【完結】前世は犬と猫! 〜二度目の恋のやり直し〜

ivy

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11.春人のこと 〜麻央視点〜

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 告白されたのは、放課後の帰り道だった。春人に呼び出されて一緒に帰ろうと誘われた時。
 夕焼けの色が地面に滲んで、私たちの影を長く引きずっていた。
 カバンを片手で肩に引っ掛け直しながら、春人は、ぽつりと口を開いたのだ。

「麻央のことが好きかもしれない。だからもっとちゃんと好きになりたい。付き合ってくれる?」

「……え?」

 ……好きかもしれない、って何?――思わずそんな言葉が喉元まで出かけた。
 でも、その真っ直ぐな目を見たら、うまく言葉が出てこなかった。

 「好き」だから付き合って、じゃなくて、ちゃんと好きになりたいから付き合って?? けれどよく分からないその曖昧さが、春人らしかった。

 私は「うん」とうなずいた。
 正直、ドキドキはしなかったし、春人を好きかと聞かれたら特にそんな感情はない。ケイやタケル、それに他のクラスメイト、彼らに感じている気持ちと大差ないものだったから。

でも、ここで彼を突き放したら。
もう二度と、春人は私の顔さえ見てくれないだろう。
なぜかそんな確信があって、私は頷いたのだ。

「友達みたいな関係からでもいい? 私もちゃんと好きになれるように、努力するから」

 そう言った私を、春人はほっとしたような顔で見た。
 ……春人が何を考えているのかまるで分からない。けれど何か切実なものを感じたのも事実だ。
そうして、私たちの奇妙な“お付き合い”は始まった。



 付き合って?半月が過ぎた。
 春人の態度は、友達の時と何も変わらない。

 毎朝ちゃんと挨拶してくれるし、
 一緒に昼ごはんを食べてくれるし、
 帰り道も送ってくれる。

 だけど、どこか……壁がある気がする。
 優しすぎるその言葉の裏側に、何かを隠しているような。

 だから私は、心のどこかでずっと、こう思っていた。

 ――春人は、誰かを忘れようとしているんじゃないかな?




 今日もまた、昼休みに春人が席を外した。
 「ちょっと眠いから保健室行ってくる」
 そう言いながら、彼はふわっとした笑顔を見せて教室を出ていった。

「夜遅くまでバイトしてるらしいよ。なんでそんなにお金が必要なんだろうね」

 席の隣の女子が、サラッとそんなことを言った。

 春人は優しい。でも、どこか孤独だ。

 何か大事なことを、誰にも見せないようにしている。
 その奥に何があるのか知りたくて手を伸ばしても、同じ距離だけ離れてしまう。
春人はそんな人だ。



 恋人、ってなんだろう。
 好きって、どういうことなんだろう。

 春人の手に触れたことはない。
 私のことを好きかもって言ってくれたけど、
 その目は時々、遠くを見ている気がする。

 まるで、誰かを探しているように――。


 春人と付き合い始めてから、一ヶ月が経った。

 「付き合う」と言っても、手をつないだわけでも、放課後にどこかへ出かけたわけでもない。
 私たちは、これまで通り――ただ少しだけ、特別になったような顔をして過ごしている。

 たとえば、昼休みに一緒にご飯を食べたり、帰り道を並んで歩いたり。
 そんな些細な時間の中で、私は春人の隣にいられることを、どこかで嬉しく思っていた。

 でも、嬉しさの裏には、どうしようもない違和感が、静かに沈んでいる。



 今日の昼休み、今日も春人は「ちょっと保健室」って言って、ふらっと席を立った。

 私が「一緒に行こうか?」と声をかけても、春人はいつものように優しく笑って首を振る。

「大丈夫。寝るだけだから」
 その声も、その微笑みも、まるで薄いフィルム越しに聞こえるようだった。

 ……私たち、付き合ってるんだよね?

 確かに春人は「ちゃんと好きになりたい」って言ってくれた。
 でも、私の中でその言葉は、あの日からずっと、どこか宙ぶらりんのままだ。



 昼休みの教室で、一人ぽつんと机に突っ伏していたら、タケルとケイが談笑しながら通り過ぎていくのが見えた。

 ケイの明るい声にタケルがツッコミを入れて、ふたりで笑い合っていた。
 なんだか懐かしい光景だった。

(最近、全然二人と話してないな)

 ふと、そう思った。

 教室でも、廊下でも、気づけばタケルたちと話さなくなっていた。
 もともと私たちは四人だったのに。
 春人と付き合うようになってから、その時間が急に減ってしまった。

(そういえば春人と付き合ったって、ちゃんと報告もしてないや)

 報告、なんて堅苦しい言い方だけど。
 でも、あのふたりには伝えておくべきだったのかもしれない。

 特に、タケルには。

 ……でも、言えなかった。
 何度かタイミングはあったのに、そのたびに胸がざわついて、言葉が喉の奥で止まってしまった。



「ねえ、麻央~。一緒に購買行かない?」

 前の席の女子が笑顔で声をかけてくれた。
 私は軽くうなずいて立ち上がりながら、教室のドアの向こう――春人が消えていった方向を一度だけ見た。

 きっと、あの人は今も一人で眠ってる。
 夢の中で、誰かのことを思ってるのかもしれない。

 私じゃない、誰かのことを――。

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