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プロローグ

才能がなくて

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名家に産まれたら、兄が才能に恵まれていたら、人々は大抵その弟にも才能を期待するだろう。

武芸の名家

僕の産まれた家はそう言われていて、一族は皆何かしらの才能に恵まれていた。
兄は剣に、父は槍と剣。祖父は弓の名手だった。母は深窓の麗人だったが容姿も美しかった。

「・・・」

けれど僕には何もなかった。剣と槍は重くて、弓を引く力もなかった。それでも鍛練を続けて、どうにか落第は免れようと頑張った。その為に早朝から神様にお祈りをして剣を振り、学校に通って勉学に精を出し、夕方にはまた剣を振る。

「みろよ、またお姫様が剣を振ってるぞ」

鍛練を重ねる僕を学友たちはそう言って嘲った。母譲りの顔立ちは皆が羨むものだったらしい。でもそれが余計に学友の癇に触るのかもしれない。

「・・・っ!」

悔しかった。こんなに努力しているのに兄の足元にも及ばないどころか不真面目な学友にすら勝てない。涙と手に出来たマメの痛みを堪えて剣を振り、走り回って体力をつけて・・・。





「あの子には騎士として、剣士としては全く期待していない」

父の言葉に僕は直視できずにいた現実に叩き落とされた。そして兄の

「・・・そうですね」

最大限僕に遠慮した上での肯定に。くたくたになるまで剣の練習をして、勉強もして、学友の嘲りを背中に散々受けて、帰宅したその日のことだった。
扉越しのその一言に僕の中で何かが切れた気がした。
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