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旅立ちの日に

アシスタントさん

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悶絶する三人を放置して私はアシスタントさんの元へ。あーあ、可愛そうに・・・血が出てる。

「悪いわね、こんな事に巻き込んじゃって」
「い、いいんです・・・それよりお姉さんはケガとか」
「ないわ、お陰様でね」

まだ座り込んだままの彼に手を貸して立たせると彼は困ったように頭を掻いた。

「それは良かった・・・けど困ったな、明日からどうしようかな」
「アシスタント響くかしら?悪いことしちゃった」
「そんな!あの三人は元から札付きだから仕方ないです」

今回の喧嘩騒動で彼らのランクダウンは確実だそうだ。しかしそうなるとアシスタントの彼にとっては稼ぎ口が無くなったことを意味する。Fランクが受けられる仕事はそれほどひどいらしい。

「基本店番とか、ポーションの見張り番とかそんな感じの雑用ですよ。それも監視つきの」
「へー、そうなんだ」
「とりあえず逃げましょ、お姉さんまで巻き込まれる必要ないよ」

リッキーに手を引かれ、私達は足早に現場を立ち去る。そしてどこへ向かうのかと思いきや、そこは一軒の家だった。宿の集まる通りにほど近いからもしかしてここも宿屋なんだろうか?

「ここまでくりゃ大丈夫です」
「それはありがたいけど・・・ここどこ?」
「俺の家です、親父がいるけど部屋は多いから大丈夫」

大丈夫といいつつすこし不安げだがまあ、宿もないし泊めてくれるならいいとしよう。

「ここも宿をやってるの?」
「前はしてましたけど今は休業中です」
「そうなの?」

言われてみると宿には活気がなく、夕食が近いのに食事の匂いもしない。休業というのは本当らしい。

「でも休業じゃ私もダメなんじゃない?」
「いいんですよ、元はといえば俺のせいだし」

どうにもガンランが未だに冒険者としてぎりぎりのランクを維持できていたのはリッキーの働きかけが大きいみたい。彼が事後処理に走り回っていたため彼らは知らず知らずのうちにランクダウンを免れていたようだ。

「苦労したんじゃない?」
「ええ、でもそれももうおしまいです。お姉さんに喧嘩売った挙句あんな見事にのされちゃ冒険者としての実力も疑問符がついちゃう」

腕っぷしのみの男がその自慢の腕っぷしを完膚なきまでに叩きのめされた訳だからまあ、当然か。素行不良もここまで行きゃギルドも許さないだろうしね。

「まあそんなのは知らないけど・・・問題はリッキーの事よね」
「いやあ、まあそれは自分でなんとかしますし」

リッキーはそう言ったが私のせいだしこちらこそどうにかしてあげたい。とりあえずは無料宿泊じゃなくなにかできる事をさがしてあげようっと。

「えっと、それじゃ・・・」
「こらぁっ!リッキー!いつまでそこにいる気だ、早く入ってこい!」

雷のような声とともに杖を突いた男性がのっそりと歩いてきた。

「親父・・・ごめんって」
「ったくこういうとこばっかし母親に似やがって・・・」

嫌味を言うもその目はいかつい見た目に反して優しい。親父というからには彼がお父さんなんだろうか。

「ん?そこのお嬢さんはだれだ?」
「えっと、その・・・お客さんだよ」

私に気づいたおじさんは私の顔からつま先までつつーっと見ると、リッキーを捕まえてこそこそとしゃべりだした。

『あんな別嬪さんどこで捕まえて来たんだ?お前も隅におけねえな・・・10歳の癖に色気づきやがって』
『なっ!違うよ!俺はただ・・・』
『わーってるよ、だがおめえ今の甲斐性じゃ嫁さんは難しくねえか?』
『わかってない!』

途中からリッキーが真っ赤になって反論するので丸聞こえだ。お父さんとしては女の子を連れて来たのがうれしいのかこちら時々見ては笑顔で会釈を繰り返している。なんだかしらないけど面白いおじさんだな。

「宿を取り損ねて困ってるところを助けてもらったんですけど・・・お邪魔でしたら・・・」
「いやいやいや、こんなところでよかったら何日でも泊ってくだせぇ。カミさんが死んで、俺もこんなナリだ・・・大したことはできねえが・・・」

話が進まないので遠慮しましょうか?とばかりに切り出すとおじさんはリッキーを投げ捨ててこちらに満面の笑顔で答える。最後の方は少し寂しげだったが私が了承するとまたパっと明るくなった。

「ははは、人が増えると家も明るくなるからな!ささ、どうぞどうぞ」

おじさんに促されて玄関を潜ると・・・。

「・・・」
「散らかってるけど好きなとこに座ってくんな!」

散らかり放題のエントランスに転がる空き瓶。それに山積みのお皿の山。天井の隅には蜘蛛の巣もはってるし・・・男だけだとやっぱりこうなるのかしら。

「とりあえず泊めてもらうし掃除でもします」
「え、でもお客」
「そう思うなら玄関口くらい掃除しなさい」

おじさんの言葉を遮ると私はさっそく部屋の掃除を開始した。
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