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ドラゴンと独立宣言の章
ザンナル帝国と逃亡民たち
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恐怖感を募らせたクリムツカはとうとうフィゼラー大森林に対する調査隊の編成を進言する。
「この国における奴隷達の逃亡は今までもあり、最低限度の権利として許されてきましたがそれを差し引いても今回の逃亡は異常です!」
臨時の会議における議題にクリムツカは声高に主張した。
「昨今は獣人達の民権運動も頻発しているしな・・・」
ゲンナル帝国将軍、オルムントは治安部隊と度々衝突している奴隷や乾民との対応を思い出しこめかみを押さえる。
「今回の大量脱走も含めて鑑みるに彼らだけの仕業かと考えるに些か疑問を感じるようになってきました」
「なぜだね、クリムツカ卿?」
「近年では皆がフィゼラー大森林に向かいます。昔ならば街道を通ってサマルやリットリオへ向かい、労働者として入植するなどしていたと行商人から情報を得ましたが最近はとんと行商人達のネットワークに掛からないところからも信憑性は高いです」
「行商人が口裏を合わせているのではないかね?」
「商売の権利をチラつかせて尋ねたのでそれはないでしょう。それに複数の商家に問い合わせても同じ答えです。口裏を合わせるにしては範囲も時期もばらばらで難しいでしょう」
「なるほど街道は通っていないのに逃亡は絶えないと・・・すると経路が自ずとフィゼラー大森林を通っての逃亡と」
皆がその報告を受けて首を傾げる。一体何故?街道に抜ければ確かに追いつかれたりするかもしれないが獣人自体が珍しくないので国外で歩いていたところで焼印を見られなければ知り合いでもない限りバレる恐れは無い。にも関わらず彼らは危険なはずのフィゼラー大森林へと向かうのだ。
「あくまで推測ですがあまりに不自然、あまりにも多数!私はこの事件に第三者の影がちらついてならない・・・なのでこれに関して早急な調査が必要であると感じこのような提案をさせていただきました」
「ふむ、たしかに・・・財務卿、予算編成は可能かな?」
「はっ、予算としては兵500ならば二ヶ月分の費用が捻出できるかと」
財務卿、オルペンはそういうと立派なカイゼル髭を触りながら素早く答える。
「二ヶ月か、よろしい、オルムント。兵500を編成し、フィゼラー大森林を調査せよ」
「はっ!」
玉座に座る老齢の男性、ゲンナル帝国皇帝リリムッド二世はオルムントに調査を命じる。
「陛下、進言をお聞き届けいただき誠に恐縮の至りでございます」
「よい、最近では皇宮にまで亜人ども不満の声が届く。余の不徳ならばともかくこれが他者の扇動であったならば由々しき事態ぞ。皆も為政に万全を尽くすのじゃ」
そういって皆は解散した翌日に事件が発生する。
「将軍!大変です!フィゼラー大森林の近所に位置する町で暴動が起きました!」
「何と!治安維持部隊はなにをしている!この緊迫した時に何と言う事だ・・・!」
「現在交戦中です!どうやら逃亡を武力で阻止しようとしたところ奴隷達の不満が爆発したそうです!」
「なんと愚かな・・・、蜂の巣を己の手で突くなど!ええい、至急増援を!」
オルムントは旅支度を鎧に変えて馬を駆り、情報を集めながら現地へと向かう。
「逃亡は暗黙の内に許されているとはいえ表立っては無法、止められたとてなんら可笑しくはないはずだが・・・なぜ彼らの不満が?」
不思議で仕方なかった彼も現地に近づくにつれて状況を理解し始めた。現地では大規模な不作が発生、秋口に納める税を払う為の麦が根こそぎ枯れていたのだ。収穫はまだまだ先とはいえこの付近で将来大きな飢饉が起こるであろう事は理解できた。
「これでは税は期待できぬ、そうなればそのしわ寄せは奴隷達に向かうか・・・規制を強めるタイミングを見誤ったか」
税が納められなければ投獄か、仮に許されても食物を根こそぎ取り上げられると考えたのだろう。
そうなれば冬を越すことは不可能な事は誰の目にも明らかだった。そして農地の惨状をさらに凄絶にしたのが国境の警備隊と逃亡民との衝突現場であった。
「酷いですね・・・」
同行した副官がつぶやいた。無理も無い、まるで戦場のような光景が広がっていたのだ。警備隊に連行される奴隷や乾民は皆やせ細っており、目だけがギラギラと此方を睨みつけてくる。対する兵士達も疲れ切った表情で任務についており、けが人も多数出たようだった。
「あれほどの憎悪の眼差しを浴びたのは何年ぶりか・・・」
オルムントが悲しげに辺りを見回していたところ警備隊と獣人のやり取りが耳に届いた。
『くっそーっ!離せ!俺は楽園へ行くんだーっ!』
『黙れ!さっさと歩くんだ!』
「楽園・・・?」
「どうかしましたか?」
「いや、奴らの中に楽園と叫んでいるものが居てな・・・」
「楽園・・・あ!」
そう言うと副官は不思議そうな顔をしていたがやがて合点がいったように手を叩いた。
「どうしたのだ?」
「楽園といえば・・・エルフ達の中にはドラゴンが拓いた土地を楽園と呼ぶと聞いた事があります」
「神話の話か?」
「ええ、過去にドラゴンが緑を育み、豊かな土地と農業をもたらしたと聞いた事があります。ドラゴンがおわす場所は聖域であり、魔物や不埒者に煩わされる事無く安らかに過ごせる楽園であると」
