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23.拉致
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予定通り二泊三日の観光スケジュールをこなし、沖縄から帰ってきた俺と春人は、気まずい空気のまま別れた。
──それっきり、会っていない。
「学校が休みで、本当に良かった……」
「なに?」
俺の呟きを、ゲームのコントローラーを握ったままのケイが拾った。
「……花火の夜、何があったんだ? いい雰囲気だったんじゃないのかよ」
旅行が終わった翌日から、気を紛らわせたくて俺は毎日のようにケイの家に来ていた。
ずっと知らないふりをしてくれていたのに今日は、とうとう追及されそうだ。
「誤解されてた」
「何を?」
「俺とケイの関係を」
「ああ、予定通りの“嫉妬作戦”だろ?」
「その作戦、正直全然うまくいくと思ってなかったんだよな」
「失礼だな。 で、どうだった? タケルのこと、意識してたか?」
「いや……“男同士なんて気持ち悪いし普通じゃないから、やめとけ”って言われた」
「……まあ、“お幸せに”って言われるよりはマシだけどな」
「それでも、あいつの価値観では“男の俺と付き合うなんて、論外”ってことがよく分かった」
「……あー」
ケイは、どこか気の毒そうな顔で俺を見た。
「まあ、男同士なんて普通は論外だよな。俺だって春人だから好きなんであって、男が好きってわけじゃないし」
「……うん、まあ、それは分かるけど。今の時代、“みんな違って、みんないい”って言うじゃん?」
「そんな考え方ができるやつの方が、よっぽど珍しいんだよ」
「……それで? もう、今世では春人を諦めるのか?」
──諦める? やっと再会できたのに?
でも、春人にしてみればいい迷惑だよな。好きな相手がいるのに、俺なんかに好かれて、付きまとわれて──。
「……タケル?」
「あーーッ!! 無理!! ダメだ!やっぱり春人が好きだわ!!」
「うわ、びっくりした。でも、それでこそタケルだよ」
「ああ、友達でもいい。そばにいたい。前前世みたいに──勝手に春人の元を離れて、あいつのいないとこで一人で死んでいくなんて……もう嫌だ。
あいつが麻央と結婚するなら、俺は親友として全力で祝うし、応援する」
「潔いな。……で、あとでこっそり泣くんだろ?」
「ぐっ……それは許してくれ」
「そのときは、俺と飲もうな」
「……そうだな」
──本当に、ケイがいてくれて良かった。
俺はきっと大丈夫。春人のことを恨んだり、妬んだりなんてしない。……いや、できない。
それほどまでに──犬と猫として共に過ごしたあの時間は、かけがえなくて、愛おしいんだ。
「正月もどうせ一人で暇してるだろ。俺も里帰りなんてしないし、いつでも来いよ」
「何だよお前が寂しいんだろ?じゃあ年末に来る。一緒に年越ししようぜ」
「あはは!ムカつく奴だな。でも楽しみにしてる」
そんなことを言いながら、帰り支度をしていた俺の携帯に着信があった。
ディスプレイには「麻央」の名前。
なんだ?電話なんて初めてだな。
「……麻央?どした?」
『タケルっ!?春人が!』
慌てた声に、全身の血が引いた。
「春人がどうかした!?」
『春人が! 変な人に連れて行かれた!』
「──変な人!? 落ち着け、ちゃんと話してくれ!」
『きょう春人と水族館行ったの。別れてから、返しそびれたハンカチがあるのに気づいて……それで追いかけたら──っ』
麻央の声が震えている。
涙と恐怖が入り混じって、言葉にならない。
『そしたら、変な男たちが三人で! 春人を無理やり車に乗せて連れてっちゃったの!』
「場所はどこだ!?」
『埠頭の近くの水族館。でも……車で、どこか行っちゃった! 警察には連絡したけど、ひどいことされてないかなって……っ!』
すすり泣く麻央の声。
脳が一瞬で戦闘モードに切り替わった。
「──大丈夫。絶対に助けるから待ってて」
携帯を切って、ぎゅっと握り直した。
どうする?まずはどこにいけばいい?!
