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第4話 お兄ちゃんのことが大好きな妹(年上)
しおりを挟むフィルは馬車での旅を終え、拠点の街である迷宮都市ルスティリアへと帰還した。
「ええと、僕たちが泊まってた宿屋は……」
「あー。あそこは確か、五年前に女将さんが故郷に帰っちゃったからもう無いよー」
「そ、そう、なんだ……」
「武器屋とか道具屋も変わっちゃったー」
「へぇ……」
見慣れているはずなのに大きく違っている街並みを目の当たりにし、十年の歳月が経ってしまったことを少しずつ実感し始める。
「じゃあどこに泊まるの……?」
変わった街を案内するライカにグイグイと手を引っ張られ、よろめきながら問いかけるフィル。
「ここだよ」
その時、一番前を歩いていたベルーダが立ち止まり、正面にある大きな建物を指さした。
「……すごい立派な宿屋だね」
「違うよ! ここはボク達のパーティハウスなんだー!」
「ぱ、パーティハウス?!」
「うん! すごいでしょ? 今のボクたち、Sランクパーティだからお金は結構あるんだよねー!」
「Sランクっ?!」
――どうやら、一流の冒険者になるというフィルの目標は、仲間達だけが先に達成してしまったらしい。
「だが、十年もかかっているようじゃダメだ……」
「……そうだねぇ」
「お前が居てくれれば……きっと三年でこのレベルになっていたさ」
「ごめんねぇ……フィルぅ……」
とんでもない快挙を成し遂げていながら、何故かしんみりとした空気に包まれている二人。
「ここまで成功しておいて何言ってるの?! 二人ともおかしいよっ!」
フィルは思わず叫んだ。
「いいや、アタシ達はお前の言葉を守ってやってきただけだ……才能なんてない」
「迷宮に挑む前の準備が大切だっていう当たり前のことすら……フィルが居なくなるまでちゃんと理解できなかったんだもんねー……っ」
そう言って二人は下を向く。
「フィル、このパーティのリーダーは……お前しかいないよ……」
どうやら、二人の思い出の中でフィルはかなり美化されているらしかった。
「い、いきなりSランクパーティのリーダーなんて荷が重すぎるからっ!」
十年という歳月は人をここまで変えてしまうようである。
「……とにかく、まずは中に入ろう。早くお前のことをメノに会わせたい」
「メノ……!」
ベルーダに妹の名前を出され、はっとするフィル。
「……うん、そうだね。僕もメノに会いたい。ずっと待たせちゃったから」
かくして、三人は立派なパーティハウスの中へ入って行くのだった。
*
パーティハウスの中はとても広々としていて、綺麗に片付いていた。基本的に部屋を散らかすベルーダとライカが居ながらここまで片付いているという事は、二人以外に綺麗好きな誰かが住んでいるということに他ならない。
「えーっとメノはー……今日も錬金室かなー?」
「おそらくそうだな。近頃はずっとあの部屋に籠ってるから……」
どうやら、メノは錬金術師になったようだった。
フィルと比べると魔法の才能に欠けていたし、ベルーダやライカのように前に立って戦うタイプでもないため、冒険者になる道を選んだのなら妥当な選択であるといえる。
「こっちだフィル。ついて来てくれ」
「う、うん」
フィルはベルーダに案内され、ハウスの地下にある重厚な扉の前まで連れて来られた。
「この先にメノが居る。まずは……お前ひとりで話すのがいいだろう。――兄妹だからな」
「……そうするよ」
ベルーダに促され、ゆっくりと大きな扉を開け錬金室に足を踏み入れるフィル。
その部屋の中心には大きな釜があり、釜の前には魔術師の黒いとんがり帽子を被った長髪の女の人が立っていた。その髪色はフィルと同じ銀色である。
「お帰りなさい、ベルーダ」
女の人は、部屋の中に入って来たフィルに背を向けたまま言った。
「言わなくても分かってるわ。……また、ダメだったのでしょう?」
病弱でありながら元気だったかつての妹からは想像できないくらい、暗く冷たい声で話す女の人。
「お兄ちゃんのことは……あなた達のせいじゃない……。だから、私が――」
「メノ……だよね?」
フィルが呼びかけた瞬間、女の人の肩がびくりと反応し動きが止まる。
ゆっくりとこちらへ振り返って来たその表情は、驚愕に満ちていた。
「お、おにい……ちゃん……?」
少しだけよろめき、ふらつきながら、震えた声で問いかけてくる女の人。
「久しぶり、メノ」
フィルは言いながら一歩だけ前に進み出て続けた。
「僕のこと……まだお兄ちゃんって呼んでくれるの?」
「だって……お兄ちゃんは……お兄ちゃんだもん……!」
メノは目の端に涙を浮かべながら答える。
「今の話し方、小さいときのメノっぽいかも」
自分の知っているメノと共通する部分を目の前の女の人から感じ取り、少しだけ安心するフィル。
「お兄ちゃああああんっ!」
しかし次の瞬間、メノは泣きじゃくりながら飛びかかってきた。
「うむぅっ?!」
「うわああああああああんっ!」
力強く抱きしめられたことによって顔が胸にうずまり、以前との決定的な違いを思い知らされることになるフィル。
ハーブのような香りに混じって、懐かしいメノの匂いがする。そして何より柔らかかった。
かつてメノと頬っぺたをくっつけ合っていた時のことを思い出させる弾力と柔らかさである。
「ぷはっ! ぼ、僕よりも……随分と大きくなったね……」
すっかり変わり果ててしまった妹を前に動揺しながら、そんな言葉をかけるフィル。
「お兄ちゃん……っ! おにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんおにいちゃんんんんっ!」
一方メノは、何度も呼びかけた後こう続ける。
「すぐに会えるって……言ったのにっ! 私っ……もうこんなにおっきくなっちゃったよぉっ! お兄ちゃんの嘘つきいいぃっ!」
「……ひ、一人にしてごめんね……メノ」
やや狂気的な様子の妹に戸惑いながらも、フィルは両手でしっかりと抱きしめ返す。
「もう……絶対に離さないんだから……っ! また私のこと一人にしたら……お兄ちゃんのこと許してあげないもんっ!」
「ひっ」
フィルはこの時、初めて妹に対して少しだけ恐怖心を抱いたのだった。
幼い頃の妹と同じように振る舞う成人女性の姿を、本能が拒絶しているのである。
「お兄ちゃんは……全部私のもの……! 私だけのもの……っ!」
「こ、怖いよメノ……もうお姉さんなんだから……落ち着いて」
「お姉さんじゃないっ! 今のメノはお兄ちゃんの妹なのぉっ! お兄ちゃんがいないと何もできない赤ちゃんだもんっ! 分かってよぉっ!」
「は、はい……」
どうやら、もう元の平和な仲良し兄妹の関係には戻れなさそうだ。
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