【完結】前世は犬と猫! 〜二度目の恋のやり直し〜

ivy

文字の大きさ
10 / 32

10.週末

しおりを挟む
教室の空気は、何事もなかったかのように、いつも通りだった。
俺は、いつもの席に座っている春人のところへ向かう。

相変わらず、机に突っ伏して寝てるけど、もう慣れたもんだ。

……ほんとこいつの心臓は毛が生えてるよな。しかも剛毛。よくもまあ、こんなマイペースで生きてられるもんだ。

「おい、春人。起きろ」

「……ん? なんだ、タケルか」

昨日までは特別だった“俺の名前”。
その響きは同じなのに、俺の中で何かが変わったのはもう仕方ない。

「昨日、変な空気にして悪かったな。……なんか、ちょっと熱が残ってたっぽくてさ。体調悪かったんだ」

できるだけ明るい声でそう言って、俺は精一杯の笑顔を見せる。

「もう大丈夫だから。気にすんなよ。……って、言わなくても、お前が俺のこと気にするわけないかー。あはは」

春人の目が、少しだけ驚いたように丸くなった。

「じゃ、そゆことで」

軽く手を振って、俺は自分の席へ戻った。

心の中は、不思議なほど静かだった。
どこか吹っ切れた感じで、春人を見ても、昨日までのような胸の痛みは、ほとんどなかった。

……うん、俺は俺でちゃんと前に進める。
そう思えた。

それだけで、十分だった。



文化祭が終わってからの数日間、俺たちは何もなかったかのように過ごしていた。

春人も、麻央も、ケイも、いつも通り。
もちろん俺も。

ちゃんと笑って、ちゃんと会話して、ちゃんと輪の中にいるふりをした。

最初は少しだけきつかった。
でも、慣れてくると、その“ふり”もだんだん板についてきた。

そんなある日、ふと気がついた。

春人は……たぶん、麻央と付き合い始めたんじゃないかな。


放課後に二人で帰ってるのを見かけることが増えたし、この前なんて、お揃いのキーホルダーまで付けてた。

ケイは俺のことをちょっと気にしてるっぽかったけど、何も言ってこなかった。

ケイだって、春人のことが好きなのに……
自分の気持ちよりも、俺を気遣ってくれるその優しさが、すごくありがたかった。


そんなこともあって、俺とケイは自然と二人でつるむことが多くなった。
今日も今日とて、ケイに付き合っておしゃれなブティックを巡っている。

──せっかくの日曜だってのに。

「なんだよ、そのつまんなそうな顔」

「つまんないわけじゃないけどな……お前といると、女子の視線が痛いんだよ」

毎日一緒にいると忘れがちになるけど、ケイは学校一のイケメンで、間違いなく一番のモテ男だ。

「それなのに春人を好きになるなんて。ほんと、残念イケメンってお前のことだな」

「お前にだけは言われたくないわ」

「それな」

ケイは笑いながら次々に試着する服を選び始める。
俺はそれを眺めていた。

散々街を歩き回って腹が減った俺たちは、駅前のファストフード店でハンバーガーを食うことにした。
春人がバイトしてる店とは競合のライバルチェーンだけど、なんとなく今日はこっちに足が向いた。たまには違う味もいい。

「お前、ポテト食わないならもらうぞ」

「ああ、いいよ。てかお前、それ何個目だよ……」

ケイはバーガー二つにナゲット、ポテトまで平らげていた。
その細い体のどこに入ってんだよ、マジで。

「育ち盛りなんで」

「それ以上デカくなんのかよ」

俺もかなりタッパがデカいが、ケイも負けてない。
とはいえ、俺とは足の長さや顔の大きさなんかがまるで違うんだけど。

だが、こうして気を抜ける時間を過ごしてると、心が穏やかになる。春人のことを忘れたわけじゃない。
でも、ケイといると、少しだけ心が軽くなるのだ。

ふと、ケイがポテトを飲み込んでから、ぽつりと口を開いた。

「なあ、前に俺が春人にバイト頼んだの、覚えてる?」

「ああ……彼女代行のやつな」

そのせいで春人が先輩に平手打ちされたんだ。
また絡んでこないかと気を張ってたけど、間もなくその先輩がなんかやらかして退学になったって聞いて、正直ホッとした。

「お前あれ、俺が本当にうざい先輩から逃げたくて頼んだと思ってるだろ」

「え?違うのか?」

「……違わないけど、それだけじゃなかった」

ケイは少し真面目な顔になって、窓の外に目をやる。

「春人が昼夜問わず働いてたからさ……少しでも助けになるかなって思って」

「……そうだな」

俺は、前にパンを断られたときのことを思い出していた。

「俺、金持ちなんだ」

「は?自慢かよ」

わざと笑いながら煽る。
実際、こいつが買う服の値段は俺とは桁が違う。けど、ケイの声に自慢のニュアンスはなかった。
むしろ、それを自分でも嫌ってるような、そんな響きだった。

「実家が太くて、本人はモデル級のスタイルのイケメン。羨ましい?」

……こいつ、わざとだな?