頭の中はパニックで冷や汗だけがダラダラと額を流れる。
「タケル!落ち着け。タクシー呼ぶからちょっと待ってろ」
「でも、場所が──」
「あいつのスマホにGPSつけてるから追える。あいつ目を離すと何するか分かんなくて付けといたんだよ」
「いや、ストーカーかよ!」
「結果オーライだろ?」
「そうだけど!」
全くケイはどんだけ過保護なんだ。まあそのおかげで助かったけど。
俺はケイの携帯でアプリを確認する。
赤い光点が、埠頭近くの倉庫街にぽつりと点っていた。
「ここに春人がいる。待ってろよ──絶対助けるからな!」
◇◇◆◆◇◇
~春人視点~
「……どこ、ここだ?」
目を覚ますと、頬が冷たい床に触れていた。鉄とオイルの匂い、薄暗くてカビ臭い倉庫。
「お?目が覚めたか」
そして目の前に、見知らぬ男が一人。
「誰だよ。なんでこんなこと……」
「お前が暴れるからだろ」
後ろにいた男が口を開いた。
あれは確か……前に変なバイトを依頼してきた上級生だ。
「ったく、手間かけさせやがって」
「……」
そうだ、全力で抵抗したら殴られて意識がなくなったんだ。
目の前にいた男が俺を見てにやりと笑った。
「お前、金払えば何でもするって聞いたけど?」
「は? 誰がそんなこと──」
「なにビビってんだよ。運ぶだけだ。それで十万やる。いい仕事だろ?」
紙袋を目の前に突きつけられた。それは鼻を刺すような薬品臭がした。
「……これ、ヤバいやつだろ……」
「やるんだよ。断るな」
「絶対嫌だ!」
俺は逃げようと身を捩る。だが、後ろから腕を掴まれ、床に押し付けられた。
「は? 逃げられると思ってんのか?」
「お前ら、こいつを裸にしろ。逃げられねーように写真撮っとけ」
「な──やめろっ!!」
男たちがじりじりと近づいてくる。
春人は後退った。
「やめろって言ってんだろ……ッ!」
声が震える。
全身に広がる嫌悪感と恐怖。
逃げ道なんて、どこにもない──
「──誰か……!」
その声は、誰にも届かない倉庫の奥に吸い込まれていった。
──それっきり、会っていない。
「学校が休みで、本当に良かった……」
「なに?」
俺の呟きを、ゲームのコントローラーを握ったままのケイが拾った。
「……花火の夜、何があったんだ? いい雰囲気だったんじゃないのかよ」
旅行が終わった翌日から、気を紛らわせたくて俺は毎日のようにケイの家に来ていた。
ずっと知らないふりをしてくれていたのに今日は、とうとう追及されそうだ。
「誤解されてた」
「何を?」
「俺とケイの関係を」
「ああ、予定通りの“嫉妬作戦”だろ?」
「その作戦、正直全然うまくいくと思ってなかったんだよな」
「失礼だな。 で、どうだった? タケルのこと、意識してたか?」
「いや……“男同士なんて気持ち悪いし普通じゃないから、やめとけ”って言われた」
「……まあ、“お幸せに”って言われるよりはマシだけどな」
「それでも、あいつの価値観では“男の俺と付き合うなんて、論外”ってことがよく分かった」
「……あー」
ケイは、どこか気の毒そうな顔で俺を見た。
「まあ、男同士なんて普通は論外だよな。俺だって春人だから好きなんであって、男が好きってわけじゃないし」
「……うん、まあ、それは分かるけど。今の時代、“みんな違って、みんないい”って言うじゃん?」
「そんな考え方ができるやつの方が、よっぽど珍しいんだよ」
「……それで? もう、今世では春人を諦めるのか?」
──諦める? やっと再会できたのに?
