2 / 10
プロローグ
神様、どうか
しおりを挟む
息を切らしながら、僕は一目散にある場所を目指した。
それはいつもお祈りをする神殿。管理する人が居なくなって打ち捨てられた場所。ちゃんとした神殿では人が多くて、身内に出会うと恥ずかしくて行けなかった。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
夕陽が傾いて、月が顔を出そうとしていた。屋根も抜けて光が差し込むこの神殿はどこか幻想的ですらある。
「神・・・様、どうか・・・お願いです、僕の願いを」
朽ちた像と舞台のように高くなった祭壇に上っていつものように祈る。
剣の才能がない
父の声が頭に浮かぶ。その言葉を振り切ろうとして僕は握りしめていた練習用の木剣を構える。
「はぁっ・・・わっ?!」
袈裟斬りに振り下ろそうとして踏み込んだところで足が縺れて転んでしまった。
「・・・」
痛さというより虚しさと悔しさに視界が歪んだ。膝に手をやると血が出ていたのか鉄臭い臭いが鼻についた。
悔しくて、先ほどの動作をやり直そうと落とした木剣を取ろうと手を動かして・・・。
「あっ」
動かした手に当たった木剣はそのまま祭壇から転がって、ゆらゆらとしてから落ちた。
普段なら大したことのない出来事が僕の心にとどめを刺したような気がした。
「どうしてっ!どうしてだよっ!」
祭壇を何度も叩いて、やがて疲れてごろりと仰向けになり空を見上げた。
「神様、どうして僕の努力は報われないのでしょうか?」
虚空に消える問いかけ。泣きながら屋根の穴から覗く空に目を向ける。
「月・・・か、神様・・・僕に力をください。そうじゃないなら・・・いっそ」
男なんかに産まれたくなかった。そう呟いて僕は目を閉じた。
だから僕には気づけなかった。月が怪しく輝いたのに。
「へっくしゅん!」
吹き込んだ風に晒されて思わずくしゃみをした。いつの間にか寝ていたらしい。
「しまった、そろそろ帰らないと・・・」
目が覚めて徐々に思考が戻ってくると裏腹に気分は重くなっていく。父と兄に合わせる顔がない。頑張ってきた自分の努力が無駄だなんて思いたくなかった。
「どうしよう・・・」
三角座りをしようとした時、僕は自分の体に違和感を感じた。
「?・・・えっ?!」
膝に当たる感触。そして若干の息苦しさ。あ、あれっ、これって?!
「な、なんで胸、膨らんで?!」
立ち上がって周囲を見渡し、自分の姿を確認しようと探してみる。が、そうそう姿見に代わるようなものなんかあるわけもなく・・・。仕方なく帰ろうとした時だった。
突然光が屋根を突き破らんばかりの勢いで降り注ぎ、僕を祭壇から吹き飛ばした。
ゴロゴロと転がった挙げ句古びたカーテンに飛び込んで埃まみれになり、咳をしながら光の落ちてきた祭壇を見る。
「・・・誰か居る?」
無人だった筈の神殿の祭壇にいつの間にか所々を金属で補強した胴当てと動物の角を飾りにした筋骨隆々の男性が立っている。
立派な髭と斧を手に祭壇に佇む姿は神殿と言う場所の神秘性も手伝って厳かな雰囲気を醸し出していた。
「まるで神話の神様みたいだ」
そうボソッと言ったのが聞こえたのか男性の目線が僕に移った。
『二番手か、まぁ仕方あるまい』
「にばんて?」
『その体、美と愛欲の女神「ウェヌス」に弄られたのだ。月が出ておるからそこからお前を見つけたのだろうな』
「えぇ・・・」
困るなぁ。と思っていたら男性は不思議そうに顎髭に手をやった。
『お前さん、五体投地で天に祈っていたのだから当然だろう』
「え?」
『祭壇に四肢を投げ出して天を仰ぎ祈る。これは神にどうとでもしてくれという意思表示ではないか』
し、知らなかった!自棄になって祭壇でごろ寝したのがまさかそんなことになるなんて・・・!
