【完結】運命の番と別れる方法

ivy

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5話

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三葉が海の家に着いた時、既に健斗は酔っ払ってすやすやと寝息を立てていた。

「どうしたのこれ」
「弔い酒だ」

健斗から事情を聞いたであろう海はそう言って三葉にも酒の入ったグラスを寄越す。
あまりアルコールが得意では無い三葉は舐めるようにその液体を少しだけ口にした。

「つまみ持ってくる」
「いやいいよ」
「飯まだだろ?空腹だと酒が回る。母さんがお前になんか作ってたから食べてやってくれ」

海はそう言うと部屋を出て行った。



海は両親と暮らしていて、母親である咲さんが三葉達と同じ男性のΩという事もあり二人が遊びに来るととても歓迎してくれる。
父親はαで会社の役員をしているが咲さんをとても大切にしていていつも仲が良い。

Ωを下に見て本妻にするαは少ない。
けれどこんな風に幸せになれる事もあるのだと三葉はこのうちに来て初めて知ったのだ。


しばらくするとノックの音がしたので三葉は慌ててドアを開ける。
てっきり両手の塞がった海かと思ったが扉の前に居たのは意外な人物だった。

「伊織さん?!」
「やっぱり三葉くん!」

バイト先のカフェの常連である伊織さんが何故こんな所にいるのか。
三葉は驚いて目を丸くした。

「突然ごめんね。俺、海の従兄弟で今日は用事があって来てたんだけど三葉って名前の友達が遊びに来てるって聞いてもしかしてと思ってさ」

「すごい偶然ですね!」
「最近忙しくて店に行けてなかったから会いたかったんだ。三葉くんに報告があって」
「何ですか?」

三葉がそう尋ねた時、後ろから両手に皿を持った海が戻って来て中で話せと伊織に告げた。

「お邪魔します。ごめんな友達同士で飲んでるとこ」

「まあ一人はさっさと潰れてるけどな」

苦笑しながら眠る健斗の髪をそっと梳く海。

健斗もαや運命に拘らず海と付き合えば幸せになれるのにと思う。

「あ、そうだ伊織さん、報告ってなんですか?」

「そうそう、実は俺転職する事になって会社が遠くなるからもうあのカフェには行けなくなるんだ」

それは寂しいな。

「それが一つと、もう一つはお礼。
前に気になるΩの子がいるけど運命じゃなさそうだからどうしようって話したよね」

「はい」

「その子に告白してうまく行ったんだ。三葉くんのおかげだよ」

「わあ!おめでとうございます!でもどうして俺の?」

「運命だからってうまく行くわけじゃ無いんだなって。それなら今好きだと思ってる人と一緒にいたいって思ってさ。それにそのおかげで思い切って転職も出来た」

「転職?それも俺と関係が?」

「うん、実は勤めてる製薬会社でΩの抑制剤を開発してたんだけどずっと考えてた研究に本腰入れようと思って。望まない番関係を解消できる薬を作りたいんだ」

「・・すごい」

確かにそんな薬があれば救われるΩは沢山いるだろう。
遊び半分にΩを番にして捨てるような奴はまだそこらじゅうにいる。その薬があれば被害にあった人たちがもう一度幸せになるチャンスを貰えるのだ。

「すごい!伊織さん!」

「頑張るよ!・・って言っても三葉くんが使うかどうかは分からないし恐らく何十年もかかるだろうけどね」

「ははそうですね。使わないに越したことは無いんですけど」

三葉はそう言って力なく笑った。


その後は伊織も酒宴に参加し、色々な話をした。
その中には三葉と番の話も含まれており、酔った伊織は三葉の手を握りしめて泣きながら1日も早く番解消の薬を開発すると約束してくれた。

重かった気持ちが少し軽くなって闇の中に小さな光が見えた気がする。

その光はいつ消えるか分からず、またあまりに遠すぎて一生かかっても掴めないかもしれない物だけど、それでも光は光だ。
有ると無いのとでは雲泥の差がある。

こうして伊織と引き合わせてくれたのは母さんかもしれないと思い三葉は心の中で改めて大好きだった施設長に心からお礼とお別れの祈りを捧げた。













「三葉くん!ちょっと来て!」

バイト先のカフェで皿を洗っていると店長が三葉を呼ぶ声がした。

「どうしたんですか?」

手を拭きながら事務所に入ると店長がバタバタと慌てている。

「今日オーナーが来るんだって!試食して欲しい物があるからちょっと準備したいんだ。もうすぐ着くから相手しといてくれない?」

「はあ」

「三葉くんオーナーに会うの初めてでしょ?イケメンαだから楽しみにしてて」

そう言い残して店長はキッチンに急ぐ。

イケメンα・・番持ちの俺には関係ないんだけど。

イケメンαの部分に興味はないけど他のどこよりもΩを優遇してくれて働きやすい職場にしてくれてるオーナーには感謝しかないので実際に会ってお礼を言えるのは嬉しい。

三葉はソワソワと緊張しながらオーナーの到着を待った。


10分ほどして裏口のドアが開く音がし、続いて事務所の戸が開けられた。

少し距離があるはずなのにと思いながら三葉は慌てて立ち上がりドアを振り返る。

目があったその人はとても背が高くガッチリとした体を仕立ての良いスーツに包んでいた。
確かにこの足の長さであればあっという間にここまで辿り着けそうだ。


「店長は?」

「試食の準備でキッチンです。
ここで少しお待ち頂きたいとの事でした。お飲み物いかがですか?」

ぽかんとしたオーナーの表情に緊張のあまり一気に捲し立ててしまった事に気付いた三葉は恥ずかしさに顔が真っ赤になった。

それに気付いたのかオーナーは優しく微笑んで握手するために右手を差し出す。

「初めて会うな。私はこのカフェのオーナーで桜宮仁だ。よろしく」

「俺・・僕は戸田三葉です!大学生でここでバイトして一年半になりまひゅ!」


ああ噛んでしまった!

急いで差し出された手を掴むと力強く大きな暖かい手が三葉の手をすっぽりと覆った。


「君が天馬の言ってた子だな。とても真面目で気がきくと聞いている。学業との両立は大変なのに長く続けてくれてありがとう」

「そんな!お礼を言うのはこっちです。番がいても周期の安定しない俺を使って下さってありがとうございます!」

三葉が頭を下げると桜宮は驚いたように声を上げる。

「まだ若いのに番がいるのか?素晴らしいな。幸せか?」

桜宮にしてみれば他意のない世間話のつもりだったのだろう。
けれど三葉は、恩のある桜宮に嘘は言えず、さりとて初対面の相手にいいえと言うのも憚られ図らずとも桜宮の顔を黙って見つめる事になってしまった。

深く澄んだ漆黒の瞳に情の深そうな厚めの唇。
すっきりと線を描く高い鼻梁が整った顔を際立たせαの中でもとびきり血が濃く優秀なのだろうと思わせる。

「戸田くん?大丈夫か?」

「あ、すみません!」

思わず見惚れた自分に慌ててしまい更に挙動不審になった。
顔を合わせてから桜宮には何一ついいところを見せられていない。

「ところで戸田くん、君に少し聞きたいことがある」

気持ちが萎えそうな三葉に桜宮が真面目な顔でそう切り出した。

「なんでしょうか・・」

よもやクビ?こんなにも醜態を晒してしまったらそう言われてもおかしくない。


「君はオメガ園の出身と聞いた。本当か?」

「はいそうですけど」

突然出て来た予想外なセリフに面食らう。

「少し話を聞かせて欲しい。よければこの後食事でもしながらどうかな」

「分かりました」

ナンパの常套句のようなその誘いは桜宮で無ければ断っていただろう。

けれど勿論桜宮の人柄もあるがオメガ園と言うのが引っかかった。

先日訪れた時の違和感。
母さんの事故死。

それらがずっと燻っていて誰かに聞いて欲しいと思っていたのだ。

「もうすぐ上がりなので早めに片付けて来ます」

そう言う三葉に桜宮は黙って頷いた。
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