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第70話 次の目的地

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 デルフォスが去ってすぐ、屋敷じゅうが大騒ぎになった。

 デルフォスが屋敷に侵入し、おまけにフェルゼンシュタイン家の三姉妹を脅迫したことが判明したからである。

 僕が気を失っているロクサーヌさんを連れてベラさん達の所まで辿り着いた時には、すでに騒ぎを聞きつけた妹達やオリヴィアさんも集まって来ていた。

「うぅ……あの男は……ワタクシ達のあられもない姿を覗き見した上に、『なんだこのド変態どもはっ?!』と言って来たのですわ……!」
「そんな……ひどすぎるよ……サイテーだよ!」

 涙ながらに語るリーンさんに対し、口元を抑えて悲痛な表情を浮かべるエリー。

 ……正直、デルフォスの言っていることはそこまで間違っていないような気がしないでもない。

 ――いけない。なんて失礼なことを考えているんだ僕は!

「うえぇぇぇんっ、ワタシ、あの男にジロジロ眺め回されましたぁ……っ! きっと……ドロドロに溶けたワタシに欲情してえっちな目で見ていたに違いないですぅ……っ!」
「本当に……救いようがないわ……!」

 ソフィアは、泣き喚くエミルを慰めながらそう呟いた。

 もはやそれは言いがかりなのではないだろうか……? ドロドロに溶けたスライムってえっちなのかな……? ただの被害妄想じゃ……。

 ――違う! 失礼すぎるぞ僕! ドロドロに溶けたスライムはえっちに決まってるだろ!

「あんな最低な人間と一緒に暮らすなんて、アタシだったら耐えられないわぁ……! あなた達……今まで良く頑張ったわね。絶対にあんなのに捕まっちゃダメよ」
「ありがとう。わたしもそう思うわ、ベラ。…………でもごめんなさい。わたしたちがここに居ると、迷惑がかかっちゃうわね……」
「そんなことはないわよぉ? アタシ、あなた達の家出を全力で応援してあげる!」
「ベラ…………!」

 ……おまけに、こっちではデルフォスの悪口をきっかけに謎の友情が芽生えかけている。

「でも、アイツが来たということは、あなた達の居場所が向こうに知られてるってことよねぇ……。ここに留まるのは危険だわ」

 と、ベラさん。

 ――僕もそう思う。

「どうしてここに居るってわかったのかしら……? わたし達のことをずっと監視してたの? 気持ち悪すぎるわ……! 本当に大っ嫌い」
「こ、こわいよ……。もう二度と会いたくないからついて来ないでって……ちゃんとお手紙に書いておくべきだったかなぁ……?」
「消えなさいと言ったのに…………おにーさまに嫉妬したのかしら……。存在が不快すぎるわ……一刻も早く記憶から消し去りたい……」

 兄さん……本当に嫌われすぎだよ……。何をしたらこんなことになっちゃうの……? 僕が泣きたい気持ちになってきた……。

 ――でも、デルフォスはあんな様子だし、今のヴァレイユ家に妹達が連れ戻されるのは不安だ。

「明日の朝になったら、ここを出発した方が良いと思いますわ。……お兄さまと一緒に……ふふふっ!」

 そう言って、僕の方を見てくるリーンさん。もしかして……僕が男だってこと、ばれてる!?

「「「うふふふ、ふふふふふふっ!!!」」」

 三姉妹から鋭い視線を向けられていたたまれなくなった僕は、助けを求めて近くに控えていたドレースさんの方を見る。

「ぶひ……も、申し訳ございません……。リーン様たちの嗅覚を侮っていましたわ……アニ様は可愛いのでどうにかなるかと……」

 しかし、普通に謝られてしまった。それはもう、僕が男であることを遠回しに認めているようなものだ。

 ……というか、しれっと僕のことを「可愛い」と言ったな? 許すまじ……!

「あら何を言っているのかしらドレース? 侵入者は追い出したのだから、この屋敷に男性が残っているはずないでしょう? もし残っていたら……優しくお仕置きしてあげないといけませんわ……!」
「ひっ……!」
「ぐっちょぐちょにして、身も心も女の子にしてあげますぅ!」

 ――まずい。明らかに狙われている。このままだと、身も心も女の子にされちゃう!

 とにかく、謝って許してもらうしかない。

「ご、ごめんなさいっ! 実は僕――」

 そこまで言いかけたその時、ベラさんが指で僕の言葉を制してきた。

「………………!」
「ここから西へ行ったところに『アーリヤ』という名前の町があるのは知っているかしら?」

 その問いかけに僕は頷く。確か、前に地図で見た気がする。

「そこにもアタシ達の別荘があるの。しばらくはそこに身を隠すと良いわ。後で別荘の鍵をあげるから、それを使って中に入りなさい」

 ――こうして、僕達の次の目的地が決まったのだった。

「しかしベラ様……あそこは……」
「幽霊屋敷なんてただの噂よ。それにみんな気味悪がって近づかないのだから、身を隠すのにはもってこいでしょう?」

 ……不穏な会話が聞こえた気がするけど、たぶん気のせいだろう。
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