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ドラゴンと独立宣言の章
温泉宿のお話
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「もう一度聞くよ!何のようだい?」
彼女がリーダー格なのだろうか。斧槍を片手に此方を睨みつけている。体を縦横にかける傷跡が彼女の戦歴を物語っている。相当な手練の戦士なのだろうか。
「温泉に浸かりにきた。此処はいつからこんなに物騒になったんだ?」
「よく言うよ!物騒にしたのはお前ら人間だろうが!」
「なに?」
「人間の男は本当に乱暴者ばかりで困る、アンタもそうなんだろ!」
取り付く島もないとはこの事か。なにか事情がありそうだが俺が聞いても彼女達は答えてくれそうに無い。
「どうしましょうか、制圧しますか?」
「此処で彼女達を無理矢理従えても禍根が残るだけだろ。ここは俺が変身するか」
戦争明けなので揉め事は最低限にしたい。ワーダイン族が怒る理由も知りたいしな。俺は大きく息を吸い込むと体を変化させてドラゴンに変身する。山のように大きくなっても面倒なので四メートルほどに抑えての変身だ。
「な・・・!」
『人間でなければ問題あるまいよ』
「そうですね、それでは温泉に参りましょう」
アウロラに手を引かれて歩き出すとあんぐりと口を開けていたワーダイン族の女性達は一斉に武器を置いて頭を下げた。
「ひーっ!すいませんでしたーっ!」
『とりあえず通ってもいいか?』
「どうぞどうぞ!お引止めして申し訳ありませんでしたー!」
脅かすつもりは無かったがなんかさっきよりもずっと話しかけ辛くなってしまった。狼人族の時もそうだったが彼らのドラゴンに対する信仰は人間のそれを遥かに凌駕している気がする。
サマルでは龍は王権神授の象徴だったし、現国王とは長い付き合いだから敬うというより慕うといった感情が強い。ザンナルに至ってはその昔ドラゴンを討伐した記録さえ残っていたのに。
(なんか勘違いしちゃいそうで怖いなぁ)
ザンナルは己の為に攻めたし、狐・狼人族の対立の仲裁と併合も全て俺が立ち上げた里を存続させる為の行動だった。権威を振りかざせば前回の戦争も回避は出来たかもしれない。だがそれではウチの里は何時まで経っても小さな里のままで、ザンナルの獣人達は何時までも奴隷のままだった。歴史の光陰に自らが立つとは思っても見なかったがそれを後悔しない事はもう決めた。
「原初の王様、その奥方様達もどうお詫びしたらいいか!」
「とりあえず旦那様が困ってますんで頭を上げてください。我々は温泉を楽しみにやってきただけなんですから」
違うんだけどね。温泉は本当は二の次なんだけどね。いろいろと仕事があるんだよ?アウロラ君。奥方様と呼ばれるくらいで自慢げにしないの。何とか言ってやってよシロナ・・・お前もかよ。テルミットは・・・おい、俺の尻尾で遊ぶな。
「奥方様がそう仰るなら・・・」
『あまり畏まられても困る。息が詰まるからな』
「ひーっ」
『それはもういいから!』
ああもう面倒くさい。俺はできる限り黙っておく事にしよう。いちいち恐れ入られるのも面倒だ。
「それでは旦那様、お宿に向かいましょう」
尻尾に抱きついて幸せそうなテルミットを引きずりながら俺はアウロラに手を引かれてそのまま温泉宿へ。
『外からも見えていたが結構規模が大きいな』
視線が高くなったので良く見えるようになった。平屋ばかりだがそれでも結構な建物の量だ。掘っ立て小屋みたいなのもあるがそれ以外のまともな建物だけでも村よりちょっと規模がデカイくらいだ。
「ここは今は我等ワーダイン族の村落となっておりますので」
「何故ですか?」
「我等は元より寒さに弱いのでザンナル帝国の北から此処まで移り住んできたのです。温泉のお陰で凍えずに済みますので大変重宝しております。昔は冒険者仲間の人間や旅人に門扉を開いていましたので人族とも交流がありました」
ですが、と言葉を切って彼女は鉱山を見上げる。
「自然の恵みであるあの山が争いの火種となったのです」
彼女はそう言うとワーダイン族が人間を遠ざける理由を俺達に話し始める。
「その昔この温泉の効能を求めて冒険者達がやってきたのが交流のきっかけでした。その冒険者達は傷の手当と安全とを引き換えに我等に建物の建築方法や商売の方法などを教えてくれて我等の集落でもそこから大いに発展する事ができました。それから冒険者の間に傷に効く温泉があり、傷ついた冒険者達の間では『命の温泉』と呼んで親しまれていました。なにしろ時間は掛かるとは言え治癒魔法で治りきらない傷なども治癒する事ができましたから」
温泉の効能は緩やかなものとはいえ体が資本の冒険者にとって古傷の療養にうってつけと言う事で口コミが広まり、やがて冒険者の間では有名な噂となったそうだ。
「温泉は有名になりましたがワーダイン族の集落と言う事で最初は誰も見向きもしませんでした。ですがそのうちにあの山で鉄鉱石が取れる事が解ってからは皆の目の色が変わってしまいました」