肘をついて俺の顔を見てくるケイは、なんかの雑誌の表紙みたいだ。

「……ああ、羨ましくて死にそうだわー」

「そうだろ?……でもさ、俺が自分で手に入れたもんなんて、何ひとつないんだよな」

「……は?どうした?顔面国宝」

「あはは!」

ケイはカップの中の氷をかき混ぜながら笑う。けど、その笑い声はどこか泣いているようにも聞こえた。

「うちは金はあるけど、家族って感じじゃない。親は家にいないし、飯は出来合い。小遣いはカードで自由に使えるけど……誰にも、必要とされてる気がしないんだよ」

「……」

「だからさ。誰かが困ってると手を貸したくなるんだ。こんな俺でも誰かの役に立てるって思いたいだけなんだけどな、きっと」

「……寂しいんだな」

「……なんでも持ってる奴に言うセリフじゃねーよ」

「なんでも持ってるってのはさ、自分の欲しいものを手にしてる奴のことを言うんだよ。お前は違うだろ?」

「……」

驚いた顔でこっちを見てきたケイは、次の瞬間、ため息をついて頭を抱えた。

「あー、俺、お前を好きになれたらよかったのにな」

「あー、ほんとだな。そしたら俺、玉の輿に乗れたのに。二人でお前の実家、乗っ取ろうぜ」

「それ最高だな」

俺たちは顔を見合わせて、声を上げて笑った。
ケイの笑顔が、やっと心の底からのものになった気がした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖獣のお気に召し!〜追放された最弱治癒師はもふもふの聖域で冷徹騎士団長に全力で甘やかされる〜

たら昆布
BL
最強騎士団長×お人好しな努力家 それと沢山のもふもふ動物たちに愛されるお話

番を拒み続けるΩと、執着を隠しきれないαが同じ学園で再会したら逃げ場がなくなった話 ――優等生αの過保護な束縛は恋か支配か

雪兎
BL
第二性が存在する世界。 Ωであることを隠し、平穏な学園生活を送ろうと決めていた転校生・湊。 しかし入学初日、彼の前に現れたのは―― 幼い頃に「番になろう」と言ってきた幼馴染のα・蓮だった。 成績優秀、容姿端麗、生徒から絶大な信頼を集める完璧なα。 だが湊だけが知っている。 彼が異常なほど執着深いことを。 「大丈夫、全部管理してあげる」 「君が困らないようにしてるだけだよ」 座席、時間割、交友関係、体調管理。 いつの間にか整えられていく環境。 逃げ場のない距離。 番を拒みたいΩと、手放す気のないα。 これは保護か、それとも束縛か。 閉じた学園の中で、二人の関係は静かに歪み始める――。

転生エルフの天才エンジニア、静かに暮らしたいのに騎士団長に捕まる〜俺の鉄壁理論は彼の溺愛パッチでバグだらけです〜

たら昆布
BL
転生したらエルフだった社畜エンジニアがのんびり森で暮らす話 騎士団長とのじれったい不器用BL

【完結】君を上手に振る方法

社菘
BL
「んー、じゃあ俺と付き合う?」 「………はいっ?」 ひょんなことから、入学して早々距離感バグな見知らぬ先輩にそう言われた。 スクールカーストの上位というより、もはや王座にいるような学園のアイドルは『告白を断る理由が面倒だから、付き合っている人がほしい』のだそう。 お互いに利害が一致していたので、付き合ってみたのだが―― 「……だめだ。僕、先輩のことを本気で……」 偽物の恋人から始まった不思議な関係。 デートはしたことないのに、キスだけが上手くなる。 この関係って、一体なに? 「……宇佐美くん。俺のこと、上手に振ってね」 年下うさぎ顔純粋男子(高1)×精神的優位美人男子(高3)の甘酸っぱくじれったい、少しだけ切ない恋の話。 ✧毎日2回更新中!ボーナスタイムに更新予定✧ ✧お気に入り登録・各話♡・エール📣作者大歓喜します✧

