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旅立ちの日に
村を出て向かう先は?
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子供たちは随分とぐずったが先生の代わりに御用聞きに行くだけだと先生が話を合わせてくれたので私はそれほど苦労なく出発できた。それでもすぐ帰ってきてと何度も念を押されてしまったが。
先生も何時でも帰ってきて、何度でも出発したらいいと言ってくれた。後ろ髪引かれる思いも強いがそれでも帰ってきていいからと言ってくれるからこそこうして出発できるのだ。
故郷よ、しばしの別れ。いつか答えを見つけて帰ってくるまで。自分の心に決着をつけるその時まで。
『この先ゴウリ村』
そう書かれた看板が指し示す方向と逆に向かって私は歩き始める。私の育った村。先生と暮らした村。
第二の故郷、というよりはもう私の本当の故郷といって差し支えない。両親と共に育ったはずの土地の記憶も何もかもがもはや遠い、遠くで吹く風の音のような朧げなものだ。
「さてと・・・近場の町はっと」
外出の機会はそれほど多くなかったが何度か先生に付き合って近隣の町や村を回ったことはある。地理を覚える事はちょっと怪しいがそれでもどこを向いて歩けばいいかくらいは分かる。街道も整備されているし、商人が乗る馬車や乗り合い馬車もある。私はあえて歩いていこうかと思っている。
「おうい、リーシュちゃん!」
そう思った矢先に私を追いかけてくる荷馬車が。どうやら近所の農家の人らしい。あれは町に野菜を卸しているドレイトンさんだろう。自前の荷馬車と馬を所有しているのでもっぱら町に出かける用事は彼が請け負っている。
「うん?ああ・・・ドレイトンさんか、これからお出かけ?」
「いや、近所の町へ野菜を卸しににね。リーシュちゃんが村を出ていくなんて聞いたもんだから慌ててきちゃったよ」
おばちゃんたちのご近所ネットワークは侮れない。先生が問診でちらっとこぼした事をあっというまに共有してしまうんだから。
「ま、村を動けない先生の名代だけどね」
「そうだったのかい、皆リーシュちゃんが居なくなると寂しがってるよ」
「ふふ、まあちょくちょく帰ってくるつもりではあるからそんなに心配しないでいいよ。手紙もかくつもり」
「そうかい、それなら村の人たちも安心するよ。なんてったってリーシュちゃんはこの村の生き字引になるんだから」
彼らは先生が私を可愛がってくれている事をどういう風に考えているのか私を先生の後継者的なものに見ているようだった。たしかに先生の薬学とか、錬金術とかも知ってるし・・・近所の薬売りのお婆ちゃんからポーションの作り方とか教わってるけど・・・。
「あの頑固なマチルダ婆さんが秘伝のポーションの作り方を教えたのは先生とキミだけなんだよ?俺たちじゃ何を入れてるのかすらわからん」
マチルダお婆ちゃんは先ほどの薬売りのお婆ちゃんの事。先生の凄いところはこういった小さな所の薬の知識や口伝の技術をバカにせず真摯に評価できることだ。それによってマチルダお婆ちゃんも先生を高く評価してくれている。
そしてそれに伴ってお婆ちゃんたちが失伝させまいとお家秘伝の料理のレシピなんかを私に何故か教えてくれるのだ。先生の勉強と合わせるとかなりの情報量だが私の不老不死の体はそれらを全く損なうことなく記憶できた。
頭にまるで本棚があるように思い浮かべた知識を紐解く事ができるのだ。時間はかかるけど。
「まあ、帰って来てくれるのが分かってるならこっちも安心して待てるさ」
「ふふ、帰ってきてねって言われるのって思ってたより嬉しいわね」
「そりゃもちろんさ、それより近場の町に行くんだろ?どうせなら乗っていきな」
そう言われて私は少し考えたが、やっぱり甘える事にした。だって断ると寂しそうな顔するし。
「甘えさせてもらうわ」
「いいともさ、こいつらも喜ぶ」
老馬の二人、クルルとコール。私が村に来た頃から荷馬車を二人で仲良く引いていた夫婦のお馬さん。結婚式があると村の集会場まで新郎新婦を迎えに行く役目を背負ってきた。
「二人は私の結婚式まで生きててくれるかしら?」
「さてな、どうだい二人とも」
「ブヒヒン!」「ヒィン!」
任せておけ、といわんばかりの二人の嘶きに私達は顔見合わせて笑う。そして談笑しながら私は近隣の町まで荷馬車揺られながら進んでいくのだった。
「ん・・・あれ、寝ちゃってた?」
旅立ちの日はどんな日が最適なのだろう。麗らかな日差しの中で私はいつの間にか微睡んでいたようだ。
「起きたかい、さっそくで悪いがどうもきな臭いぞ」
目を擦って前の方に集中すると私の鼻に嗅いだことのある臭いが飛び込んできた。臭い、といっても汗とか風の中に混じるものを見ているわけじゃない。
「待ち伏せ・・・ここらへんじゃ珍しいわね」
私が嗅ぎ取ったのは『悪意』、人買いのところで嫌と言うほど嗅いだ悪人の発する他人を貪ろうとする悪意の臭いだ。
「どうするね、道を変えるかい?」
