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8.一人になりたい
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文化祭が終わった翌日、俺は熱を出した。
風邪……ってことにしておくけど、たぶん違う。
体の芯がジンジン痛くて、何も食べる気がしなかった。
布団の中で天井を見つめてると、あの顔が何度も頭に浮かぶ。
春人が、麻央に向かって微笑んだ、あの表情。
――あれが答えだったんだな。
今さらだけど、それを突きつけられた気がして胸が痛んだ。
最初から、俺の出る幕なんてなかった。
春人が好きなのは、麻央。
ただ、それだけのこと。
前世で縁があったからって、それがずっと続くなんて保証はない。
今世は、たまたま縁がなかった。それだけの話。
……そのはずなのに。
目を閉じると、あの笑顔が頭から離れない。
胸がギュッと締めつけられて、息をするのも苦しくなる。
まったく……情けねぇな、俺。
人間て難しい。
夕方には母さんが帰ってくる。そしたら気も紛れるだろう。誰にも見られない今のうちに、布団に潜って泣いておこう。
そう思っていた矢先、スマホが鳴った。
麻央とケイからお見舞いのメッセージだ。
「大丈夫?」「水分ちゃんととってる?」「プリン買ってこうか?」――
ふたりとも、本当に優しい。
でも、その中に春人の名前はなかった。
……まあ、そうだよな。
春人は、そういうのするタイプじゃないし。
俺のことなんか、気にしてるわけないよな。
でも――
ほんの、ほんの少しだけ期待してた。
「大丈夫か?」って、一言くらい……来るんじゃないかって。
バカだな、俺。
……ほんと、バカだ。
俺は、春人のことが、本当に好きだったんだ。
ただの惰性とか前世がどうとか、そんなんじゃない。もっと深くて、重くて、どうしようもないくらい。
だからこそ、このまま縁が切れるほうが、何倍もつらい。
だったら──ふたりを応援しよう。
春人が麻央を見つめていた、あの目は、本気だった。だったら俺がするべきことは、決まってるじゃないか。
「……頑張れよ、春人」
そして、頑張れよ、俺。
⸻
翌日、熱が下がって学校に行った。
麻央が俺を見つけて、心配そうに駆け寄ってきた。
「タケル、大丈夫!? 急だったから心配したよ!」
「いやー、一晩寝たらケロッと治ったわ。てかさ、春人からは連絡来なかったんだぜ? ひどくない?」
冗談っぽく笑ってみせる。
それなのに、春人が真顔でポカンとしてこっちを見た。
「……俺、お前の連絡先、知らねーし」
「え?」
いや、前に教えたよな?
麻央やタケルと交換する時にさ。
……さては何も聞いてなかったのか?
「つーか……苗字も知らねーし。なんかみんな“タケル”って呼んでたから、俺もそう呼んでただけ」
「………………は?」
ちょっと待て。
俺の苗字も知らないって、マジかよ……。
「な? こいつ最低だろ?」
「本当だわ! 春人ひどい!」
「え、いや……そんな言われても……」
春人は口を尖らせて、困った顔で目をそらした。
……そうだよな、俺じゃなくて、麻央に責められる方が嫌なんだよな。
……なにが「名前で呼ばれて嬉しい」だよ。
なにが「一緒に昼ごはん食べられた」だよ。
全部、俺の勘違いだった。
名前で呼ばれてたのは、仲が良かったからでも、特別だったからでもない。
ただ、苗字を知らなかっただけ――それだけのこと。
俺の気持ちなんて、何ひとつ届いてなかった。
……いや、もしかしたら、存在すらちゃんと認識されてなかったのかもしれない。
――ああ、やべぇ。これはちょっと……無理かも。
「応援しよう」って決めたばかりの決意が、バカみたいに脆く崩れそうになった。
このままじゃ、教室で泣く。
みっともない。絶対にイヤだ。
「俺、ちょっとトイレ」
「え? もう授業始まるわよ?」
麻央の言葉に、手を振るだけで返事して、俺は教室を飛び出した。
……ほんとバカだな、俺。
多分昨日の体調不良がまだ回復してないからに違いない。
トイレに向かう途中、気合を入れるために思いきって両頬をバチンと叩いた。
思ったより大きな音がして、すれ違ったやつが振り向く。
……誰もいないとこ、行きてぇな。
あ、そうだ……屋上、行こう。
あそこなら、今の時間は誰もいないはず。
一人になって、落ち着こう。
階段を駆け上がって、屋上のドアを押す。
鍵は壊れたままだったからすんなりと開いた。
外に出た瞬間、秋の風が肌を切るように吹き抜けて、体温を奪っていく。
