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ドラゴンと独立宣言の章

ザンナル帝国と逃亡民たち その2

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古今さまざまな政治体系がある所でさまざまな不満の解消法や逸らし方があるがその一つに『宗教』がある。信じるモノを与える事で民衆はそれを心の支えとし、不満を打ち明けたり習慣やお祭りをすることで不満を発散し、未来に希望を抱くのだ。しかしそれは同時に国家を揺るがす毒となる。
それは民心が乱れたとき、大きな効果を発揮する猛毒となり、国家に牙をむくのだ・・・。
天災ならばまだいいだろう。人災でも食料があればいいだろう。国家が支えてくれるならいいだろう。
だが国家が此方に刃を向けたら?天災が起こり食料がなくなったら?そして、彼らが信じるものに手をかけたら?不満は枯れ野に放った火の如く広がるだろう。

「宗教を禁じるですと?!!」

疑心に駆られながら王宮に帰還したオルムントの耳に信じられない言葉が届いた。

「ええ、彼らの中に民衆を扇動する輩が居たようです」

クリムツカがそう言うと捕らえた人物のリストを見せる。

「『地龍教団』、『火龍の福音』・・・この国の最大派閥ではないか!扇動者はともかく布教や活動そのものを取り締まるのは反対ですぞ!民衆の不満が抑えきれない!」
「しかし宗教家はどれもザンナル帝国の王権神授を否定する者達ばかり、これまでは寛容に見逃していたが・・・」
「バカな!それならばせめて治安と食料自給率が回復してからでも!」
「逃亡を扇動するのはいただけないのです。彼らは経済の一部なのですよ?」
「食い物がないのに宗教まで取り上げたら彼らにはそのまま死ぬかこの国に弓を引くかのどちらかしかない!この計画の方が余程民を扇動するぞ!」

実際に現地に赴き治安維持に貢献してきた叩き上げのオルムントと違い大臣達はいずれも有力貴族の子弟であり、いささか民衆の心理に疎かった。そんな中皇帝が視察に向かう中緊急の合議と言う事で宗教の禁止令の前触れを発布した。オルムントは厳重に抗議したが皇帝が不在であるということと正式なものではないと一蹴され、将軍不在の機を狙って大臣達は宗教を前面的に禁止する。

(大臣共は民衆の気持ちを分かっていないのか・・・?)

そしてこのオルムントの予想は的中する事となる。

「将軍大変です!今度は国境付近の町クルップシュト(フィゼラー大森林側)と王都ザンネルールで民衆が廃止令の撤廃を求めて大規模な抗議活動を行っております!兵士達が王宮の防備を固めていますが大臣達が庁舎で孤立している模様!クルップシュトでは前回とは比べ物にならないほどの規模だそうです!」
「やはりきたか、予め待機させておいた兵士達を使い鎮圧せよ!」

オルムントは民衆にまぎれて移動させた兵士を各詰め所で武装させ、先々で民衆をコントロールし、徐々に沈静化させる事に成功した。しかしながらにらみ合いは続き、名将オルムントの兵ということで不満を堪えていた民衆達も遂に決起する。

「政治家共ではダメだ!我等は皇帝陛下に直訴するぞ!」

一人の声はやがて大きなうねりとなり王都ザンネルールを包んだ。主食である小麦の不作と富裕層の出奔による商家の動揺、そして逃亡者達との流血沙汰。おまけの国教ともいっていい規模の宗教の禁止に民衆はもはや政治家に対する信頼を失墜させていた。
そんななか宗教に寛容であり、民衆への慈悲深い皇帝に民衆は一縷の望みを託し五箇条の意見書を提出する事となる。

・一つ、国民に十分な食料の供給と物価の引き下げ
・一つ、乾民・奴隷に対する権利の向上および教育を受ける権利の保障
・一つ、宗教ならびに思想弾圧の停止と布教活動の再開
・一つ、皇帝陛下に意見奏上をできる機会の増加
・一つ、乾民ならびに普通民に対する参政権の拡大

彼らは皇帝の慈悲を期待して兵士を書き分けて王宮に殺到した。しかし・・・。

「皇帝陛下!我等の声をお聞き届けください!」
「うてぇ!」

王宮前の広場にたどり着いた民衆を待っていたのは近衛隊による弓矢の集中砲火であった。

「ぎゃっ!」
「そ、そんな!陛下は我々を見捨てるのか・・・?!」

執拗に放たれた弓矢に倒れた民衆は100名を越え、潤民の出奔からわずか一ヶ月の内に民衆と官僚の間には言いようのない深い溝が産まれる事となった。

「愚か者めが!何故民に弓を向けた!しかも余の箱庭で・・・よりによって近衛隊を使うとは・・・まるで我が皇家が民衆を見捨てたと宣言したもおなじぞ!!」

不作の農地の視察を終えて帰還した皇帝は激怒し、近衛隊に命令を出した官僚に厳しい処罰を適用した。
皇帝はすぐさま遺族に手厚い保障と自身の体による謝罪行脚を行い、かろうじて人心を引き留める事に成功したがそれでも政治家達を敵視する思想は変わる事無く皇帝は心労を重ねる事となる。

「今回の事態はまさしく余の不徳の致す所であった。しかし皆の志はしかと受け取った!この意見書に染まった血を見よ!」

民衆の不満を逸らす為に行った演説で皇帝は高々と血に染まった意見書を掲げ、この意見書に書かれた内容を精査することを約束し、漸く事態は沈静化へと向かっていく事になる。
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