【完結】運命の番と別れる方法

ivy

文字の大きさ
3 / 23

3話

しおりを挟む
バイトを終えた三葉は疲れた体を引き摺るようにしてやっと辿り着いた自宅の窓を見上げ、ため息をついていた。

今日はバイト仲間が急なヒートで休まざるを得なくなりその分残業を引き受けた。

それはいい。お互い様だし自分が役に立てるならと思うくらいに三葉は今のバイト先と共に働く仲間が好きだった。

問題は自分の部屋の明かりの中、カーテンも引かず寄り添う二人の影が見えた事だ。

あの長い髪は多分いつものΩの女・・確か理佐と言ったか。
実家に帰ってやって欲しいと思うものの、β夫婦の間に生まれたαの浩太は親と折り合いが悪く一緒に暮らすようになってから一度も帰ったことはない。

この状況でワンルームに帰るのはかなり勇気がいるが、明日は朝イチで授業があるし風呂に入って疲れをとりたかったので仕方なく登りなれた階段に足をかけた。

そして鈴の代わりにわざと大きな足音を立ててドアまでたどり着く。


「ただいま!」
声も大きめだ。

それが功を奏したのか部屋のドアを開けた時はソファにふんぞり返って座る浩太の膝に理佐が座っているだけの状態だった。

まあ、刺すような理佐からの視線は痛かったけど。

「遅かったな」

そう言った浩太に残業だからと返すとそれを遮るように理佐が甘えた声でお出かけしようと囁いている。

「どこに行きたい?」
「えっとね、行きたいホテルがあるの!山の上に建ってる大きいとこ!」

二人が散らかした部屋を片付けていた三葉の手が止まった。

「ああ、あそこね。前行ったけどいいとこだったよ」
「ほんと?行きたーい!」

そこは付き合い始めて間もない頃、三葉の誕生日に浩太が予約してくれた思い出のホテルだった。

そんな幸せな頃もあったのに。


「三葉」

固まったままの三葉に声をかけた浩太は悪びれる様子もなく「金くんない?」と笑う。

「そんな・・沢山持ってないよ」

「あるだけでいいから出せよ。この前給料日だっただろ?」

部屋に置いた三葉の鞄を勝手に漁り財布からあるだけの紙幣を抜き出す。

三葉はぼんやりそれを眺めながらもうすぐ家賃の引き落としなのにと思っていた。






バース性は生まれた時に決まっている。
そしてそれは検査ですぐ判明し、それぞれのバース性に合った環境で育てられる。

人口の10%しかいないαは人の上に立つ者として高度な教育を。
その他大勢のβはそれを支え社会を回す為に幅広く汎用性の高い知識を。
αより更に少ないΩはαと番になり、αの子供を産む為の存在として。

けれどβである浩太の両親は浩太に過度な教育や極端なα崇拝の思想を与えなかった。
その代わり普通の親として大きな愛情を持って彼を育てた。
αやΩなど関係なく人として正しくあれと。

けれど成長の過程で浩太は周りのβやΩから歪められてしまった。

そしてαを敬わない両親に反発するようになった。

三葉と出会った時はまだそれでも「普通」の感覚を持っていたが大学という外部から切り離された社会の中で成功が約束されたαのおこぼれに預かろうとする者たちの手で彼はどんどん変わっていった。


耳にいいことだけをを囁く者のみをそばに置き従わない者に制裁を与える。
まるで裸の王様だと三葉は思う。

何の責任もない者たちにいいように担がれて
彼には一体何が残るのだろうと。


けれどその事に浩太自身が気付かなければ何の意味もない。
三葉が何を言ってももう浩太には響かないのだ。



二人が出ていった後の静かな部屋で三葉は毛布にくるまって床に横になった。
ベッドは彼らの様々な体液で汚れていて眠る事も出来ない。
けれど後始末をする元気は今の三葉には無かった。