ふむ、とオルムントは副官の言葉と連行されていく獣人達を見ながら浮かぶ疑問と摺り合わせて事態の真相を探っていた。そして彼の脳裏にもクリムツカと同様に他国からの干渉があるのでは?という疑惑が生まれつつあった。
「この国における奴隷達の逃亡は今までもあり、最低限度の権利として許されてきましたがそれを差し引いても今回の逃亡は異常です!」
臨時の会議における議題にクリムツカは声高に主張した。
「昨今は獣人達の民権運動も頻発しているしな・・・」
ゲンナル帝国将軍、オルムントは治安部隊と度々衝突している奴隷や乾民との対応を思い出しこめかみを押さえる。
「今回の大量脱走も含めて鑑みるに彼らだけの仕業かと考えるに些か疑問を感じるようになってきました」
「なぜだね、クリムツカ卿?」
「近年では皆がフィゼラー大森林に向かいます。昔ならば街道を通ってサマルやリットリオへ向かい、労働者として入植するなどしていたと行商人から情報を得ましたが最近はとんと行商人達のネットワークに掛からないところからも信憑性は高いです」
「行商人が口裏を合わせているのではないかね?」
「商売の権利をチラつかせて尋ねたのでそれはないでしょう。それに複数の商家に問い合わせても同じ答えです。口裏を合わせるにしては範囲も時期もばらばらで難しいでしょう」
「なるほど街道は通っていないのに逃亡は絶えないと・・・すると経路が自ずとフィゼラー大森林を通っての逃亡と」
皆がその報告を受けて首を傾げる。一体何故?街道に抜ければ確かに追いつかれたりするかもしれないが獣人自体が珍しくないので国外で歩いていたところで焼印を見られなければ知り合いでもない限りバレる恐れは無い。にも関わらず彼らは危険なはずのフィゼラー大森林へと向かうのだ。
「あくまで推測ですがあまりに不自然、あまりにも多数!私はこの事件に第三者の影がちらついてならない・・・なのでこれに関して早急な調査が必要であると感じこのような提案をさせていただきました」
「ふむ、たしかに・・・財務卿、予算編成は可能かな?」
「はっ、予算としては兵500ならば二ヶ月分の費用が捻出できるかと」
財務卿、オルペンはそういうと立派なカイゼル髭を触りながら素早く答える。
「二ヶ月か、よろしい、オルムント。兵500を編成し、フィゼラー大森林を調査せよ」
「はっ!」
玉座に座る老齢の男性、ゲンナル帝国皇帝リリムッド二世はオルムントに調査を命じる。
「陛下、進言をお聞き届けいただき誠に恐縮の至りでございます」
「よい、最近では皇宮にまで亜人ども不満の声が届く。余の不徳ならばともかくこれが他者の扇動であったならば由々しき事態ぞ。皆も為政に万全を尽くすのじゃ」
そういって皆は解散した翌日に事件が発生する。
「将軍!大変です!フィゼラー大森林の近所に位置する町で暴動が起きました!」
「何と!治安維持部隊はなにをしている!この緊迫した時に何と言う事だ・・・!」
「現在交戦中です!どうやら逃亡を武力で阻止しようとしたところ奴隷達の不満が爆発したそうです!」
「なんと愚かな・・・、蜂の巣を己の手で突くなど!ええい、至急増援を!」
オルムントは旅支度を鎧に変えて馬を駆り、情報を集めながら現地へと向かう。
「逃亡は暗黙の内に許されているとはいえ表立っては無法、止められたとてなんら可笑しくはないはずだが・・・なぜ彼らの不満が?」
不思議で仕方なかった彼も現地に近づくにつれて状況を理解し始めた。現地では大規模な不作が発生、秋口に納める税を払う為の麦が根こそぎ枯れていたのだ。収穫はまだまだ先とはいえこの付近で将来大きな飢饉が起こるであろう事は理解できた。
「これでは税は期待できぬ、そうなればそのしわ寄せは奴隷達に向かうか・・・規制を強めるタイミングを見誤ったか」
税が納められなければ投獄か、仮に許されても食物を根こそぎ取り上げられると考えたのだろう。
そうなれば冬を越すことは不可能な事は誰の目にも明らかだった。そして農地の惨状をさらに凄絶にしたのが国境の警備隊と逃亡民との衝突現場であった。
「酷いですね・・・」
同行した副官がつぶやいた。無理も無い、まるで戦場のような光景が広がっていたのだ。警備隊に連行される奴隷や乾民は皆やせ細っており、目だけがギラギラと此方を睨みつけてくる。対する兵士達も疲れ切った表情で任務についており、けが人も多数出たようだった。
「あれほどの憎悪の眼差しを浴びたのは何年ぶりか・・・」
オルムントが悲しげに辺りを見回していたところ警備隊と獣人のやり取りが耳に届いた。
『くっそーっ!離せ!俺は楽園へ行くんだーっ!』
『黙れ!さっさと歩くんだ!』
「楽園・・・?」
「どうかしましたか?」
「いや、奴らの中に楽園と叫んでいるものが居てな・・・」
「楽園・・・あ!」
そう言うと副官は不思議そうな顔をしていたがやがて合点がいったように手を叩いた。
「どうしたのだ?」
「楽園といえば・・・エルフ達の中にはドラゴンが拓いた土地を楽園と呼ぶと聞いた事があります」
「神話の話か?」
「ええ、過去にドラゴンが緑を育み、豊かな土地と農業をもたらしたと聞いた事があります。ドラゴンがおわす場所は聖域であり、魔物や不埒者に煩わされる事無く安らかに過ごせる楽園であると」
ふむ、とオルムントは副官の言葉と連行されていく獣人達を見ながら浮かぶ疑問と摺り合わせて事態の真相を探っていた。そして彼の脳裏にもクリムツカと同様に他国からの干渉があるのでは?という疑惑が生まれつつあった。
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