「人数はそれほど、私が様子を見るから荷馬車の様子を見るふりしてて」
そう言うとドレイトンさんは頷いて二人で芝居を打ってから別行動する事にした。
先生も何時でも帰ってきて、何度でも出発したらいいと言ってくれた。後ろ髪引かれる思いも強いがそれでも帰ってきていいからと言ってくれるからこそこうして出発できるのだ。
故郷よ、しばしの別れ。いつか答えを見つけて帰ってくるまで。自分の心に決着をつけるその時まで。
『この先ゴウリ村』
そう書かれた看板が指し示す方向と逆に向かって私は歩き始める。私の育った村。先生と暮らした村。
第二の故郷、というよりはもう私の本当の故郷といって差し支えない。両親と共に育ったはずの土地の記憶も何もかもがもはや遠い、遠くで吹く風の音のような朧げなものだ。
「さてと・・・近場の町はっと」
外出の機会はそれほど多くなかったが何度か先生に付き合って近隣の町や村を回ったことはある。地理を覚える事はちょっと怪しいがそれでもどこを向いて歩けばいいかくらいは分かる。街道も整備されているし、商人が乗る馬車や乗り合い馬車もある。私はあえて歩いていこうかと思っている。
「おうい、リーシュちゃん!」
そう思った矢先に私を追いかけてくる荷馬車が。どうやら近所の農家の人らしい。あれは町に野菜を卸しているドレイトンさんだろう。自前の荷馬車と馬を所有しているのでもっぱら町に出かける用事は彼が請け負っている。
「うん?ああ・・・ドレイトンさんか、これからお出かけ?」
「いや、近所の町へ野菜を卸しににね。リーシュちゃんが村を出ていくなんて聞いたもんだから慌ててきちゃったよ」
おばちゃんたちのご近所ネットワークは侮れない。先生が問診でちらっとこぼした事をあっというまに共有してしまうんだから。
「ま、村を動けない先生の名代だけどね」
「そうだったのかい、皆リーシュちゃんが居なくなると寂しがってるよ」
「ふふ、まあちょくちょく帰ってくるつもりではあるからそんなに心配しないでいいよ。手紙もかくつもり」
「そうかい、それなら村の人たちも安心するよ。なんてったってリーシュちゃんはこの村の生き字引になるんだから」
彼らは先生が私を可愛がってくれている事をどういう風に考えているのか私を先生の後継者的なものに見ているようだった。たしかに先生の薬学とか、錬金術とかも知ってるし・・・近所の薬売りのお婆ちゃんからポーションの作り方とか教わってるけど・・・。
「あの頑固なマチルダ婆さんが秘伝のポーションの作り方を教えたのは先生とキミだけなんだよ?俺たちじゃ何を入れてるのかすらわからん」
マチルダお婆ちゃんは先ほどの薬売りのお婆ちゃんの事。先生の凄いところはこういった小さな所の薬の知識や口伝の技術をバカにせず真摯に評価できることだ。それによってマチルダお婆ちゃんも先生を高く評価してくれている。
そしてそれに伴ってお婆ちゃんたちが失伝させまいとお家秘伝の料理のレシピなんかを私に何故か教えてくれるのだ。先生の勉強と合わせるとかなりの情報量だが私の不老不死の体はそれらを全く損なうことなく記憶できた。
頭にまるで本棚があるように思い浮かべた知識を紐解く事ができるのだ。時間はかかるけど。
「まあ、帰って来てくれるのが分かってるならこっちも安心して待てるさ」
「ふふ、帰ってきてねって言われるのって思ってたより嬉しいわね」
「そりゃもちろんさ、それより近場の町に行くんだろ?どうせなら乗っていきな」
そう言われて私は少し考えたが、やっぱり甘える事にした。だって断ると寂しそうな顔するし。
「甘えさせてもらうわ」
「いいともさ、こいつらも喜ぶ」
老馬の二人、クルルとコール。私が村に来た頃から荷馬車を二人で仲良く引いていた夫婦のお馬さん。結婚式があると村の集会場まで新郎新婦を迎えに行く役目を背負ってきた。
「二人は私の結婚式まで生きててくれるかしら?」
「さてな、どうだい二人とも」
「ブヒヒン!」「ヒィン!」
任せておけ、といわんばかりの二人の嘶きに私達は顔見合わせて笑う。そして談笑しながら私は近隣の町まで荷馬車揺られながら進んでいくのだった。
「ん・・・あれ、寝ちゃってた?」
旅立ちの日はどんな日が最適なのだろう。麗らかな日差しの中で私はいつの間にか微睡んでいたようだ。
「起きたかい、さっそくで悪いがどうもきな臭いぞ」
目を擦って前の方に集中すると私の鼻に嗅いだことのある臭いが飛び込んできた。臭い、といっても汗とか風の中に混じるものを見ているわけじゃない。
「待ち伏せ・・・ここらへんじゃ珍しいわね」
私が嗅ぎ取ったのは『悪意』、人買いのところで嫌と言うほど嗅いだ悪人の発する他人を貪ろうとする悪意の臭いだ。
「どうするね、道を変えるかい?」
「人数はそれほど、私が様子を見るから荷馬車の様子を見るふりしてて」
そう言うとドレイトンさんは頷いて二人で芝居を打ってから別行動する事にした。
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