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4.再会
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案内された席に座り、教室をそっと見回す。
ざわざわと教科書を出したり、友達と小声でしゃべったりする声。
誰もが自然体で、ここは思ったよりずっと居心地がよさそうだった。
ふと、斜め後ろの席に目が留まる。
小柄な子が、机に顔を伏せてすぅすぅと寝息を立てていた。
制服のスカート。すらっとした細い足。長くてサラサラの黒髪が、机の上に流れている。
手元の筆箱には黒猫のキーホルダー。
……さっきは気付かなかったな……ぱっと見は、どこにでもいるような可愛い女の子。けど――
どこかで見たような、なんとも言えない引っかかりが胸に残った。
いや、違う。これは記憶じゃない。
感覚だ。
ずっと一緒にいたから、分かる。
たとえ姿が変わっていても、匂いも声もなくても――
それでも、俺は確信した。
この子は春人だ。
何の根拠もない。でも、絶対に間違いない。
「おい、岡崎は?」
前の方で、大葉先生が出席を取り始めていた。
その声に反応して、斜め後ろの子がもそっと顔を上げる。
「んー……ここです」
ちょっとだけしゃがれた低めの声。けだるそうな口調。
けど、その一言を聞いただけで――俺の背筋がぞくっと震えた。
この声。聞き間違えるはずがない。
やっぱり、やっぱり春人だった!!
俺の(心の中の)尻尾が激しく左右に揺れた。
「おまえ、それ……女装か?」
先生の呆れたような声にクラスのあちこちから小さく笑いが漏れる。
「まただよ、春人~」
「前回はメイドだったっけ」
「てか、その制服どこから調達してんの……?」
でも誰も非難するわけじゃなく、むしろ微笑ましげな空気が流れていた。
春人は、机に肘をついて頬杖をついたまま、
くぐもった声で返す。
「バイトです」
「またか……変な仕事は引き受けんなよ? 学校に差し支えない範囲でなー」
「心得てます」
そう答えて、ぱたんと再び机に顔を伏せる春人。
先生も「ま、元気そうでなにより」と苦笑して黒板に向かった。
⸻
……男、だったんだ。
心の奥から、じわじわと安堵が広がっていく。
いや、見た目は完全に女の子だし、むしろ似合ってる。
たぶん、初見だったら誰も気づかない。
でも――それでも、俺の知ってる春人だった。
声も、雰囲気も、返しの間も、全部あの頃と同じで、胸の奥がじんわり温かくなる。
(やっぱ、春人は男の方がしっくりくるな……)
思い出の中の春人と、いま斜め後ろで寝ている“彼”が、ようやく繋がった。
でも――
……バイトって、なんだ?
まさかとは思うけど、女装カフェとかじゃないよな?
というかあの制服、どこ製?
なんで学校でまで着てんの?
さりげなくちらっと斜め後ろの席を見た。
春人はまたすぅすぅ寝息を立て始めていた。
───
チャイムが鳴ると、教室は一気にざわつき始めた。
みんなが机を寄せたり、のんびりおやつを出してきたり。
誰もが自然にそこにいて、居場所を持っている感じがする。
そんな中、俺は斜め前の席をじっと見つめていた。
春人――岡崎春人。
前の時間はほとんど寝てたけど、チャイムと同時にゆっくりと顔を上げた。
改めて見ると、顔立ちは端正で肌も白い。
まつ毛は長く、ちょっと不機嫌そうに伏せられた目元はやはり猫みたいだ。
女の子にしか見えないけど、やっぱり春人は春人だった。
――今、話さなきゃ。
ドキドキする胸を押さえて、そっと声をかけた。
「……あの、春……いや、岡崎くん」
春人はちらりと俺を見て、すぐに目をそらした。
「……なんか用?」
その声には、まったく感情がなかった。
久しぶりの再会。感動のやりとり。そんな期待は、見事に砕け散った。
……そっか。
春人は、俺を覚えていないんだ。
そりゃそうか。前世の記憶があるなんて、俺みたいなの稀だろうし――
「えっと、俺、美馬タケルって言って……」
「知ってる。自己紹介聞いてたし」
ぴしゃりと切られて、言葉が止まる。
それでも何か繋がりたくて、必死で会話を探していると――
「よっ、春人。ちょっといい?」
そこへ、長身の男子生徒がやってきた。
整った顔立ち、明るめの茶髪、余裕のある笑み。
