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第75話 グレッグの最期
しおりを挟むスティングとの契約が成立し、家族を売り渡したデルフォスは、屋敷の一番端にある小部屋までやって来ていた。
「父さんが隠れそうな場所くらい簡単に想像が付く。――地下室だ」
「……そもそも、どうして旦那の旦那は隠れてるんでゲスか?」
「父さん――いや、あの無能は俺の旦那ではない。ふざけるなカス。反吐が出る」
「じゃあ、なんて呼んだら良いんでゲスか?」
「ゴミカスと呼べ」
「えぇ……?」
あまりにも酷すぎるデルフォスの言動に、ドン引きするガス。
「それが嫌なら貴様を殺す」
「り、理不尽すぎるでゲス……!」
しかし、今に始まったことではないので何ら問題はない。
「原因は私の娘――ハウラじゃあないかな。随分とおかしくなっているみたいだからねぇ。手に負えなくなってしまったのだろう」
「使用人に屋敷を乗っ取られるとは……とことん無能だな。あれを尊敬していた自分が恥ずかしくなる」
デルフォスはそう吐き捨てた後、小部屋の物置き棚をずらし、地下室へと続く隠し扉を開けた。
「なぁるほど、こんな所に隠し階段が存在していたのか。これは中々見つけられないねぇ。相変わらず、用心深い男だよ」
感心するスティング。
デルフォスは、特に何も言わずに先へと進む。
「く、暗いでゲスね……わわわっ?!」
そのあとを追いかけようとしたガスは、足場が見えずにバランスを崩して、階段を転がり落ちそうになる。
「おっと危ない」
しかし、スティングが咄嗟に彼の腕を掴んで引き寄せたので、事なきを得た。
「大丈夫かいカス君。気をつけたまえよ」
「ふ、ふん! 別にアンタに助けてもらったって、嬉しくないんでゲスからねッ! 勘違いするなでゲスよッ! あと、ガスでゲス!」
「これは失敬」
憎んでいる相手に優しくされ、感情が不安定になるガス。
「……茶番は済んだか? 先へ進むぞ」
くだらないやり取りを間近で見せられたデルフォスは、不愉快そうに顔をしかめながらそう言い放ち、急ぎ足で階段を降りていくのだった。
*
一方その頃、ヴァレイユ家の現当主であるグレッグは、デルフォスの読み通り地下室に潜み、頭を抱えていた。
「一体どうなっているんだ……ッ!」
娘が全員家出をした上に、ハウラまでおかしくなり、更にそこへスティングから「久しぶりに娘の顔を見に行く」という手紙まで届いたのだ。
問題が積み重なりすぎて、もはや何をどうすれば良いのか分からなくなっていた。
「スティングの奴め……都合の良い口実をつけて俺のことを殺しにでも来たのか……ッ!? 親子揃って碌でもない奴らだッ!」
その時、部屋の扉がノックされる。
「グレッグく~ん。こんにちはぁ」
「うわああああああッ」
突然のことに驚き、悲鳴を上げながら転がり落ちるグレッグ。
「ご名答だよぉ~。君はいつもそういうところで余計な勘が働くよねぇ~」
「か、帰れッ! 入って来たら貴様を殺すッ!」
「違うよ~。君が、今から殺されるんだ」
「ふ、ふざけるな! 何故俺が殺されなければならない!」
「アニ君を――根絶やしにしろと命令されていたレスター家の人間を匿っていたんだ。当然だろう?」
「………………!」
「バレてないと思ったかい? 匿うにしても、追放する時にちゃんと殺しておかないからこんな事になるんだよ。……もっとも、そんなことをすれば、彼を疎ましく思っていた君が真っ先に子殺しとして疑われるだろうけど」
――アニを始末すれば自分自身が疑われる可能性が高く、真実を公表すれば今度は匿っていた事を罪として問われてしまう。
「君は、あの子を匿うという選択をした時点で詰んでいたんだよ。グレッグくん」
「クソぉ…………ッ!」
「残念だったね。そんな君に、さらにもう一つ残念なお知らせがあるけど」
刹那、部屋の扉が勢いよく蹴破られ、中にスティングとデルフォスが侵入してくる。
「で、デルフォス……!?」
「つまりこういうことだ。ゴミカスクソ親父」
「お、お前、親に向かってなんて口の利き方を……!」
「黙れ! 貴様のような無能はもはや俺の親ではない! 大人しく死ね!」
「な、何を言っているんだデルフォス……?」
「……妹達を連れ戻す為には貴様が死ぬ必要がある。それだけのことだ」
そう言われたグレッグは、力なくその場へ座り込む。
「お前まで……私を裏切るのか……」
「裏切る? 違うな。俺が貴様に裏切られたんだ。……俺を国王にすることも出来ないような無能に今まで媚びへつらっていたのかと思うと、虫唾が走るぞ……!」
腹立たしげに近くにあった椅子を蹴るデルフォス。
「ところで君、どうしてそこまで国王になりたいんだい?」
「決まってるだろう。国王が一番偉いからだ! 国王になれば、この国の全て……いや、世界の全てがこの俺の思い通りとなる!」
「………………」
興味本位で聞いたスティングは、その解答に絶句した。
「旦那ってもしかしなくても馬鹿でゲスよね。そこが憎めない所でゲス!」
そして、誰かの呟きが部屋の外から聞こえて来る。
「……ま、まあ、そういう訳だから、別れの挨拶も済んだしそろそろ死のうか、グレッグ君」
「や、やめろ……!」
全てに裏切られ、憔悴し切っているグレッグにゆっくりと近づいていくスティング。
「安心したまえ。死体は私の死霊魔術で有効に再利用してあげるよ」
「死霊魔術だと……?! な、なぜ貴様がスタンクの――」
刹那、グレッグの首筋に太い針が突き立てられた。
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