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ガルデンヘイム王国王都で

お茶会の一幕

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ガルデンヘイム王国王都、そこの一等地に鎮座する大きな邸宅がある。貴族の屋敷や王家所有の建築物が並ぶ地域で目を引くその理由は何代も続く名家が所有する事でその箔がついているのかもしれない。

「父上!あの王子に招待状を出したと言うのは本当ですか!」

その邸宅の所有者の息子、グラハム・ロンベル伯爵は書斎で書類に目を通していた男性に叫んだ。

「騒々しいな、それの何が問題なのだ」
「奴は薄汚い平民共と馴れ合う軟弱者ですよ!栄えある近衛騎士隊から我等貴族を追い出した王と同じ考えの持ち主だ!そんな奴を父上が主催する茶会に招くなど・・・」

憤慨した様子のグラハムに男性は書類から目を話さずに淡々とした様子で話を聞いていたがため息をついた後に短く言った。

「どうせ来ないであろう、招待状の内容を見なかったのか?」
「内容・・・?」
「この茶会には男女のペアで参加する事を条件にしておいた。長兄は王都に居らず、末弟の皇太子殿下は婚約者の居ない独り身だ」

貴族のネットワークに置いて彼は皇太子であるオルランドが婚約者を選んでいないという事を知っていた。通常ならば貴族達には早くから婚約者を決めているのが常だった為茶会の参加者は多い、未来の夫婦のお披露目的な意味合いを兼ねる催しなので皆がおめかしをしてやってくるのだ。
そんな中で王家の人間に幼少期から婚約者が居ないのは王位継承権を得る為の試練があるからで
貴族達に野心が無いわけでは無いが幼いわが子を嫁ぐ前から後家にしてしまっては折角の縁談も利益を得る前から肝心の娘が傷物になってしまうためだ。そうなると大半の子女は若くして修道院行きが決定してしまう。
子供を可愛がっていようと、はたまた出世の道具としていようと王家の人間、それも男子と婚約させると言うのは相当にリスキーなのだ。
そんな中で王家の人間におしどり夫婦が多いのは『貴方が死んだなら一生独身で修道院行きになっても構わない!』という全幅の信頼を寄せる相手か、もしくは『継承権を放棄し、たとえ身一つになっても貴方についていきます!ってかウチで養います!』というラブロマンス全開の気骨溢れる女性しか婚約者になろうという子女が居ない為である。

「しかし、奴は継承権を得て帰ってきましたよ。婚約者ができてもおかしくないのでは?」
「それもない、皇太子と同年代の子女は今王都に居ないからな。それにそんな重要な事を隠す理由があると思うか?」

ガルデンヘイム国王は無類のお祭り好きとして知られており、自他問わずめでたい事があれば祝わずには居られないという困った性分がある。そんな国王が祝い事を前に黙っているはずがないと言うのが貴族のみならず国民達の常識であった。

「確かに・・・陛下が黙っているはずがありませんね」
「そう言う事だ、お前はそれより婚約者の出迎えの準備を済ませろ」
「は、はい」

近々の皇太子の凱旋を祝うパレードもあり、貴族達は自身の催し物などの参加や開催に追われていた。その為、現在はクロンスタット騎士団も大人しいものだ。

「それと、前のように落馬などするのではないぞ。治癒術を扱う医師はそうは居らん、これだけ早く治すとなると結構なものだったのだからな」
「うぐ・・・わかっています」

グラハムは前回の落馬で担ぎこまれてから生死の境を彷徨うほど酷くは無かったが骨や内臓など各所を痛めていたらしくそれを治せる治癒術師を呼ぶのに相当な金額がかかった。
普段なら自らの不始末とばかりに放置される所だったがロンベル家の当主が開く茶会という事でそのスケジュールに間に合うよう急がせたのだ。今回の茶会はそれに見合うだけの重要な会合という事になる。

「嫌な事を思い出させやがって親父め・・・」

父の書斎を出たグラハムは苛立ちを隠せない様子で自室へと向かう。あの日、近衛騎士隊の前で落馬するという失態を犯してしまった彼は近衛騎士隊はもちろん、近衛騎士隊に一部メンバーがボコボコにされる事件が起きるまで仲間内でも馬鹿にされていた。

「最近なんだかおかしい・・・オレがこんな失態を犯すなんて」

近衛騎士隊に勝ち星こそ上げられていないクロンスタット騎士団と彼であったがそれでも自分達の得意分野や身分を笠に来た嫌がらせなどで優越感を得られる位の日常を送れていたのだ。
それが最近になってどこかおかしい事になっていると彼は感じていた。

「そういえば奴らが巫女だとか持て囃している女がいるんだったな・・・」

王宮で噂になっている一人の女性の噂。曰く、Sクラスの女。曰く、龍巫女。

「ソイツが怪しい・・・、思えばオレが落馬した時もあの女がいたな」

自室のドアを開けて部屋に戻るとグラハムは一人、怒りを滲ませながら机に向かう。

「親父の権力があれば女一人意のままにする事は造作もない・・・後はそれがいかに利益を生むかを親父に証明できればいいんだが」

もしも計画が上手く行き、念願かなった暁には・・・そう考えるとグラハムは一人怒りにわずかな期待とどす黒い欲望を思い描いていた。
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