何故あの幸せなままで浩太といられなかったんだろう。
番である自分が至らなかったからなのだろうか。
また彼と笑い合って過ごせる日は来るんだろうか。
今頃浩太は理佐とあの豪華なホテルで抱き合っているんだろう。

いつかの自分たちのように。





フローリングの床は冷たく硬い。




それでもあの二人の声を聞かなくていいだけ幸せだと思いながら三葉は眠りについた。














「三葉、週末一緒に家に帰らない?」

講義の後、健斗がそう言って俺を見上げた。

「そうだなあ。しばらく帰ってないもんな」
「でしょ?気分転換にもなるし母さんに会いに行こ!」

家にいても嫌な気持ちになるだけだ。
三葉は健斗に笑顔で頷いた。




家と言っても普通の家庭ではない。

三葉は出生時バース検査でΩと診断された事が理由で親に捨てられた子供だ。

αとαが番になると生まれる子供は殆どがβだ。
稀にαが生まれるがかなり確率が低くΩは生まれない。

けれどΩがαと番って産む子供は殆どがαだ。
そして稀にΩが生まれる。

そんな理由からαはΩの愛人を囲いαの子供を産ませ、そんな中で望まれず生まれたΩの子供を施設に預けるという名目で捨てるのだ。


オメガ園と呼ばれるその施設で三葉と健斗は育った。
その施設は虐待によって死に至らしめられるΩの子供を救済する為に作られた場所で預けられた時点で親との縁は完全に切れお互いに消息を掴む事は出来なくなる。

そんな場所だが職員は皆本当の家族のように親身に子供達の世話を焼いてくれるし施設長は皆からお母さんと呼ばれとても慕われていた。


三葉は健斗とお土産は何にしようと話し合い結局お菓子と母さんには小さな花束を買おうと決めた。

また貯金を崩さないといけないが母さんにはちゃんと自立して生活出来ている所を見せて安心させたい。

暗い事ばかりだった生活に少しだけ楽しみが出来て三葉は何とか今週を乗り切ろうと自分を奮い立たせた。

しおりを挟む
感想 73

あなたにおすすめの小説

夫には好きな相手がいるようです。愛されない僕は針と糸で未来を縫い直します。

伊織
BL
裕福な呉服屋の三男・桐生千尋(きりゅう ちひろ)は、行商人の家の次男・相馬誠一(そうま せいいち)と結婚した。 子どもの頃に憧れていた相手との結婚だったけれど、誠一はほとんど笑わず、冷たい態度ばかり。 ある日、千尋は誠一宛てに届いた女性からの恋文を見つけてしまう。 ――自分はただ、家からの援助目当てで選ばれただけなのか? 失望と涙の中で、千尋は気づく。 「誠一に頼らず、自分の力で生きてみたい」 針と糸を手に、幼い頃から得意だった裁縫を活かして、少しずつ自分の居場所を築き始める。 やがて町の人々に必要とされ、笑顔を取り戻していく千尋。 そんな千尋を見て、誠一の心もまた揺れ始めて――。 涙から始まる、すれ違い夫婦の再生と恋の物語。 ※本作は明治時代初期~中期をイメージしていますが、BL作品としての物語性を重視し、史実とは異なる設定や表現があります。 ※誤字脱字などお気づきの点があるかもしれませんが、温かい目で読んでいただければ嬉しいです。

【完結】それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ずっと憧れていた蓮見馨に勢いで告白してしまう。 するとまさかのOK。夢みたいな日々が始まった……はずだった。 だけど、ある出来事をきっかけに二人の関係はあっけなく終わる。 過去を忘れるために転校した凪は、もう二度と馨と会うことはないと思っていた。 ところが、ひょんなことから再会してしまう。 しかも、久しぶりに会った馨はどこか様子が違っていた。 「今度は、もう離さないから」 「お願いだから、僕にもう近づかないで…」

