転生ゲーマーは死亡確定のサブキャラから成り上がる~最序盤で魔物に食い殺されるキャラに転生したので、レベルの暴力で全てを解決します~

おさない

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第93話 経験値……

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「どうやら、ここに鼠が一匹迷い込んでしまったらしい」

 特務機関紅蝠血ヴェスペルティリオの序列一位、“畏怖”のオリオンは、虚な目をしたファンと、新しい序列八位、“鬼胎”のアカボシのみが残った円卓で悠然と構え、言った。

「――アカボシ。おそらく君のお客さんだ。丁重にもてなしてあげなさい」

 オリオンが指示を出した次の瞬間、アカボシは何処かへと消え去る。

 *

「……ほう、驚いたのう。――どんな奇術を使ったのやら」

 暗雲が立ち込める広々とした荒野のような場所に立っていた老人は、刀に付いた血を振り払いながら言った。

 この場所に蠢いて居た魔物達は皆、この老人の持つ一振《ひとふり》の刀の錆となったのである。

「そういえば、ルーテもそんな事をしておった」

 ――彼こそが、姿を消したルーテと明丸の師匠だ。

「ルーテ? 誰だそれは」

 オリオンによってこの場所へ転移させられたアカボシは、腰から一対の刀を引き抜きながら問いかける。

「二刀流か。お主にそんなものを教えた覚えは無いがのう」
「質問に答えろ、この老いぼれが」
「……教えを乞う時の態度も、儂はしっかりとお主に教えたはずじゃぞ。全て忘れおった馬鹿者に、教えられる事など何もないわ」
「戯れ言を……!」
「その通り。言葉を交わして分かり合おうという段階はとうに過ぎておる」

 老人は、刀を鞘に収めて≪居合の構え≫をとる。

「いつでも来い。儂の間合いに踏み込んだその刻がお主の最期じゃ――馬鹿息子」

 第八《オクタヴス》紅蝠血ヴェスペルティリオ、“鬼胎”のアカボシはかつて、老人の息子にして一番弟子であり、明丸の父だった男だ。

 元は悪人を取り締まり、町の秩序を守る剣士だったが、ふとした拍子に魔道へ堕ち、妻を殺して人間である事をやめてしまったのである。

 老人は、彼を討ち全てを終わらせる為、ルーテ達の前から姿を消したのだ。

「……ならば、そこでそのまま見ていろ」

 アカボシがそう言うと、周囲の空気が震え始める。

 そうして、彼は自身の体を変化させ、赤い鬼へと姿を変えた。

「瞬く間に切り刻んでやる」

 刹那、鬼は踏み出す。

 目にも止まらぬ速さで距離を詰め、老人の間合いへと踏み入った。

「遅い」

 その瞬間、≪一閃≫が発動し、鬼の身体は真っ二つに両断される。

  ――だが、それで終わりではなかった。

 二つの肉塊となったはずの鬼の体が、老人の背後で再び一つとなり、再生したのである。

「死ねッ!」

 両腕に持つ刀を振り上げ、老人の背後から斬りかかる鬼。

 しかし、その攻撃は≪縮地≫によってあっさりとかわされてしまった。

「……手緩い。その程度の攻撃で儂を斬り伏せられると思うな」
「――なんだとッ?!」

 老人は、剣先を鬼の喉元へと突き付け、落ち窪んだ目で睨みを利かせる。

「不死身の体か」
「そうだ! 貴様に私は殺せない!」
「では何故、儂に刃を突き付けられて動きを止めた?」
「――――――ッ!」

 突き付けていた刀が、青白い閃光を放ち始めた。

「……完全に不死身では無いようじゃな」

 言いながら、老人は深く踏み込む。

「安心したわい」

 同時に、目にも止まらぬ速さで刀を突き出し、雷光を纏った一撃で鬼の喉を串刺しにした。

「がぁッ!」
「始電一閃《しでんいっせん》」

 雷《いかづち》で喉を焼き切られ、悶え苦しむ鬼。

 老人は、ルーテや明丸に別れを告げた後、世界各地を巡りながらただひたすらに研鑽を続け、新しい奥義を完成させたのだ。

「――を使うつもりは無かったのじゃが」

 次の瞬間、今度は刀身が黒く染まり、そこから赤く燃え上がる。

「刀劫火種《とうこうかしゅ》」

 第一の奥義が高速で貫く稲妻ならば、第二の奥義は全てを制圧する大火であった。

「があああああああああああッッ!」

 炎を纏った刀の大きな一振りで斬り裂かれた鬼の体は燃え上がり、肉が焦げて溶け落ちる。

「まだだ……これしきの攻撃で……私を殺し切ることは出来ないぞッ!」

 しかしそれでも尚、鬼は斃れなかった。

 業火に抗い、両手に持つ二振の刀を同時に振り下ろす。

「……哀れな」

 だが、その攻撃すら老人には届かない。

 今度は真っ白に染まった刀身が、攻撃を完全に受け止め、停止させてしまったのだ。

「終霜三尺《しゅうそうさんじゃく》」

 第三の奥義は、全てを停止させる絶対零度の霜雪《そうせつ》である。

 焼け落ちた鬼の体は、刀から発せられる冷気によって凍り付き、再生を阻まれる。

 鬼はそのまま、凍つく刃に胴体を切り裂かれ、崩壊した。

「ぐ……ぁ……何だ……これは……ッ!」
「終いじゃ――焉刀一渇《えんとういっかつ》」

 *

 全てが終わった後、そこには灰となってゆっくりと朽ちていく鬼と、その傍らに座り込む老人の姿があった。

「………………」
「のう、雪丸」
「その名は……捨てた……」
「母から貰った名を軽々しく捨てるでない」

 鬼は――雪丸は何も言わなかった。

「……すまんな、雪丸」
「なぜ、謝る」
「思えば若い頃は……剣術の修行に感《かま》けてばかりで、命より大切な筈の妻と子を蔑ろにしていた」
「………………」
「……妻が死んだ翌日にはもう、刀を振るっていたような冷酷な男の、その息子が、道を外れた人斬りになってしまったのは……仕方のないことなのやもしれん」
「関係のない……話だ……」
「そう、か」

 老人は、少しだけ言葉に詰まった後、続ける。

「では何故、明《あかり》を――あれ程愛しておったあの子を殺した?」
「……………………」
「明丸は、母を奪ったお主を……父になってくれなかったお主の事を、大層恨んでおる」
「……明丸は、私の子では……無いかもしれない。明《あかり》が先に私を裏切った」

 老人は、彼の言葉で全てを理解した。

「そういう事か。……なるほど、この馬鹿者が……」

 一度放心し、そう呟いた後、雪丸の方へ向き直る。

「……あれは、間違いなくお前の子じゃよ。特に……目が、お前の小さい頃にそっくりじゃ」
「あぁ、そう……か……」

 雪丸は、どこか安堵したような表情で、力なくそう言った。

「もう眠れ」
「…………ああ」

 そして、完全に灰となって消えてゆくのだった。

「……ままならんものじゃな」

 誰もいなくなった荒野で、独り呟く老人。

「今、そっちへ行く」

 懐に持っていた短刀を抜き、自らの腹部へ突き立てようとしたその時。

「実にその通りだね」

 何者かが答えた。
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