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プロローグ

神様、どうか

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息を切らしながら、僕は一目散にある場所を目指した。

それはいつもお祈りをする神殿。管理する人が居なくなって打ち捨てられた場所。ちゃんとした神殿では人が多くて、身内に出会うと恥ずかしくて行けなかった。

「はぁっ・・・はぁっ・・・」
 
夕陽が傾いて、月が顔を出そうとしていた。屋根も抜けて光が差し込むこの神殿はどこか幻想的ですらある。

「神・・・様、どうか・・・お願いです、僕の願いを」

朽ちた像と舞台のように高くなった祭壇に上っていつものように祈る。

剣の才能がない

父の声が頭に浮かぶ。その言葉を振り切ろうとして僕は握りしめていた練習用の木剣を構える。

「はぁっ・・・わっ?!」

袈裟斬りに振り下ろそうとして踏み込んだところで足が縺れて転んでしまった。

「・・・」

痛さというより虚しさと悔しさに視界が歪んだ。膝に手をやると血が出ていたのか鉄臭い臭いが鼻についた。
悔しくて、先ほどの動作をやり直そうと落とした木剣を取ろうと手を動かして・・・。

「あっ」

動かした手に当たった木剣はそのまま祭壇から転がって、ゆらゆらとしてから落ちた。
普段なら大したことのない出来事が僕の心にとどめを刺したような気がした。

「どうしてっ!どうしてだよっ!」

祭壇を何度も叩いて、やがて疲れてごろりと仰向けになり空を見上げた。




「神様、どうして僕の努力は報われないのでしょうか?」

虚空に消える問いかけ。泣きながら屋根の穴から覗く空に目を向ける。

「月・・・か、神様・・・僕に力をください。そうじゃないなら・・・いっそ」

男なんかに産まれたくなかった。そう呟いて僕は目を閉じた。
だから僕には気づけなかった。月が怪しく輝いたのに。























   
「へっくしゅん!」

吹き込んだ風に晒されて思わずくしゃみをした。いつの間にか寝ていたらしい。

「しまった、そろそろ帰らないと・・・」

目が覚めて徐々に思考が戻ってくると裏腹に気分は重くなっていく。父と兄に合わせる顔がない。頑張ってきた自分の努力が無駄だなんて思いたくなかった。

「どうしよう・・・」

三角座りをしようとした時、僕は自分の体に違和感を感じた。

「?・・・えっ?!」

膝に当たる感触。そして若干の息苦しさ。あ、あれっ、これって?!

「な、なんで胸、膨らんで?!」

立ち上がって周囲を見渡し、自分の姿を確認しようと探してみる。が、そうそう姿見に代わるようなものなんかあるわけもなく・・・。仕方なく帰ろうとした時だった。
突然光が屋根を突き破らんばかりの勢いで降り注ぎ、僕を祭壇から吹き飛ばした。
ゴロゴロと転がった挙げ句古びたカーテンに飛び込んで埃まみれになり、咳をしながら光の落ちてきた祭壇を見る。

「・・・誰か居る?」

無人だった筈の神殿の祭壇にいつの間にか所々を金属で補強した胴当てと動物の角を飾りにした筋骨隆々の男性が立っている。
立派な髭と斧を手に祭壇に佇む姿は神殿と言う場所の神秘性も手伝って厳かな雰囲気を醸し出していた。

「まるで神話の神様みたいだ」

そうボソッと言ったのが聞こえたのか男性の目線が僕に移った。

『二番手か、まぁ仕方あるまい』
「にばんて?」
『その体、美と愛欲の女神「ウェヌス」に弄られたのだ。月が出ておるからそこからお前を見つけたのだろうな』
「えぇ・・・」

困るなぁ。と思っていたら男性は不思議そうに顎髭に手をやった。

『お前さん、五体投地で天に祈っていたのだから当然だろう』
「え?」
『祭壇に四肢を投げ出して天を仰ぎ祈る。これは神にどうとでもしてくれという意思表示ではないか』

し、知らなかった!自棄になって祭壇でごろ寝したのがまさかそんなことになるなんて・・・!

『月の満ち欠けと星の周期、そして願いと所作。なによりワシらの耳か目に入って初めて願いは届く。その幸運に預かりながらなにか不服か?』
「ごめんなさい・・・」
『まぁ良い、ウェヌスはお前さんの見た目と転がしやすそうな性格を好んで加護を与えたのだろう。ウェヌスはそういう奴だから気を付けるのだぞ』

ため息交じりの鼻息で髪が靡く。凄い豪快な神様だ。

「それで・・・えぇっと、間違いがなければあなた様は雷と武の神トール様でよろしいんでしょうか?」
『うむ、である!』

間違えたら大問題なので恐る恐る尋ねると男性改めトール様は僕の胴体ほどありそうな腕を組んで頷いた。

『お前さんの一族は代々この国の為に戦い、功徳を積んできた。ワシはそんなお前さんの一族に僅かでも報いてやりたいと常々思っていた・・・そこでだ!』

トール様はにこやかに笑うと突然僕の両手を掴んだ。

「なっ!なにをっ?!」
『先ずはこの両手、忌々しいウェヌスめに奪われた手からだ』
「奪われた?えっ?」

体格差が凄すぎて掴まれた手を肩の高さまで上げられるともうつま先立ち状態。混乱していると

『お前さんの努力を象徴する手をこんな細く頼りないモノに変えてしまうとは信じられん』
「努力・・・」
『血の滲むような鍛練を積んできたのだろう?他ならぬ家族の為に・・・』

ワシは見ていたぞ。と言う言葉に思わず涙が出た。理解されることのなかった努力が認められた嬉しさに。














 
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