「……はあ……」
俺は、柵にもたれかかりながら、もう一度だけ、大きくため息をついた。
風邪……ってことにしておくけど、たぶん違う。
体の芯がジンジン痛くて、何も食べる気がしなかった。
布団の中で天井を見つめてると、あの顔が何度も頭に浮かぶ。
春人が、麻央に向かって微笑んだ、あの表情。
――あれが答えだったんだな。
今さらだけど、それを突きつけられた気がして胸が痛んだ。
最初から、俺の出る幕なんてなかった。
春人が好きなのは、麻央。
ただ、それだけのこと。
前世で縁があったからって、それがずっと続くなんて保証はない。
今世は、たまたま縁がなかった。それだけの話。
……そのはずなのに。
目を閉じると、あの笑顔が頭から離れない。
胸がギュッと締めつけられて、息をするのも苦しくなる。
まったく……情けねぇな、俺。
人間て難しい。
夕方には母さんが帰ってくる。そしたら気も紛れるだろう。誰にも見られない今のうちに、布団に潜って泣いておこう。
そう思っていた矢先、スマホが鳴った。
麻央とケイからお見舞いのメッセージだ。
「大丈夫?」「水分ちゃんととってる?」「プリン買ってこうか?」――
ふたりとも、本当に優しい。
でも、その中に春人の名前はなかった。
……まあ、そうだよな。
春人は、そういうのするタイプじゃないし。
俺のことなんか、気にしてるわけないよな。
でも――
ほんの、ほんの少しだけ期待してた。
「大丈夫か?」って、一言くらい……来るんじゃないかって。
バカだな、俺。
……ほんと、バカだ。
俺は、春人のことが、本当に好きだったんだ。
ただの惰性とか前世がどうとか、そんなんじゃない。もっと深くて、重くて、どうしようもないくらい。
だからこそ、このまま縁が切れるほうが、何倍もつらい。
だったら──ふたりを応援しよう。
春人が麻央を見つめていた、あの目は、本気だった。だったら俺がするべきことは、決まってるじゃないか。
「……頑張れよ、春人」
そして、頑張れよ、俺。
⸻
翌日、熱が下がって学校に行った。
麻央が俺を見つけて、心配そうに駆け寄ってきた。
「タケル、大丈夫!? 急だったから心配したよ!」
「いやー、一晩寝たらケロッと治ったわ。てかさ、春人からは連絡来なかったんだぜ? ひどくない?」
冗談っぽく笑ってみせる。
それなのに、春人が真顔でポカンとしてこっちを見た。
「……俺、お前の連絡先、知らねーし」
「え?」
いや、前に教えたよな?
麻央やタケルと交換する時にさ。
……さては何も聞いてなかったのか?
「つーか……苗字も知らねーし。なんかみんな“タケル”って呼んでたから、俺もそう呼んでただけ」
「………………は?」
ちょっと待て。
俺の苗字も知らないって、マジかよ……。
「な? こいつ最低だろ?」
「本当だわ! 春人ひどい!」
「え、いや……そんな言われても……」
春人は口を尖らせて、困った顔で目をそらした。
……そうだよな、俺じゃなくて、麻央に責められる方が嫌なんだよな。
……なにが「名前で呼ばれて嬉しい」だよ。
なにが「一緒に昼ごはん食べられた」だよ。
全部、俺の勘違いだった。
名前で呼ばれてたのは、仲が良かったからでも、特別だったからでもない。
ただ、苗字を知らなかっただけ――それだけのこと。
俺の気持ちなんて、何ひとつ届いてなかった。
……いや、もしかしたら、存在すらちゃんと認識されてなかったのかもしれない。
――ああ、やべぇ。これはちょっと……無理かも。
「応援しよう」って決めたばかりの決意が、バカみたいに脆く崩れそうになった。
このままじゃ、教室で泣く。
みっともない。絶対にイヤだ。
「俺、ちょっとトイレ」
「え? もう授業始まるわよ?」
麻央の言葉に、手を振るだけで返事して、俺は教室を飛び出した。
……ほんとバカだな、俺。
多分昨日の体調不良がまだ回復してないからに違いない。
トイレに向かう途中、気合を入れるために思いきって両頬をバチンと叩いた。
思ったより大きな音がして、すれ違ったやつが振り向く。
……誰もいないとこ、行きてぇな。
あ、そうだ……屋上、行こう。
あそこなら、今の時間は誰もいないはず。
一人になって、落ち着こう。
階段を駆け上がって、屋上のドアを押す。
鍵は壊れたままだったからすんなりと開いた。
外に出た瞬間、秋の風が肌を切るように吹き抜けて、体温を奪っていく。
「……はあ……」
俺は、柵にもたれかかりながら、もう一度だけ、大きくため息をついた。
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