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獣人と建国の章
陰謀の果てに
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「まあ立ち話もなんだしあがんなよ」
カンラはそう言うと二人にお茶を出し、板の間に上がるように勧めた。
「ここの人は墓参りをするものなの?」
「普通の人はしないね、けどそのえらいさんはなかなか情け深い人だからね」
「情け深い・・・か」
そうならば墓を暴くことに関してその人というのは無関係なのだろうか?
「そういえば世を儚んだ女性とその偉い人は関係があるの?」
「確かその女性のお父君でしたっけ?」
「そうさ、可哀想に耳を誰かに切られたって話でなぁ、耳なしってんで嫁入り話も立ち消え、彼女はそれで・・・」
そう言うとカンラは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「ここだけの話俺はね、シルミナのクソ野郎を疑ってんのさ」
「何故?」
「シルミナの野郎は長の娘さんを狙ってるのさ、それで嫁入り話が整いつつあった彼女が邪魔になったのさ」
「まさかシルミナに嫁ぐのがその?」
「ああ、あんなクソにはもったいない女性だったけどお家の都合だからねぇ」
「けど長の娘さんは・・・」
そう言うとカンラはにんまりと笑みを浮かべてアウロラを見つめ、お茶を一気に飲み干して続けた。
「そうさ、長の娘は狼人族の長老んとこの息子に惹かれてんのさ、それに俺は見ちまったよ!ロマンスの瞬間ってやつ?あっはー!熱々だよ!」
ニヤニヤしながら言う彼女の話によると二人は抱き合ってキスしているところをカンラにばっちり見られていたらしく気づいた二人は非常に初々しい反応を見せてくれたのだという。
「そうなると・・・クロかしらね」
「というと?」
「二人が行方不明になった事しってる?」
「なんだって?あんたがどうして・・・ってぇとまさか」
「ウチで預かってるわ、命を狙われてるんでね。念のために言っとくと無事よ」
一瞬の殺気と戸板の隙間からキラリと光る刃物を制するようにアウロラが言うと眉間の皺を消してカンラはふーっと息を吐いた。
「脅かすない、危うくぶっ殺すところだった」
「そうね、ぶっ殺すところだったわ」
「こ、怖いですよ・・・二人とも」
机の下では刃が今まさに交わされる寸前であり、二人は互いに卓袱台にナイフを置いた。互いに事が起これば卓袱台を相手側にひっくり返してナイフで一突きするつもりだったのかナイフを持つ手と逆の手は卓袱台の縁に掛かっている。
「つまり、あのクソは長のいねえことを良い事に狼人族の小倅を始末して跡取りに潜り込むつもりだったのか・・・ホントクソだなおい」
「人の恋路を邪魔する奴は八つ裂きにされて死ぬべきね」
二人はそう言うと獰猛な笑みを互いに交わし、一頻りうなり声のような笑い声を上げると感謝を述べて小屋を後にした。
「けどそうなると何故暗殺者が彼を始末するまで待たなかったんでしょうか?あの男がそこをしくじるとは思えないんですが・・・」
「致死性の毒を使わなかったのも気になるわね・・・仕留める気がなかったのか、それとも仕留め切れると考えていたのか・・・どちらにせよ犯人の目星はついたわ、ツケを払わせるべき相手もね」
アウロラはそう言うと通信札を取り出して再度連絡することに。
『どうした、なにか進展があったのか?』
「我々を攻撃してきた連中の手がかりで有力な情報を得ましたのでご報告を」
『なるほど、それで内容は?』
「おそらくギルドに依頼を持ち込んだ者の親玉は恐らくシルミナです、彼は長の娘を娶る為にザオウ殿が邪魔になったのでしょう」
『なるほど、よく解った・・・これでこちらの問題も片付く』
「解りました、ただ解らない事が残っています」
『解らない事?』
「シルミナが我等の同胞を攻撃した事です。それだけが解せないのです」
暗殺ギルドの契約には依頼主の裏切りに対する報復は明記されており、確定した際には逆に返す刀となって依頼主に襲い掛かるのだがそもそも依頼が達成されれば立ち去る彼女達をあえて敵対させる意図がアウロラにはわからなかった。
『複雑な事情があるのかもしれん、狼人族の方は次子のタケクラが兄の生存情報と共に抑えてくれている。その間にそちらの解決を急いでくれ』
「了解です、シルミナを誅殺した後もう一度報告させてもらいます」
連絡を終えたその日の夜にアウロラは黒く染めた衣装に身を包むと闇夜に包まれた狐人族の都市を疾走する。黒い影が屋根伝いに走る様はまさしく忍者のようで衛兵たちが時折何かに気付いたようなそぶりを見せるもそのころにはアウロラは走り去った後で彼らは首をかしげるのみであった。
(此処が奴の屋敷・・・)
見た目は質素ながら大きな屋敷のシルミナの屋敷は厳重な警備に守られており幾人もの衛兵がかがり火を焚いて防備を固めている。しかも塀は高くねずみ返しが着いており上るのも通常は困難だ。
(まるで私が来ることを知っているかのようね)
契約金を払いきるのが惜しくなったのか、はたまたダークエルフをスケープゴートにするつもりだったのか。しかしながら奴の思うとおりにするわけにはいかない。アウロラは闇魔法を駆使して影から影へと渡り衛兵の網を潜り抜けていく。
カンラはそう言うと二人にお茶を出し、板の間に上がるように勧めた。
「ここの人は墓参りをするものなの?」
「普通の人はしないね、けどそのえらいさんはなかなか情け深い人だからね」
「情け深い・・・か」
そうならば墓を暴くことに関してその人というのは無関係なのだろうか?