なんかもう、典型的なイケメンだ。
「ちゃんと制服着て来たぞ」と春人が呟くように言う。
「よく似合ってるよ。さすがだな。今日、例の件よろしくな」
「引き受けたからにはこなす。詳細を詳しく話せ」
「ほんと愛想ないな」
イケメン男子が笑いながら説明する。
「いやさ、上の学年の女子に粘着されちゃっててさ。今日も来るって言うから、彼女いるってことにしてかわそうと思って」
「……で、なんで俺?」
「おまえ、普通の女子より可愛いから」
その瞬間、教室がどよめいた。
「はぁ?」「ちょっとそれどういう意味?」「ふざけんなし」
女子たちのブーイングが飛ぶ中――
「……まあ、でも春人なら仕方ないかも」
「うん、正直……ちょっと納得」
「制服、似合いすぎなんだよな……」
なんだこの敗北感の共有。
そして、春人はと言えば――
憮然とした顔のまま、机に肘をついて頬杖をついている。
「……逆恨みされて、危ない目に遭ったらどうすんだよ」
思わず口を挟む俺に、春人は目線だけこちらに向けて言った。
「俺、男だから。何かされても関係ない」
さらりと、重いことを言う。
でもそれが春人なんだ。
自分のことには無頓着で、面倒は全部自分で処理する。昔からそうだった。
その時、ガラリと教室の扉が開いた。
現れたのは、化粧の濃い、髪の巻き方も盛った感じの女子。
なるほど……確かに“めんどくさい女”って感じがビシビシ伝わってくる。
「あ、来たわ。じゃ、行くぞ春人」
イケメン男子が、春人の肩をぽんと叩く。
「約束のバイト料、忘れんなよ。成功報酬で上乗せするって言ったよな」
「もちろん。助かるわー!頼んだぜ」
そう言って、イケメンは春人の肩を軽く抱いて、ズンズンと教室の外へ歩いていく。
春人は相変わらず、面倒くさそうな顔のまま、なすがままに連れていかれた。
本当に大丈夫なのかよ……。
俺は――その背中を、見送りながら不安でいっぱいになっていた。
ざわざわと教科書を出したり、友達と小声でしゃべったりする声。
誰もが自然体で、ここは思ったよりずっと居心地がよさそうだった。
ふと、斜め後ろの席に目が留まる。
小柄な子が、机に顔を伏せてすぅすぅと寝息を立てていた。
制服のスカート。すらっとした細い足。長くてサラサラの黒髪が、机の上に流れている。
手元の筆箱には黒猫のキーホルダー。
……さっきは気付かなかったな……ぱっと見は、どこにでもいるような可愛い女の子。けど――
どこかで見たような、なんとも言えない引っかかりが胸に残った。
いや、違う。これは記憶じゃない。
感覚だ。
ずっと一緒にいたから、分かる。
たとえ姿が変わっていても、匂いも声もなくても――
それでも、俺は確信した。
この子は春人だ。
何の根拠もない。でも、絶対に間違いない。
「おい、岡崎は?」
前の方で、大葉先生が出席を取り始めていた。
その声に反応して、斜め後ろの子がもそっと顔を上げる。
「んー……ここです」
ちょっとだけしゃがれた低めの声。けだるそうな口調。
けど、その一言を聞いただけで――俺の背筋がぞくっと震えた。
この声。聞き間違えるはずがない。
やっぱり、やっぱり春人だった!!
俺の(心の中の)尻尾が激しく左右に揺れた。
「おまえ、それ……女装か?」
先生の呆れたような声にクラスのあちこちから小さく笑いが漏れる。
「まただよ、春人~」
「前回はメイドだったっけ」
「てか、その制服どこから調達してんの……?」
でも誰も非難するわけじゃなく、むしろ微笑ましげな空気が流れていた。
春人は、机に肘をついて頬杖をついたまま、
くぐもった声で返す。
「バイトです」
「またか……変な仕事は引き受けんなよ? 学校に差し支えない範囲でなー」
「心得てます」
そう答えて、ぱたんと再び机に顔を伏せる春人。
先生も「ま、元気そうでなにより」と苦笑して黒板に向かった。
⸻
……男、だったんだ。
心の奥から、じわじわと安堵が広がっていく。
いや、見た目は完全に女の子だし、むしろ似合ってる。
たぶん、初見だったら誰も気づかない。
でも――それでも、俺の知ってる春人だった。
声も、雰囲気も、返しの間も、全部あの頃と同じで、胸の奥がじんわり温かくなる。
(やっぱ、春人は男の方がしっくりくるな……)
思い出の中の春人と、いま斜め後ろで寝ている“彼”が、ようやく繋がった。
でも――
……バイトって、なんだ?