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

【完結】end roll.〜あなたの最期に、俺はいましたか〜

みやの
BL
ーー……俺は、本能に殺されたかった。 自分で選び、番になった恋人を事故で亡くしたオメガ・要。 残されたのは、抜け殻みたいな体と、二度と戻らない日々への悔いだけだった。 この世界には、生涯に一度だけ「本当の番」がいる―― そう信じられていても、要はもう「運命」なんて言葉を信じることができない。 亡くした番の記憶と、本能が求める現在のあいだで引き裂かれながら、 それでも生きてしまうΩの物語。 痛くて、残酷なラブストーリー。

結婚初夜に相手が舌打ちして寝室出て行こうとした

BL
十数年間続いた王国と帝国の戦争の終結と和平の形として、元敵国の皇帝と結婚することになったカイル。 実家にはもう帰ってくるなと言われるし、結婚相手は心底嫌そうに舌打ちしてくるし、マジ最悪ってところから始まる話。 オメガバースでオメガの立場が低い世界 こんなあらすじとタイトルですが、主人公が可哀そうって感じは全然ないです 強くたくましくメンタルがオリハルコンな主人公です 主人公は耐える我慢する許す許容するということがあんまり出来ない人間です 倫理観もちょっと薄いです というか、他人の事を自分と同じ人間だと思ってない部分があります ※この主人公は受けです

君に不幸あれ。

ぽぽ
BL
「全部、君のせいだから」 学校でも居場所がなく、家族に見捨てられた男子高校生の静。 生きる意味を失いかけた時に屋上で出会ったのは、太陽に眩しい青年、天輝玲だった。 静より一つ年上の玲の存在は、静の壊れかけていた心の唯一の救いだった。 静は玲のことを好きになり、静の告白をきっかけに二人は結ばれる。 しかしある日、玲の口から聞いた言葉が静の世界を一瞬で反転させる。 「好きになられるからあいつには近づかない方がいいよ。」 玲に対する感情は信頼から憎悪へと変わった。 それから十年。 静の容姿は昔の面影がないほど美しくなり、玲を惚れさせた上で捨てようとするが…

「自由に生きていい」と言われたので冒険者になりましたが、なぜか旦那様が激怒して連れ戻しに来ました。

キノア9g
BL
「君に義務は求めない」=ニート生活推奨!? ポジティブ転生者と、言葉足らずで愛が重い氷の伯爵様の、全力すれ違い新婚ラブコメディ! あらすじ 「君に求める義務はない。屋敷で自由に過ごしていい」 貧乏男爵家の次男・ルシアン(前世は男子高校生)は、政略結婚した若き天才当主・オルドリンからそう告げられた。 冷徹で無表情な旦那様の言葉を、「俺に興味がないんだな! ラッキー、衣食住保証付きのニート生活だ!」とポジティブに解釈したルシアン。 彼はこっそり屋敷を抜け出し、偽名を使って憧れの冒険者ライフを満喫し始める。 「旦那様は俺に無関心」 そう信じて、半年間ものんきに遊び回っていたルシアンだったが、ある日クエスト中に怪我をしてしまう。 バレたら怒られるかな……とビクビクしていた彼の元に現れたのは、顔面蒼白で息を切らした旦那様で――!? 「君が怪我をしたと聞いて、気が狂いそうだった……!」 怒鳴られるかと思いきや、折れるほど強く抱きしめられて困惑。 えっ、放置してたんじゃなかったの? なんでそんなに必死なの? 実は旦那様は冷徹なのではなく、ルシアンが好きすぎて「嫌われないように」と身を引いていただけの、超・奥手な心配性スパダリだった! 「君を守れるなら、森ごと消し飛ばすが?」 「過保護すぎて冒険になりません!!」 Fランク冒険者ののんきな妻(夫)×国宝級魔法使いの激重旦那様。 すれ違っていた二人が、甘々な「週末冒険者夫婦」になるまでの、勘違いと溺愛のハッピーエンドBL。

処理中です...