『月の満ち欠けと星の周期、そして願いと所作。なによりワシらの耳か目に入って初めて願いは届く。その幸運に預かりながらなにか不服か?』
「ごめんなさい・・・」
『まぁ良い、ウェヌスはお前さんの見た目と転がしやすそうな性格を好んで加護を与えたのだろう。ウェヌスはそういう奴だから気を付けるのだぞ』
ため息交じりの鼻息で髪が靡く。凄い豪快な神様だ。
「それで・・・えぇっと、間違いがなければあなた様は雷と武の神トール様でよろしいんでしょうか?」
『うむ、である!』
間違えたら大問題なので恐る恐る尋ねると男性改めトール様は僕の胴体ほどありそうな腕を組んで頷いた。
『お前さんの一族は代々この国の為に戦い、功徳を積んできた。ワシはそんなお前さんの一族に僅かでも報いてやりたいと常々思っていた・・・そこでだ!』
トール様はにこやかに笑うと突然僕の両手を掴んだ。
「なっ!なにをっ?!」
『先ずはこの両手、忌々しいウェヌスめに奪われた手からだ』
「奪われた?えっ?」
体格差が凄すぎて掴まれた手を肩の高さまで上げられるともうつま先立ち状態。混乱していると
『お前さんの努力を象徴する手をこんな細く頼りないモノに変えてしまうとは信じられん』
「努力・・・」
『血の滲むような鍛練を積んできたのだろう?他ならぬ家族の為に・・・』
ワシは見ていたぞ。と言う言葉に思わず涙が出た。理解されることのなかった努力が認められた嬉しさに。
それはいつもお祈りをする神殿。管理する人が居なくなって打ち捨てられた場所。ちゃんとした神殿では人が多くて、身内に出会うと恥ずかしくて行けなかった。
「はぁっ・・・はぁっ・・・」
夕陽が傾いて、月が顔を出そうとしていた。屋根も抜けて光が差し込むこの神殿はどこか幻想的ですらある。
「神・・・様、どうか・・・お願いです、僕の願いを」
朽ちた像と舞台のように高くなった祭壇に上っていつものように祈る。
剣の才能がない
父の声が頭に浮かぶ。その言葉を振り切ろうとして僕は握りしめていた練習用の木剣を構える。
「はぁっ・・・わっ?!」
袈裟斬りに振り下ろそうとして踏み込んだところで足が縺れて転んでしまった。
「・・・」
痛さというより虚しさと悔しさに視界が歪んだ。膝に手をやると血が出ていたのか鉄臭い臭いが鼻についた。
悔しくて、先ほどの動作をやり直そうと落とした木剣を取ろうと手を動かして・・・。
「あっ」
動かした手に当たった木剣はそのまま祭壇から転がって、ゆらゆらとしてから落ちた。
普段なら大したことのない出来事が僕の心にとどめを刺したような気がした。
「どうしてっ!どうしてだよっ!」
祭壇を何度も叩いて、やがて疲れてごろりと仰向けになり空を見上げた。
「神様、どうして僕の努力は報われないのでしょうか?」
虚空に消える問いかけ。泣きながら屋根の穴から覗く空に目を向ける。
「月・・・か、神様・・・僕に力をください。そうじゃないなら・・・いっそ」
男なんかに産まれたくなかった。そう呟いて僕は目を閉じた。
だから僕には気づけなかった。月が怪しく輝いたのに。
「へっくしゅん!」
吹き込んだ風に晒されて思わずくしゃみをした。いつの間にか寝ていたらしい。
「しまった、そろそろ帰らないと・・・」
目が覚めて徐々に思考が戻ってくると裏腹に気分は重くなっていく。父と兄に合わせる顔がない。頑張ってきた自分の努力が無駄だなんて思いたくなかった。
「どうしよう・・・」
三角座りをしようとした時、僕は自分の体に違和感を感じた。
「?・・・えっ?!」
膝に当たる感触。そして若干の息苦しさ。あ、あれっ、これって?!
「な、なんで胸、膨らんで?!」
立ち上がって周囲を見渡し、自分の姿を確認しようと探してみる。が、そうそう姿見に代わるようなものなんかあるわけもなく・・・。仕方なく帰ろうとした時だった。
突然光が屋根を突き破らんばかりの勢いで降り注ぎ、僕を祭壇から吹き飛ばした。
ゴロゴロと転がった挙げ句古びたカーテンに飛び込んで埃まみれになり、咳をしながら光の落ちてきた祭壇を見る。
「・・・誰か居る?」
無人だった筈の神殿の祭壇にいつの間にか所々を金属で補強した胴当てと動物の角を飾りにした筋骨隆々の男性が立っている。
立派な髭と斧を手に祭壇に佇む姿は神殿と言う場所の神秘性も手伝って厳かな雰囲気を醸し出していた。
「まるで神話の神様みたいだ」
そうボソッと言ったのが聞こえたのか男性の目線が僕に移った。
『二番手か、まぁ仕方あるまい』
「にばんて?」
『その体、美と愛欲の女神「ウェヌス」に弄られたのだ。月が出ておるからそこからお前を見つけたのだろうな』
「えぇ・・・」
困るなぁ。と思っていたら男性は不思議そうに顎髭に手をやった。
『お前さん、五体投地で天に祈っていたのだから当然だろう』
「え?」
『祭壇に四肢を投げ出して天を仰ぎ祈る。これは神にどうとでもしてくれという意思表示ではないか』
し、知らなかった!自棄になって祭壇でごろ寝したのがまさかそんなことになるなんて・・・!