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

追放されたおまけの聖女♂は冷徹王太子の腕の中から離してもらえない〜今さら戻れと言われても、もうこの人の魔力しか受け付けません!〜

たら昆布
BL
聖女のおまけで召喚されたと思われて追放された不憫受けが拾われて愛される話

後宮に咲く美しき寵后

不来方しい
BL
フィリの故郷であるルロ国では、真っ白な肌に金色の髪を持つ人間は魔女の生まれ変わりだと伝えられていた。生まれた者は民衆の前で焚刑に処し、こうして人々の安心を得る一方、犠牲を当たり前のように受け入れている国だった。 フィリもまた雪のような肌と金髪を持って生まれ、来るべきときに備え、地下の部屋で閉じ込められて生活をしていた。第四王子として生まれても、処刑への道は免れられなかった。 そんなフィリの元に、縁談の話が舞い込んでくる。 縁談の相手はファルーハ王国の第三王子であるヴァシリス。顔も名前も知らない王子との結婚の話は、同性婚に偏見があるルロ国にとって、フィリはさらに肩身の狭い思いをする。 ファルーハ王国は砂漠地帯にある王国であり、雪国であるルロ国とは真逆だ。縁談などフィリ信じず、ついにそのときが来たと諦めの境地に至った。 情報がほとんどないファルーハ王国へ向かうと、国を上げて祝福する民衆に触れ、処刑場へ向かうものだとばかり思っていたフィリは困惑する。 狼狽するフィリの元へ現れたのは、浅黒い肌と黒髪、サファイア色の瞳を持つヴァシリスだった。彼はまだ成人にはあと二年早い子供であり、未成年と婚姻の儀を行うのかと不意を突かれた。 縁談の持ち込みから婚儀までが早く、しかも相手は未成年。そこには第二王子であるジャミルの思惑が隠されていて──。

マリオネットが、糸を断つ時。

せんぷう
BL
 異世界に転生したが、かなり不遇な第二の人生待ったなし。  オレの前世は地球は日本国、先進国の裕福な場所に産まれたおかげで何不自由なく育った。確かその終わりは何かの事故だった気がするが、よく覚えていない。若くして死んだはずが……気付けばそこはビックリ、異世界だった。  第二生は前世とは正反対。魔法というとんでもない歴史によって構築され、貧富の差がアホみたいに激しい世界。オレを産んだせいで母は体調を崩して亡くなったらしくその後は孤児院にいたが、あまりに酷い暮らしに嫌気がさして逃亡。スラムで前世では絶対やらなかったような悪さもしながら、なんとか生きていた。  そんな暮らしの終わりは、とある富裕層らしき連中の騒ぎに関わってしまったこと。不敬罪でとっ捕まらないために背を向けて逃げ出したオレに、彼はこう叫んだ。 『待て、そこの下民っ!! そうだ、そこの少し小綺麗な黒い容姿の、お前だお前!』  金髪縦ロールにド派手な紫色の服。装飾品をジャラジャラと身に付け、靴なんて全然汚れてないし擦り減ってもいない。まさにお貴族様……そう、貴族やら王族がこの世界にも存在した。 『貴様のような虫ケラ、本来なら僕に背を向けるなどと斬首ものだ。しかし、僕は寛大だ!!  許す。喜べ、貴様を今日から王族である僕の傍に置いてやろう!』  そいつはバカだった。しかし、なんと王族でもあった。  王族という権力を振り翳し、盾にするヤバい奴。嫌味ったらしい口調に人をすぐにバカにする。気に入らない奴は全員斬首。 『ぼ、僕に向かってなんたる失礼な態度っ……!! 今すぐ首をっ』 『殿下ったら大変です、向こうで殿下のお好きな竜種が飛んでいた気がします。すぐに外に出て見に行きませんとー』 『なにっ!? 本当か、タタラ! こうしては居られぬ、すぐに連れて行け!』  しかし、オレは彼に拾われた。  どんなに嫌な奴でも、どんなに周りに嫌われていっても、彼はどうしようもない恩人だった。だからせめて多少の恩を返してから逃げ出そうと思っていたのに、事態はどんどん最悪な展開を迎えて行く。  気に入らなければ即断罪。意中の騎士に全く好かれずよく暴走するバカ王子。果ては王都にまで及ぶ危険。命の危機など日常的に!  しかし、一緒にいればいるほど惹かれてしまう気持ちは……ただの忠誠心なのか?  スラム出身、第十一王子の守護魔導師。  これは運命によってもたらされた出会い。唯一の魔法を駆使しながら、タタラは今日も今日とてワガママ王子の手綱を引きながら平凡な生活に焦がれている。 ※BL作品 恋愛要素は前半皆無。戦闘描写等多数。健全すぎる、健全すぎて怪しいけどこれはBLです。 .

処理中です...