【完結】恋人になりたかった

ivy

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ありのままの

「久しぶり」

「うん」

 本屋からの帰り、滅多に通らない遊歩道。
 こんな偶然本当にあるんだと驚いた。
 久しぶりに会った大地は、何故かすっかり痩せていて、昔の元気な面影はない。


 まだ別れてからほんの二、三年なのに。


「少し……話さないか?」

「あ、ごめん。忙しくて」

 嘘ではない。
 最近、エッセイのお仕事を貰えたので本業との両立が厳しい。
 だから週末はほとんど家に篭りきりだ。

「じゃあ、公園のベンチで、缶コーヒーを飲む時間だけ」

「……分かった」

 今の季節なら風が気持ちいいだろう。僕は頷いて、彼の後についていった。



「最近どう?」

「……まあ、色々と楽しいことも多いよ」

 ベンチに腰掛けて、コーヒーを一口飲んでから、僕はそう答えた。

「……そうか」

 大地は、少しだけ目を伏せ、言葉を続ける。

「俺さ……律に、ずっと謝りたかった」

「……どうして?」

「律は、俺だけをちゃんと見てくれてた。
 それが、どれだけ大事なことだったのか……今なら分かる」

 僕は、何も言わなかった。
 否定もしないし、肯定もしない。
 ただ、静かに聞いていた。

 少しの沈黙のあと、大地が聞く。

「……今、幸せか?」

「うん。幸せだよ」

 僕は迷わずそう答えた。
 たぶん、満面の笑みだったと思う。

 大地は一瞬、驚いたように目を見開いてから、ふっと、力を抜いた。

「……よかった」

 それだけ言って、大地は立ち上がる。

「じゃあ、俺は行く」

「うん。気をつけて」

 大地の背中が遠ざかっていくのを、僕は静かに見送った。
 何があったのかは知らない。
 けれど、大地の幸せを祈ってる。

 僕にできるのはもうそれだけだ。


 僕は残ったコーヒーを飲み干して、立ち上がった。

 そのとき、スマホが震えた。

 《今着いた。例の席、空いてるぞ》

 短いメッセージに、自然と口元が緩む。

 今の恋人は、子どもの頃から僕の不器用さも、弱さも、全部知っている人だ。

 急がなくていい。
 取り繕わなくていい。
 素のままの自分を愛してくれる人。

「……行かなきゃ」


 僕は笑顔でそう呟いて公園を後にした。



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