まさかとは思うけど、女装カフェとかじゃないよな?
というかあの制服、どこ製?
なんで学校でまで着てんの?
さりげなくちらっと斜め後ろの席を見た。
春人はまたすぅすぅ寝息を立て始めていた。
───
チャイムが鳴ると、教室は一気にざわつき始めた。
みんなが机を寄せたり、のんびりおやつを出してきたり。
誰もが自然にそこにいて、居場所を持っている感じがする。
そんな中、俺は斜め前の席をじっと見つめていた。
春人――岡崎春人。
前の時間はほとんど寝てたけど、チャイムと同時にゆっくりと顔を上げた。
改めて見ると、顔立ちは端正で肌も白い。
まつ毛は長く、ちょっと不機嫌そうに伏せられた目元はやはり猫みたいだ。
女の子にしか見えないけど、やっぱり春人は春人だった。
――今、話さなきゃ。
ドキドキする胸を押さえて、そっと声をかけた。
「……あの、春……いや、岡崎くん」
春人はちらりと俺を見て、すぐに目をそらした。
「……なんか用?」
その声には、まったく感情がなかった。
久しぶりの再会。感動のやりとり。そんな期待は、見事に砕け散った。
……そっか。
春人は、俺を覚えていないんだ。
そりゃそうか。前世の記憶があるなんて、俺みたいなの稀だろうし――
「えっと、俺、美馬タケルって言って……」
「知ってる。自己紹介聞いてたし」
ぴしゃりと切られて、言葉が止まる。
それでも何か繋がりたくて、必死で会話を探していると――
「よっ、春人。ちょっといい?」
そこへ、長身の男子生徒がやってきた。
整った顔立ち、明るめの茶髪、余裕のある笑み。
なんかもう、典型的なイケメンだ。
「ちゃんと制服着て来たぞ」と春人が呟くように言う。
「よく似合ってるよ。さすがだな。今日、例の件よろしくな」
「引き受けたからにはこなす。詳細を詳しく話せ」
「ほんと愛想ないな」
イケメン男子が笑いながら説明する。
「いやさ、上の学年の女子に粘着されちゃっててさ。今日も来るって言うから、彼女いるってことにしてかわそうと思って」
「……で、なんで俺?」
「おまえ、普通の女子より可愛いから」
その瞬間、教室がどよめいた。
「はぁ?」「ちょっとそれどういう意味?」「ふざけんなし」
女子たちのブーイングが飛ぶ中――
「……まあ、でも春人なら仕方ないかも」
「うん、正直……ちょっと納得」
「制服、似合いすぎなんだよな……」
なんだこの敗北感の共有。
そして、春人はと言えば――
憮然とした顔のまま、机に肘をついて頬杖をついている。
「……逆恨みされて、危ない目に遭ったらどうすんだよ」
思わず口を挟む俺に、春人は目線だけこちらに向けて言った。
「俺、男だから。何かされても関係ない」
さらりと、重いことを言う。
でもそれが春人なんだ。
自分のことには無頓着で、面倒は全部自分で処理する。昔からそうだった。
その時、ガラリと教室の扉が開いた。
現れたのは、化粧の濃い、髪の巻き方も盛った感じの女子。
なるほど……確かに“めんどくさい女”って感じがビシビシ伝わってくる。
「あ、来たわ。じゃ、行くぞ春人」
イケメン男子が、春人の肩をぽんと叩く。
「約束のバイト料、忘れんなよ。成功報酬で上乗せするって言ったよな」
「もちろん。助かるわー!頼んだぜ」
そう言って、イケメンは春人の肩を軽く抱いて、ズンズンと教室の外へ歩いていく。
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