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獣人と建国の章

獣人達のあれこれ その2

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広場に足を運ぶと甲冑姿の狼人族とゆったりした和服っぽい服装の狐人族が不機嫌オーラ全開で睨みあい、それを凄く迷惑そうな面持ちでダークエルフ達が見守っている。

 「いやはや、お待たせした」

 俺がそう言って広場に入るとそれぞれが異なった反応を見せた。狼人族は酷く驚いた様子で此方を見、狐人族は厳しい表情で此方を一瞬見せたがすぐさま外交モードの笑顔を見せる。二人ともそれなりに立場があるのかは解らないがそれぞれが立場のありそうな貫禄を持っている。

 「貴殿は・・・人か?」

 開口一番狼人族の男性がそう呟いた。

 「いかにも・・・と言いたいところだが、どうにも違うようだ」

 俺がそう冗談めかして言うと笑顔の俺を他所に狼人族の男性は納得したように俺を見て表情を厳しいものにしている。対する狐人族の男性はこちらも少し納得した様子で値踏みするように此方を見ている。

※狼人族視点
 私は狼人族のチェステ・ニーミツ、誇り高き狼人族が誇る遊撃隊現場指揮官を務める立場である。
 現在我らは忌々しい狐人族どもとの戦い、鎬を削っている。
 大森林の向こうには人族の国があるらしいが彼らとの国交を結ぶに当たり国力をつけることは例え交渉が如何様に転ぼうとも悪いことにはならないだろう。そのためにはコボルト達を味方に引き込み彼らの土木技術や加工技術を無視することはできない。臆病な性格故に彼らは戦闘では役に立たないが戦士は今のところ足りているので問題ない。むしろ彼らを引き込めればさらに戦力は増強できるだろう。
コボルトを引き込み内政を安定させた後に狐人族共を撃滅し、人族との貿易によって国内をさらに発展させるという長老達のお考えに私も賛同する立場として今回の件は外せない案件だ。
しかし少し面倒な事にコボルト達は既に他種族によって保護を受けていたことだ。しかもよりによってダークエルフの一団に従属しているという。部下の報告を受けた私はすぐさま交渉を行うべく自らこの場に赴いたが・・・、彼女達にも長の意見を仰ぎたいとの事だったので広場に通されたがそこで更に面倒な事になった。狐人族が既に広場で待っていたのだ。
 狡猾な奴らの事、コボルトに目をつけるだろうとは思っていたがまさか機先を制そうとしていたとはな。
しかしそうはいかない、交渉を成功させるのは私達だ。

 「いやはや、お待たせした」

ダークエルフ達が呼んできた長というのはなんと、人族の男性であった。
ダークエルフはドラゴンに仕える高名で我らに勝るとも劣らぬ気位の高い種族だったはずが、なぜ人間に組しているのだ?そういった疑問と共に私の鼻に届いたのは非常に濃い血の臭いであった。

(これは・・・!)

おもわず悲鳴が口から飛び出しそうになる。我々狼人族は血の臭いを嗅ぎ分け、おおよその人数なども割り出す事も可能だが、この男・・・少なくとも数十人を手に掛けている!
そして、我が狼人族の中でも修練の果てに習得できる特殊な嗅覚がさらにおぞましい事実を感じ取った。
この男は恐ろしいことにホンの数日前に千を超える魔物を殺している。単独であるかは解らないが、どのようにしろ千に上る軍勢を対して殲滅せしむる手段を持ち合わせている。
 男から迸る魔力は只ならぬものを感じさせてはいたが、まさか、まさか千を超える魔物を如何様にして殺害したというのだろうか?

 「貴殿は・・・人間か?」

 失礼かどうかなどと考える暇などなかった。口からおもわず飛び出してしまった。
そんな私の発言に彼はゾッとするような笑みを浮かべてこう言った。

 「いかにも・・・と言いたいところだが、どうにも違うようだ」

この男、何者・・・?ただ一つ言える事は彼がダークエルフを従えるにたるだけの存在であり、千を超える軍勢を鏖殺できる鬼神の類であるということだけだった。
この者と戦ってはいけない、いかに精強な我が軍とて全軍を挙げて三千に届くかどうか・・・千を屠る鬼神と如何にして戦うと言うのだろうか・・・。

※狐人族視点
 我の名はアルベ・シルミナ、栄えある狐人族の近衛隊を預かる立場である。
 目下狼人族との戦いが激化する中で我らは術を使い狼人族の裏をかいたり、呪術で殺害したりしてどうにか拮抗を保っていたがやはり直接のぶつかり合いでは彼奴等を上回る事は難しいことだ。
 安全に術を行使しかつ奴らの機動力を奪うには篭城か、もしくは地中に罠を張るかのどれかしかないがいずれにしろそれを実行するにも狐人族では不得手とする技術ばかりである。
そこで思いついたのが放浪の民と化していたコボルト達の存在である。彼らは土木技術に長け、人間とも交流でき建築技術にも長けているという。彼らを身内に引き込み堅牢な要塞を建てられれば彼奴等が撤退する冬まで持ちこたえることが出来るだろう。そして冬で身動きが取り辛い状態になれば我らは一方的に呪術を行使して一方的に攻撃できるだけでなく忌々しい彼奴等の遊撃隊を結界でシャットアウトすることが可能になる。
コボルト達を如何にして引き込むかと考えていると占いの結果からコボルト達の住む場所を割り出す事ができた。狼人族が来る前に彼らを連れ帰らなければ・・・。
そう思っていた矢先、現地に赴いた私が見たのは彼らを保護するダークエルフの存在であった。
まさかダークエルフの庇護を彼らが受けているとは思わなかった。彼女達は我らを上回る呪術の歴史を誇り、自らも強靭な呪術に対する耐性を持ち合わせており我らとの相性は最悪である。
そしてさらには恐るべき暗殺術の使い手であるということもわかっているので交戦の選択肢は最初から除外せねばならない。
そしてもう一つの誤算は狼人族も此方を嗅ぎつけたことだ。彼奴等の目的もコボルト達の技術に違いない。無闇に戦火を撒いて置きながら被害者を連れ去ろうとはなんと業腹な事だろう。

 「いやはや、お待たせした」

 狼人族を睨みつけていると長を呼びにいったダークエルフが戻ってきたらしい。傍らに大柄な人族の男が立っているが・・・。私は今日一番の驚きを覚えた。

(この男・・・!魔力の量が半端ではない・・・)

我らの妖術には相手の魔力の量に成否を握られる物も多く、多少の誤差ならともかくこのように雲泥の差が出てしまってはこの男に如何様な手段を用いようとも呪殺することは敵わないだろう。
 狼人族の男がなにやら無礼な事を口走っていたがコレばかりは同意見だ。人間とは思えぬ。
しかしこれは好機でもあるだろう、我らの手練手管でこの男を篭絡し協力関係を築いてしまえば狼人族などおそるるに足らず。
 我は恐怖に震える自らを叱咤し、故郷を救うべく策謀を練る事にした。
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