ivy

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ラウラの後悔

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城門を出て丸一日。
マノイ国の城に着くのは明日の朝だ。
馬車は広々として横にもなれるし最初に伝書を届けたラウラが同乗しているので盗賊に襲われても安心だ。

けれど最初は元気にあれこれ見てはしゃいでいたスウもずっと山道を馬車に揺られて疲れが出て来た。
そしてどんどん故郷が遠くなるにつれ不安も増して来る。
時折気を利かせたラウラが泉に立ち寄ったり美味しそうな果実をもいできたりして気を紛らわせてくれるがやはり気は滅入る。


「ラウラ。どうして僕が結婚を決めたか分かる?」

「分からないな。スウ王子は好奇心旺盛だと聞いていたから獣人に興味を示してくれるかとは思っていたがまさかこんなにすんなり事が運ぶと思ってなかった」

「そうだよね」

正直何度も心が折れそうになった。

「確かに楽しそうだと思ったのは本当なんだけど」

一旦言葉を切りスウは窓の外を見た。

「ニノ国はとても平和だったから今回みたいに他の国に脅かされる事があるなんて夢にも思わなかったんだよね」

「うん、それは悪かった」

「いや、それでね。今回は何とかなってもこれから先同じ事が起こるかもしれないって思ったんだ」
「それで攻め込まれて国が奪われてから他の国に嫁ぐよりは先にテオドア王と結婚しようと思ったんだ」

「どうしてテオドアと?」

「だってマノイ国は本当に豊かで強い国だから僕が婚姻関係を結んでいればニノ国が他の国に攻め込まれても助けてくれるでしょ?」

ラウラはその言葉を驚きと共に聴く。
あんなに怯えて見えたのに短い時間にそれだけ考えて決断を下すとは思ったより賢いし勇気がある。

「その通りだよ。スウ。テオドア王は君や君の国に何かあったら全力で戦ってくれる」

それを聞いてスウはニコリと笑った。

「それならいいや。でもどうせ結婚するからには王様のこと好きになって幸せになりたいと思ってる。テオドアは僕を好きになってくれるかな?」

碧く大きな瞳に光を湛えてラウラを見るスウはどこの誰よりも愛らしくラウラは微笑んで力強く頷いた。



「今夜の食事は焚き火で肉を焼こうか」

馬車の中ばかりでは退屈だろうとラウラはスウにそんな提案をしてみる。

「ほんと?」

案の定その言葉にスウは甘そうな飴色に輝く髪を揺らし嬉しそうに笑った。






マノイの城までは大きな森を抜けていく。
少し開けた所でキャンプを張り、護衛はそれぞれ僅かな休息に入った。
スウも疲れたのか馬車の中でよく眠っている。
肉が焼けるまではする事がないラウラは食の細いスウの為に薬草を取りに行く事にした。

この森は何度か来た事がある。
目星をつけた場所に生える薬草を摘み戻ろうと振り向いた途端、嫌な気配に神経が研ぎ澄まされた。

人間・・。男七人か。
ここで片付けないと厄介だな。
そう思い先制して奇襲攻撃をかける。

相手の急所を的確に抉るのは普段隠している長く鋭い爪だ。
獣人でも自分のようにほとんど人間で部分的に獣になる者とセオドアのように二足歩行で身体は人に近いけれど頭部は獣で全身は被毛に包まれている者もいる。

血が濃いほど獣の部分が多いとされ、能力も高い。
その中でも完全な獣に変化出来るセオドアは自由自在に自分の姿を操る。
獣人の中でも最も神に近いとされている稀少な種族だ。



ラウラは気配を消し音も立てず次々と男達を絶命させてゆく。
だがそれに気付いた一人が脱兎の如く逃げ出した。

後を追うラウラ。
だが異常な瞬足でラウラでも見失わないのがやっとだ。
相手は人間ではない。
恐らく獣人。
だがどんどん森の奥に入ってゆく男を見ておかしいと気付いた。

逃げるなら足場の悪い森には行かない。
そして時折振り向きラウラが付いて来るのを確認している。

しまった!罠だ!

ラウラはひらりと身体を翻し全速力でスウのいる馬車に戻るべく森の中を疾走した。







「大人しくしろ」

スウが騒がしさに目を覚ますと覗き込むように自分を見ている知らない男の顔があった。

汚れて粗末な身なりをしているが腰には大きくて野蛮な刀を下げている。

盗賊・・・。
恐怖にヒュッと喉が鳴った。

驚いて身動き出来ないスウを男は片手で軽々と抱えるとそのまま栗毛の獰猛そうな馬に乗せ、自らも背に跨り勢いよくその腹を蹴って暗闇を走り出す。

どこに連れて行かれるのか。
時間が経てば経つほど逃げるのは難しくなるだろう。
多分今が最後のチャンスだ。

スウは深く息を吸って自分を抱えている男の太い腕に思い切り噛み付いた。

「いてっ!!何しやがる!!」

男は思わず腕を振り上げその拍子にスウは馬上から放り出された。

ゆっくりと空中を舞いながら脳は必死に助かる道を模索する。
子供の頃からの思い出がまさしく走馬灯のように駆け巡る中、ふと見覚えのない景色が浮かんだ。

森の中で自分を見て泣いている男の姿。
綺麗な黒髪に褐色の肌をしているとても美しい人だがスウにはその人物にまるで心当たりが無かった。

でもそれがあまりに悲痛な表情だったのでスウの心も裂かれるように辛くなる。

あれは誰だっけ?
どうして忘れてるんだろう。


ぼんやりそう思った直後、体に衝撃を受け勢いよく地面に叩きつけられた。
だが、想像していたほどの痛みはない。
ふと見ると大きな毛足の長い生き物が身を挺してスウを受け止めてくれていた。

それは白銀に輝く大きな狼でグルグル鳴きながら鼻先をスウに擦り付け、大きな尻尾をゆるりと左右に揺らしている。

そして引き返して来た盗賊に向かってグルルと牙を剥き大きく雄叫びを上げた。

木々を揺るがすその声に馬は勿論盗賊もすっかり怯え叫びながら這う這うの体で逃げ出す。

それを見送って銀色の狼はスウから離れ山の方へ駆けて行った。

何だったんだろう。あの狼は。
僕を助けてくれたんだろうか。
そんな不思議な事があるのか?

狼が消えた山をぼんやり見ながらスウは何か大事な事を忘れている気がしていた。
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