早い話観光名所が戦略資源の宝庫に早変わりしてしまったのだ。そしてその影響でワーダイン族が住む集落を奪おうという輩が出始めたのだという。
彼女がリーダー格なのだろうか。斧槍を片手に此方を睨みつけている。体を縦横にかける傷跡が彼女の戦歴を物語っている。相当な手練の戦士なのだろうか。
「温泉に浸かりにきた。此処はいつからこんなに物騒になったんだ?」
「よく言うよ!物騒にしたのはお前ら人間だろうが!」
「なに?」
「人間の男は本当に乱暴者ばかりで困る、アンタもそうなんだろ!」
取り付く島もないとはこの事か。なにか事情がありそうだが俺が聞いても彼女達は答えてくれそうに無い。
「どうしましょうか、制圧しますか?」
「此処で彼女達を無理矢理従えても禍根が残るだけだろ。ここは俺が変身するか」
戦争明けなので揉め事は最低限にしたい。ワーダイン族が怒る理由も知りたいしな。俺は大きく息を吸い込むと体を変化させてドラゴンに変身する。山のように大きくなっても面倒なので四メートルほどに抑えての変身だ。
「な・・・!」
『人間でなければ問題あるまいよ』
「そうですね、それでは温泉に参りましょう」
アウロラに手を引かれて歩き出すとあんぐりと口を開けていたワーダイン族の女性達は一斉に武器を置いて頭を下げた。
「ひーっ!すいませんでしたーっ!」
『とりあえず通ってもいいか?』
「どうぞどうぞ!お引止めして申し訳ありませんでしたー!」
脅かすつもりは無かったがなんかさっきよりもずっと話しかけ辛くなってしまった。狼人族の時もそうだったが彼らのドラゴンに対する信仰は人間のそれを遥かに凌駕している気がする。
サマルでは龍は王権神授の象徴だったし、現国王とは長い付き合いだから敬うというより慕うといった感情が強い。ザンナルに至ってはその昔ドラゴンを討伐した記録さえ残っていたのに。
(なんか勘違いしちゃいそうで怖いなぁ)
ザンナルは己の為に攻めたし、狐・狼人族の対立の仲裁と併合も全て俺が立ち上げた里を存続させる為の行動だった。権威を振りかざせば前回の戦争も回避は出来たかもしれない。だがそれではウチの里は何時まで経っても小さな里のままで、ザンナルの獣人達は何時までも奴隷のままだった。歴史の光陰に自らが立つとは思っても見なかったがそれを後悔しない事はもう決めた。
「原初の王様、その奥方様達もどうお詫びしたらいいか!」
「とりあえず旦那様が困ってますんで頭を上げてください。我々は温泉を楽しみにやってきただけなんですから」
違うんだけどね。温泉は本当は二の次なんだけどね。いろいろと仕事があるんだよ?アウロラ君。奥方様と呼ばれるくらいで自慢げにしないの。何とか言ってやってよシロナ・・・お前もかよ。テルミットは・・・おい、俺の尻尾で遊ぶな。
「奥方様がそう仰るなら・・・」
『あまり畏まられても困る。息が詰まるからな』
「ひーっ」
『それはもういいから!』
ああもう面倒くさい。俺はできる限り黙っておく事にしよう。いちいち恐れ入られるのも面倒だ。
「それでは旦那様、お宿に向かいましょう」
尻尾に抱きついて幸せそうなテルミットを引きずりながら俺はアウロラに手を引かれてそのまま温泉宿へ。
『外からも見えていたが結構規模が大きいな』
視線が高くなったので良く見えるようになった。平屋ばかりだがそれでも結構な建物の量だ。掘っ立て小屋みたいなのもあるがそれ以外のまともな建物だけでも村よりちょっと規模がデカイくらいだ。
「ここは今は我等ワーダイン族の村落となっておりますので」
「何故ですか?」
「我等は元より寒さに弱いのでザンナル帝国の北から此処まで移り住んできたのです。温泉のお陰で凍えずに済みますので大変重宝しております。昔は冒険者仲間の人間や旅人に門扉を開いていましたので人族とも交流がありました」
ですが、と言葉を切って彼女は鉱山を見上げる。
「自然の恵みであるあの山が争いの火種となったのです」
彼女はそう言うとワーダイン族が人間を遠ざける理由を俺達に話し始める。
「その昔この温泉の効能を求めて冒険者達がやってきたのが交流のきっかけでした。その冒険者達は傷の手当と安全とを引き換えに我等に建物の建築方法や商売の方法などを教えてくれて我等の集落でもそこから大いに発展する事ができました。それから冒険者の間に傷に効く温泉があり、傷ついた冒険者達の間では『命の温泉』と呼んで親しまれていました。なにしろ時間は掛かるとは言え治癒魔法で治りきらない傷なども治癒する事ができましたから」
温泉の効能は緩やかなものとはいえ体が資本の冒険者にとって古傷の療養にうってつけと言う事で口コミが広まり、やがて冒険者の間では有名な噂となったそうだ。
「温泉は有名になりましたがワーダイン族の集落と言う事で最初は誰も見向きもしませんでした。ですがそのうちにあの山で鉄鉱石が取れる事が解ってからは皆の目の色が変わってしまいました」
早い話観光名所が戦略資源の宝庫に早変わりしてしまったのだ。そしてその影響でワーダイン族が住む集落を奪おうという輩が出始めたのだという。
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