転生ゲーマーは死亡確定のサブキャラから成り上がる~最序盤で魔物に食い殺されるキャラに転生したので、レベルの暴力で全てを解決します~

おさない

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第94話 負けるなオリオン!

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「君の戦いは見せて貰ったよ。――圧倒的だったね」
「…………ッ!」

 気付くと、老人はオリオンが座る円卓の前に立っていた。彼が放つ、禍々しい殺気を感じ取った老人は短刀をしまい、立ち上がって言う。

「目的は果たした。誰だか知らんが、お主と戦うつもりは無い」
「それなら、私達の元へ来るといい。君にもアカボシ――雪丸と同じ力をあげよう」
「………………」
「人の身でその領域まで至ったんだ。もっと上を見たいだろう?」
「……成程《なるほど》」
「うん?」
「……貴様か。貴様が……雪丸を唆《そそのか》したのだなッ!」
「人聞きの悪い。……私はただ、こちら側へ来る為の手助けをしただけだよ」

 オリオンは不敵に笑った。

「――真実を教えて、ね」

 その瞬間、老人は円卓を飛び越え、一挙にオリオンの懐へと踏み込む。

「去《い》ね」

 そして、≪一閃≫を発動した。

「……無駄だよ」
「なんじゃとッ?」

 しかし、老人の刃は届かない。オリオンの周囲に存在する、不可視の障壁によって弾かれてしまったのだ。

「私に同じ技は通用しない」

 続けて、刀を握っていた老人の右腕が吹き飛ばされる。

「――――くッ!」

 だが老人は一切怯まず、残された左腕で即座に懐の短刀を抜き、オリオンに斬りかかった。

 しかし、彼の正面にオリオンの姿はない。

「消えたッ?!」
「――違う、君が移動したんだよ」

 背後から声がした。

 振り向くより先に、老人は左腹部を抉り取られる。

「がはッ!」

 血を吐き出し、その場で膝をつく老人。

「終わりだね。もう一度聞くが、私達の元へ来る気はあるかい?」
「……無い」
「残念だよ」

 オリオンは、老人を殺すことにした。

「なら、消え去ると良い」

 右手を老人の方へ突き出し、再び攻撃を放つ体勢になる。

 ――オリオンの能力は、『空間支配』である。

 相手を空間ごと削り取る防御不可能な『次元斬』

 自分の周囲を外界から切り離し、何者も通さない完全な守りを実現する『絶対障壁』

 そして、空間の操作により任意の場所へ瞬時に移動することができる『瞬間転移』

 物語終盤のボスとして登場し、強力な技の数々を使用してくる彼は、最強の「初見殺し」のなのだ。

 自分の手の内を知られてしまった上に、彼の攻略方法を知らない老人に、勝ち目など存在していなかったのである。
 
「それでは、さようなら」

 オリオンは老人に別れの言葉を告げ、次元斬の攻撃モーションに入る。

「憐れなにんげ「「わーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」」

 ――刹那、彼は何者かに背後から攻撃され、空中へ派手に吹き飛んだ。

「ぐわああああああああああああああああああああああッ?!」
「わーーーっ! わわわわーーーーーーッ!?」
「ぐはッ! がはッ! ぐぅッ?!」
「わっ、わっ、わーーーーーーーーーッ!」
「がああああああああああああああああああああッ?!」

 強力な風魔法の連続攻撃に晒され、訳も分からず空中を舞い続けるオリオン。

 彼に攻撃を仕掛けたのはルーテとゾラである。

「わっ! わーーーっ! わーーーーーっ!」
「わああああああああああああッ!」

 叫びながら滅茶苦茶に風魔法を撃ち続けるルーテとゾラ。

「お、おおお落ち着けルーテ! い、今の人、攻撃して良かったのか?! お、お前が珍しく叫んだからびっくりして攻撃しちゃったけどっ?!」
「は、はい! 師匠が大変なことになってて、何故かここにボスが居ます!」
「えっ?! わあああああああああ! 明丸のじーさあああああああんッ!」

 ゾラは、奥の方で倒れている満身創痍の老人を見つけて、再び叫んだ。

 ――ラストダンジョン『暗黒大陸ヘラス』におけるアレスノヴァの転移先は、紅蝠血ヴェスペルティリオ達が集う円卓の上に設定されているのだ。

「び、びっくりしました!」
「な、なんだ……貴様「わーーーーーーーーーっ!」

 オリオンにいきなり話しかけられて再び驚いたルーテは、もう一度風魔法による攻撃を仕掛ける。

「む、無駄だ。私に同じ技は通用しない……!」

 しかし、今度は通らなかった。

「はぁ、はぁ……。とにかく、ゾラは師匠にこれを飲ませてあげてください……」

 少しだけ落ち着きを取り戻したルーテは、懐から取り出した『生命の雫』をゾラへと手渡す。

「わ、分かった!」

 それを受け取ったゾラは、物凄い速さで駆け出した。

「――私が通すと思うのかい?」

 一方、態勢を立て直したオリオンは、右手を振り上げて、もう一度ゾラへ次元斬を放とうとする。

 しかし、今度はルーテの魔法によって爆発して吹き飛んだ。

「ぐああああああああああああああああッ?!」
「まったく。ワープ先の安全地帯にボスが設置されているだなんて……バグにしたって酷すぎます! ホラーゲームみたいな驚かし方はやめてください!」

 文句を言いながら円卓を飛び降り、ゆっくりとズタボロのオリオンへ近づいていくルーテ。

「う……ぐ……。君はなかなか手ごわい相手のようだね……」
「………………」
「だが、その攻撃も、もう私には通用しないよ。――試しに撃ってみると良い」
「………………」

 ルーテは、何も言わずに倒れているオリオンの側で立ち止まり、彼を見下ろした。

「……ど、どうした? 私に怖気づいたのかな?」
「………………」
「何とか言ったらどうだッ!」
「………………」

 叫んで攻撃してきたかと思えば、今度は黙って微動だにしない謎のガキに対し、次第に恐怖心を抱き始めるオリオン。

「………………」

 ――瞬間移動と次元斬を発動するときだけ、絶対障壁が解除される。

 オリオンの攻略法は、その隙に攻撃を叩き込むことである。

 攻撃に成功すれば次元斬は飛んでこないうえに、瞬間移動も起こらない。

 彼は、手の内さえ分かってしまえば棒立ちでも勝てる相手なのだ。

 むしろ下手に動くと危ない。

「な、なんなんだ貴様はァッ!」
「………………」

 ルーテは現在、無言で集中して、オリオンの攻撃モーションを見極めている最中である。

 どうするオリオン。

 頑張れオリオン。

 負けるなオリオン。

 *

 一方その頃、ゾラは。

「だ、大丈夫?!」
「……う、うむ。この程度で……儂は死な――ごふッ!」
「わ、わああああああ?! と、とにかく、ルーテがこれを飲めって言ってた!」

 座り込んでいる老人に、生命の雫が入った瓶を差し出す。

「ルーテか……。この際じゃ、飲んでしまおう。……ゾラや、ありがとう」
「う、うん」

 老人は少しだけ躊躇ったあとそれを受け取り、一気に飲み干した。

「うむっ?!」
「じ、じーさん?!」

 その瞬間、老人の傷は全て塞がり、新しい右腕が生えてくる。

「え、えぇ……?」
「この水……ヤバくね……?」
「ぼ、ボクもそう思う……」

 二人は、生命の雫の治療効果にドン引きするのだった。
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