『月の満ち欠けと星の周期、そして願いと所作。なによりワシらの耳か目に入って初めて願いは届く。その幸運に預かりながらなにか不服か?』
「ごめんなさい・・・」
『まぁ良い、ウェヌスはお前さんの見た目と転がしやすそうな性格を好んで加護を与えたのだろう。ウェヌスはそういう奴だから気を付けるのだぞ』
ため息交じりの鼻息で髪が靡く。凄い豪快な神様だ。
「それで・・・えぇっと、間違いがなければあなた様は雷と武の神トール様でよろしいんでしょうか?」
『うむ、である!』
間違えたら大問題なので恐る恐る尋ねると男性改めトール様は僕の胴体ほどありそうな腕を組んで頷いた。
『お前さんの一族は代々この国の為に戦い、功徳を積んできた。ワシはそんなお前さんの一族に僅かでも報いてやりたいと常々思っていた・・・そこでだ!』
トール様はにこやかに笑うと突然僕の両手を掴んだ。
「なっ!なにをっ?!」
『先ずはこの両手、忌々しいウェヌスめに奪われた手からだ』
「奪われた?えっ?」
体格差が凄すぎて掴まれた手を肩の高さまで上げられるともうつま先立ち状態。混乱していると
『お前さんの努力を象徴する手をこんな細く頼りないモノに変えてしまうとは信じられん』
「努力・・・」
『血の滲むような鍛練を積んできたのだろう?他ならぬ家族の為に・・・』
ワシは見ていたぞ。と言う言葉に思わず涙が出た。理解されることのなかった努力が認められた嬉しさに。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
真祖竜に転生したけど、怠け者の世界最強種とか性に合わないんで、人間のふりして旅に出ます
難波一
ファンタジー
"『第18回ファンタジー小説大賞【奨励賞】受賞!』"
ブラック企業勤めのサラリーマン、橘隆也(たちばな・りゅうや)、28歳。
社畜生活に疲れ果て、ある日ついに階段から足を滑らせてあっさりゲームオーバー……
……と思いきや、目覚めたらなんと、伝説の存在・“真祖竜”として異世界に転生していた!?
ところがその竜社会、価値観がヤバすぎた。
「努力は未熟の証、夢は竜の尊厳を損なう」
「強者たるもの怠惰であれ」がスローガンの“七大怠惰戒律”を掲げる、まさかのぐうたら最強種族!
「何それ意味わかんない。強く生まれたからこそ、努力してもっと強くなるのが楽しいんじゃん。」
かくして、生まれながらにして世界最強クラスのポテンシャルを持つ幼竜・アルドラクスは、
竜社会の常識をぶっちぎりで踏み倒し、独学で魔法と技術を学び、人間の姿へと変身。
「世界を見たい。自分の力がどこまで通じるか、試してみたい——」
人間のふりをして旅に出た彼は、貴族の令嬢や竜の少女、巨大な犬といった仲間たちと出会い、
やがて“魔王”と呼ばれる世界級の脅威や、世界の秘密に巻き込まれていくことになる。
——これは、“怠惰が美徳”な最強種族に生まれてしまった元社畜が、
「自分らしく、全力で生きる」ことを選んだ物語。
世界を知り、仲間と出会い、規格外の強さで冒険と成長を繰り広げる、
最強幼竜の“成り上がり×異端×ほのぼの冒険ファンタジー”開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
大ッ嫌いな英雄様達に告ぐ
鮭とば
ファンタジー
剣があって、魔法があって、けれども機械はない世界。妖魔族、俗に言う魔族と人間族の、原因は最早誰にもわからない、終わらない小競り合いに、いつからあらわれたのかは皆わからないが、一旦の終止符をねじ込んだ聖女様と、それを守る5人の英雄様。
それが約50年前。
聖女様はそれから2回代替わりをし、数年前に3回目の代替わりをしたばかりで、英雄様は数え切れないぐらい替わってる。
英雄の座は常に5つで、基本的にどこから英雄を選ぶかは決まってる。
俺は、なんとしても、聖女様のすぐ隣に居たい。
でも…英雄は5人もいらないな。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる