【完結】前世は犬と猫! 〜二度目の恋のやり直し〜

ivy

文字の大きさ
2 / 32

2.未来への予感

しおりを挟む
ふと目を覚ますと――
今夜も春人が、俺のベッドに入り込んでいた。
丸くなった体が俺の胸にぴたりとくっついて、耳元では小さな寝息が規則正しく響いている。

体格差があるから潰すんじゃないかといつもドキドキするんだが……いや、それより本当に可愛いな。
どうしたんだろう。獣になって本能に忠実になっちゃったのかな。

……でもいいや、もう黙っていられない。 

「……ん……何だよ、目が覚めたのか? モゾモゾすんな、鬱陶しい」

「あ、うん。ごめん」

春人は猫になってから、とてもよく寝るようになった。
“猫”の語源が“寝子”からきたって話もあるけどその通りだなあと感心する。
諸説あるらしいけど。

「……起こして、ごめんな」

「ん」

「なあ、春人」

「……なんだよ」

「俺さ……実は、ずっとおまえが好きだったんだ。人間だったときから、ずっと」

ああ、言っちゃった。きっと怒られる。
でもいいんだ。伝えることが大事だから。

春人は一瞬、動きを止めて、小さく息をついた。そして――

「……俺もだよ」

それだけ言って、また目を閉じて眠ってしまった。

ええええっ?! 俺、夢見てる……?!

「うそ! マジで? 嘘とかじゃないよな?! なあなあ春人!!」

「きゃんきゃん、うっさいな……」

「だって、これが落ち着いてられるか?! 俺たち両想いなんだぞ?!」

「あーもう! バカ犬……! 分かったからやめろ! 尻尾も振るな! 毛が飛び散る!」

「ごめんね! でも嬉しくて!」

だって“俺もだよ”って! 春人が!!
……あ、また怒られるから大人しくしなきゃ!

俺は浮つく気持ちを押し殺して、無理やりベッドに横になる。
すると、また春人が俺の腹に顔を埋めるように、眠り始めた。

「おやすみ、春人」

「……ああ」

幸せ。
これを、幸せって言うんだろう。

俺たちは人間じゃない。
種族も違う。
それでも――ようやく、二人の恋がいま、始まったんだ。



日が暮れて、縁側に柔らかな明かりが差し込んでいた。
外は虫の声。空には大きな丸い月。庭の隅に置かれた石灯籠が、ぼんやりと影を落としている。

俺は縁側に尻を下ろし、鼻先を外に向けていた。
春人はその隣で、前足をきれいに揃えて座っている。

こうして並ぶと、まっすぐに伸びた俺たちの影が、大きさの違いを際立たせて面白い。

「……気持ちいい夜だな」

「犬がそんな顔して黄昏れるな」

「いいだろ。ここからの景色、好きなんだ」

春人がちらりと俺を見る。
月明かりに照らされた横顔は、人間の頃と変わらず綺麗だった。



「あれあれ、また一緒におるんか。あんたらは、片時も離れんなあ」

おばあさんは、金色の犬と黒い猫が、縁側でぴたりと寄り添ってお月見をしているのを見て、笑った。

二匹は、いつも一緒だ。
にゃんにゃん、くんくん――まるで何かを話しているように、いつも鳴き合っている。

犬の尻尾が揺れれば、猫もしっぽの先をふわりと振る。
猫が窓辺に座れば、犬はその足元で伏せる。
息がぴったりで、見ているとほほえましくなるのだろう。

「ほんに仲のいいこと……」

いつものようにそうつぶやき、おばあさんは静かに台所へ戻った。
二匹の時間を、邪魔しないように。



「なあ、春人」

「……なんだ」

「もしさ、また別の世界で生まれ変わったら――」

一拍置いて、言葉を選ぶ。
犬と猫になって、ようやく想いを伝え合えた。
でももし、また人間に戻ったら……どうだろう。

「――そのときは、絶対に離れないようにしような」

春人は少し目を細め、夜風に耳を揺らした。

「……約束なんかしなくても、そうする」

「そっか」

思わず笑みがこぼれる。
寝転ぶ春人の柔らかい肉球に、俺の固い肉球をぷにっと合わせた。

「何すんだよ」

「んー……なんか、キスみたいだなって」

「はあ?! キモいんだよ!」

黒猫のくせに、耳の内側を赤く染めた春人が、俺の顔中を引っかく。

「いたたたた!」

「反省しろ!」

「ごめんって~!」

そのやり取りは、おばあさんが春人の威嚇する声と、俺のひんひん鳴く声に驚いて駆けつけてくるまで、続いた。



そうやって俺たちは、毎日毎日、幸せに暮らしていた。
縁側には今日も日差しがあふれ、庭では風が木々を揺らしている。
おばあさんは編み物をしながら、ちらちらと俺たちを見ては笑っていた。

「まるで兄弟みたいだねぇ……いや、それ以上かね」

春人はその言葉に耳をぴくりと動かし、俺の方をちらっと見る。

「……兄弟じゃないよな?だって俺たちは恋人だもんな、春人」

「……馬鹿。やめろ」

「ふふっ、照れちゃって」

「うるさい! もう寝るから黙れ」

ぷいっと背を向けて寝転ぶ春人。
俺はその背中に寄り添い、包み込むように春人を抱えて昼寝を始めた。



そんな生活が何年も続き、何度目かの満月の夜――。

縁側で並んで空を見上げる俺たちを、おばあさんがそっと隣で見守っていた。

どうやら俺は、難しい病気になったらしい。
それが分かってからは、おばあさんも春人も、片時も俺の側を離れなくなった。

目の前には、俺が好きだったおやつ。
そして春人が自分の餌皿から咥えて運んで来たカリカリ。
おまえ、それ大好きなやつなのに、俺にばっかり寄越すんじゃないよ。自分で食えよ。俺はもう、何も食えないんだから。

これは仕方のないこと。だから二人とも、そんなに悲しむのはやめてくれ。

「……俺は、すごく幸せだったよ、春人」

「おい! 勝手に過去形にすんな!」

春人が、俺の足にガブリと噛みつく。

「いたたたた……」

「こらクロちゃん、意地悪したらダメよ」

「ばあさん! だってこいつ……目を離したら、寝ちゃうじゃないか!」

分かってる。俺が眠って、二度と目覚めないのが怖いんだよな。
おばあちゃん、これは意地悪じゃないんだ。怒らないでやってくれ。

「くぅん……」

あ、なんだか眠くなってきた。
何でだろう。いつもと違う、抗えない眠気。

「偉かったね。よく頑張った。もう、楽になっていいんだよ」

おばあさんは泣きながら、俺の毛並みを何度も何度も撫でてくれた。

「……春人」

「なんだよ、バカ犬」

「次も、会いたい」

春人は何も言わない。
けれど、自分の柔らかい肉球と俺の固い肉球を、ぷにっと合わせてくれた。
……そっぽを向きながらだけど。

その瞬間、風がふわりと吹き抜け、月明かりがいっそう強く輝いた。
――その光は、まるで次の世界へ誘う合図のようだった。

「……俺も会いたい」

春人の鳴き声が聞こえた。
それが、さっきの返事だと気づいた時には――

俺はもう、深い深い眠りについていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖獣のお気に召し!〜追放された最弱治癒師はもふもふの聖域で冷徹騎士団長に全力で甘やかされる〜

たら昆布
BL
最強騎士団長×お人好しな努力家 それと沢山のもふもふ動物たちに愛されるお話

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

処理中です...