ノーライフ・ガールは博士の最高傑作

ファウスト

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旅立ちの日に

山小屋

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グレイウルフは普通ならば中型犬くらいの大きさのはずであったが彼女に従うグレイウルフは全てが二回りほど大きく、毛の艶などもよかった。さらには僧侶達を見つめる瞳には理知的な輝きさえ含んでおりこちらの意図を理解するが如き動作に僧侶達は驚いた。

「この者たちは貴女の?」
「仲間」

老齢の僧侶が傷を押さえながらも尋ねると彼女はゆっくりと頷いた。

「私は彼らが何を言いたいのかよく分かる。話合いを繰り返していたら彼らが勝手に賢くなった」
「そうなのですか・・・」

驚きつつもよろけると傍によって支えてくれる。グレイウルフに僧侶がお礼を言うとグレイウルフは誇らしげに小さく鳴いた。

「到着、ここ・・・」

案内されたのは意外にも立派な山小屋だった。案内されるままに入ると暖炉もあり、薪も積まれていてすぐにでも火が起こせそう。それに燻製にされたであろう肉も積まれており、香ばしい臭いが漂っている。

「こんなところに山小屋があるとは・・・」
「とりあえず血を流してる人から暖炉の傍へ寝かせてあげて、体が冷えてるかも」

カチカチと火打石を鳴らして木屑で種火を起こすと慣れた手つきで暖炉に火を入れてくれる。薪だけと思っていたがどうやら炭があるらしく丁寧に組まれたそれはすぐに大きな火になって部屋の温度を上げてくれる。

「このお肉は食べられるから焼いてくれていい」
「ありがとうございます・・・」

お礼を言いながら僧侶達が頭を下げると彼女は返事代りに毛布を何枚か投げ渡した。

「逃げ遅れが居るかもしれないからさっきの場所に戻って様子をみてくる、貴方達はそこにいてね」
「わかりました・・・」
「皆が守ってくれるけど・・・外に出たら危ないから勝手に出ないでね」

窓の外を指さしたのにつられて僧侶達が視線を移すと窓の外では先ほどのグレイウルフ達が小屋を取り囲むように徘徊しているのが見える。

「わかりました、貴女もご無事で」

僧侶達に見送られ、彼女は小屋を後にする。



「彼女達は善人・・・供物向かない」

小屋を出て数分歩いた彼女はそう独り言をつぶやいた。それは降り始めた小雨にかき消されるような小さなものだったが影がそれに呼応するように長く、大きく伸びた。

『彼らは間違いなく善だ、捧げられても困る。それよりはやく仕留めた獲物を回収するぞ』
「わかった・・・」

影が返事に満足気にゆれると彼女は歩を速めた。そしてそのままのスピードで現場へと到着する。

『ははは、ここの山賊どもはだな。どいつもこいつも真っ黒の下衆そのものだ』
「結構逃がしたけど・・・」
『後から追い詰めれば問題ない、奴らの匂いは獣の感覚を通して把握済みだ。僧侶共がケガで動けない間に山賊ども我々で独占するんだ』
「うん、でもどうして僧侶達を警戒するの?」

彼女は影に向かいそう尋ねる。

『僧侶どもは僅かながら神の力を受けている、奴らに葬儀を行われてしまうと我々が魂を回収できなくなるんだ』
「そうなんだ・・・」
『かといって僧侶どもを殺してしまうと奴らの魂が回収した魂に混ざってしまう、善は輝きだ。返り血のように奴らの善性は我々が集めた邪悪に降りかかり、清水に混ざった泥のように色を変えてしまうんだ』
「そっか・・・」
『それにお前だって関係ない善人を殺したくはないだろう?』

影の言葉に彼女は確かにと頷く。行動はどうあれ彼女は純粋だった。悪人を殺し、善人は逃がす。だから以前見つけた泥棒も逃がした。彼らの根底にある善性を影が嫌い、無差別に傷つけることを彼女が嫌ったのだ。
仕留めるのは邪悪でなければならない。

「今で・・・何人だっけ・・・」
『沢山集まったぞ、もうすぐだ・・・お前の母親も生き返る』
「うん・・・」

悍ましい形に影が伸びるとどういうわけか山賊達の死体の一部を光らせる。一様に心臓の位置だった。

『魂を取り出せ』
「うん・・・」

山賊の死体に彼女はナイフを突き立てると胸を切り開き、心臓を露わにさせる。

『よし・・・ハァァア・・・!』

影が息を吐くような、吸うような言い難い声を上げると心臓から淡い、それでもどす黒い光の玉が飛び出し影の口のように開いた穴へと吸い込まれていく。

『ふむ、次だ・・・って何してる』
「解体」
『いや、心臓さえ見えればいいんだけど』

バラバラにしてしまう。影はあきれた様子だったが彼女はまるで遺族がそう望んだか、または家族が彼らの被害にあったかのように執拗に山賊の遺体を損壊した。

「こいつらの死体が綺麗なままなのが気に入らないの・・・」
『アンデッドの声がそうさせるのか?』
「んーん、そこまでは聞こえない・・・ただ気に入らないの。それに野の獣たちが食べにくそうにするし」

結局軒並み解体してしまいかなりの時間がかかってしまった。実際に山賊達の逃走を許してしまったのもこの彼女のこだわりによるところが大きかった。
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