【完結】前世は犬と猫! 〜二度目の恋のやり直し〜

ivy

文字の大きさ
9 / 32

9.チョコクロは涙の味

しおりを挟む
──やっぱ、ひとりは楽だ。
誰も来ないし、誰も見ない。
泣いてたってバレないし、弱い自分を隠さなくていい。

そのときだった。

「いた」

ドアがゆっくり開いて、誰かが側に来る足音がした。

振り向かなくてもわかる。春人だ。

「……どうかしたのか?」

出来るだけいつも通りに聞こえるように尋ねた俺に、春人は少しだけ間を置いて返した。

「……お前、授業始まっても戻んねぇから」

「──どうせ麻央に言われたんだろ?」

春人の足が止まる。

「ちげぇよ!」

図星だ。頼むからもう少し上手く隠してくれ。あれだけ普段無表情なくせに、麻央のことになるとどんだけポンコツになるんだよ。

「じゃあ、なんで来たんだよ?サボろうと思ってたのに邪魔すんなよー」

なるべく軽く、俺の傷は見せないように。そう思いながら春人に笑って見せる。

「……なんか分かんねーけど、とりあえず戻ろうぜ」

「分かんねーならほっとけよ。心配すんな、別にお前は悪くないよ」

そう、悪いのは勘違いして期待した俺だ。

「でも……」

「なんだよー、いつも人のことなんて構わねーのに」

揶揄うようにそう言うと、春人はムッとしたように黙り込んだ。

麻央は春人にとって必要な人なんだろう。
それが俺であればと胸の片隅でちらりと思ったが、そんなことを考えたところでどうにもならない。

「……もういいから戻れよ、授業始まってるし」

「でも、お前が──」

ようやく顔を上げると、春人はそこで立ち尽くしていた。何か言いたげに、でも言葉が見つからないみたいに口を噤んでいる。

そのとき、ドアが再び開いた。

「──ったく、まーた揉めてんのかよ、お前ら」

ケイだった。

「ケイ……」

「タケル、ちょっと俺と話そ。春人、お前は戻れ」

ケイは春人の肩を軽く叩く。

春人はしばらく俺たちを交互に見やり、その後、何も言わずにドアの向こうへ消えていった。

ドアの音が閉まると、ケイは隣に座って、俺の背中をポンと叩いた。

「泣けよ。俺が見ててやるから」

「は?泣くわけないだろ。なんで俺が」

けれど、その言葉が合図だったかのように
俺の目から涙がこぼれた。

「……っ、くそっ!」

情けなくて、悔しくて、どうしようもなくて。
顔なんて見せられないから、両腕で覆いながら、声を押し殺して泣いた。

ケイは何も言わず、ただ横でじっと座っていてくれた。
スマホも見ないし、変に慰めようともしない。
それが逆に、すごくありがたかった。

しばらくして、ようやく落ち着いてきた俺に、ケイは静かに言った。

「……俺も、知ってるよ。その気持ち」

「え?」

「春人を好きなんだろ?」

俺は顔を上げた。
ケイは空を見上げたまま、ふっと笑った。

「俺もさ、気づいたらあいつを目で追ってたんだよねぇ。無愛想だし、無口だし、何考えてんのか分かんねーやつなのに。……でも、なんか惹かれるんだよな。あの自由でわがままな猫みたいなとこ」

「……うん」

「んで、気づいたら、麻央のこと見てる春人の顔に、すげー嫉妬してんの。……あんな顔、俺には見せたことないのにってさ」

俺はハッとした。
こいつも気づいてたのか。

「タケルさ、お前、ちゃんとしてるよな。……応援しようって決めたんだろ?」

「……うん。でも……ダメだな、全然。ちょっとした一言で、すぐグラグラする」

「当たり前だろ。好きなんだもん。そんくらい動揺して当然」

ケイの声は優しくて、どこか自嘲が混じっていた。

「もう行こ。授業なんてどうでもいいけど、腹減ったろ?パンくらい買ってやるよ」

「……それ、慰めになってんのか?」

「なるわ。甘いもん食えば、なんとかなるって昔から決まってんだよ」

俺は笑いながら差し出されたその手を取った。
ヒヤリとした夏の終わりの風の中で、ほんの少し、心があたたまるのを感じた。


───

「じゃあ早速行きますか」

そう言ってケイが連れて行ってくれたのは、学校から歩いて15分ほどの場所にある、古びたパン屋だった。
商店街の外れにあって、店構えは地味だけど、焼きたての香りにやたらとそそられた。

「ここ、知ってる?」

「……いや、知らない」

「だよな。ここ小学生のときから通ってんだけどさ、チョコクロワッサンが神だから、騙されたと思って食え」

店の奥から出てきたおばちゃんが、ケイの顔を見るなり満面の笑みを浮かべた。

「あらー!ケイくん久しぶりじゃないの。今日はお友達も?」

「ちょっとサボってきた」

「まあまあ、若いっていいわねえ。チョコクロ焼きたてよ」

「やったー」

俺たちはチョコクロとクリームパン、それにメロンパンまで買い込んで店を出た。
そして公園のベンチで鳩に圧をかけられながらそれらを食す。

「なあ、タケル」

チョコクロをかじりながらケイが言った。

「めちゃくちゃ目が腫れてんぞ」

「え?マジで?」

「……ああ。ドン引き」

俺が肩を落とすと、ケイはくくっと笑った。

「でも、そんだけ本気だったってことだろ。忘れられなくてもいいんじゃねーの。そっから先、どうするかは……まあ、明日考えりゃいいさ」

「……そうだな。今日くらい、いいよな」

「おう」

パンをかじりながら、しばし沈黙。

……と、ここで俺のスマホがブルブルと震えた。

「うわ、やっべ。麻央から鬼電来てた」

「俺も」

通知欄には【着信18件】の文字があった。

「やばい、心配されてんな……」

「でも、さっきはほんと無理だったし」

「うん、今日は許して」

お互い笑いながら、画面を伏せてベンチにスマホを置く。

そしてどちらともなく、空を見上げた。

秋の空は高くて、やけに青くて、少しだけ冷たかった。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖獣のお気に召し!〜追放された最弱治癒師はもふもふの聖域で冷徹騎士団長に全力で甘やかされる〜

たら昆布
BL
最強騎士団長×お人好しな努力家 それと沢山のもふもふ動物たちに愛されるお話

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

処理中です...