でも、春人にしてみればいい迷惑だよな。好きな相手がいるのに、俺なんかに好かれて、付きまとわれて──。
「……タケル?」
「あーーッ!! 無理!! ダメだ!やっぱり春人が好きだわ!!」
「うわ、びっくりした。でも、それでこそタケルだよ」
「ああ、友達でもいい。そばにいたい。前前世みたいに──勝手に春人の元を離れて、あいつのいないとこで一人で死んでいくなんて……もう嫌だ。
あいつが麻央と結婚するなら、俺は親友として全力で祝うし、応援する」
「潔いな。……で、あとでこっそり泣くんだろ?」
「ぐっ……それは許してくれ」
「そのときは、俺と飲もうな」
「……そうだな」
──本当に、ケイがいてくれて良かった。
俺はきっと大丈夫。春人のことを恨んだり、妬んだりなんてしない。……いや、できない。
それほどまでに──犬と猫として共に過ごしたあの時間は、かけがえなくて、愛おしいんだ。
「正月もどうせ一人で暇してるだろ。俺も里帰りなんてしないし、いつでも来いよ」
「何だよお前が寂しいんだろ?じゃあ年末に来る。一緒に年越ししようぜ」
「あはは!ムカつく奴だな。でも楽しみにしてる」
そんなことを言いながら、帰り支度をしていた俺の携帯に着信があった。
ディスプレイには「麻央」の名前。
なんだ?電話なんて初めてだな。
「……麻央?どした?」
『タケルっ!?春人が!』
慌てた声に、全身の血が引いた。
「春人がどうかした!?」
『春人が! 変な人に連れて行かれた!』
「──変な人!? 落ち着け、ちゃんと話してくれ!」
『きょう春人と水族館行ったの。別れてから、返しそびれたハンカチがあるのに気づいて……それで追いかけたら──っ』
麻央の声が震えている。
涙と恐怖が入り混じって、言葉にならない。
『そしたら、変な男たちが三人で! 春人を無理やり車に乗せて連れてっちゃったの!』
「場所はどこだ!?」
『埠頭の近くの水族館。でも……車で、どこか行っちゃった! 警察には連絡したけど、ひどいことされてないかなって……っ!』
すすり泣く麻央の声。
脳が一瞬で戦闘モードに切り替わった。
「──大丈夫。絶対に助けるから待ってて」
携帯を切って、ぎゅっと握り直した。
どうする?まずはどこにいけばいい?!
頭の中はパニックで冷や汗だけがダラダラと額を流れる。
「タケル!落ち着け。タクシー呼ぶからちょっと待ってろ」
「でも、場所が──」
「あいつのスマホにGPSつけてるから追える。あいつ目を離すと何するか分かんなくて付けといたんだよ」
「いや、ストーカーかよ!」
「結果オーライだろ?」
「そうだけど!」
全くケイはどんだけ過保護なんだ。まあそのおかげで助かったけど。
俺はケイの携帯でアプリを確認する。
赤い光点が、埠頭近くの倉庫街にぽつりと点っていた。
「ここに春人がいる。待ってろよ──絶対助けるからな!」
◇◇◆◆◇◇
~春人視点~
「……どこ、ここだ?」
目を覚ますと、頬が冷たい床に触れていた。鉄とオイルの匂い、薄暗くてカビ臭い倉庫。
「お?目が覚めたか」
そして目の前に、見知らぬ男が一人。
「誰だよ。なんでこんなこと……」
「お前が暴れるからだろ」
後ろにいた男が口を開いた。
あれは確か……前に変なバイトを依頼してきた上級生だ。
「ったく、手間かけさせやがって」
「……」
そうだ、全力で抵抗したら殴られて意識がなくなったんだ。
目の前にいた男が俺を見てにやりと笑った。
「お前、金払えば何でもするって聞いたけど?」
「は? 誰がそんなこと──」
「なにビビってんだよ。運ぶだけだ。それで十万やる。いい仕事だろ?」
紙袋を目の前に突きつけられた。それは鼻を刺すような薬品臭がした。
「……これ、ヤバいやつだろ……」
「やるんだよ。断るな」
「絶対嫌だ!」
俺は逃げようと身を捩る。だが、後ろから腕を掴まれ、床に押し付けられた。
「は? 逃げられると思ってんのか?」
「お前ら、こいつを裸にしろ。逃げられねーように写真撮っとけ」
「な──やめろっ!!」
男たちがじりじりと近づいてくる。
春人は後退った。
「やめろって言ってんだろ……ッ!」
声が震える。
全身に広がる嫌悪感と恐怖。
逃げ道なんて、どこにもない──
「──誰か……!」
その声は、誰にも届かない倉庫の奥に吸い込まれていった。
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