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第38話 三人の危ないお姉さん
しおりを挟む「い、イリスさん……?!」
目を潤ませ、頬を紅潮させながら異様な発言をしたイリスに対し、フィルは一歩だけ後ずさる。本能がこの場から逃げたがっているのだ。
「あの、養うって一体どういう――」
「フィルくんっ!」
イリスは叫びながら受付のカウンターを飛び越え、フィルの前へ着地する。
「いっしょに幸せになろうねぇええっ!」
「うわっ、ちょっ――んむっ!?」
そして、勢いのままに熱い抱擁をした。
「ま、またこれ……っ!」
いつものごとく豊満な胸に顔をうずめられ、必死でもがくフィル。
イリスからは、大人のお姉さんが使う甘い香水の香りがして、彼の頭をくらくらさせた。
「はぁっ、はぁっ……フィルくんのいい匂いがするぅ……っ! 本当にフィルくんが帰って来たのね……っ!」
一方、イリスの暴走は止まらない。
「ああっ、フィルくん……っ! あなたは何て小さくて柔らかいの……っ!」
しゃがみ込んだフィルに頬擦りをし、思う存分に美少年を堪能する。
もはや言い逃れようのない変態ぶりであった。
「あ、あはは……あの……イリスさん? ちょっと……怖い、ですよ……?」
フィルは引き攣った笑みを浮かべながら、必死に距離を取ろうとする。
イリスを刺激しないように考えた末の行動だったが、離れようとすればするほど、かえって強い力で抱きしめられるだけだった。
「あなたが私をこんな風にしてしまったのよっ! 全部フィルくんのせいなんだからっ!」
「えぇ……?」
情緒不安定すぎるイリスに怒られ、困惑するフィル。
「もう冒険者なんてしたらダメぇっ! 危ないんだもんっ! フィルくん死んじゃうんだもんっ! うええええええええんっ!」
「ど、どうしよう……?」
泣きじゃくる年上の成人女性を前に、なす術がないフィル。
彼はちらりとベルーダ達の方を見て助けを求めた。
「……待て、イリス」
すると、その意図を汲んでくれたらしいベルーダが、イリスの肩に力強く手を置く。
「何よ……、例えあなたであっても、私の邪魔はさせないわよ……!」
「――フィルを養うのはアタシだッ!」
ベルーダは大きく胸を張って宣言した。何故か決意に満ちた表情である。
「アタシが……ずっとそばでフィルを見守るんだっ! お前には渡さないぞッ!」
「ベルーダ…………」
――助けを求める相手を間違えた。
フィルは心底後悔する。
「大好きだフィルっ! イリスじゃなくて、アタシの想いを受け取ってくれっ!」
「だ、だからそれやめっ――んぐっ?!」
今度はベルーダに抱きしめられ、筋肉質な体と弾力のある胸にうずめられるのだった。
「もう……やだぁ……っ!」
お姉さん達の胸に敗北し続けたフィルは、ついに心が折れてしまい泣きそうになる。
「二人とも、フィルが困ってるでしょー?」
しかし、そこでライカが助けに入った。
彼女は、いつも通りの微笑みを浮かべながら、二人のことをフィルから引き剥がしてくれたのである。
「ライカ……!」
真の救世主の登場に感激し、目を潤ませるフィル。
「将来的にフィルと結婚するのはボクなんだから、養うのもボクに決まってるでしょー?」
「え……?」
だが希望は一瞬で打ち砕かれた。
「それに、フィルを胸の中にうずめていいのはボクだけなのー!」
「むぐぅっ?!」
結局のところ、ライカも痴女の一人に過ぎなかったのである。
「フィルだって、ボクのが一番大きくて柔らかいと思うでしょー?」
「んぐっ……し、知らないよっ!」
「素直じゃないなー、よしよし」
ライカに優しく頭をなで回され、恥ずかしい気持ちでいっぱいになるフィル。
「キミが一番好きなのはボクだってこと、ちゃんと分かってるよー!」
「うぅ……っ!」
――どうせこうなることは分かっていたはずなのに……。
絶望のどん底に叩き落とされたフィルの目から、次第に光が失われていく。
「いいえ、フィルくんの面倒は私が見るのっ! もう離さないっ!」
「お前にフィルは渡さないぞッ! アタシのものだッ!」
「やれやれ、結局フィルはボクを選ぶに決まってるのになー」
かくして、フィルは大衆の面前で三人の痴女に取り囲まれることとなった。
しかし、その状況も長くは続かない。
「衛兵さんっ! あの人たちですっ!」
暴挙を見かねた女性冒険者の一人が、ギルドに衛兵を連れて来たのである。
「な、なんてことだ! いたいけな少女が痴女三人に襲われているっ!」
衛兵はフィル達を見て叫んだ。
「だから……僕は男だよっ!」
フィルの悲痛な叫びがギルドにこだまする。
――その後、痴女三人は強制的に牢屋へ連行されることとなったのだった。
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