「そういえば世を儚んだ女性とその偉い人は関係があるの?」
「確かその女性のお父君でしたっけ?」
「そうさ、可哀想に耳を誰かに切られたって話でなぁ、耳なしってんで嫁入り話も立ち消え、彼女はそれで・・・」
そう言うとカンラは面白くなさそうに鼻を鳴らした。
「ここだけの話俺はね、シルミナのクソ野郎を疑ってんのさ」
「何故?」
「シルミナの野郎は長の娘さんを狙ってるのさ、それで嫁入り話が整いつつあった彼女が邪魔になったのさ」
「まさかシルミナに嫁ぐのがその?」
「ああ、あんなクソにはもったいない女性だったけどお家の都合だからねぇ」
「けど長の娘さんは・・・」
そう言うとカンラはにんまりと笑みを浮かべてアウロラを見つめ、お茶を一気に飲み干して続けた。
「そうさ、長の娘は狼人族の長老んとこの息子に惹かれてんのさ、それに俺は見ちまったよ!ロマンスの瞬間ってやつ?あっはー!熱々だよ!」
ニヤニヤしながら言う彼女の話によると二人は抱き合ってキスしているところをカンラにばっちり見られていたらしく気づいた二人は非常に初々しい反応を見せてくれたのだという。
「そうなると・・・クロかしらね」
「というと?」
「二人が行方不明になった事しってる?」
「なんだって?あんたがどうして・・・ってぇとまさか」
「ウチで預かってるわ、命を狙われてるんでね。念のために言っとくと無事よ」
一瞬の殺気と戸板の隙間からキラリと光る刃物を制するようにアウロラが言うと眉間の皺を消してカンラはふーっと息を吐いた。
「脅かすない、危うくぶっ殺すところだった」
「そうね、ぶっ殺すところだったわ」
「こ、怖いですよ・・・二人とも」
机の下では刃が今まさに交わされる寸前であり、二人は互いに卓袱台にナイフを置いた。互いに事が起これば卓袱台を相手側にひっくり返してナイフで一突きするつもりだったのかナイフを持つ手と逆の手は卓袱台の縁に掛かっている。
「つまり、あのクソは長のいねえことを良い事に狼人族の小倅を始末して跡取りに潜り込むつもりだったのか・・・ホントクソだなおい」
「人の恋路を邪魔する奴は八つ裂きにされて死ぬべきね」
二人はそう言うと獰猛な笑みを互いに交わし、一頻りうなり声のような笑い声を上げると感謝を述べて小屋を後にした。
「けどそうなると何故暗殺者が彼を始末するまで待たなかったんでしょうか?あの男がそこをしくじるとは思えないんですが・・・」
「致死性の毒を使わなかったのも気になるわね・・・仕留める気がなかったのか、それとも仕留め切れると考えていたのか・・・どちらにせよ犯人の目星はついたわ、ツケを払わせるべき相手もね」
アウロラはそう言うと通信札を取り出して再度連絡することに。
『どうした、なにか進展があったのか?』
「我々を攻撃してきた連中の手がかりで有力な情報を得ましたのでご報告を」
『なるほど、それで内容は?』
「おそらくギルドに依頼を持ち込んだ者の親玉は恐らくシルミナです、彼は長の娘を娶る為にザオウ殿が邪魔になったのでしょう」
『なるほど、よく解った・・・これでこちらの問題も片付く』
「解りました、ただ解らない事が残っています」
『解らない事?』
「シルミナが我等の同胞を攻撃した事です。それだけが解せないのです」
暗殺ギルドの契約には依頼主の裏切りに対する報復は明記されており、確定した際には逆に返す刀となって依頼主に襲い掛かるのだがそもそも依頼が達成されれば立ち去る彼女達をあえて敵対させる意図がアウロラにはわからなかった。
『複雑な事情があるのかもしれん、狼人族の方は次子のタケクラが兄の生存情報と共に抑えてくれている。その間にそちらの解決を急いでくれ』
「了解です、シルミナを誅殺した後もう一度報告させてもらいます」
連絡を終えたその日の夜にアウロラは黒く染めた衣装に身を包むと闇夜に包まれた狐人族の都市を疾走する。黒い影が屋根伝いに走る様はまさしく忍者のようで衛兵たちが時折何かに気付いたようなそぶりを見せるもそのころにはアウロラは走り去った後で彼らは首をかしげるのみであった。
(此処が奴の屋敷・・・)
見た目は質素ながら大きな屋敷のシルミナの屋敷は厳重な警備に守られており幾人もの衛兵がかがり火を焚いて防備を固めている。しかも塀は高くねずみ返しが着いており上るのも通常は困難だ。
(まるで私が来ることを知っているかのようね)
契約金を払いきるのが惜しくなったのか、はたまたダークエルフをスケープゴートにするつもりだったのか。しかしながら奴の思うとおりにするわけにはいかない。アウロラは闇魔法を駆使して影から影へと渡り衛兵の網を潜り抜けていく。
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