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第三章 王都の破壊者ルッタ
第56話 モンスターハウス!
しおりを挟むリゼリノ王国には、主として三つの騎士団が存在している。
一つは目は、冒険者ギルドと協力し、国境の防衛及び魔物の駆除、迷宮や未開拓地の調査等を行う【辺境騎士団】。
二つ目は、魔法学園や国教会等の魔術機関と連携し、魔法による戦闘支援や禁術の封印、負傷者の治療や解呪等を担う【魔導騎士団】。
三つ目は、王宮や王都周辺の警備を行い、有事の際は王命の下に各騎士団をまとめる役割を担う王直属の【近衛騎士団】である。
そして訓練場はこれらの騎士団に所属している騎士たちが鍛錬をする場であり、訪れる者の大半が新米や見習い騎士の騎士たちである。
――しかし、その日は違った。
中央を支配していたのは、三つの騎士団の頂点――それぞれの総長たちである。
「おやおや、御二方とも奇遇ですな。それにしても、なぜ訓練場へ?」
柔和な笑顔で真っ先に発言したのは、立派な髭を蓄えた貫禄のある大男――辺境騎士団総長、豪拳のヴォルス・デラ・ヴァレットだ。
「うちの魔法隊副隊長の息子が、何やら迷惑をかけたみたいでねぇ……ちょいと見物に来たのさ」
左目に眼帯をした魔女のような風貌の老婆――魔導騎士団総長、天賢のロゼッタ・フィア・カラリアは答える。
「僕は……可愛い妹の婚約者がここへ顔を出すという話を聞いたので、ちょっとひやかしに」
軽い調子でそう告げたのは、気品を感じさせる佇まいをした金髪の美青年――近衛騎士団総長、聖剣のレオン・ルース・フェリアだ。
「レオンお兄様! ルッタのことをいじめるのはやめてくださいまし!」
そんな彼の背後から顔を覗かせたのは、周囲の空気に圧倒されて隠れていたイーリス王女である。
「あはは、冗談だよ。少しお話しするだけさ。――イーリスの話を聞いていたら、僕も興味が湧いてね」
三人の目的は言うまでもなく、前日に大暴れしたルッタである。良くも悪くも無視できない人材であることは間違いない。
「ご機嫌よう、イーリス王女。お元気そうで何よりですな!」
ヴォルスが挨拶をすると、王女は肩を震わせて縮こまる。
「ご、ご機嫌よう、ヴォルスさん」
彼の存在感の前では、イーリス王女も気圧されて萎縮するらしい。
「へぇ……ずいぶんと生意気そうな小娘に育ったじゃないか」
すると、今度はロゼッタが口を挟んだ。
「お、王女に対して失礼ではありませんこと?! 場合によっては打ち首ですわよっ!」
驚いた様子で忠告するイーリスに対し、老婆は不気味に口角を吊り上げて嗤う。
「アタシが首を落とされたくらいで死ぬと思うかい? 親愛なる王女様?」
「………………」
ロゼッタの言葉に混じるあまりにも禍々しい気配に、王女は思わず口を閉ざしてしまった。
「あまり妹を揶揄わないで欲しいな、親愛なる魔女殿?」
見かねたレオンは、わざとらしく二人の間に割って入る。
「……ふん」
そこで王女に対する興味を無くしたロゼッタは、ゆっくりとした動きでヴォルスの方を見やった。
「……で、あんたはどうなんだいヴォルス。……何か、ここへ来るような理由があるのかねぇ?」
「なに、息子の友人がここを訪ねて来ると聞きましてな。挨拶をしておこうと思ったまでです」
言いながらヴォルスが視線を向けた先では、赤茶色の髪をした女戦士が、少年――グランに絡んでいた。
「見ない間に大きくなったじゃないかグラン! 相変わらずやんちゃ坊主なのか? 伯父殿に殴られたと聞いたが……よく生きてたな!」
一方的にそう話しながらグランの背中をバシバシと豪快に叩いているのは、辺境騎士団討伐隊隊長――リオナ・デラ・エステルである。
「う、うるさいやめろ……誰だおまえっ!」
グランは顔を真っ赤にしながら視線を逸らし、必死に彼女から逃れようとする。
「私のことを覚えていないのか?」
「覚えてないっ! それより、まともな服を着ろっ!」
機動性を重視しているリオナの装備は、少年にとって刺激が強すぎるようだ。
「恥ずかしがるな! 久しぶりの再開なんだ、もっと喜んで私の胸に飛び込んで来い!」
「だっ、誰がそんな――んぐっ!」
抵抗も空しく捕まえられ、ぐいと胸元へ引き寄せられてしまうグラン。
「相変わらず、こうすると大人しくなるみたいだな! はっはっはっ!」
「………………」
彼にとっては最悪だったが、周囲の騎士たちからは羨むような視線を向けられていた。
グランが歪んだ原因の一端は、彼を取り巻く環境に起因しているのかもしれない。
「……ふん。あんたのところの奴は騒がしいねぇ」
ロゼッタはその光景を鼻で笑い、自身の背後に控える二人の騎士へと目を向ける。
一人は艶やかな黒髪と褐色の肌を持つ女――魔法隊隊長ノエル・フィア・カラリア。
もう一人は雪のように真っ白な髪と肌を持つ女――救護隊隊長セレス・フィア・カラリア。
双子のように瓜二つな顔立ちでありながら、あまりにも対照的な外見の二人が並び立つ様は、他を寄せ付けない神秘的かつ独特な空気を放っていた。
(まったく、おっかねー所に来ちまったな……)
近衛騎士団の特務隊隊長レギウス・ファングは、場の隅で気配を消し、じっと周囲の様子を観察する。黒いフードからは、鋭い眼光が覗いていた。
ルッタの噂を聞きつけた各隊の隊長たちもまた、一部を除いてこの場へ足を運んでいたのである。
現在の訓練場には、各騎士団の様々な思惑が交錯しているのだ。
「みなさんおはようございます!」
――そんな中、当の本人が相変わらずの勢いで扉を開けて姿を現した。
「…………おや?」
彼は周囲をきょろきょろと見回した後、こう呟く。
「モンスターハウス……!」
そして、そのままゆっくりと後ずさって訓練場の外へ出た。
「……失礼しました」
ルッタは一礼して静かに扉を閉める。
――現状、騎士団の総長と隊長たち全員をまとめて経験値にすることは難しいと判断した上での、戦略的撤退であった。
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